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【SD】パドレス、マーリンズからルイス・アラエズをトレード獲得。高打率を支えるものは?

米国5月3日、テイラー・ウェイド率いるサンディエゴ・パドレスはトレードにてマイアミ・マーリンズにマイナー4選手を送り、アメリカンリーグとナショナルリーグで2年連続首位打者の座に輝いたLuis Arraez(ルイス・アラエズ。アラエス、アライズ等の別表記有り)と金銭$7.9Mを獲得した。アラエズは2025年シーズン後にフリーエージェントとなる。

5月に主力級のトレードが行われることは滅多にない。多くはシーズンオフかプレーオフ争い脱落球団が現れる7月末のトレード期限前に起きる。5月初めといったらまだパドレスファンがエリック・ホズマーの高打率を見てそして高いゴロ率には目を瞑って今年は違うぞという蜘蛛の糸の様な細い望みにしがみついてた時期だ。近年の例外は2003年にアリゾナ・ダイヤモンドバックスとボストン・レッドソックス間で執り行われたキム・ビュンヒュンシェイ・ヒレンブランドの前年オールスター出場選手同士の交換までさかのぼる。

それ以前の大型トレードを5月に仕掛けたチームは奇しくもマーリンズだ。1997年にワールドチャンピオンを達成した翌年の1998年5月にロサンジェルス・ドジャースへゲイリー・シェフィールド、ボビー・ボニーヤ、チャールズ・ジョンソン、ジム・アイゼンライク、マヌエル・バリオスら優勝貢献メンバーの多くを送る代わりにマイク・ピアザトッド・ジールと共に獲得。しかしピアザは5試合マーリンズでプレーしたのちニューヨーク・メッツに再びトレード。プレストン・ウィルソン、エド・ヤーナル、ジェフ・ゲッツらプロスペクトを獲得した歴史がある。

マーリンズに送られた4選手

Dillon Head(ディロン・ヘッド)
19歳6ヶ月(トレード時点) 左投左打
2023年ドラフト1巡指名(全体25位)
主な守備位置:CF
2024年開幕レベル:Low-A
2023年成績
Arizona Complex League: 14G .294AVG/.413OBP/.471SLG/1HR/3SB 124wRC+
Low-A: 13G .241/.311/.333/0HR/1SB 78wRC+
MLB Pipeline 2024年開幕時パドレスプロスペクトランク6位
Future Value: 50 (MLB Pipeline)

マーリンズに移籍したトレードパッケージの見出しを飾るのは4選手のうち最年少の中堅手ヘッドだ。今年Low-Aと最下部のマイナー組織所属だが、MLB Pipelineの2024年開幕時のプロスペクトランクは4人の中で最上位。昨年ドラフト1巡指名の60ヤードを6.3秒で走る俊足外野手で、コンタクト能力に長けているリードオフ候補だ。メジャーデビューは2027年と目されておりまだ先なので、将来の天井と同様に期待から外れる可能性も高い。小さいサンプル数とはいえ2年目のLow-Aでも今のところ昨年同様好成績を挙げているわけではなく三振率も24.0%と低くない。焦る必要はないが、再来年くらいまでにパワーがどこまで伸びるかが鍵だろう。

Jakob Marsee(ジェイコブ・マーシー)
22歳10ヶ月 左投左打
2022年ドラフト8巡指名
主な守備位置:CF
2024年開幕レベル:AA
2023年成績
High-A: 113G .273/.413/.425/13HR/41SB 142wRC+
AA: 16G .286/.412/.446/3HR/5SB 134wRC+
MLB Pipeline 2024年開幕時パドレスプロスペクトランク9位
Future Value: 45 (MLB Pipeline)

もうひとりのセンターであるマーシーは今年メジャーキャンプに開幕1週間ちょっと前まで参加した。昨年アリゾナ秋季リーグのMVPだ。

ヘッド同様マーシーもコンタクト能力に優れボール球を振らない。足はそこまで速くはないが盗塁が上手い。身体能力はヘッドに劣るがメジャーでもセンターに残れる可能性はある。四球が多く三振が少なめで打撃のアプローチは優れている一方で、打球速度に大きな課題を残している。平均打球速度(EV)83.9mph、最高EV99.5mphは昨年Baseball Americaトップ100プロスペクトのうち290打席以上立った打者と比較すると打球速度は下位10%以下だ。ちなみに後述のアラエズよりも低い。それにしてはホームラン数は16本と多いが、右翼ポール迄の距離が318フィートしかないHigh-A本拠地フォートウェインの球場地形からの恩恵に加えて理想的な打球角度の影響だろう。4番目の外野手という見立てが主流だが、打球速度が上がればレギュラー級への成長も不可能ではない。今季パドレスAAサンアントニオでBABIPが低く打率1割台と今ひとつな成績だったが、マーリンズのAAペンサコーラでは打率が2割台前半でBB%が20%を超えている。台所事情によっては今年中にメジャー昇格もあり得る。

Nathan Martorella(ネイサン・マルトレーラ)
23歳2ヶ月 左投左打
2022年ドラフト5巡指名
主な守備位置:1B
2024年開幕レベル:AA
2023年成績
High-A: 112G .259/.371/.450/16HR/5SB 131wRC+
AA: 23G .236/.313/.382/3HR/0SB 85wRC+
MLB Pipeline 2024年開幕時パドレスプロスペクトランク13位
Future Value: 45 (MLB Pipeline)

腕力の割にマルトレーラもまたコンタクト能力がある打者である。そもそもパドレスはパワーよりコンタクト能力を重視してアマチュアを獲得している。パワー打者にコンタクト能力を身につけてもらうより、ボールに当てられる打者にパワーをつけてもらう方が容易という考えの下だろう。左翼守備も試してはいるが足が致命的に遅いため守備位置は一塁かDHが現実的だ。となると今以上に打たないとレギュラーは厳しい。腕力を打球の飛距離に結びつけることと変化球の攻略が課題だろう。

ちなみにマルトレーラとマーシーはAAでの試合中にトレードを通達され途中退場し球場を去った。

Woo Suk Go(コ・ウソク / 高佑錫)
25歳8ヶ月 右投右打
2023-24年オフポスティング
主な起用場面:ミドルリリーフ
2024年開幕レベル:AA
45 Future Value (Fangraphs)

韓国のプロリーグKBOで149セーブを挙げたのちポスティング経由で$4.5M2年契約でパドレス入りしたがスプリングトレーニングで全く良いところがなく、韓国ソウルでの開幕公式戦直前でAAに二階級降格してしまった。ひと階級下のAAAに留めなかった理由は、パドレスのAAAエルパソと所属するパシフィックコーストリーグは投手にとってトラウマ級の打者天国であるため、米国環境への適応や自信回復に向かないと判断したためだろう。ともあれカクタスリーグ以外の試合でパドレスのユニフォームを着ての登板戦が韓国での開幕戦前に行われた古巣LGツインズとのエキシビションマッチのみというなんとも駅前留学みたいなローカルな出番のみになってしまった。94.5mphの4シームは平均レベルで、またカーブやカッターの第二第三の球種に変化量が少なく制球もいまひとつ。AAサンアントニオでは4.38ERAと一見パッとしないが27.8K%と7.4BB%は上々。被本塁打はなしで、xFIP3.18と悪くはない。今後MLB球への順応などで改善する可能性はあるが、現在の見通しではプレッシャーの少ない場面での中継ぎ程度だろう。マーリンズではAAAにステップアップ。


マーリンズにとってこのトレードの意図はひとえに来年以降の再建に向けた野手プロスペクトの収集だろう。放出時期を早め、パドレスに金銭まで送り付けたため年俸削減効果はないがその分見返りの人数は増えた。今年中に1-3人、そして将来はヘッドも含め全員がメジャーリーグに到達する可能性が高いため底堅い補強だが、今のところ将来のレギュラー級と目されるプロスペクトはヘッドしかおらず、それもおそらく順調に事が進んで3年後の話なので確証はない。質より量のデプス強化な意味合いで、あわよくばマーシー、もしくはマルトレーラまで勝率.500以下のギュラー級に成長しコ・ウソクが勝ち試合リリーバーになるかもという、床は高いが天井もさほど青くはない見込みが強い。マイアミのファンからすると、名GMキム・アング退任から続くお家騒動とシーズン序盤の負け越しを経て早々に白旗を揚げられるという、昨年20年ぶりに162試合制シーズンでプレーオフに進出した盛り上がりにケルヒャーで冷や水をかけられるような取引となってしまった。年俸削減の効果もなく、二年連続首位打者への見返りとしては物足りなく感じてしまうかもしれない。

異端の打者

Luis Arraez(ルイス・アラエズ)
右投左打 27歳0か月
主な守備位置:2B
2023年成績
MLB: 147G .354/.393/.469/10HR/3SB 132wRC+

アラエズは特徴が非常にはっきりしている。打率が高く、三振と四球と長打が少ない。NL首位打者8回に輝いたパドレスの英雄トニー・グウィンを彷彿とさせる、今日珍しいピュアヒッターだ。

Source: https://baseballsavant.mlb.com/savant-player/luis-arraez-650333?stats=statcast-r-hitting-mlb
Source: https://baseballsavant.mlb.com/savant-player/luis-arraez-650333?stats=statcast-r-hitting-mlb

Hard Hitの少なさを受けBarrelが無いのでSavant映えはよくない。卓越したコンタクト力を持ち通算Whiff(空振り)%は僅か8.5%とMLB平均24.8%と比べると極めて低い。特にゾーン外でも86%の球をバットに当ててしまう。MLB平均58%と比べると如何に異様な数字かがお分かりいただけることだろう。最近Baseball SavantでBat SpeedやSwing Lengthが発表されたが、スイングの遅さとコンパクトさはぶっちぎりでリーグトップで、両指標のチャートでも極端な左上隅に追いやられている。どちらもコンタクト率の高さに貢献している。

source: https://baseballsavant.mlb.com/leaderboard/bat-tracking?_gl=1*1l495tz*_gcl_au*NDMyNTA2MTY4LjE3MDk2MDcxOTk.

そしてBABIP(インプレイ打率)が2023年は.362、6年通算で.342と高い。リーグ平均のBABIPは例年.290前後に収まり持続可能な活躍とは見えづらいが、アラエズには一貫して支えている要素がある。ラインドライブ(ライナー)だ。

周知の事実だが、ゴロやフライと比べてラインドライブ打球は打率が格段に高い。2023年MLB全体の数字は以下の通りだ。

Source: Fangraphs

これだけ歴然とした差を見る限り、打者はフライボールよりライナーを飛ばすことに注力すればよいのではという話になりそうだがそう簡単にはいかない。2002-2012と古いデータになってしまうが、LD%(全打球におけるラインドライブ率の割合)の年度間相関は僅か.293と主要スタッツの中では最下位だ。ゴロ率やフライ率はおろかBABIPよりも今年と次年度の関連性が低い。

Source: https://blogs.fangraphs.com/basic-hitting-metric-correlation-1955-2012-2002-2012/

一般的に0.7以上だと強い相関関係があると見られ、0.293だと僅かに相関があるという程度だ。つまりある打者が記録した今年LD%の高さは、次年度にも同様のLD%の高さを担保する確率が低い。これは無理のない話だろう。丸いバットが丸いボールの僅かでも下にずれればフライになり、上ならゴロになる。元々の発生割合が他の打球よりも低く、多くがフライボール打者からゴロ打者に分類される。

しかしアラエズのLD%は6年のキャリアで2022年の25.8%が最低で、全てのシーズンで5ポイント以上、年によっては8ポイント以上MLB平均を上回る。

Source: FanGraphs (2024年5月15日現在)

類まれなるバットコントロールで、幸運の産物に映るラインドライブに再現性をもたらしている。

2023年MLB平均

Source: FanGraphs

先の表に戻るが、フライやゴロのインプレイ打率には0.012しか差が無いので、どちらかに多少偏ったところでトータルのインプレイ打率は運の要素を除けばリーグ平均からそう大きく動かない(だがフライの方が長打になる可能性は高いので、ゴロがフライに置き換わるとwOBAやwRC+は上昇する)。しかしラインドライブの割合は少し増えるだけでもその打者のBABIPは大きく上昇する。たとえば上の打球別打率でゴロとフライが各2.5%減りLD%が5.0%増えた場合、インプレイ打率は25ポイント上昇する。もしラインドライブを毎年高い割合で打てる技術のある稀な打者なら、キャリアのBABIPはMLB平均の.290を上回る水準を維持できるだろう。

またアラエズのもう一つの特徴は、ラインドライブのインプレイ打率自体がリーグ平均より高いことだ。

比較のために元パドレスのレジェンド2名にご登場いただこう。ひとりは先述のホズマー、そしてもうひとりは3年前の夏に内野手渋滞中にも拘わらずパイレーツから獲得されるもパッとせず半年で去ったアラエズと同じくコンタクト&ラインドライブが多い二塁手、アダム・フレイジャーだ。弊noteでも3年前のトレードデッドラインで目白志むらのかき氷と共に紹介されている。

LD%とラインドライブのみの打率とwRC+比較は以下の通りだ(左端はMLB平均)

Source; FanGraphs

アラエズのラインドライブ打率は過去3年MLB平均を超え、またキャリアラインドライブAVG.とwRC+ではフレイジャーやホズマーを凌ぐ。そしてこの理由は打球の速さが関係しているのではなかろうか。

打球の強さは以下の通り。MLB平均に比べアラエズのラインドライブは中間の球速Med%の割合が高い。ホズマーはHard%、フレイジャーはSoft%が平均より高い。

Source: FanGraphs

打球の強さ別の指標はこうなる。

Source: FanGraphs
Source: FanGraphs
Source: FanGraphs

あいにく的確なMLB全体の分布が取れなかったため表には載せていないが、ラインドライブ6年分を加重平均した両指標は3打者ともHardよりMedの方が成績がよい。(アラエズはなぜかSoft%の指標がさらに良いのだが、ラインドライブのうち6.7%しか無く影響が少ないのでここでは解説を割愛する)

実はラインドライブには打球速度の上昇に比例して打率が上がらない谷間がある(フライも同様)。

Source;https://community.fangraphs.com/woba-using-exit-velocity-and-launchSource;

ラインドライブのうち打球角度(X軸)15°-25°の打球には、打球速度が90-100mphの間だとアウトになるものが多い(囲い1)。これはおそらく内野の頭を抜け外野手の手前に落ちずライナーで捕球されてしまうからではなかろうか。100mphを超えるとライナーでもフアン・ソトが放つ低弾道ミサイル弾の様な二塁打やホームランが増えてくる。アラエズの場合ラインドライブの平均打球速度91mphで打球角度は17度なので、ヒットを示すピンク色が占める囲い2辺りが主なエリアになる。

またフレイジャーのラインドライブ打率がMLB平均より低く不安定な理由はSoft%の高さに起因するのかもしれない。過去5シーズン合計で70mph以下のラインドライブを最も多く打っていた打者はフレイジャーだ。

そして先の表では打球速度が速いホズマーのラインドライブ打率に目をひかれるかもしれないが、彼自身はラインドライブ打者と自認しつつもLD%はキャリアを通じてMLB平均より低くゴロ率が高いナチュラルボーンゴロ助だったことを忘れてはいけないナリよ。

ちなみにアラエズのゴロ打率は.234, .259, .190と今年を除けばリーグ平均並み(GB wRC+は2022年アラエズ33/MLB35, 2023年42/43, 2024年5月20日まで6/41)で、フライ打率は.158, .171, .136とリーグ平均の.222, .231, .207を大きく下回る(FB wRC+は2022年アラエズ44/MLB131、2023年51/134、2024年YTD-4/117)。打球速度が遅いので不思議はない。つまりラインドライブの多さと質の高さ、おそらくそれらのみがBABIPを支えていると言えよう。

またアラエズはバットの芯で捉えられているかを示すBaseball Savantの新指標Squared-Upでもトップだ。

Source: https://baseballsavant.mlb.com/leaderboard/bat-tracking?_gl=1*1l495tz*_gcl_au*NDMyNTA2MTY4LjE3MDk2MDcxOTk.&sortColumn=squared_up_per_swing&sortDirection=desc

この指標を含めた諸々の説明は鯖茶漬さんが先日noteに記しているのでお読みいただきたい。

パドレスへのフィット

フアン・ソトをトレード放出後、パドレスは左打者が年々成績が低下していたジェイク・クローネンワースと両打のジュリクソン・プロファーしか居なかったが安価なベテラン外野手などの補強もなく開幕を迎えた。幸いクローネンワースもプロファーも好調で序盤は右投手を攻略出来てはいるが、いつその勢いが衰えるやも知れない、そしてザンダー・ボガーツマニー・マチャドらが復調しないのではと不安を拭いきれない5月にアラエズの獲得となった。シーズンオフ中から獲得の噂は流れていたが、既に遊撃手だらけのフィールドに二塁手のアラエズが入る余地はないだろうと気に留めないでいたところ、テニス肘手術からの回復でマチャドが三塁に移ったところで獲得され空いた指名打者で起用となった。ただでさえカロリー超過なデリバリーピザの耳の中にソーセージをねじ込むかの様にラインナップにまだまだ足りないとミドル内野手の注入と相成った。

キャリア打率.320超えとはいえ、シーズン最多HRが昨年の10本なので典型的なDHではない。だが今年からボガーツが守る二塁を含めパドレスの内野守備は全て平均以上のOAAを叩き出しており、本職二塁ですら拙守のアラエズを他のどのポジションで起用しても全体的な守備力は低下してしまうので、ボガーツやクローネンワースを休ませるために時々二塁や一塁を守らせる程度で、DHでの起用が主になるだろう。

なぜこの様な補強になるかというと、そもそもA.J.プレラーGMは複数ポジションを守り、コンタクト率の高い選手を好むからだろう。アラエズはどこのポジションも平均以下の守備だが二塁と一塁、また少しだけ左翼の経験はあるのでクローネンワース、ボガーツ、プロファーというこれらのポジションのレギュラーをDHで休ませる事ができる。長期契約の元を少しでも取ろうとしているわけではないだろうが、プレラーは主力選手を少しでも多くに立たせようとする。

また今回は補強予算に制約があり、その予算内で獲得が可能でかつ後退期以前のベストな打者をポジション重複にこだわらず選んだという経緯だろう。マーリンズにコ・ウソクを引き取ってもらう一方で今季のアラエズ年俸をカバーする金銭を若い人にも分かるように説明するとお笑いマンガ道場の鈴木義司の如く気前よくマーリンズがくれた為、チーム年俸はむしろ$1Mほど下がっている。贅沢税閾値まで$12Mほど余裕が有り、もし7月のトレード期限前でもプレーオフ争いの最中にいるならばそこでの補強も可能だろう。

私見ではパドレスに優位なトレードという印象だが、心配が全くないわけではない。ひとつは予てから懸念されている層の薄さだ。今季後半から来季にかけてメジャー昇格が見込まれる選手を3人放出している。レギュラーよりも控えや中継ぎといった将来見込みの可能性が高いとはいえ、おそらく現在AAAエルパソでプレーする20代後半選手の殆どよりも見通しは明るいだろう。高額契約野手が故障で離脱した際に上昇気流の代役の駒数が減ってしまった。

もうひとつは将来の話だ。アラエズは2025年シーズン終了後にフリーエージェントとなる。フアン・ソトとのトレードでヤンキースからやってきたマイケル・キングや今季エース級の働きを見せるディラン・シースの両先発と同じ時期だ。その代償にソト獲得に放出を要したマッケンジー・ゴアC.J.エイブラムスらトップ級ではないにしろプロスペクトを数名放出したため、今年と来年への戦力が前倒しされ偏重度は増した。2026年開幕時に高額年俸選手であるマチャドとボガーツは33歳、ダルビッシュ有39歳、クローネンワース32歳、ジョー・マスグローブ33歳だ。一般的に選手がピークを迎える27-28歳以下で契約を結んでいる選手はフェルナンド・タティス・ジュニアしかおらず、他の大物が少なくとも一般的には下降線を辿り続ける中でピークの年齢を迎え、先のアラエズ、シース、キングが流出する。彼らのサラリーを払いつつ、タティスを囲う戦力を別途用意する必要が生じる可能性が高い。その際に再び、プロスペクトで即戦力をトレード獲得するのか、それとも自前で育てられる有望株の質と量を再び整えられるのかという問いを突き付けられることは確実だ。

ただこの問題は今回のトレードというよりもピーター・サイドラーオーナーが生きていた過去2年で結んだ30代選手との大型契約の大盤振る舞いが原因といえよう。またプレラーGMの契約が2026年で契約が切れるので、職を繋ぎ留めるには今年と来年に結果を残す必要があるという背景が影響している可能性もある。ただ来季贅沢税上の年俸は$184M、来季調停最終年のアラエズが$13M-$15Mほど稼ぐとなると他の調停選手との契約の段階で$200M近くまで球団年俸が膨れ上がるので、来季までによほど財務状況が好転しない限り補強資金は限られるだろう。

ちなみにBaseball Trade Valueはマーリンズに分があるトレードだったと評価している。

Source: https://www.baseballtradevalues.com/

意外な結果に映るが、これはアラエズの評価がスロースタートを受け著しく低下していることによるそうだ。とはいえ5月1日のアップデートには30.7MのSurplus Valueの評価だったので過剰に低下している可能性があるとし確認し修正を行うとのことだ。仮に30.7Mの半分でもValueがあると仮定するならばパドレスにとって優位なトレードになる。

ナショナルリーグ西地区は大方の予想通りドジャースが独走しているため首位奪取は難しいが、やはりワイルドカード争いの勝率水準も前予想通りそう高くはなく5割少々でパドレスもその馬群の中に居る。ともすれば昨年と同様1-2勝でプレーオフ進出の明暗を分けるかもしれない。そのような戦況で6か月中5か月+1年もプレーさせることが出来る3.0WAR級の選手を獲得できたことは、7月末のトレードデッドラインでの2か月レンタル+1年よりも大きな影響を与える。

ディロン・ヘッドはC.J.エイブラムスではない、少なくとも今のところは。アラエズはフアン・ソトの代わりにはなれないがアダム・フレイジャーではない。トニー・グウィンにはまだ及ばないもののエリック・ホズマーでもないナリよ。

トップ写真元: https://padres.mlblogs.com/

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