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荒井由実(松任谷由実)で、もっとも好きな曲 「生まれた街で」


noteで、自分がよく聴いていた音楽や、好きなミュージシャンのことが書かれていると、その時代にタイムスリップしたような気分になる。

わたしが音楽を聴き始めたのは、中学1年生の時からで、家の近所にテクニクスのショールームがあった。

テクニクスはナショナル(松下電機)のオーディオ・ブランドで、ピラミッドのように階段状に積み重なったスピーカー「SB-7000」や、ダイレクト・ドライブのレコード・プレーヤーなど、意欲的に独自のオーディオ製品をマーケットに投入していた。今では、DJの人がターンテーブルでこのブランドを知っているくらいだろうけれど、当時は、母体企業の大きさもあって、イケイケの状態だった。

そのオーディオ機器を体験してもらうための「ショールーム」がビルの中にあり、受付のお姉さんの後ろには、LPレコードが並んでいた。ファイルから好きなものを選び、貸し出してもらう。それを抱えて試聴室に入り、高級ステレオで聴く。それは「FMレコパル」とかオーディオ雑誌を読んでいた中学生にとって、特別な体験だった。

最初に借りたのは、井上陽水さんの『氷の世界』だったと思う。びっくりしながら音楽に没入したのが、クイーンの『オペラ座の夜』。「ボヘミアン・ラプソディー」も良かったけれど、その前に入っているブライアン・メイの「預言者の歌」がすごかった。音像の定位がぐるぐる回り、フレディの歌もぐるぐる回る。悪魔的な輪唱がひとしきりあって、強烈なロックサウンドが爆裂する。今でもあの時の部屋の情景が浮かんでくる。

そんな日々の中、ニューミュージックというものが日本の音楽シーンに生まれてきた。アコースティック・ギターを弾きながら、ストレートに心情を歌い上げるフォークソングではなく、もっと都会的で、ロック的なテイストも取り入れた音楽。

荒井由実もそんな中にいたミュージシャンだった。彼女はのちに松任谷由実になり、恋愛ソングの女王と呼ばれ、ヒットソングを量産し、国民的な存在になる。

わたしにも、彼女の曲で、好きな歌や、思い出に残っているものは、たくさんある。「中央フリーウェイ」「やさしさに包まれたなら」「ルージュの伝言」「翳りゆく部屋」「ロッジで待つクリスマス」「埠頭を渡る風」「ダンデライオン」「 ベルベット・イースター」「守ってあげたい」「Hello, my friend」「春よ、来い」「アニヴァーサリー」「リフレインが止まらない」など。すぐに10数曲浮かんでくる。

でも、彼女のアルバム、CDを聴くことは、ほとんどない。
持ってはいるが、聴き続けることができない。
車に乗っている時でも、フィットしない。

それは彼女の音楽が、独特だから。彼女の著書『ルージュの伝言』にも出てくるが、ユーミンの曲は「テンションの音」といって、普通のコード進行と違う展開で曲が作られている。

通常なら、こう進むというところで、違うところに半音階的に移っていく。それが切なさや都会的な揺らぎを生んでいる。
でも、自分にとって聴きやすいのは、Am、EM、C、F、Dとか、それくらいで曲ができている小椋佳とか松山千春、かぐや姫、オフコースなどの曲だった。ユーミンをフォローした大江千里は聴くことができたが、本家はダメだった。時代がもっと今に近づいて、槇原敬之さんの歌は聴きやすいが、aikoさんやスキマスイッチとなると、何回聞いても覚えられない。

そうした中で、「自分にとって一番の曲は何か」というと、これがすぐに決まる。彼女のセカンド・アルバム『ミスリム』の1曲目に入っている「生まれた街で」だ。

彼女にとって、デビューアルバムの次の一作は、力が入っていたはずで、その1曲目なのだから、特別な存在のはずなのに、あまり話題にされない。アルバム『ミスリム』は名盤としての評価が定まっているので、例えば美術評論家の椹木野衣さんがコメントしたりして、たまに目にするけれど、「生まれた街で」は、忘れられてしまった曲なのだろうか。

なにしろサウンドがかっこいい。バックバンドは、細野晴臣、松任谷正隆、鈴木茂、林立夫というキャラメル・ママのメンバー。細野さんのゴリゴリで弾力性のあるベースラインがたまらない。これを聴いているだけでも飽きない。間奏ではありえないほど長いフルートソロが入る。だから7分くらいの曲かという体感になる。再度ボーカルが戻ってきて、ベースラインが変化する時のスリル。次の曲が「瞳を閉じて」、3曲目は「やさしさに包まれたなら」。「海を見ていた午後」「12月の雨」と続き、山下達郎さんのコーラスも聞ける。B面には「魔法の鏡」も入ってる。ユーミン、おそるべし。


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