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「テイク・ファイヴ」だけじゃないーーデイヴ・ブルーベックの魅力

オール・ザ・シングス・ウィ・アー

1973年7月・1974年10月、NY録音 Atlantic Records, Michael Cuscuna

デイヴ・ブルーベックというと、ジャズの中で最もポピュラーな白人ピアニストで、アメリカでは国民的な存在。ブルーベックは2012年まで生きたが、その年の「ダウンビート」誌読者投票グループ部門で1位、ピアノ部門でも8位にランクされている(以上、ライナーノートから)。その不動の人気は驚異的。

ポール・デズモンドとのコンビが有名で、シリアスな演奏家というよりはイージーリスニング的な聴かれ方をしている。だが彼は現代音楽のダリウス・ミヨーに師事してもいるし、現代的な魅力を備えている。
このアルバム『オール・ザ・シングス・ウィ・アー』は、それをある面から照らし出す。そういう内容になっているのは、プロデューサー=マイケル・カスクーナのアイデア。

頭から聴いていくと、ブルーベックのアルバムとして淀みなく流れていくので気づかないが、収録曲5曲の編成が異なっている。
M1はリー・コニッツの1ホーン・カルテット。M2はソリストがアンソニー・ブラクストンに替わってのカルテット。ブルーベックもここでは、フリーに振ったソロを聴かせる。これが自然で違和感なく曲の進行に溶け込んでいる。

M3は2ホーンのクインテット。冒頭からブルーベックがブロック・コードで気持ち良く4ビートを叩き出す。
M4「Jimmy Van Heusen Medley」はピアノ・トリオ。メドレーなので、「Like Someone in Love」など5曲を20分かけて演奏する。最もブレーベックらしく親しみやすい。

ラストM5はしっとりとしたエリントンのバラードで、コニッツとのデュオ。コニッツのソロに、ブルーベックがシンプルな伴奏をつける。どこかのバーで、客のいない時間帯に、二人だけで演奏しているような雰囲気。アウトロ的に短く2分ほどで締めくくられる。

ポイントとなるのはブラクストンで、彼は先鋭的なフリー系ミュージシャンだが、ブルーベックへの尊敬を表明している。そういう耳でこのアルバムを聴くと、リー・コニッツも違った聞こえ方になる。ブラクストンはいつも通りフリーに寄った崩し方だが、端正で明朗なコニッツの演奏を聴いていると、むしろコニッツの方がモダンに聞こえてくる。
星5つの名盤。

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