褒め上手な友達に「ありがとう」と伝えたい
写真を始めたばかりで撮るのが下手っぴだった頃。出かける時はデジタル一眼レフカメラを持ち歩いていた。カメラが大きかったから、自然と普段使いのバックも大きくなった。私のイメージはカメラを首からぶら下げている人。女性で小柄だから、やけにカメラが大きく見えたかもしれない。
ある日知り合いのカフェで、Yちゃんと待ち合わせをしていた。カフェの店員TさんとYちゃんと私は共通の友人だ。そのTさんからのあるお願いでYちゃんと会うことになっていた。
「つかちゃ〜ん」と満面の笑みで手を振りながらお店に入ってきたYちゃん。白いトイプードルを連れている。名前は『ナナ』という。人懐っこくて、初めて会う私に怖がらずに撫でさせてくれた。
「つかちゃん今日は本当ありがとね〜。ちょっとドキドキしてる」
「私もうまく撮れるか心配」と正直に話した。
撮影する相手は『ナナ』で、ご飯を食べる前「待て!」の状態を撮ろうとしているからだ。「つかちゃん、パスタを置いたらすぐ撮ってね。時間との勝負だよ」とTさん。私はどの位置で撮るか考え、画角を決めて何度か試し撮りをしてみた。
そろそろナナがお腹を空く時間。トマトソースのパスタで、犬が食べやすいようにアレンジされたものだ。ナナがどれぐらい待てるかは分からないから、とにかくシャッターを押し続けるしかない…と覚悟を決めた。
ついにYちゃんがナナを椅子に座らせた。Tさんがトマトソースのパスタをテーブルに置く。
「ナナ、待て!」とYちゃんが言っている間に、必死にシャッターを押し続けた。ナナは今にも食べたそうな表情をしている。7~8回ぐらいシャッターを押したところで、ナナがトマトソースのパスタにかぶりついた。口もとの毛は赤く染まった。
本当なら人が座る場所なのに、犬が座っているのはどこか異質だ。さらに目の前にはトマトソースのパスタが置かれているのだ。面白い写真は撮れた。ただ撮影の技術は決していいとは言えなかった。技術より頑張って撮ろう!という情熱で乗り切った。
撮影が終わった後、Yちゃんは「その写真を飾りたいな」と言ってくれた。写真サイズを六切りにして、プリントされたものをプレゼントした。そしたら「つかちゃん、サインして」とお願いされた。サインなんか初めてだった。戸惑いながら筆記体で『tsuka』と書いた。
ある時Yちゃんが「つかちゃんの写真、素敵なんだよ〜。ナナの写真も撮ってくれてね…」と様々な人に話してくれていたことを知った。なぜなら一度もお会いしたことがなかったのに、私のことを知っている。ということが何度かあったのだ。
「こんな素敵な人がいてね」とYちゃんはよく誰かに伝えていた。いつの間にかYちゃんの周りは優しくて面白い人の繋がりができていた。
「ありがとう」きっと何度言っても言い足りない。