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「天才とホームレス」 第25話 『おっちゃんと弟子』

まずはいろんな人に聞くことだ。
僕ができることは恥をかくこと。
どんどん人を頼ることだ。

なによりもまずはおっちゃんだろう。
冬が近くなってきている。
おっちゃんは他のホームレスの家を暖房仕様に変えてまわっていた。

「おっちゃん、僕たちさ、そろそろお金を、、、」
「わかった」
「え?」
「わかった。本格的に会社にしたいんやろ?」
「え、どうして、、、」
「そろそろ言い出すやろおもてたんや。
 よっしゃ準備するで」

おっちゃんは多分、人間じゃない。
「まずは会社の形式からや。
 お前らにあげた屋号は、おれが昔作った合同会社のものなんや。
 まずはそこら辺から勉強しよか」
「う、うん。わかった。明日までにノートにまとめてくるよ」
「基本的には合同会社のままでいいと思うけどな。
 どんなふうな会社にしたいかやな。
 大きくしたいか、小さくじっくりいくか、、、」
「小さくていいよ。
 僕らはこの地域で、顔の見える相手とビジネスをしたいんだ」
おっちゃんがニヤリと笑った。
「さすが、わしの弟子や」
急な「弟子」発言に、僕は飛び上がりそうなぐらい嬉しくなった。
でも必死に堪えた。
「そ、そう? いいかな?」
「いや、まずは色々知ってからや。決めるのは。
 でもおれは好きやぞ。
 ただな、時代も環境もどんどん変わっていくんや。
 自分で考えて、自分で決めなあかん。
 そんで失敗したらええねん。
 そしたら時代の波に乗れるねや」
「わかった」

「原点と方向性と現状や。大事なのは」
「え?え?」
「まず、何のためにこの会社があるのか。
 それが原点。
 すべての会社の原点は、ほんまにいいものや」
「僕らの場合やと、友達になること、友と友を友達にすること、って感じかな?」
「む、そやな。もっと深くしてもええけどな」
「なるほど、、、。「繋ぐ」ってことかなぁ。でもそこにはどうやってお金が生まれるか、がないよねぇ」
「おお!そうや! ビジネスがわかってきたな、ゆきや。
 いや、繋ぐことでお金を生み出してる会社はたくさんあるんや実は。
 コンサルタントってやつや。
 でも原点だけではそこまで辿り着かんねや。
 そのための方向性やねん。
 原点がゴールやけど、それをもっと具体的にして、小さなゴールを作っていく、そのゴールに向かうためにどんな方向に進んでいくか、それを確認するんや」
「ふむふむ。
 そこが今定まってないんだよね」
「うむ。いいぞ。
 今、自分がわかってること、わかってないこと、それを浮かび上がらせることが大事や。
 わかってないことは悪いことじゃない。
 ええか。自分で考えるんやぞ。だから自分の頭の現状をよーく見とけ」
「うんうん。それが現状か」
「いや、違う。
 いや、まあそれも現状か。
 現状は、それで今、何をやってるかや。
 今、自分がどんな方向に進んでいるか、その都度確認せなあかんねん。
 この繰り返しやぞ、ビジネスは」
「、、、わかった!」
ここまでおっちゃんが地面に描きながら説明してくれていた図を、改めてノートに描き写す。

「まずは、今やってることを書き出してみい。
 そしたら方向性が見えてくる。
 実はな、原点からより、現状からの方が、方向性が見えることもある。
 方向性が見えてから原点であるゴールが見えることもあるんや。
 結局、言葉は入れ物で、どっちが先とかはその時々で変わる。
 気をつけなあかん」
「入れ物、、、」
ここらへんからわからなくなった。

「まあええ。
 でもな、すでにお前らはようやっとる。
 それは覚えとけよ。
 実はお前らの会社にお金を払いたいという人もたくさんおるんや。
 まだ早いおもて断っててん。その代わりに経験をってことやったしな。
 だから自信持てよ」
今日のおっちゃんはなんだかとっても優しい。
「わかった!」
と言って、その日はおっちゃんの作業を手伝ってから帰った。


夜。
部屋で一人。
今、やっていることを書き出すことにした。

【ロケットえんぴつのやっていること】
・祭りの運営
・シシ肉ジャーキーの販売、拡大
・人材の派遣?(大工、アトリエ、彫刻)
・アトリエ
・漫画家と広告を繋げること
・会社の紹介、新しいビジネスの創出(町工場、牧場、たばこ屋、駄菓子屋、キッチンカー、、、)

これまでやってきたこと、友になった人を書き出そうと思ったが、
とてもじゃないけど書けないほどに、数が多かった。
この2年間の日記を見返さないといけない。
そう思って日記を閉じた。

実際に牧場の社長は、シシ肉ジャーキーや祭りの件でとても感謝してくれていた。
お金でのやり取りの代わりに、たくさんの経験をする機会を与えてくれていた。
僕らを手伝った子どもたちにたくさん還元することができた。
キッチンカーのおっちゃんたちもそうだ、
アトリエのアーティストのお兄ちゃんたちもそうだ。

だめだ、泣けてきた。

この美しい循環を、崩さないようにしなくては。
この美しい愛の関係を、壊さないようにしなくては。

『儲ける』
この言葉にドキッとする。
この言葉に汚いイメージがある。
しかし僕の出会ってきた、「儲け」ている大人たちは、とっても余裕のある良い人たちだった。

どんな仕組みで、誰が儲かるべきなのか。
学ばなければいけないことが山ほどある。

会社について、経済について、調べているうちにまた夜更かしをしてしまった。



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