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三題噺小説版『走る』『屋上』『不安定』

 落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。

【ルール】

☆三つ単語のお題を出して小説を書く

☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題

☆三題はちょい出しでもガッツリ主軸でも可

☆ジャンルはフィクションのみ、ノンフィクションは不可。フィクションであるならミステリーでも純文学でも可。

☆制限時間:約一日

 僕は、学校の屋上が好きだ。学校に出入りする生徒や教師が、小さな人形劇の人形のように見えて、それらが躍っているように見えるのが心地よく、愉快であった。現代では、入ることが出来なくなっているらしいが、僕は、学校の屋上から見える景色が、特に好きだった。また、教師が見周りに来ないこともあり、こっそりとタバコを吸うにはいい場所でもあった。
「これさ、教科書にあった小説の文豪が吸っていたタバコらしいぜ?」
 友人のKはすこし得意げに、鼻を鳴らしながら話し始める。僕は、彼からもらった一本に火をつけて、深々と吸い込み。ふっと深い味に、悪くはないと思った。
「そうなんだね」
 ふーっと空気を吸い込んでみた。その空気が、肺を満たす。
「なあ、聞いてるのか? まさか、知らないなら本を貸すぞ?」
  彼は嬉々として、僕に一冊の本を手渡した。が、僕は煙草を咥えたままぼうっとみつめ、ページをパラパラめくってみた。
「僕は、絵を描くほうが好きだな」
 そう言って、彼にそのままかえしてしまった。彼はそれをまた無理に、押し付けてきたので借りることにした。その本は、返せず。部屋にある。

 友人のKは、文学好きだ。特に、芥川龍之介を愛読していた。彼が愛煙していたGOLDEN BATと金の文字で書かれた紙箱のタバコを自慢げにいつも見せながら、芥川龍之介の小説について楽しそうに話していた。

 僕が芥川龍之介の小説を読みだしたのは、中学を卒業してすぐの頃。K君が夭折してからであった。僕は、彼がいない日々を過ごすうちに不安定な精神になっていった。それからだろうか、無意識に僕はKが好きだったもの、小説を読み。タバコを吸うようになっていた。
 Kは、悪性のガンであった。それでも、最期まで小説を愛し、そして、作家になろうとしていた。

「なあ、リョウ」
「どうした、何が必要なものがあるのか?」
「ううん、ない」
「なら、なにか……」
「聞いて。俺は、さ……もう、生きられないんだ」
「違う、違う!! お前が作家に、なるんだろ?!」
「聞け」
「…… ……」
「俺の……書けなかった続きを……お前が書いてくれ」
「そんな……俺には、文学の才がないんだ」
「それでも良い、めんどうくさがりなきみのことだ。締め切りギリギリになってキリキリする姿が、俺には見えるような気がするよ。な、君は、俺にとって唯一の頼りなんだ。な、笑えよ。難しい顔をするな。な、ああ、あと、俺からの最期の言葉なんだけれど……」
 彼がその言葉を発した時、彼は咳き込み出し、最期の言葉を聞けないまま、大人になった。

 _____ 僕は今、彼の予言の通り。締め切りに追われていた。

 もしも、彼が……いや、どうだろう。もう何回目かも分からない推敲をする。

 君が、書いた小説よりも面白くはない気がするんだ。めんどうだなとも、思っている。けれど、君が愛した文学を……楽しんでいた小説を心底から嫌いには、なれなかった。

 僕は、ビルの屋上で煙草を吸い終え。折れない腕と、君から貰った思い出を抱き。やりたいことをし、書きたいことを書きつづけようと机にむかった。そして、また、小説を書き始めている。

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みんなのフォトギャラリーよりmsy.(みしぃ)|Annui
【文章】
辻島治

令和5年9月2日

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