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荒ぶる魂の発露としての中島みゆき「ご乱心の時代」

中島みゆきの活動史は、プロデューサー・アレンジャーとして瀬尾一三が参加する前と後で大きく分かれる。
そして瀬尾一三以降の時代は、ポニーキャニオン時代とヤマハミュージックコミュニケーションズ時代に分かれる(2000年に移籍)。

そう考えた場合、時代区分は以下になる。

①前期:「私の声が聞こえますか」(1976年4月)~「中島みゆき」(1988年3月)
 ・「オールナイトニッポン」月曜DJ担当(1979年4月~1987年3月)
 ・「甲斐バンド special last night PARTY」にゲスト出演(1986年6月、港からやってきた女)
②中期:「グッバイガール」(1988年11月)~「日-WINGS」「月-WINGS」(1999年11月)
 ・「夜会」スタート(1989年11月)
③後期:「短編集」(2000年11月)~
 ・NHK第53回 紅白歌合戦出場(2002年12月、地上の星)
 ・「吉田拓郎&かぐや姫コンサートinつま恋2006」にゲスト出演(2006年9月、永遠の嘘をついてくれ)
 ・NHK第65回 紅白歌合戦出場(2014年12月、麦の唄)

前期の終わりの数年について、「ご乱心の時代」として括りだすのが一般的である(ご本人もこの期間を「ご乱心の時代」と言っている)。
①´ご乱心の時代:「はじめまして」(1984年10月)~「中島みゆき」(1988年3月)

前置きが長くなったが、「ご乱心の時代」について書き留めておきたい。そもそも「ご乱心」とは何なのか?
ベテラン音楽評論家の田家秀樹は、この時期の音楽に向き合う中島みゆきの思惑を、以下の本人コメントを引用して説明している(中島みゆきオフィシャル・データブック)。
博物館やってくか反感買っても博物館出て行くか。どっちにするか迷って出て行くことにした

80年代前半までの時期、「わかれうた」「悪女」などの大ヒットを飛ばし、オールナイトニッポンも絶好調で、第一次中島みゆきブームが巻き起こっている渦中、ご本人は世間で確立された中島みゆきイメージに囚われたくない思いを激しく募らせていたらしい。
誰かに作られたイメージに自分の表現ががんじがらめになる状況を打破して、本当に自分がしたいことや表現したいことを追求するべく、音楽の作り方、声の出し方、コンサート形態などで過激なトライアルを繰り返す試行錯誤の時代が始まった。それが「ご乱心の時代」と呼ばれる時期である。
ご乱心前夜のアルバムである「予感」を発表した頃、中島みゆきは26歳だった。

「ご乱心の時代」に発表された5枚のアルバム(セルフカバー「御色なおし」を含む)について、あまりお好みではないファンもいる(いた)と思うが、私はこの5枚に象徴されるご乱心時代をこよなく愛している。
中島みゆきは、当時のインタビュー記事で、「聞き逃せないものをロックというのであれば、私はずっと言葉のロックをやっているつもり」と啖呵を切っていたのを覚えている。
当時の自分も大きく頷き、「例えば「彼女の生き方」(1976年10月「みんな去ってしまった」所収)こそロックで、みゆきの曲の中に以前からあるロック・スピリットにようやく80年代になってサウンドが追い付いてきたんだ」と思っていた。
ちなみに、ここで私が考えるロック・スピリットとは、徹底的に個に向き合って揺るがない一貫性(=integrity)だ。

「ご乱心の時代」とは、中島みゆきが自身の中にあった「荒ぶる魂」を覚悟とともに全面開放した不穏な時代なのだ。世間の作るイメージにおもねるのではなく、自分(個)に向き合うことにこだわって荒ぶった時代がご乱心時代なのだと考える。
サウンド面の挑戦は、様々なアルバム解説などで詳説されているので、この時期の現象面から「荒ぶる魂」の現われの一端を並べてみよう。

  • 1984年コンサートツアー「明日を撃て」で、革ジャン・タイトスカートの衣装にクリスタルのエレキギターを手にして「カム・フラージュ」を熱唱。

  • 1985年コンサートツアー「のうさんきゅう」のコンサートパンフ表紙はレザースーツを着込んだみゆき。表紙をめくった1頁目に掲載されていたのが手書きの詩。「のうさんきゅう 束の間の同情/のうさんきゅう 場つなぎの抱擁」から始まって、「のうさんきゅう とりあえずの愛ならいらない」と結ばれる過激な一編。

  • 1986年6月、甲斐バンドのspecial last nightにクリスタル・エレキを肩からさげて登場し、甲斐バンドのロックナンバーを甲斐とデュエット。

  • 1987年3月、一時代を築いた月曜深夜のオールナイトニッポンの最終回、「あたしは音楽に走ります」のコメントを最後に終了。

中島みゆきの「荒ぶる魂」は、瀬尾一三によっていったん鎮められた。
「ご乱心時代」の試行錯誤は、その後の「夜会」などの活動に結実している。
ただ、今でも油断していると、中島みゆきの作品から「荒ぶる魂」が顔を出して、不意打ちを食らわされる時があるから、用心した方がいい。

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