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「正解のないクイズ」から「正解」を作り出す方法

テレビのクイズ番組は、昭和の時代、お茶の間で家族がワイワイ盛り上がれる定番人気番組の一つだった。
小学生時代に家族で見ていたクイズ番組と言うと、今でもすぐにいくつもの番組名が思い浮かぶ(ウィキペディアで一覧を見ていたらあまりに懐かしかったので、私が思い浮かんだ番組名を例示します。当時、大阪在住。順不同)

ベルトクイズQ&A、クイズグランプリ、アップダウンクイズ、クイズタイムショック、霊感ヤマカン第六感、三枝の国盗りゲーム、クイズダービー、パネルクイズアタック25、クイズヒントでピント

いずれの番組も、クイズに正解を出すことをきっかけとして、様々な趣向を凝らしたゲームを進めて勝者を決めるスタイルで、司会者と演者との掛け合いも含めたトーク・バラエティのような内容だった。

大学生くらいから(平成以降)は、そもそもあまりテレビを見なくなって、クイズ番組の流行り廃りもよく知らない。ウィキペディアによると、2010年代以降のクイズ番組の潮流として、「おバカタレントから学歴主義へ」という流れがあるらしい。

確かに、最近は高偏差値の大学や高校でクイズ研究会が盛んとのことで、研究会の学生や生徒が解答者として出演するクイズ番組を見かけたことがある。また、高学歴大学を卒業したタレントが出演するクイズ番組もあるようだ。
これらの番組は、あまりゲーム性はなくて、純粋に正解を答える能力を競う番組である。

私は、これら「正解のあるクイズ」への解答にしのぎを削るだけの番組があまり好きではない。高学歴と関連付けて盛り上がる番組は、娯楽とは言え、くだらないなあと思ってしまう。
「正解のあるクイズ」に一つでも多く正解が出せることや、一秒でも早く正解を出せることにどれほどの価値やおもしろみがあるのか、さっぱり共感できない。高学歴の価値はそんなところにあるわけじゃないだろー、と思う。

一方で、「正解のないクイズ」を題材としたエンターテイメント番組もある。
「IPPONグランプリ」やその源流である「一人ごっつ」(古いけど)などがそうである。これらの番組は、判定にっこみを入れつつ、必ず録画して見ていた(ちなみに、「笑点」は同じ大喜利形式でも、昔ながらの昭和風トーク・バラエティ番組ですね)。
「正解のないクイズ」にどう対処するかを見るのは、スリリングであり、知恵とか世界観を垣間見られて楽しかった。

ところで、「正解のないクイズ」のことを考えていて思い出した書籍がある。ジョン・ファーンドン著「世界一『考えさせられる』入試問題」(河出文庫)という本で、英国のオックスフォード大学とケンブリッジ大学の入学試験で面接官から出された難問奇問を収集した本だ。

全部で60問が収録されていて、著者がそれらに対する解答例を考察するコメントを載せている。掲載第1問は、「あなたは自分を利口だと思いますか?」という問題で(ケンブリッジ大学法学部)、これが原著書名(“DO YOU THINK YOU’RE CLEVER?”)にもなっている。
すべての設問が、シンプルながら知的にひねられていて面白い。例えば、第41問「地球には人が余計にいるのでしょうか?」(オックスフォード大学人文科学)、第59問「イギリス国内の貧困と海外の貧困のどちらに注目するほうが重要でしょうか?」(ケンブリッジ大学土地経済学)など。

これらは大喜利ではなくて入学試験の問題なので、面接官に対して自身が入学するに相応しいことをアピールする解答をする必要がある。ただし、著者曰く、「博識と機知を鮮やかに披露」することが必ずしも正しいとは限らないとのこと。伝え方にも人間性がにじみ出たりする。
これらの問題には、まさにひとつの「正解」があるわけではない。各自の持ち味や個性を踏まえながら、自分なりのアピールの仕方で自分なりの「正解」を作り上げる必要があるのだろう。

クイズ番組や入学試験だけではなく、我々の生きる世界も同様で、一つの正解を前提にして未来を語るだけではなく、不確実性を前提として未来のことを考えることも必要である
むしろ、我々は「正解のないクイズ」が満ち溢れた世界に生きていると考える方が、本当は妥当なのかもしれない(それこそ、正解のない命題だが)。

将来のキャリアに関する理論の世界でも、1990年代以降、大きな発想転換が行なわれてきた。

キャリア形成時の意思決定の理論を提唱したハリィ・ジェラットは、1960年代に合理的な意思決定プロセスの枠組みを提示したが、90年代以降、積極的不確実性(positive uncertainty)をキーコンセプトとして、意思決定の際に直感による夢やビジョンの重要性も増してきたとの修正を加えた。
ジェラット曰く、「将来は想像され、創造されるべきものである」「不確実性と矛盾を受け入れ、思考と選択の非合理的・直感的側面を活用する」ことも重要になってきたとのこと。

また、ジェラットの盟友であるジョン・クランボルツも同様に、不確実性の高まりを受けて「計画された偶発性」の理論を提唱した。未来を固定化するのではなく、想定外の出来事(偶発性)を利用して有意義なキャリア形成に結び付ける準備をしようという考え方である。

「正解のあるクイズ」は直ちに○✕が出るが、「正解のないクイズ」は、自分の手でオーダー・メイドの「正解」を作り上げることが可能である。
ただし、有意義な偶発性を手に入れる(「正解」を作り上げる)ための準備・努力が求められる。
クランボルツは、偶発性を有意義にするための5条件として、好奇心(Curiosity)、持続性(Persistence)、楽観性(Optimism)、柔軟性(Flexibility)、冒険心(Risk-taking)をあげている。

日本に紹介されているクランボルツの著書名は “Luck Is No Accident” (邦訳「その幸運は偶然ではないんです!」)。5条件に基づいて偶発性を有意義にする“努力”を促している。座して待っているだけでは、有意義な偶発性は手に入らない。

我々の生きる世界は、“ガチャ”ではないのである

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