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【福岡・博多】2泊3日ひとり旅 ③大正浪漫・夜の天神編
〇太宰府天満宮 -ウソがもたらすもの-
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引き続き、太宰府天満宮より。
西日本は東日本よりも日の入りが少し遅いはずだが、午後4時過ぎの空のオレンジは案外見慣れたものと近く、ふとした瞬間にここが福岡であることを簡単に忘れさせた。そんなふわっとした気分で赤い楼門まで戻ってきた私は、周りを見渡してとあることに気がついた。
"太宰府天満宮、動物の銅像めっちゃ多くね?"
御神牛(境内に計11体)、お馴染みの狛犬、逆にお馴染みではない鹿、そして目の前には凛々しい麒麟。こんなに色んな生き物に囲まれているなんて、道真公は動物に好かれる人物だったのだろうか。この動物の集まり方はもう白雪姫よ。
麒麟像、冬の陽射しに照らされてつやつやと光るおしりがとても美しくてよく覚えている。元々は2体あったそうで、戦時中に金属供出を求められた際にこの1体のみが奇跡的に供出を逃れたそうだ。戦火を生き抜いた力強い眼差しに心が震えた。
そんな森の仲間たちの中に一匹、いや一羽というべきか、正体不明の像があった。麒麟の右隣にいるこれは、何だ?
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ペンギンのようなぽてっとしたボディと大きく丸い目。頭があまりにも平らに造形されていたので、最初見た時は"首のない鳥?そういう世界観……?"と少し怖くなってしまったが違った。
解説によると、この鳥の名前は「鷽(ウソ)」。
読、読めね〜〜〜絶妙に鶯(ウグイス)じゃないし。ピーピーという笛のような鳴き声から古語で笛を意味する「うそ」と名付けられた鳥で、人々が一年の間についてしまった"嘘"を天神様の誠心と取り替える「鷽替(うそかえ)」と呼ばれる神事ゆかりの鳥として、古来から太宰府天満宮で大切にされてきたという。
ちなみに麒麟と違って現存する鳥の一種なので、検索すると茜色の襟巻きをした可愛い小鳥の画像が出てくる。実物と比べてみると、この銅像がだいぶデフォルメされていることが分かってなお良い。ゆるキャラのバリィさんみたい、ほんでよく今バリィさんって名前すぐに思い出せたな自分。
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「うそ」という名前を初めて知った時は、自然と「嘘」に脳内変換されたので"こんな名前付けられちゃって、可哀想に……"と思ったものだが、それらが日本語由来の素敵な言葉遊びから来るものだと知った途端、"あら良い名前ね〜ヨシヨシ"と頭を撫でて愛でたくなった。
これだから、日本語は面白くて罪深い。うーむ。
〇太宰府天満宮参道 リターンズ
★風見鶏 -今日もあなたは誰かの止まり木-
太宰府天満宮をじっくり歩いてまわったのでそろそろ足を休めたいところ。何か良いカフェあるかな〜、さっきフォトジェニックな木組みのスタバは見かけたけれども、せっかくならその土地ならではの喫茶店に入ってみたいな……お、何だここ。
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風。渋い臙脂(えんじ)色をした暖簾がやわらかくたなびく。まるで銭湯のような懐かしい雰囲気に私の足先は自然とそちらを向いた。暖簾には「喫茶」と書いているけれども……喫茶店で合ってるんだよね?そのまま視線をスーッと上に持っていった先で、「太宰府のハイカラ 珈琲専門店」の文字と視線がぶつかる。
"太宰府のハイカラ"、良い〜〜名前です。
喫茶「風見鶏」は、140年ほど前から太宰府天満宮参道にあった旅館を、レトロな喫茶店として再生させた歴史ある場所。あの暖簾が醸し出していた"ようこそお越しくださいました"感はそれか!誘われている感じがしたのよ。あの翡翠色の風格ある屋根もかつての旅館の玄関口だと思えば納得だ。
行ってみよう、おじゃまします〜
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案内された席に座り、店内の独特な雰囲気に自分の肌を慣らしていた時、前方に地元のおじさま達の小さな会合を観測した。会合といっても、お偉いさんの集まりみたいな重々しいものではなくて、私たち若者が定例会という名で友達とご飯会を開くみたいな、その延長線上にあるような類のものだった。
ある人はチェック柄のキャスケットにジャケット、ある人はニット帽にアーガイル柄のセーター、素敵なコーディネートを身にまとった60,70代くらいのおじさま4人組。彼らの会話はそれなりに活発に見えたが、店内に流れるオルゴールの音色にかき消され、こちらには聞こえてこなかった。どうやら四角いテーブルの真上に、彼らの会話はわた雲のようにふんわり収まっているらしい。珈琲をすすりながら時折訪れる沈黙さえも、なんだかとてもほのぼのして可愛らしかった。
頼んだ飲み物を待ちながらぼーっと彼らを観察していたのだが、ふと目を離した瞬間「グゴォッ」という音がして、驚いて前を向くと4人のうちの一人がコクンコクンと居眠りを始めたらしかった。
"えええここで……?"
でも他の3人が全く動じず、話し込んだり新聞を広げているあたり、これはよくある光景なのだろうな。私は眉を八の字にしたままフッと笑顔になった。これほどに心を許せる仲間と場所が歳をとってもなおあるというのは、実に素敵だ。
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頼んでいたコーヒーフロートが届いた。思いがけずカクテルみたいな逆三角形のグラスで出てきておお……となったが、「風見鶏」の有名な人気メニューのひとつなのだという。
クリームソーダとかもそうだけど、飲み物にアイスクリームを乗っけるというアイデアって改めて考えると革命的だよな。どうやって?って普通なるじゃんまず。フロートドリンクを飲んでいる時は、誰かが一昔前に叶えた夢の喜びを、時代を超えて今おすそ分けしてもらっている気分だ。
あえてなのかは分からないが、上に乗ったアイスクリームがまん丸に整形されていなくて、逆にそういう部分に手作りの趣を感じられてとても良かった。
★福太郎 -"め"が気になる-
休憩を挟むとやはり気分のリフレッシュになって良いな。適度に立ち止まることは、旅行においても人生においても必要なことなのかもしれない。
「風見鶏」を出て時刻は16時40分。太宰府は17時に閉まるお店が多いようだったので、少し駆け足でお土産を見ていくことにする。
福岡に来たからには買ってみたいと思っていたお土産がいくつかあって、そのひとつが「福太郎」のめんべいだった。世間的にはお土産の定番らしいが、私自身めんべいの存在を知ったのはほんの2ヶ月ほど前だったので、目新しいものを見るつもりで直営店に向かった。
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太宰府にある直営店の正式名称は「FUKUTARO MENBEI AND MENTAIKO」。私が訪れた時にはすでに売り切れた後だったが、テイクアウト限定で販売されているめんたい焼きおにぎりが美味しくて有名らしい。早い時だとお昼すぎには売り切れているそうなので、気になる方はお早めに。
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お土産品のデザインって心惹かれる良いものが多くて、お土産屋さんに入ると、お土産のセレクトそっちのけで店内をぐるぐる偵察するのを楽しんでいる自分がいる。は〜〜、これだけたくさんの"め"に囲まれているとさすがに脳内再生余裕だな、「め組のひと」。店内にいる限りエンドレス再生である。
鰻屋の"う"とか銭湯の"ゆ"とかにも同じことが言えるけれど、平仮名のもつ丸みってグラフィックデザインと本当に相性が良いんだな。きっとここに並んでいるめんべいの"め"も、こだわり抜いた結果のデザインないしはフォントなのだろう。たった一文字でめんべいの"め"だ!とまで浸透しているのは流石である。
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思いのほか色んな種類があって、時間がないというのにどれを買おうか結構悩んでしまった。この日の太宰府で見つけたのはプレーン、マヨネーズ味、ねぎ、玉ねぎ、かつお(合格祈願)、辛口、香味えび、焼きカレー風味の8種類。私はマヨネーズ味と妹ご所望のねぎ、あとホテルでの夜おやつ用にプレーンの小分けサイズのものを1つ買った。
食べてみると分かるのだが、めんべいは見た目の平べったさに反して結構固さがある。この後ホテルで日記を書きつつ片手間ノールックで食べようとしたら、前歯がめんべいの固さに跳ね返されて少しびっくりしたものだ。笑みがこぼれたよ思わず。
○太宰府駅〜天神駅 -ばる??-
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さて、太宰府とはそろそろここでお別れ。
4時間前後の滞在ということで、行きたいところ全てを回りきることはできなかったが、次回またここを訪れる理由を作れたと思えばそれも悪くない。来られるように私が健康的に努力をすればいい話だ。
今宵は夜ご飯を天神で食べるつもりなので、帰りは直通バスではなく電車を使って移動する。さすが天神さまの住まう街、駅にも電車にもその風格が漂っていた。
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このビビットな色合いが目に鮮やかな列車は西鉄太宰府線。天神に向かうには、途中西鉄二日市という駅で西鉄天神大牟田(おおむた)線という線に乗り換えをする必要があるそうだ。ちなみに大牟田という漢字は悩まず読むことができた。学生時代、牟田ちゃんという俊足の後輩がいてね、覚えてたんだ。
土曜の夕方だというのに学生が多いな。でもそうか、この時期だと冬期講習があるし通常の休日だとしても部活動があるか。私自身が休日返上で吹奏楽に捧げていた週7部活人間だったにもかかわらず、その日常の存在をすっかり失念していた。
社会人になって完全休みの土日が確保されるようになってからというもの、私の中でこれまで常識だったものが少しずつ存在感を消しつつあるようだ。少し寂しいね。ただ、こうして遠くに足を伸ばせるのは今の環境ありきなので、その恩恵を受けられるうちは存分に旅に出たいな。
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途中、西鉄五条という呪術廻戦ファンとしてはテンションの上がる名前の駅を挟んで、西鉄二日市駅に到着。西鉄天神大牟田線へと乗り換える。
この写真の案内を見ると終点が「福岡天神」になっているが、実は本当の駅名は「西鉄福岡」。乗換案内で見た時に名前が違って最初はかなり焦った。発車時間と通過駅を手元の乗換案内と照らし合わせた限りは、どうやらこれで合っているらしい。
いや、怖いって。
西鉄福岡駅に着くまでには4駅で所要時間は20分程度。まあ博多〜太宰府間がバスで50分なんだから、それくらいはかかるか。
「次は、かすがばる〜、かすがばる〜」
……ん、何て?スバル?
電光掲示板を確認したら漢字三文字で「春日原」とあるので、おそらく駅名を言ったのだろうなと思いローマ字表記に切り替わるのを待った。
「Kasugabaru」…カスガバル…
かすがばる!え、ばる?ばる!ばるなんだ!
へ〜そこ"はら"じゃないんだ、関ケ原は"はら"じゃんか。気になったので「春日原 由来」とその場で検索してみることに。ちなみに無意識に"かすがはら"と打っていたと思う。なるほど?開墾地を意味する「はる(治・墾)」に由来するもので、九州地方に多い読み方なんだそうな。
またひとつ賢くなったぜありがとう。
〇天神ホルモン総本店 -暮らしを照らす暮らし-
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天神には漠然と、屋台や繁華街の煌びやかなイメージだけを持っていた私だったが、実際駅に降りたってみるとそれは駅の外の話のようで、夕方の天神駅ナカは、あくまで大都市駅のひとつとして人が留まり行き交っているまでだった。まあまだ土曜の18時前だし、ぎりぎり混雑ピークを回避できたってところか。
初日の夜ご飯を、私はずっと決めかねていた。女ひとりかつお酒がほとんど飲めないので屋台メシはわりと序盤で候補からはずしたのだが、そこからが長かった。九州一の繁華街でありながら商業や文化の中心地でもある天神。百貨店・福岡パルコ・福岡三越などのショッピング施設が勢揃いなので、必然とグルメスポットも豊富だ。肉か魚か、具体的には「糸島食堂」か「天神ホルモン」のほぼ2択で悩んでいた。
今日はどっちの余韻を持ち帰りたいか……悩ましい、けれども!何となく今後食べる機会が遠のきそうなのはホルモンの方なので、今日は「天神ホルモン」で締めくくることにしよう。よし。
「鉄板焼天神ホルモン 総本店」は、旧ソラリアステージの専門店街地下2階にある。西鉄福岡駅の改札を出て右手にあるエスカレーターで降りていくと、美味しそうな鉄板焼や天ぷら特有の油の香りが鼻を刺激した。
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到着すると既に3人家族が1組、店の外にある丸椅子で順番を待っていて、私がその隣に座ると一人の店員さんがそれに気づいてメニューをさささっと持ってきてくれた。
ふと、隣に座る小さい女の子の様子が気になった。黒いマッキーペンで、おそらく親の買い物レシートの裏にずっと何かを描いている。 「好きだね〜絵描くの」とお母さんに言われても全くやめる気配が無く、脚を開いてテディベアのように座りながら、その椅子の座面を机にして描き続けている。
!?!?!?
この子……目の前の立て看板に載っているホルモン定食とか豚タン定食とか、メニュー写真をずっと模写してるのか?あ、でも時々キティちゃんみたいな猫も歳相応に描いてるみたいだ。
お母さーん、この子にノートを買ってあげてー!
そんなこんなでこの一家とはほぼ同じタイミングで店内に案内され、その後特別会話を交わすなどはしなかったが、カウンターに横並びで夜ご飯を共にすることになった。
お店の奥の方からジュ〜〜という良い音が聞こえてくる。あっちのカウンターの目の前に鉄板があるんだな、あそこで焼いてくれるんだ。あそこで豪快かつ丁寧に焼かれたホルモンがこれから私のためにやって来ると思うと、既にワクワクが止まらない。顔の右側が煙と炎でずっとあたたかかった。
あ〜、程よく人間の生活と文化の香りがして心地良いな。ちなみに着てきたコートは店の外にあるコート掛けに掛けておけるので安心してほしい。冬場でもコートへの臭い移りを気にせず食べられるのはありがたい。
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ついに運ばれてきたホルモン定食。
いや〜〜照り照りだね、これはすごい。恐るおそるホルモンを一口頬張ったら、あまりの美味しさに飛んでしまうかと思った。味噌タレがジャンキーかつ濃厚ですぐ口の中でとろける、人気な理由がわかる味わいだった。これを、一人で食べていいんですか?また罪深いことを……
さらに天神ホルモンのすごいところは、ご飯とお味噌汁がおかわり無料かつ卵も1個無料で付いてくるところだ。つまり、自分の手で自分だけのホルモン丼を作れてしまうというわけだ。
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すっごいこれ。美味しすぎるんだけど……幸せを文字通り噛みしめながら箸を進めた。こんな幸せな夜ご飯がこんな駅チカにあって良いんですか。ホルモンを選んで正解だったなこれは、我ながらあっぱれ。
ふと目の前のサービス一覧ととある貼り紙に視線がいく。店長さんの手作りの貼り紙だ。
「うちの社長の想いです!!おなかいっぱい食べて幸せになってもらいたいから、お米めちゃくちゃ高いけど『お替り自由』やめませんよ!」
そう書かれていた。
なるほど……ちょっとね、泣きそうになったよ。人のために暮らしの楽しみや豊かさを提供している人にも、暮らしがあるんだよね。それでも誰かの暮らしをひとつでも多く照らそうと昼夜頑張ってくれているんだな、ありがとう。少なくとも今、一人の若者の一日が、かけがえのない一瞬がちゃんと輝きましたよ。
あの時は、肉の焼く音と煙にかき消されて店長さんには届かなかっただろうから、ここにそう感謝を書き残しておこうと思う。
○天神駅〜博多駅
-リスは木の実を埋めた場所を忘れる-
お腹いっぱい、かつ口の中がだいぶジャンキーだ。今日はこの余韻と共に最終目的地のホテルを目指すわけだな、良い気分である。
博多駅に戻るべく、天神地下街を通って天神駅へと向かうことにした私。やたら雰囲気のある薄暗い地下街だなと思いながら歩いていると、しばらくして天井の異変に気づいたのだった。何やら細かい模様がびっしりと張り巡らされている。これは何模様っていえばいいんだろう、唐草模様?
さらに少し歩くと鮮やかなステンドグラスまで登場した。何なんだろうここ。
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私が歩いてきたこの天神地下街は、"次の世代に残したい街"をコンセプトとして、鉄とレンガが基調となった19世紀ヨーロッパの街並みをイメージして作られた地下街だった。すごいな、急にとても優美じゃん。夜の宴で賑わう天神の地下にこんな知性と感性をくすぐる特別な空間があるとは思いもしなかった。
ちなみにさっきの花はさざんかで、福岡市の花をあしらったステンドグラスのようだ。粋なことをするねえ……
天神駅から博多駅までは昼に乗った地下鉄空港線で一本。中洲川端駅と祇園駅を挟んでたった6分着くらしいので、乗る電車さえまちがわなければひと眠りで自動的にターミナルへと運んでくれるはず。よしよし。
改札を抜けてホームへと降りる最中、ブォーーンと丁度いいタイミングで地下鉄が到着する音が聞こえた。あーいこれはラッキー!タタタッと階段を軽やかに降りていき、発車10秒前のドアとドアのすり抜ける形でぎりぎり乗り込むことができた。昼のバスといい、こういうラッキーに恵まれるな〜私は。少し早めに着いたら博多駅でちょっとお土産屋さん散策しようかな〜
……
「次は、マイダシキュウダイ病院前〜」
…ねむ、ん?何か聞き覚えのない単語が耳を通過してったな。そんな長い名前の駅あったっけか。てか何て言った?何病院?…マイ出?Myダシ?何?
なんと飛び乗ったのは反対方向の電車で、気づいた時には馬出九大病院前という知らない駅に到着する寸前だった。はい、まーたやったよ。行く方面を確認せずにちょうど来た電車に乗るのはやめろとあれほど言ったでしょうに……毎年4,5回はあるんだよなこれ。まだ1月なんですけど。
焦っている時というのは情報も指先もこんがらがるもので、目で捉える「馬出」という視覚情報と「マイダシ」という聴覚情報が変に混ざった結果「マイデ」だと思い込み、検索欄にマイデと入力して検索に引っかからなくてヤバイヤバイというのを3回ほどやった。
と、とりあえず降りよう!降りて考えよう。
……20分ほどロスはしたものの、反対方向の地下鉄に乗って無事博多駅に戻ってきた。あーー焦った本当に。
しかし困難は続く。今度は昼にスーツケースを預けたロッカーの場所が分からなくなってしまったのだ。
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空港から来た時と同じ路線使ってるし、改札出りゃ分かるか。そう思ってとりあえず近くの改札を出たのが最後、次こっち行ってみるかあっち行ってみるかをどれだけ繰り返しても全て同じ改札口に戻ってきてしまうという、正真正銘のダンジョンに迷い込んでしまったのだ。
えーーーちょっと待ってくれよーーーこんなところで詰みたくないよーーー爽やかお兄さんが譲ってくれたロッカーあったじゃんよーーロッカーの方から現れてよーー無理か、嘆くのも疲れてきた……
半ば自暴自棄になりながら地下の土産物売り場をぼーっと歩いていたら、本当の本当に偶然!インフォメーションカウンターが目の前に現れた。わ……神様あ……
あのインフォメーションカウンターの「?」の白い看板の輝きを、私はしばらく忘れないと思う。砂漠で地図にないオアシスを見つけた時ってこういう気持ちなんだろうな、まじで輝いてて見えたからね。
インフォメーションのお姉さんが話を聞いてくれて、私の持っていた預かり証を頼りにロッカーの場所を突き止めてくれた。ありがとう、ありがとう……
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ようやく博多駅を脱出!お疲れさまでした……
博多駅には6分で着くって聞いてたし、博多駅を出るには5分もかからないって書いていたんだけどなあ。気づけばあのホルモン定食を食べてから2時間弱経とうとしている。何をしているんだね。
感情はまさにジェットコースター、物理的にも駅構内をたくさん上り下りしたので本当にジェットコースター下車後みたいな疲労感だった。風も浴びていないはずなのに、心なしか髪も乱れている気がする。博多駅のこの壮大な夜の外観も、もうちょい冷静な気持ちで感動しながら眺めたかったぜ。は〜
DAY2につづく