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chapter.17 ハルコについて
陽が落ちて空が黄色とオレンジに染まるころ、家に着いて鍵を回すとガチャッと音を立てて鍵が閉まった。
ハルコか。
家の鍵を閉め忘れる癖は鍵っ子になった小一の頃から変わらない。
もう社会人になったんだからちゃんとしてほしい。何があるかわからないからと再三ママに注意されても直らないのだ。
もう一度鍵を回してドアを開ける。
「ハルコ〜、鍵忘れてる」
家のどこかにいるであろうハルコに向かって声を投げる。しかし、返ってくるのは無音ばかりだ。いつもなら「ごめん!」ってすぐ言ってくるのに。
手を洗い、うがいをする。
寝てんのかな。たまに恐ろしく静かに寝ていることがあるし。
テレビをつけ、なんとなく眺める。
この時間のテレビは大体ワイドショーかドラマの再放送か。見たい気分のものが見つからず、しかしなんとなくワイドショーを眺める。
人の気配がない。
開けっぱで出かけたのかな。不用心すぎる。
なんかなぁ、ちょっと怒るのが馬鹿らしくなってしまう。
「日本はダメだ!」と繰り返し色んな言葉で言うワイドショーに飽き、テレビを消した。とりあえずハルコに連絡するか。
ぽこん!とスマホが鳴る音が、少し遠くで聞こえる。
あれ?やっぱりいる?
ハルコの部屋をノックする。しかし返事はない。
やっぱ寝てんのか、と結論付けようとしたけどなにか違和感が胸の奥でざわざわしてる。
「ハルコ?開けるよ?」
ドアを開けると、いつもと少し様子がちがっていた。
まず、開けっ放しになったクローゼットから、服がいくつか落ちて散乱している。
衣装ケースも引き出しが開けられ、服の袖や靴下がはみ出ている。
ベッドにはハルコのお気に入りのくまのぬいぐるみが見当たらない。
棚の上にあった、ハルコが赤ちゃんの頃にハルコのお母さんと写っている写真の入った写真立てがない。
そして、私がさっきメッセージを送ったハルコのスマホがベッドの上に投げ出されている。ぽこん!と音が鳴る。
「ハルコ……?」
あたしはこのとき、ハルコという存在を人生で初めてうしなったのだ。