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chapter1. ハルコとの出会い
あたしがハルコに出会ったのは6歳の冬。
ママがあたしによそゆきのワンピースを着せて、うさぎの模様のあたたかいタイツを履かせ、その上から白いポンポンのついた靴下を履かせた。
あたしは、うさぎの模様のタイツがだいすきだった。どこへでも飛んで行けるような気がして。自分がとくべつになったような気がして。
「まりこ」
タイツのうさぎたちを見ながら歩いていると、ママが横断歩道の前であたしの手をぐんと引っ張る。
赤信号。
あたしはよくこういうところを見落とす。
「前見て歩いてって言ってるでしょ」
「うん……」
「ちゃんとして」
あたしは顔を上げた。
そしてまっすぐ前を見た。
信号が青に変わる。あたしはぴんと手をあげる。
本当は、横断歩道の白いところだけ踏んで飛ぶように歩きたい。うさぎのタイツ。あたしのとくべつ。でも、ちゃんとしなきゃ。
電車に揺られて、3つ先の駅で降りると、改札を出たところであたしと同じくらいの年の女の子が立っていた。
するとその子は一気にこっちに駆け寄ってきて、あたしの鼻先まで顔を近づけた。
「まりちゃん?」
と、女の子はニコッと笑った。あたしはびっくりして、ママの後ろに隠れてしまった。
「ハルコ!」
あわてて背の高い、ひょろりとした男の人が、その子のところに駆け寄ってきた。
「びっくりするだろう、いきなり」
「だってまりちゃんだもん」
きょとんとする女の子――ハルコに、男の人はたじたじだった。
お母さんとその男の人が大人同士で話し始めてしまって、あたしとハルコも子ども同士目を合わせた。ハルコはまたニコッと笑う。
「……ハルコっていうの?」
あたしはおずおずと聞いてみた。
「うん!」
ハルコはパッとその笑顔を輝かせ、あたしの手を取った。
そのあたたさを、あたしは今でも覚えている。
その手が、いつもあたしを春まで連れていってくれた。
寒い冬が終わりを告げて、春の匂いが薫る。
春だけがいつもあたしのなかで鮮烈だった。
あの子がいたから。
あの子と出会ったから。