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chapter16. escape into...
飛び乗ってしまった。
バス。どこ行きかも分からないバス。
戻れば間に合うかもしれない、とわたしの片隅でさけぶ声にふるえながら耳をふさぐ。
もう戻らない。戻らない、もどらない、、
冷たい涙が勝手に目からこぼれる。垂れ流したまま、わたしは座り続ける。自分の意思で選び続けないとまた戻ってしまいそうになるから。
バスは無言でガタガタと揺れる。
おかげで、わたしは自分がグラグラと崩れそうになるのを誤魔化せる。
暗闇にしずむ見ず知らずの景色が、わたしをどこか知らない場所へといざなってくれる。
どこへ行こう。
目的のない旅はわたしをバスの終着駅へと連れてきた。
降りてから当てどなくぼーっとするわたしに、さっきまで乗っていたバスの運転手さんがさすがに声をかけてくる。
「あんた大丈夫?どこ行きたいの?」
どこに行けばいいですか、と口走りそうになるのをこらえる。
運転手さんに顔だけ向けたようなかっこうになってぎょっとされてしまった。どうしよう、何か言わなければ。
運転手さんがポケットをごそごそやって1枚紙を出してきた。
「これ、今日までのやつだから。そこのコーヒー屋で使って」
じゃ、バスから離れててよ、と言うと、運転手さんはバスへと乗り込んだ。
わたしはふらふらとコーヒー屋へ近寄る。バスはUターンして元来た道を帰って行く。
ぽつん、と知らない街に残される。くらやみにとけながら。