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chapter4. 第零夜
真夜中におとうさんとおかあさんといもうとと、手をつないで歩いていた。
外食にでも行った帰りだったろうか、すこしほっぺたがあたたかい。
気がつくといつの間にかわたしはおかあさんとふたりで歩いていて、おとうさんもいもうともいなかった。
おかあさんとふたりで歩く夜道なんてめずらしい。町の明かりが黄色くて、てかてかしてる。
マンションの階段を3階まで上がると、長い長い廊下がある。昼間のようすとちがって果てしなくおもえて、わたしはひるんでしまった。
その拍子に、「あしたようちえんにいきたくない」とぐずりだした。
ぐずりはじめるとだんだん、なんだかとてつもなく悲しいことが起こったような気がしてきて、わたしはさらに大きくわんわん泣いた。
いっしょうけんめい泣いていると、おかあさんが怒った。なんて言ったかわからない。わたしは泣くのをやめようとして、へんなしゃっくりがいっぱいでる。
「お休みするなら、満月にお手紙を書きなさい。そうすれば先生に届くから」
おかあさんはわたしをベランダにつれていき、抱き上げた。
わたしは鼻水をすすりながら指で満月にさわった。
「ほら、はやく」
おかあさんにうながされ、わたしはおぼえてまもないひらがなを月にしるした。
せいこせんせいへ
あしたおやすみします
でも、月はよぞらにたてかけてあるから、インクが垂れてしまって、字がきたなくなった。
「きたなくなっちゃった」
わたしのことばを、聞いたのか聞かなかったのか、おかあさんはわたしをベランダにおろし、部屋にもどってしまった。なにか言っていたような気もする。
わたしはもういちど月をふりかえった。
あしたほかにもおやすみする子がいたらどうするんだろう。月はおそらにひとつしかないのにな。
と、思った。