
chapter8. 白い日の記憶
こんな夢を見た。
まっしろに雪の積もるある日、わたしはまっしろなたてもののなかにいた。
ツンと薬品のにおいがする、しずかなところ。
わたしは2歳のようだった。柱も、ドアも、おとなも、とてもおおきく感じられた。
ベッドも。
ベッドには、お母さんが横たわっていた。
お母さんはしずかだった。
しんしん雪がふっているまどの外。
わたしは、ただゆっくりあるいて、お母さんのそばに近寄って、こう言った。
ありがとう、
さよなら、
またね。
お母さんは、すこし笑った。
それが、わたしがお母さんと話した最後だった。
* * *
9歳の頃のわたしが見た、ほんとうにあった出来事の夢。