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chapter11. 祈り
ドアを開けると最低限の家具が設えられた部屋があった。
ベッド、カーペット、机、椅子、押し入れ。
元は畳の部屋だったのか、すこしちぐはぐな組み合わせ。レトロ、だと思った。
住み込みのバイトなんて考えたことなかった。家とバイトは常に別で見ていたから。
窓を開けて、滝野くんの家の方角と思われる方向へ手を合わせる。あちらへは足を向けないで寝よう。
ふう、と一息ついて、その場に座り込む。冬の合間の暖かい日。午後の日差しがやわらかく差していて、少しぽかぽかして気持ちがいい。
わたしはカバンの中からひとつの箱を取り出した。
クリスマスマーケットで買った天使のかたちをしたベル。うすいガラスでできていて、ほっぺたにあてるとほんのりと冷たい。あたたかみのある顔をしていて、祈るように閉じた目と、口元がちいさく微笑んでいるのが気に入っている。
なんとなく今日まで箱に入れていたけど、この部屋に飾ったらすてきかもしれない。
箱からそうっと出して、ベルの中の緩衝材を取る。すると、ちりん、という可愛らしい音がして、思わずほほがゆるんでしまう。
わたしは慎重に、ゆっくり、これでもかというくらいのスローモーションで、天使を机の壁側の奥に置いた。
ここなら絶対に割れないだろう。……たぶん、きっと、おそらく。
本当に気をつけないとな……ほんとうに……。
そして天使に向かってカーペットに正座し、手を合わせて祈った。
祈る時に、願い事が出てこないのはおかしいだろうか。わたしはいつもそうだ。祈ると頭の中がしんとしてしまう。
祈って、祈った。
そして、顔を上げた。
すると、張りつめていた心がすこしだけゆるんだ。
ひとまずは、この天使のために生きようと思った。この顔が、いつもちいさく微笑んでくれる。
家を出てから初めてつかめた藁だと思った。
明日からは、弱々しくともひとりで立つことができるだろう、と、思った。思ったら、窓から風がビュウッと入ってきた!
さ、さむい!
あわてて窓にかけよろうとしたらつんのめってしまい、体が窓から出そうになって、あわてて窓枠をつかんだ。ほっと力が抜けて座り込むと、肩甲骨がビキイッと効果音を立てたかのごとく痛んだ。痛い痛い痛い、肩甲骨つった。
……わたしは、
わたしは、本当に、本当に気をつけよう、と、思った……。