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あすなろの手紙~俳句を添えて~ 鶫 37

これは、俳句を通じて知り合ったnote俳句界の妹弟きょうだい、alohaさんと鮎太さんと共に紡ぐ、俳句を添えた公開往復書簡である。

aloha様、鮎太様

 まだまだ暑い日も多いけれど、朝晩はやや涼しく、そして空や光や動植物たちは、すっかり秋の様相ですね。なぜ今回間を開けた方いうと、おふたりとも忙しそうだったから。体調には気をつけて過ごしてくださいね。

 今日は長くなりそうだから早速ご質問へ行きましょう。
 鮎太さんからのご質問は「好きな日本の伝統芸能や技能」。
 実は沢山あるのです。華道と日本舞踊は自分もやっていましたが、殊更観るのが好きだったのは能です。

 手元に残っている本はこの二冊のみですが、本も随分読みましたし、大学生から結婚前までは実際に沢山足を運びました。興味を持ったきっかけは中学生の時に読んだ『天河伝説殺人事件』だったのですけれど。笑
 歌舞伎も面白いですが、なんというか、能を観ていると、心も身体も全部持っていかれる雰囲気があります。エンターテイメントというよりは空間自体がファンタジー。
 鮎太さんの舞っておられた神楽は、その土地と結びついている感じが良いですよね。私も、もし転勤族ではなく、自分の根差した土地のようなものがあれば、舞ってみたかったなあと思います。
 武道まで話を広げると、私はなぜか小学校高学年の頃から、いつか自分は弓を引くんだと思っていて、中学校は弓道部がなかったのですが、高校は狙って弓道部のある学校へ行き、弓道を始めました。社会人でも続けたかったけれど近くに道場が無くて、代わりに少しだけ合気道をかじってみたりもしましたが、やっぱり弓が好きだなあ。

 ロハさんからのご質問は「一番最近泣いたのはいつですか」。
 これが本当に思い出せなくて。笑って笑って涙が出た、というのはあるのですがそれは多分違う……
 感動することは沢山ありますが、私の場合、それはなかなか涙になって表れない。胸や頭がきゅぅっとなって、それがしばらく続くものの、涙になって溢れ出ることはしない。そのまま中で消化してしまうみたい。
 あるいは反対に、心が静かになるような感動の仕方をします。
 というわけで、ものすごく遡ってみましたら、最初に思い出すのはもう六年も前。夫の海外転勤が決まった時のことでした。
 当時私は大きなプロジェクトの責任者をしていました。夫と私は同じ会社に居たので、人事のひとや上司たちは、夫が海外へ行けば私が休職あるいは退職しなければならないことを知り得たはずでした。それなのに当たり前のように決まった人事。もちろん、単身赴任という選択肢もありましたが、夫の異動が発表された時の周囲の反応は、プロジェクトのコアな部分に居たひとたち以外は「羨ましい」「栄転おめでとう」でした。いや、私の栄転ではないし。私のしてきた仕事って、何?
 プロジェクトのコアメンバーは「誰が引き継ぐの?」と青くなっていましたが、それでも、なんだかとてもモヤモヤして、引き継ぎに忙しくしていたある日の夜、ふとベッドの中で涙が溢れて止まらなくなったことがありました。休職しようと思っていたけれど、もう辞めちゃおうかな、と思った。
 最終的には引き止めてもらって、海外からのフルリモート勤務という新たな可能性をいただいたのですが。そしてこのことを機に、仕事だけに人生を費やすのはよくないなと考えて、今の私が在るので、今となっては感謝しています。

鰡跳ねてペンギンは空飛べぬ鳥  橘鶫

 昨年、ラベあろ企画で「秋王」をいただいた時の決勝句です。
 それぞれの環境に適応して生きていかなければならないのは、動物も人間もきっと一緒。でも、人間の方が感情が複雑な分、難しいのかな、なんて思ったりします。ある意味、動物の方が賢いのかもしれませんね。

 さて。長くなった手紙の最後に私からの質問は「今年残りの期間で、これだけは絶対やりたいこと」ってありますか? あと今年も残すところ四箇月切りました。私はまだまだやりたいことが沢山あります。

久しぶりに能が観たくなった長女
鶫より

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橘鶫TachibanaTsugumi
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