『RENT』にわかファンがにわかなりに『RENT』のなんたるかを調べてみた②

随分間が空いてしまったのですが、以前アップした『RENT』のレポートの続きを書こうと思います。

ちなみに前回の<登場人物編>こちらから

さて、というわけで今回は<シーン別>です。

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・Light My Candle**

 まず、ボエームで最も有名な《私の名はミミ》《冷たき手を》の場面をRENTのナンバーと比較します。

RENTではLight My Candleにあたり、歌詞のなかでもロジャーのパートには’COLD HANDS’という歌詞があったり、曲の最後ではミミが’THEY CALL ME MIMI’と歌っていたり、さらには、火がなくなったあとも月明かりでお互いが見えているという描写も共通しています。

演出面では、まずこの場面が始まるまでで、

マークとロジャーが部屋にいる
⇓**
家賃が払えない**
⇓**
ロジャーひとりになる**
⇓**
ミミが来る**

という流れは共通しています。
一方で、ここまでで

・コリンズは二人の部屋にまだ来ていない。
・エンジェルとはまだコリンズしか知り合っていない。
・ボエームでロドルフォは原稿が終わったら出かけるといっているが、ロジャーは出かける気はなく、ここ最近は引きこもっている。

という相違点があります。
三つめの相違点に関しては、ロジャーが前の彼女のエイプリルにHIV陽性を宣告されて死なれたこと、ロジャー自身も医師の診断によれば3年前に死んでいたことなどがあって、外に出ること=新しい他人にふれあうことに対して臆病になっていることがあらわれています。

ここにやってくるのがミミで、ボエームと同じようにろうそくに火をつけてほしいといってやってきます。ボエームでロドルフォは一目見てミミを気に入り、「探していた詩を見つけたようだ」など、ミミを詩=愛と最初から言っています。一方のロジャーは臆病になっているため、惹かれながらもミミを受け入れることができないでいました。結局ロジャーが’YOU WERE THE SONG ALL ALONG’と歌うのはラストシーンのYour Eyesのなかになってしまっています。いやどんだけ臆病なんだよと。

ただこれについては、ロジャー自身も病気であることが大きく影響していると思います。ボエームで病を持っているのはミミだけであるのに対して、RENTでは主要な登場人物8人のうち半数の4人がHIV陽性です。

ここでは、現代社会で自分に問題を抱えていると思っている人が多いことを直接的に表現しているとみることができます。AIDSは現在では治療法が進歩して1日1回の服薬で進行が抑えられるようになっていますが、当時は頻繁に薬を飲まねばならず、不治の病という点では現代の結核ともいえたのではないかと言われています。


・Today 4 U

RENTではエンジェルが初めてマークとロジャーに会う場面。ボエームで、最初の方でショナールがどうクリスマスのための資金を稼いできたかを歌う場面に相当しています。

RENTでもマークたちがクリスマスを過ごす際の資金を負担しているので、その点でも共通しています。曲中ではエンジェルが金持ちに、うるさい秋田犬のエビータをドラムを三日三晩叩いて殺してほしいという注文を受けているが、ボエームではショナールがオウムを同じように音楽で殺すように頼まれている。動物を音楽で駆除するという点で共通しているが、RENTではこの犬がベニーの犬だという点が異なっている。

この秋田犬のエビータは、もちろん’Akita’と’Evita’の韻が踏まれているのですが、それ以外に光冨省吾氏(※)は、ロンドン発のミュージカル『エビータ』を象徴しているといわれていました。アンドリュー・ロイドウェバーをはじめとして、『エビータ』以外にも『キャッツ』『オペラ座の怪人』『ジーザスクライスト=スーパースター』などロンドンで生まれたミュージカルが流行するなかで、ブロードウェイがロンドンに勝るミュージカルの中心になっていくことを秋田犬のエビータの死で表現しようとしたのではないか、といわれています。

このナンバーの主役であるエンジェルは、この作品のキーパーソンです。ボエームでのミミの死をRENTで引き受けているのがエンジェルであり、ミミが生き返るきっかけをつくったのもエンジェル。また、1幕でエンジェルをきっかけに広がっていった8人の関係性が2幕でエンジェルが死んでから不安定になっていく点でも、エンジェルはこの作品において重要なポジションであるといえる。


・ムゼッタのワルツ

内容面ではTango : MaureenとTake Me or Leave Meに、旋律はロジャーの弾く曲に、そしてLa Vie Bohèmeのなかでは歌詞に採用されており、キーとなる曲です。ムゼッタのワルツがムゼッタを紹介する歌だとしたら、その要素はTango : Maureenが受け継いでいます。ジョアンヌとマークがモーリーンの奔放さを歌う場面であり、ここまでまだ出てきていないモーリーンの紹介でもあります。

ラ・ボエームでムゼッタが歌う「ムゼッタのワルツ」には、ムゼッタが街を独りで歩くと誰もが振り返ってしまう、という意味の歌詞があり、自分の奔放な性格を反省するどころか開き直っている様子が見て取れます。

このムゼッタの性格をRENTで見せているのがTake Me or Leave Me
モーリーンのパートの’I WALK DOWN THE STREET I HEAR PEOPLE SAY “BABY’S SO SWEET”’のあたりがそれにあたります。自由に生きるのが私らしさであり、それを受け入れられないのであれば別れるしかない、という強気な歌詞になっており、その性格はムゼッタと共通しているといえます。

しかし、このTake Me or Leave Meで特徴的なのは、ジョアンヌが応戦しているところ。ボエームのアルチンドロも嫉妬心は強かったんですが、ムゼッタに振り回されるままで結局ムゼッタはマルチェッロと復縁してしまうんです。ここでモーリーンに対してジョアンヌが引かなかったことが、ジョアンヌにマルチェッロの一部の要素が込められつつも、二人が最終的に別れないことを選ぶターニングポイントになっていたといえます。
同性だからこそ、相手の考えることが見えやすいからこそ、という見方もできなくもないかな、と思いますが、この作品を見ていると同性異性と分けることもナンセンスに思えるので、ジョアンヌの意地、と言ってもいいかな、と思います。

そして、ムゼッタのワルツが直接的に出てくるのがロジャーのギター

①最初にギターの調弦を終えたロジャーが弾く場面
②La Vie Bohèmeのなかのロジャーのソロでマークに’THAT DOESN’T REMIND US OF “MUSETTA’S WALTZ’と返される場面
③最後のYour Eyesの終わりでロジャーが「ミミ」と歌いあげたあとの旋律

の三つが直接的にムゼッタのワルツが出てくるシーンになっています。


・コート

ボエームではミミが息を引き取る第4幕でコッリーネが「古き外套よ聞いてくれ」とコートに歌いかける場面がありますが、RENTではこのコートはコリンズとエンジェルを結びつける役割を担っています。

出会いの場面はコリンズがコートを奪われてケガをしているところにエンジェルが通りかかったことがきっかけで、コリンズとエンジェルの距離が縮まるところではホームレスのフリーマーケットでエンジェルがコリンズにコートを買っています。また、I’ll Cover Youでは、’I’LL BE YOUR CORT’という歌詞があり、相手を守るものとしてコートが象徴的に扱われています。


・マークの立ち位置

RENTのマークは、ボエームのマルチェッロと異なってモーリーンと復縁しませんし、映像作家としてほかの人を記録する立場にいます。実際に映画版ではマークが撮影した設定の映像も流されている。

このようにマークは一貫して物語の当事者というよりは傍観者的な立ち位置に存在しています

Take Me or Leave Meの冒頭でも’Me? I’m here. Nowhere.’というセリフがあり、物語へのかかわり方が第三者的な目線になることがあります。このことは、(おそらく)次回書く(であろう)時代背景に対して、記録や芸術は解決に直接結びつくことはない無力なものであるというメッセージが込められていると考えられます。

これは、警官にどかされそうになるホームレスから警官を遠ざけたマークに対してホームレスが怒る場面や、ロジャーがGoodbye Loveでマークに対して


RENTの結末でもそれぞれの問題が根本的に解決したわけではないところをみても、ジョナサン・ラーソン自身が問題提起をしたかったのではないかと思いました。

次回がいつになるかわからないんですが、次は時代背景や、現代とのつながりについて書きたいと思っています。


※「『レント』研究」光冨省吾 より

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