ヤクルト「公式がないぴ」事件の検証


要旨

 阪神タイガース対東京ヤクルトスワローズ第19回戦(於京セラドーム大阪)で起きた阪神梅野選手骨折の後、ヤクルト公式サイト内でいわゆる「ないぴ」と呼ばれる死球を当てた選手を好投したと評価する記事が問題になった。そこで、当該サイト内で救援投手を取り上げた記事における本文を分析した。その結果として、対象記事のうち60%が「好リリーフした」と評価するもので、かつ「好リリーフした」と評価するものの7割は定型文化したものであった。この結果から、「公式がないぴ事件」はテンプレートをそのまま使用したことで起きたことがわかった。この結果を受けて、公式サイトの運営には投球内容を鑑みて臨機応変に「好リリーフした」を使うか判断することを求める。        
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はじめに

 8月13日、プロ野球セントラル・リーグ公式戦阪神タイガース対東京ヤクルトスワローズ第19回戦(於京セラドーム大阪)で阪神梅野選手が死球で骨折した。その後、ヤクルト公式サイト内「フォトギャラリー」において「2回無失点に抑える好リリーフ」と本文に記載して写真を掲載したことに阪神ファンを始めとするプロ野球ファンから批判が上がった。しかし、当該記事と似た状況でリリーフした投手の記事も、ほぼ同じと言っていい文章で写真が投稿されていた。そこで、本稿ではヤクルト公式サイト内「フォトギャラリー」で救援投手を取り上げたものを分析し、「公式がないぴ事件」が起きた要因を明らかにする。

問題となった記事について

 問題となったのは、ヤクルト公式サイト内「フォトギャラリー」において今野投手を取り上げて「好リリーフした」と評価した記事である。(現在は削除済み)この記事について、死球を与えて「好リリーフ」とするのは問題があると、複数の阪神ファンから指摘があった。

調査概要

 調査はヤクルト公式サイト内「フォトギャラリー」の記事を対象として行った。当該ページでは野手投手関わらず多くの記事があるが、ここでは調査目的を鑑みて救援投手を取り上げたものに絞った。また、2023年3月以降に更新された記事を対象とした。これは、年度で方針の転換があることを考慮した結果だ。加えて、オープン戦は投手運用の方法がペナントレースと大きく異なることから、本調査の対象としなかった。
 調査対象の文章を、文の形式に応じて①好リリーフ構文②ノーマル③具体型④特殊型④ピンチ⑤気迫の投球⑥好投⑦PP(パーフェクトピッチングを省略した)⑧選手名後付型⑨その他に分類した。

好リリーフ構文

 好リリーフ構文は「清水投手は8回から3番手として登板すると、1イニングを無失点に封じる好リリーフを見せました。」のような「Nはn1回からn2ばんてとして登板すると【内容】好リリーフを見せました」を主軸とするものとした。このとき、n1は登板回、n2は番手、Nは選手名である。また、このタイプは構文のあとに情報を付加するものとそうでないものがあるため。付加するものを複雑型、しないものを単純型とした。加えて、構文を多少崩して、「5回から2番手として登板した星投手は連続三振を奪うなど、三者凡退に仕留める好リリーフを見せました。」のような「n1からn2番手としたN投手は【内容】好リリーフを見せました」と一般化できるものを後付型とした。

ノーマル

 ノーマルは、「星投手は同点の8回、4番手として登板すると、1回無失点に抑える投球!」のような好リリーフ構文の軸となる「好リリーフ」が「投球」となったものがあたる。

具体型

 具体型は「5回には2番手・丸山翔投手がマウンドへ。桑原選手を空振り三振、関根選手、大和選手をセンターフライに打ち取り、三者凡退に抑えます。続投した6回も三者凡退に抑えて、2イニングを無失点に抑える好投を見せています。」のような、状況を細かく記述したものがあたる。

特殊型

 特殊型には「丸山翔投手は8回から3番手としてプロ初登板を果たしました。」にようなメモリアル的要素のあるものを分類した。

ピンチ

 ピンチには、「山本投手は6回、一死一、二塁のピンチで3番手として登板すると、木浪選手を併殺打に打ち取ります。7回も二死まで投げ、1回1/3を無失点に抑えました。」のような場面が危機的であるものを選んだ。

気迫の投球

 気迫の投球は、「1対0の9回、田口投手は4番手として登板すると、三者凡退に仕留める気迫の投球!初セーブを挙げました!」のような文を「気迫の投球」で締めるものが該当する

好投

 好投は、「小澤投手は3回途中から2番手として登板すると、2回1/3を6奪三振無失点に封じる好投を見せました。」があたり、最後を「好投」で締めるものだ。

PP

 PPは前述の通りパーフェクトピッチングの略称として使い、ここでは「清水投手は8回から6番手として登板すると、2イニングを投げ、一人の走者も許さない完璧な投球を見せました!」のような文章があたる。

選手名後付型

 選手名後付型は、好リリーフ構文の後付型の最後が「好リリーフ」でないものを選んだ。

その他

 その他は、分類が困難であるものを選んだ。

結果1 各分類の内訳

 結果は以下の通りである。好リリーフ構文が36件、ノーマルが5件、具体型が4件、ピンチ型が3件、気迫の投球と特殊型が2件、好投、PP、選手名後付型、その他がそれぞれ1件確認された。

 この結果から、問題となった記事と同じタイプの「好リリーフ構文」は全体の6割を占めていて、好リリーフ構文と同様にテンプレート的な「ノーマル」を含めると全体の7割を占める。

結果2 「好リリーフ構文」の詳細分析

 結果は以下の通りである。単純型が24件、複雑型が11件、選手名後付型が1件確認された。

 結果から、好リリーフ構文の多くはテンプレートをそのまま使っていて、テンプレートに手を加えているものは少ないことが分かった。

考察

 結果1から、テンプレート的な文章を全体の7割を占めることが分かった。このことから、公式サイト内「フォトギャラリー」の文章はある一定の型があり、それに当てはまる形で記述していると考えられる。
 結果2からは、「好リリーフ構文」がよりテンプレート的であることが裏付けられた。特に、何も手を付けないものが7割を占めていることは、具体的な投球内容と記述が乖離している可能性があるのではないかと思われる。
 これらの結果から、公式サイトの文章はより詳細な状況を鑑みた上で記述するべきと考える。特に、当該記事では、「好リリーフした」と評価されているが、「投球した」と記述するノーマルなものも存在している。そのため、死球を与えたときに、仮に好リリーフ構文が使える場面であっても「ノーマル」に差し替えることが望ましいのではないかと言える。

まとめ

 本稿では、いわゆる「公式がないぴ事件」とされる、死球を与えた選手を「好リリーフ」と評価する記事をひとつの問題提起としてサイト内の記事を検証した。その結果、全体の7割をテンプレートが占め、さらにそのテンプレートの中でも手が加えられていないものが7割を占めていることも明らかになった。この結果から、より状況を鑑みたテンプレート使用が望ましいのではないかと考えた。

参考文献

東京ヤクルトスワローズ公式サイト内、「フォトギャラリー」「https://www.yakult-swallows.co.jp/photo
(2023年8月15日最終閲覧)

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