水・木・金・土に"どっぷり"する@そうぞうのマテリアル展
『みつめる×かんがえる そうぞうのマテリアル』展(2022.4.2. - 9.4. 多摩美術大学美術館)
この展覧会では、多摩美術大学美術館のコレクションから「水」「木」「金(きんぞく)」「土」の4つのマテリアル(素材)にまつわる作品の展示をみることができます。
これまで展示で作品を前にしたとき、「これは何でできているのだろう?」と素材をキャプションで確認することはしばしばありましたが、その素材自体に注目した展覧会があるなんて…!
私はどうやら、年代ごとに章立てられた展示よりも、色や形、動物といった見た目にわかりやすい分類の構成が好きなようです。
こんな風に4つのマテリアルごとに展示室が分かれていました。
みつめる×かんがえる
展覧会のタイトルにもある「みつめる×かんがえる」。今回の記事では、それぞれの部屋でわたしがみつめて、かんがえたことの一部を書いてみたいと思います。
「水」の部屋
「水」の部屋では、本当に水の中を潜っているような気持ちで、部屋を何周もしながら作品を鑑賞。潜っているように感じたのは、全体的に青い作品が多かったこともありますが、東野芳明さんの写真(水に潜って水面を撮影した写真や、水の底に鏡を置いて撮影された写真)の展示が要因として大きかったかもしれません。
柄澤齊《死と変容Ⅱ−9 水源地》
今回の展覧会、実はこの作品が見られることを大変楽しみにしていました。今年4月の「夜間飛行」展に行くことができず、そのときからずっと柄澤齊さんの木口木版を拝見したい想いが積もりに積もっていたのです。
この作品をみつめていると、まず何かを考えだすよりも先に、この溢れてきそうな水を両手で受け止めたくなりました。
それから少しずつ疑問が湧いてきました。一体ここはどんな土地で、なぜ全体が水でいっぱいなのか、水面が揺れているように見えるのはなぜだろう、島には見えない、ここは水を生み出すためだけの惑星なのかな、あれは木が半分だけ生えているのかな…
<考えたこと> この作品から始まりそうな物語
「木」の部屋
事前に視聴していた館長の鶴岡真弓さんと鏡リュウジさんの対談で紹介されていた本が気になり…
自分の誕生日の曜日を調べてみたところ木曜日であることが発覚。「木」の部屋からは、なにか力をもらえるのではないかと、じっくり、ゆっくり、鑑賞していきました。木々がモチーフの作品、そして木製の作品に囲まれて、まるで森の中にいるような気持ちになる空間はとても居心地良く、改めて自分は森が好きなのだなあという気づきがありました。
小林敬生《遺された部屋-No.3- 版木(椿)》
小林敬生さんの《遺された部屋-No.3-》という木口木版の作品に実際に使用された版木(椿)の展示がありました。…本当に木の輪切りだ!
木口木版の字面と説明で知っていたはずなのに、実際の版木をみて驚いてしまいました。そしてしばらくこの版木と作品を見比べつづけました。
版木といっしょにビュランという彫刻刀も展示されていました。
なぜ木口木版だったのだろう、なぜこんなにたくさんのモチーフが彫られているのだろう…
<考えたこと> 道具・素材・完成品を目の前に、この作品が生まれる前のこと
「金」の部屋
「金」と聞いて勝手に金ピカをイメージしてしまっていたので、実際の部屋の落ち着き具合に少し戸惑いました笑。
《銀化ガラス壺》
《銀化ガラス壺》という1世紀古代ローマ文明のガラスの壺がありました。
と呼ぶのだそうです。そんなことが…!
写真では伝わりにくいのですが、見た目は透き通った金です。上から覗き込んでみると、壺を通り抜けてゆく光によって、内側の金がより透明に輝いてみえました。真珠貝のような光沢とも違うのです。これまでに似た素材を見たことがなく、いろいろな角度からみつめました。
<考えたこと> 自然の力によって偶然生み出された素材の素晴らしさ
もう一点。
彫刻家・吉田哲也さんのトタンと針金の小型作品の佇まいが好きで、展示の仕方についてかんがえさせられる作品でした。
「土」の部屋
「土」の部屋では、まるで自分が作品を発掘しているかのような気持ちになりました。
実はじっくり土偶を見たことがなかったのですが、よーくみると表情が豊かで、みんな違うんですよね。古代ギリシア文明の「タナグラ」と呼ばれる人形たちの不思議な透明感が気になって、こちらもよーくみていました。ちいさな置物がごちゃっと集められているのがかわいかったです。
色々みつめてはいたものの、なにをかんがえていただろう…。
ある土偶の頭部をみて、ドラえもんの映画に似た土偶がでていたな…とか。そういえば小さいころ紙粘土で細々したものをつくっていたな…とか。
とあるように、わたしも自然と郷愁に駆られていたのかもしれません。
<考えたこと> 幼い頃のこと
まとめ1
先日訪れた『自然と人のダイアローグ』展にあったモローの言葉とつながった気がしました。
まとめ2
分類の仕方で、作品の見え方が変わるという発見がありました。
たとえば、建畠覚造さんの《闇に漕ぐ舟 H-2》という作品。
これは病床で描きつづけられたドローイングだそうです。舟に見立てられたベッドが、闇として表現された水面に浮かんでいます。
「水」の部屋で見たからこそ、水面の揺らぎ、舟の揺れ、夜の水の匂い、櫂で水を掻く音…、この作品にある水の存在を全身で感じられたように思います。
また、病床のベッドを舟に見立てる想像力に、実際に足は運べずともその地に思いを馳せ旅ができる「歌枕」の言葉に通じるものを感じました。
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こんな風に作品の見え方が変わる構成の展覧会をぜひまたみたいです。マテリアルごとに展示空間が分けられていたので、「水」「木」「金」「土」の世界にうっとりと、どっぷりつかることができた"どっぷりする"最高の展覧会でした。
おまけ1
なんと吉田博展には無かった帆舟が!!そしてこの青が好きだ!となった作品です。
おまけ2
時間帯がよかったのか、なんと美術館は貸切状態…!1人、「水」「木」「金」「土」の自然にこれでもかというほど身を委ね、どっぷりすることができました。なんて最高に贅沢な鑑賞体験…!
以上です。
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