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煽情的な雰囲気

自社ブランドを取り扱うアパレルショップ
モード系のファッションは着回しもしやすい
メンズレディースにアクセサリー
合わせやすさは勧めやすさである

ショップで社員スタッフとして働く成田
本当は靴や時計が好きだが
好きな靴や時計に合わせる服をと思う内に
今の仕事に落ち着いた
成田には顧客もついていて人望がある
アルバイトからの信頼も厚い方だ

実際には人見知りで接客も苦手なのだが
人見知りが過ぎて沈黙にも堪えられず
冗談を言っては自分に辟易している

なによりコンプレックスの塊で
背の低さや目つきの悪さに口の悪さ
いいところなんて無に等しいとさえ思うのだ

一番の気懸かりはある種の体質だろうか
何故が成田は一部の人に加虐的欲望を抱かせる
親族や歴代の交際相手にも
メンタルもフィジカルも傷つけられてきた

自分が悪いなんて思いなら
相手を責めることは一切なかった
自分が耐えれば済むことなのだと言い聞かせて

最近はというと
恋人に暴力を振るわれ刃物を向けられた
女性相手に加害者になりたくはないので
なんとか諫める内にお互いのためにと別れた

一難去るとまた一難

ショップに面接で来ていた青年と目が合う
人見知りを発揮してすぐに目を反らした

背も高くスタイルや顔もいい
きっと採用されるのだろう

予想は的中し新人アルバイトがやってきた
まだ10代の学生だというハルチカ君

ただでさえ外見も文句なしなのに
素直で業務も的確に熟していく
ハイスペックとはこのことか

同僚曰くモデルもやっているそうで
成る程可愛い彼女でもいそうだなと納得した

ある時ふと視線を感じた成田
自分なんて見るにも及ばないと思うので
すぐに気にしないでいようとしたが
視線の気配が近付いてくる気がして
その方向を見遣るとハルチカ君がいた
にこにこしながら任された業務の中で
わからないことを訊いてくる

しっかりした子だなぁ
なんて思いながら視線は重くのしかかる

この子だろうか
にしても何故だろう

成田には到底理解しがたいのである
見るならもっと美人を見て癒されるべし

こんなことが続いていると
今度は在庫整理を手伝うことになった

とてつもなく見てくるハルチカ君と二人
どうしたものかと溜め息を吐く

先に倉庫に入り作業の順序を確認する
高所を任せる相手ができたことを少し喜びつつ
ちょうどハルチカ君が来たようなので
彼の方に寄ってみると

突然目の前が真っ暗になった
ほんの一瞬何が起きたかわからない

気付けば何やら息苦しい
首を掴まれていることにようやく意識が辿り着く

優男に見えて力はしっかりついている
首を絞める勢いに呼吸もままならない

ただハルチカ君の視線を
この至近距離で感じないものだから

意識が離れてしまう前にと
声を振り絞り彼の名を呼んだ

何度も何度も
本来の彼が戻ってくるまで

成田が限界を迎える前にハルチカ君は我に返った
力を込めていた手は首から離れ
状況を把握できないままに震えている

ハルチカ君は震える手を必死に握り締めて
成田を見ることもできずにひたすら謝り続ける

また他人の加虐的欲望を煽ってしまった
この子は何も悪くないのに
自分のしたことがコワくて信じられなくて
色んなことを整理するのでいっぱいいっぱいだ

平気だと心配ないなどとはいえないけれど
少しでも安心して落ち着いてほしくて

呼吸も整い始めた頃に
ずっと見てくると思えば
首の寸法でも計りたかったのかと

成田が口を開けばハルチカ君は涙を流した
力なく震えて泣いているので
自分の手も震えていたが彼の手にそっと重ねた

手伝いにきたのだろうと
言葉を投げかければようやく顔を上げた

泣き顔の彼は存外庇護精神をかき立てる

その後のハルチカ君はただただ気まずそうで
元来柔和な笑顔が特徴だったので
ストレスでも溜めていないかと声をかける

思い返せば色々と話せていないことがある
大学やモデル業のこと
少しでも気晴らしになるのなら
いくらでも話をしよう

心を開いたその先に
きっとあるであろう答えを見据えて

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