Gulf Coast Highway 歌詞と対訳
楽曲について
Gulf Coast Highway / written by James Hooker, Nanci Griffith, and Danny Flowers
テキサス州オースティン。商業主義的なナッシュビルの音楽シーンとは一線を画すような形で、純粋に良質な音楽を求めてミュージシャンが集う「ライブ・ミュージックの都」として独自の音楽シーンを形成する都市です。
ナンシー・グリフィスはその地で育ち、音楽活動の拠点として良曲を書き続けたシンガー・ソングライター。華やかなカントリーの世界から距離を置いていたため一般には知られざる存在で生涯ミュージシャンズ・ミュージシャンの域を出ませんでいたが、90年代から2000年代にかけて、アメリカの音楽的ルーツに回帰するいわゆるアメリカーナ・ムーブメントの潮流の中で注目度が高まりました。その後惜しくも2021年に亡くなっています。
男女デュエットになっているこの曲はナンシー自身と、彼女のバンド・リーダーとしてキーボードを弾いていたジェームス・フッカー、エリック・クラプトンの「Tulsa Time」で知られるソングライター、ダニー・フラワーズの3人による共作。初出は1988年のナンシーのアルバム「Little Love Affairs」収録分(デュエット・パートナーはマック・マカナリー)。有名どころではエミルー・ハリス&ウィリー・ネルソンによるカヴァーなんてのもありますが、筆者はレッド・モリー(Red Molly)による静謐なアコースティックバージョンがお気に入りです。
曲を聴く前にイメージしたいこと
メキシコ湾を臨むハイウェイ沿線の古びた家で、寄り添ってしなやかにたおやかに生活する老夫婦を描いています。様々な仕事に従事しやっとの思いで手に入れた古びた家。やがて仕事を引退し、今はその庭で一年に一度可憐に咲き誇るブルーボネットを手入れする日々。
ブルーボネット(Bluebonnet)はテキサス州の州花で、春先のごく一時期に紫や青の可愛らしい花を咲かせます。ハイウェイ美化法によりテキサス州内のハイウェイ沿いに植えることを推奨されたこともあり、春になるとハイウェイ沿いに満開になるそうです!なのでテキサスではありふれた花ですが、この家の庭に咲くのは、夫婦の生活にずっと寄り添い続ける「この世で唯一の」ブルーボネット。天国に飛び立つときは、この花を見に来る鳥の翼をちょっと借りようと、夫婦どちらも同じことを考えているのがとても微笑ましいです……それではどうぞ!
歌詞と対訳
Gulf Coast Highway he worked the RAILS
湾岸沿いのハイウェイ近くで 夫は軌道工として働いた
He worked the rice fields with their cool dark WELLS
冷たく深い井戸水で 米を作ったりもした
He worked the oil rigs in the Gulf of MEXICO
メキシコ湾岸の油田で 掘削の仕事もした
The only thing we've ever owned
そうして私たち夫婦が 唯一得たものは
Is this old house here by the ROAD
道沿いに建てた この古びた家だけだ
And when he dies
夫が言うには 自分が死ぬときは
He says he'll catch some blackbird's WING
ブラック・バードの 翼を借りて
Then he will fly away to heaven
天国へと 飛び立つのだと
Come some sweet, blue bonnet SPRING
美しいブルーボネットの 花咲く春に
She walked through springtime when I was HOME
妻は 閑散期の春によく散歩をしていた
The days were sweet, The nights were WARM
昼間はうららかで 夜は穏やかな日々
The seasons change
やがて季節はめぐり
The jobs would come, the flowers FADE
仕事を得る頃には 花はしおれた
This old house felt so alone
この古びた家は なんだか寂しそうだ
When the work took me AWAY
もう 仕事に出なくちゃいけないから
And when she dies
妻が言うには 自分が死ぬときは
She says she'll catch some blackbird's WING
ブラック・バードの 翼を借りて
Then she will fly away to heaven
天国へと 飛び立つのだと
Come some sweet, blue bonnet SPRING
美しいブルーボネットの 花咲く春に
Highway 90, The jobs are gone
ハイウェイ90沿いに もはや仕事はない
We tend our garden, we set the sun
私たち夫婦は庭を手入れしながら 夕焼けを見送る日々
This is the only place on Earth blue bonnets GROW
ここはこの世で唯一の ブルーボネットが育つ場所
Once a year they come and GO
一年に一度 花を咲かせ そして枯れゆく
At this old house here by the ROAD
道沿いに佇む この古びた我が家で
And when we die
私たちは声を揃える 私たちが死ぬときは
We say we'll catch some blackbird's WING
ブラック・バードの 翼を借りて
And we will fly away to heaven
天国へと 飛び立つのだと
Come some sweet, blue bonnet SPRING
美しいブルーボネットの 花咲く春に
Yes, when we die
そう、私たちが死ぬときは
We'll catch some blackbird's WING
ブラック・バードの 翼を借りて
And we will fly away together
一緒に 飛び立ちましょう
Come some sweet blue bonnet SPRING
美しいブルーボネットの 花咲く春に
Gulf Coast Highway……湾岸沿いのハイウェイ、という意味ですが具体的にはメキシコ湾に沿ってアメリカ東西を横切るルート90を指します。
blackbird……これはクロウタドリというスズメ目ツグミ科に分類される鳥のことなのですが、Wikipediaでは「米語でBlackbirdといえばムクドリモドキのことになってしまう」とあるのと、鳥名にしてもイメージがしにくいと思ったので、単に黒い鳥=ブラック・バードとしました(ビートルズにも少しあやかったりして)
ナンシー・グリフィスのプロフィールを調べるにあたり、Lonesome Cowboy 様の記事を大いに参考にさせて頂きました。とても詳しくて興味深いです。現地でコンサートにも行ってるなんてすごい!