Crazy Love 歌詞と対訳
楽曲について
Crazy Love / written by Van Morrison
イギリス(北アイルランド)出身、ブルー・アイド・ソウルの急先鋒として1964年にデビューしたゼムのボーカリストを経て、ソロ転向後から現在に至るまで息の長い活動を精力的に続けるシンガー、ヴァン・モリソン。1970年発表のアルバム「ムーンダンス(Moondance)」収録の、珠玉のバラードです。
シングル・カットはオランダ盤のみですが、アルバムはソロ転向後の彼にとって初めての商業的成功を収め、本曲は彼にとっての代表曲の一つとして認知されます。ジェシ・エド・デイヴィス、リタ・クーリッジ、レイ・チャールズ、ロッド・スチュワート、マイケル・ブーブレなど数々のアーティストにカヴァーされています。
作者はヴァン・モリソン自身。ヴォーカリストとしての印象が強いですがsongwriterとしても大変な実力者で、2003年にはソングライターの殿堂(Songwriters Hall of Fame)入りを果たしています。
曲を聴く前にイメージしたいこと
She gimme crazy loveというコーラス部分は敢えて翻訳しません。まあするまでも無いでしょう。語感そのものを楽しんで頂ければ!ヴァン・モリソン自身のメロウな歌唱そのままの大甘なラブソング。それでもこの曲をユニークたらしめる様々な技巧が歌詞の中にたくさん潜んでいます。
まず、ラブソングにもかかわらず「you」が一つも無い。全て「she」や「her」に置き換えています。単に甘すぎて恥ずかしい(笑)というのもあるかもしれませんが、直接youにするよりも奥ゆかしさを感じますし、冒頭の「I can Hear Her Heart beat」という印象的なアリタレイション成立にも繋がっていますね。
そして「Take away my 〇〇」「it make me 〇〇」といったリフレインの多用が歌詞をより音楽的にしていますし、何より見事なまでの美しいライミング!無理やり意味をつなげたりする箇所が無く、とてもナチュラルです。
シンプルな感情の発露という点でソウル・ミュージックに分類されると思われる歌詞ですが、ジャンル問わずsongwritingのお手本ということで、筆者にとってはまた一つ、私的 songwriting 名曲の殿堂入りです……それではどうぞ!
歌詞と対訳
I can Hear Her Heart beat from a thousand MILES
1000マイル離れても 聞こえる彼女の鼓動
And the heavens open every time she SMILES
彼女が笑うといつも 天の窓が開き僕を導く
And when I come to her that's where I BELONG
彼女に会いに行くのは そこが僕の拠り所だから
Yet I runnin' to her like a river's SONG
川のせせらぎが歌を詠むように 彼女の元に流れ着く
She gimme love, love, love, love, crazy love
She gimme love, love, love, love, crazy love
She got a fine sense of humour when I'm feelin' LOW DOWN
僕が落ち込んでいれば 持ち前のユーモアで和ませる
And when I come to her when the sun GOES DOWN
陽が沈んだ後に 彼女の元に行ったなら
Take away my trouble, take away my GRIEF
僕は悩みから解放され 憂いは消え去り
Take away my heartache in the night like a THIEF
一晩で痛みもなくなるんだ まるで怪盗のようさ
She gimme love, love, love, love, crazy love
She gimme love, love, love, love, crazy love
Yeah, I need her in the daytime
昼日中だって 彼女と一緒にいたい
Yeah, and I need her in the NIGHT
もちろん夜だって 一緒にいたいよ
Yeah, and I want to throw my arms around her
この僕の両腕を 彼女の身体に回して
And kiss and hug her, kiss and hug her TIGHT
強く、強く抱きしめて キスをしたい
Yeah, when I'm returning from so far AWAY
遠く離れた場所から 帰ってきた日には
She give me sweet some lovin', brighten up my DAY
彼女がくれる至上の愛で 僕の人生は光り輝く
Yes, it make me righteous, yeah, and it make me WHOLE
そうして自分を認めてくれるから 彼女なしではダメだ
Yeah, and it make me mellow down into my SOUL
僕の魂を 成熟へと導いてくれる人よ
She gimme love, love, love, love, crazy love
She gimme love, love, love, love, crazy love
She gimme love, love, love, love, crazy love
She gimme love, love, love, love, crazy love
the heavens open……まるで曇空の間から光が差すような風景を想像してしまいそうな言葉ですが真逆。これは「土砂降り」「ゲリラ豪雨」を表す慣用句で、その語源は旧約聖書「創世記」にあります。神がもたらす大洪水の中、正しい行いをする者を乗せたノアの方舟だけが救いに導かれるエピソード。この中に「天の窓が開けて」雨が降り注いだという記述があるようです(こちらの記事を参照しました)。本稿ではこの言葉が「救いへと導く」というイメージを想起させるのではと考えて翻訳しました。
it make me whole…… I love youを遠回しに伝える小粋な表現。You make me whole=あなたは私を完全にしてくれる。転じて「あなたなしではダメだ」ということになるそうです。こちらの記事を参考にしました。
リタ・クーリッジなど女性歌手が歌うときは当然、HerはHisやHimになります。そのように変化しても冒頭のアリタレイションもライミングにも影響しないので、男女問わず歌えるという点でも、とても秀逸な歌詞といえます。