Carolina in My Mind 歌詞と対訳

楽曲について

Carolina in My Mind / written by James Taylor
アメリカン・ミュージックの巨匠というイメージが強いジェームス・テイラーですが、実はデビューのきっかけはビートルズ率いる英アップル・レコード。この曲は1968年のデビュー・アルバム「James Taylor」に収録されていますが、そのアレンジは本来のJTの持ち味を損なった、ややオーバー・プロデュースな印象を受けます。
結局、解散に向けて突き進むビートルズに煽りをうけたアップル社内の混乱や自身の交通事故などもあり、アップルによるデビュー戦略は失敗。契約は打ち切られ、身も心もボロボロになったJTは失意のうちにアメリカに帰国します。
そこで心機一転ワーナー・ブラザースと契約し、同じくアップルをクビになりプロデューサーからJTのマネージャーに転身したピーター・アッシャーの尽力もあり、1970年に発表した2ndアルバム「Sweet Baby James」が大ヒット。以降、70年代を通じてアメリカを代表するSSWの地位を確立します。
そしてこの曲は1976年のベスト・アルバム「Greatest Hits」向けに再録。デビュー版と異なり、よりJTのシンプルな魅力にフォーカスしたアレンジになり、現在ではこのバージョンのほうが一般的に知られています(本稿の歌詞もそのバージョンを元にしています)。JT本人が「最も気に入っている曲のひとつ」とし、ライブでも定番でファンにも人気の高い楽曲です。

曲を聴く前にイメージしたいこと

アップル・レコードでの制作の合間に、JTは休暇でスペインのフォルメンテラ島を訪れます。そこで出会ったのがカリーンなる若い女性。彼女と過ごした短い時間の経験にこの曲の着想を得たことをインタビューで言及していて歌詞にも反映されています。JTが育ったノースカロライナへの郷愁をカリーンに優しく語りかける、というイメージです。
ポイントは繰り返し登場し楽曲の核となっている冒頭の4ライン。 ”In my mind, I'm gone to Carolina / I'm gone to Carolina in my mind” とキアスムス(chiasmus:交錯配列法)を用いています。筆者はその修辞技法を日本語にもうまく反映させるような翻訳を試みました。
皆さんにとって「故郷」とは何でしょうか?日本人にとっては、お盆や正月になれば里帰りする「物理的に移動可能な場所」……ですが広大なアメリカではそう簡単にはいきません。だから心の中で訪れるしかなく、逆に言うとアメリカ人にとっては「心の中に常にあって、心の中でいつでも訪れることのできる場所」こそが本当の故郷なのかもしれません。
地域に強く結びついたこの曲はノースカロライナ州の非公式の州歌と呼ばれているんだそうですが、考えてみるとアメリカン・ミュージックには「地名モノ」が多い気がします。物理的に辿り着くのが困難なリアル故郷よりも、心の中の故郷を拠り所にしているアメリカ的な精神の現れか。皆さんも里帰りの際にでもこの曲を思い出して、自分にとっての故郷とは何か考えてみてはいかがでしょうか……それではどうぞ!

歌詞と対訳

In my mind, I'm gone to Carolina
心の中で 僕はキャロライナを訪れた
Can't you see the SUNSHINE? Can't you just feel the MOONSHINE?
君にも見えるかい? あの輝く日差し 月明かり
And ain't it just like a friend of mine to hit me from BEHIND?
まるで 後ろから不意に声をかけてくる旧友のよう
Yes, I'm gone to Carolina in my MIND
僕が訪れたキャロライナは 心の中に

Karin, She's a Silver Sun, You best Walk her Way and Watch it shinin'
銀の太陽のようなカリーン その輝きに寄り添って
Watch her watch the morning come
彼女と一緒に 朝の訪れをこの目で見よう
A silver tear appearing now I'm crying, ain't I?
一筋の銀の涙が流れる 僕は泣いてるんだろうか
I'm gone to Carolina in my mind
キャロライナは 僕の心の中にあったんだ

There ain't no doubt in no one's mind that love's the finest thing around
愛は素晴らしいもので それは誰もが疑いようがない
Whisper something soft and KIND
柔らかく優しい言葉を 囁いてほしいな
And hey, babe, the sky's on fire, I'm dying, ain't I?
ほら 燃えるような朝焼けに 居ても立ってもいられないよ
I'm gone to Carolina in my MIND
キャロライナは 僕の心の中にあったんだ

In my mind, I'm gone to Carolina
心の中で 僕はキャロライナを訪れた
Can't you see the SUNSHINE? Can't you just feel the MOONSHINE?
君にも見えるかい? あの輝く日差し 月明かり
And ain't it just like a friend of mine to hit me from BEHIND?
まるで 後ろから不意に声をかけてくる旧友のよう
Yes, I'm gone to Carolina in my MIND
僕が訪れたキャロライナは 心の中に

Dark and silent late last night, I think I might Have Heard the Highway call
暗く静かな昨日の夜更け ハイウェイから何やら聴こえたよ
Geese in flight and dogs that bite
逃げるガチョウに 犬が噛みつこうとした音かな
And signs that might be omens say I'm going, going
それはきっと吉兆で 僕にそこに行くように導いたんだね
And I'm gone to Carolina in my mind
そうか キャロライナは 僕の心の中にあったんだ

With a holy host of others standing 'round me
聖なる人々が 僕の周りを取り囲んでいる
Still I'm on the dark side of the moon
僕が今いるのは 光の当たらない月の裏側
And it seems like it goes on like this forever
こんな状態が 永遠に続く気がしてならない
You must forgive me
どうか 僕を見逃してくれないか
If I'm up and gone to Carolina in my mind
心の中にある「僕のキャロライナ」にいる時だけは

In my mind, I'm gone to Carolina
心の中で 僕はキャロライナを訪れた
Can't you see the SUNSHINE? Can't you just feel the MOONSHINE?
君にも見えるかい? あの輝く日差し 月明かり
And ain't it just like a friend of mine to hit me from BEHIND?
まるで 後ろから不意に声をかけてくる旧友のよう
Yes, I'm gone to Carolina in my MIND
そうか キャロライナは 僕の心の中にあったんだ

I'm gone to Carolina in my mind
心の中にある「僕のキャロライナ」
And I'm gone to Carolina in my mind
そうか キャロライナは 僕の心の中にあったんだ
I'm gone to Carolina in my mind
心の中にある「僕のキャロライナ」……

  • 外務省における Carolina の呼称は「カロライナ」で、世界地図などもそのようになっていますが、本稿では邦題「思い出のキャロライナ」に倣ったのと、本来の発音に近いという理由で「キャロライナ」としています。

  • the sky's on fire, I'm dying, ain't I?……カリーンと一緒に朝焼けを見て、郷愁を駆り立てられたJT。なのでここの I'm dying は死にそう、ではなくて「死ぬほど〇〇したい」という会話表現だと解釈しています。

  • a holy host of others……これはアップル・レコードの設立者であるビートルズのことだと前述のインタビューでJT自身が述べています。同社の第一弾アーティストというプレッシャーも相当なものだったと思われ、さらにJT自身の薬物中毒も相まって、まさに「光の当たらない月の裏側」にいるような心境が歌詞に現れています。

  • どのバージョンも、サビのフレーズをリフレインするアウトロ以降も何やら歌詞が続きますが、よくわからないのと(笑)バージョンやライブによって言葉が異なりその場の雰囲気任せで歌っているようなので、本稿では割愛しました。ご了承ください。

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