楽曲について

Sam Stone / written by John Prine
アメリカのシンガー・ソングライター、ジョン・プラインによる1971年発表の作品。自身のデビューアルバム「John Prine」に収録されました。翌年にはアル・クーパーがシングルとしてカバーし、同年のアルバム「赤心の歌(Naked Songs)」にも収録。その他、ジョニー・キャッシュなどにもカバーされています。
ジョン・プラインは1946年生まれ。米陸軍に入りベトナム戦争時に西ドイツに駐留した後に帰国、郵便配達員のかたわら趣味として音楽活動をしていたところをクリス・クリストファソンに見出されデビュー。以降、二度のグラミー賞を獲得するなどシンガー・ソングライターとして長きに渡り活躍しましたが、残念ながら2020年に新型コロナウイルスの合併症により亡くなりました。

曲を聴く前にイメージしたいこと

ベトナム戦争に従軍後、家族の元へ帰還したサム・ストーン。彼は従軍中の経験からすっかり精神を病んでしまっていました。ひざの古傷を癒すために用いたドラッグにいつしか依存してしまい、ほどなく家庭は崩壊。家族に見放された挙句、彼はオーバードーズで命を落とします。
当時社会問題となっていたベトナム帰還兵の薬物中毒問題をテーマにした家族の物語を、巧みなライミングで綴っています。第三者目線で語られるヴァースに対し一転、息子目線で綴られるコーラスが、家族の悲劇を印象付けています。
筆者はアル・クーパーのバージョンでこの曲を知りました。曲が進むにつれ転調していき歌い方も情感たっぷりのアル版も魅力的ですが、歌詞の意味を理解した後だと、抑揚もなく淡々と朗読するように歌うジョン・プライン自身のバージョンのほうがより染み入ります。聴き比べてみてください……それではどうぞ!

歌詞と対訳

Sam Stone came home to his wife and family
妻と子どもが待つ家に サム・ストーンは帰還した
After serving in the conflict OVERSEAS
海の向こうでの紛争に 派遣された後のことだった
And the time that he served had shattered all his nerves
従軍の末に 彼の神経は完全に麻痺し
And left a little shrapnel in his KNEE
ひざの内側には 小さな破片が残った

But the morphine eased the PAIN
その痛みを癒やしたのは モルヒネだった
And the grass grew 'round his BRAIN
いつしか彼の脳は マリファナに侵食された
And gave him all the confidence he LACKED
そうなることでしか 自信を取り戻せなかったのだ
With a Purple Heart and a monkey on his BACK
負傷兵の名誉勲章と「厄介な重荷」を身にまとって

There's a hole in Daddy's arm where all the money GOES
パパの腕には穴があって お金は全てそこに吸い込まれる
Jesus Christ died for nothin', I SUPPOSE
イエス・キリスト様 あんた きっと無駄死だったね
Little pitchers have big EARS, don't stop to count the YEARS
何が起きてるか子どもでも判るよ 年を重ねることをやめないで
Sweet songs never last too long on broken RADIOS
たくさんのステキな歌も 壊れたラジオじゃ聴けないよ

Sam Stone's welcome home didn't last too long
サム・ストーンは程なく 家の厄介者になった
He went to work when he'd spent his last DIME
全財産が尽きた挙句 やっと働きに出るのだが
And Sammy took to stealing when he got that empty feeling
窃盗癖がついてしまった 虚しさを紛らわすために
For a hundred dollar habit without OVERTIME
100ドル盗む度に 彼の「束の間の快楽」に注ぎ込まれた

And the gold rolled through his VEINS
黄金のソレが 彼の静脈をめぐると
Like a thousand railroad TRAINS
まるで1000本の列車が 一気に通過するようだった
And eased his mind in the hours that he CHOSE
自ら選んだその時間だけは 彼の心は和らいだ
While the kids ran around wearin' other people's CLOTHES
子ども達はその間 他人の服を着て遊んでいた

There's a hole in Daddy's arm where all the money GOES
パパの腕には穴があって お金は全てそこに吸い込まれる
Jesus Christ died for nothin', I SUPPOSE
イエス・キリスト様 あんた きっと無駄死だったね
Little pitchers have big EARS, don't stop to count the YEARS
何が起きてるか子どもでも判るよ 年を重ねることをやめないで
Sweet songs never last too long on broken RADIOS
たくさんのステキな歌も 壊れたラジオじゃ聴けないよ

Sam Stone was alone when he popped his last balloon
最後の一袋に手を付ける時 サム・ストーンはただ独り
Climbing walls while sitting in a CHAIR
椅子に座ったまま 狂乱状態にあった
Well, he played his last request while the room smelled just like death
彼が自らの最期の望みに応える時 部屋はまさに死の匂いがした
With an overdose hovering in the AIR
過剰なまでの薬の匂いが空気中を漂っていた

But life had lost its FUN
もはや人生は 楽しみを失い
And there was nothing to be DONE
なすすべもなかったが ただ一つできることは
But trade his house that he bought on the G.I. BILL
GI法で買った家を 交換するだけだった
For a flag draped casket on a local heroes' HILL
地元の英雄を祀る丘にある 星条旗をまとった棺に

There's a hole in Daddy's arm where all the money GOES
パパの腕には穴があって お金は全てそこに吸い込まれる
Jesus Christ died for nothin', I SUPPOSE
イエス・キリスト様 あんた きっと無駄死だったね
Little pitchers have big EARS, don't stop to count the YEARS
何が起きてるか子どもでも判るよ 年を重ねることをやめないで
Sweet songs never last too long on broken RADIOS
たくさんのステキな歌も 壊れたラジオじゃ聴けないよ

  • The grass grew 'round his brain……脳の周りに草が生える、ですがgrassはマリファナを示すスラングでもあるので、それを踏まえて意訳しました。

  • Purple Heart……アメリカ合衆国の戦傷章。戦争で負傷または戦死した兵士に送られます。60年代イギリスのモッズ達の間で流行ったドラッグに「パープルハーツ」というのがありますが関連性は不明。

  • A monkey on his back……取り除くのが困難な、厄介な課題・重荷。転じて薬物中毒を表す慣用句だそうです。

  • Little pitchers have big ears……これも諺。「小さな水差しには大きな取っ手(耳)がある」つまり、子どもは聞いていないようでちゃんと大人の話を聞いているよ、という意味。

  • Habit without overtime……「延長時間の無い習慣」ドラッグの快楽は長続きしない一瞬のもの。その限られた時間のために盗んだ100ドルをつぎ込む。ドラッグの恐ろしさがとてもよく伝わる、強烈な表現ですね。

  • The gold……文字通り「黄金」と訳しましたが、ここは暗にThe cold(=ヘロイン)を言い換えているような気がします。実際にアル・クーパーはこの部分をThe coldと歌っています。

  • Climbing walls while sitting in a chair……椅子に座ったまま壁を登る、ですがclimb the wallsが「ストレスを感じる」「困惑する」という意味を持つことを踏まえて意訳しました。

  • The G.I. Bill……復員兵援護法(GI法)。元々は第二次世界大戦から帰還した退役軍人に様々な手当を提供するために1944年に制定されたアメリカ合衆国の法律、とのことですが、今日でもアメリカ退役軍人を支援するためのプログラムを指す言葉として使われているそうです。

  • Flag draped casket……これは是非とも、画像検索してみてください。ベトナム戦争の後、不遇のままこのような姿に変わってしまった退役軍人がきっとたくさんいるのだろう、そして戦禍が耐えない今日においても、このような光景が日々どこかで続いている、と思うとゾッとします。アメリカという国家の負の側面を象徴するような言葉です。

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