Deep River Blues 歌詞と対訳

楽曲について

Deep River Blues / written by Eddie Green, Lucile Marie Handy
ドク・ワトソン、トミー・エマニュエルなどのアコースティック・ギター名演で知られる16小節のブルースです。ドク・ワトソンが1964年のアルバムに収録した際のクレジットは Traditional / Watson となっていますが、Mississippi Valley Travelerというミシシッピ川に関連する文化を包括したサイトの記事によると、1924年にエディ・グリーンとルシール・マリー・ハンディ(ブルースの父と称されるW.C. ハンディの娘)によって書かれたとされ、本稿のクレジットもそれに倣いました。
ドク以前には1933年、デルモア・ブラザーズにより「I’ve Got the Big River Blues」という異なるタイトルで録音されたものが知られていますが、タイトル以外にもドクのバージョンと比較して歌詞が異なる部分があり、他のトラディショナルの例に漏れず、世代や演者によって微妙に変化しているようです。本稿ではドクのバージョンを参照しています。

曲を聴く前にイメージしたいこと

Deep River=深き河とは、一般には黒人霊歌「Deep River」で歌われるヨルダン川のこと。ですが、アメリカ南部の人々に密接に関わっているのは何と言ってもミシシッピ川。交通路として生活に欠かせない一方で、時に氾濫し大きな被害をもたらす、人々に畏怖される存在。特にこの曲については1927年のミシシッピ大洪水の前後に初期の形が作られており、歌詞の内容も大洪水の被害にインスパイアされたものと想像しています。
洪水で恋人を失い、生活のためにマッスル・ショールズあたりまで拠点を移さなきゃいけなくなった。こんなに苦しむくらいなら、深き河よ。俺の苦しみもろとも呑み込むほどに雨を注ぎ込め。そしていっそのこと、俺をこの苦痛から逃れさせてくれ……といったところでしょうか。
今も昔も水害が耐えないアメリカ南部・内陸部ならではの歌詞だと言えるでしょう。筆者が2010年に渡米した際、ナッシュビルに到着したのが5月7日なんですが、それは死者31人を出したテネシー洪水の直後でした。市域の大部分が冠水し被災者はさぞ無念かと思いきや、あとから友人から写真を見せてもらいましたが、冠水した自宅の庭にボートで繰り出し、仲間とビールを飲みながらギターを弾いて歌ったりしている(笑)。きっとこの曲のようなブルースを歌って、苦しみを浄化して前向きな気持を取り戻したのでしょう。Deep River = Mississippi とは文字通りブルースの源流なのですね……それではどうぞ!

歌詞と対訳

Let it rain, let it POUR
雨よ降れ 降り注げ
Let it rain a whole lot MORE
雨よ降れ 限界を超えるまで
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ
Let the rain drive right ON
雨よ 一気に注ぎ込め
Let the waves sweep ALONG
波もろとも 呑み込むほどに
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ

My old gal's a good old PAL
俺の彼女は 幼馴染みさ
And she looks like a water FOWL
その見てくれは アヒルのようだね
When I get them deep river blues
深き河のことを思っては 憂鬱になるんだ
Ain't no one to cry for ME
俺のために 泣いてくれる奴はいないのに
And the fish all go out on a SPREE
川の魚たちは 大暴れしやがる
When I get them deep river blues
そんな深き河のことを思っては 憂鬱になるんだ

Give me back my old BOAT
俺のボートを 返しておくれ
I'm gonna sail if she'll FLOAT
彼女の水死体を 見つけにいくから
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ
I'm goin' back to MUSCLE SHOALS
そしてマッスル・ショールズまで 遡ろう
Times are better there I'm TOLD
そっちのほうが 景気がマシだと聞いたから
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ

Let it rain, let it POUR
雨よ降れ 降り注げ
Let it rain a whole lot MORE
雨よ降れ 限界を超えるまで
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ
Let the rain drive right ON
雨よ 一気に注ぎ込め
Let the waves sweep ALONG
波もろとも 呑み込むほどに
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ

If my boat sinks with ME
もし 俺のボートが沈んだなら
I'll go down, don't you SEE
覚悟を決めるよ わかっているさ
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ
Now I'm gonna say GOODBYE
さあ お別れを言わなくちゃいけない
And if I sink, just let me DIE
もし俺が沈んだなら そのまま死なせてくれ
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ

Let it rain, let it POUR
雨よ降れ 降り注げ
Let it rain a whole lot MORE
雨よ降れ 限界を超えるまで
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ
Let the rain drive right ON
雨よ 一気に注ぎ込め
Let the waves sweep ALONG
波もろとも 呑み込むほどに
'Cause I got them deep river blues
深き河のことを思うと 憂鬱だ

  • water fowl =水鳥、ですがツルやサギのように端正な鳥ではなく、カモやアヒルみたいに短足でポッチャリした鳥を指すようです(試しに「water fowl」とgoogle画像検索すればよくわかります)。幼馴染だった彼女は、今や佇まいはカモかアヒルみたいで、それを考えると憂鬱だ……ということで、ここのラインだけなんだかユーモラスです。

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