Gentle On My Mind 歌詞と対訳

楽曲について

Gentle On My Mind / written by John Harford
ニューヨーク生まれながらカントリー/ブルーグラスのシーンで活躍し、バンジョー、フィドルなどのマルチ弦楽器奏者として、また足でクロッギング・ダンスをしながらバンジョーを弾き語る稀代のエンターテイナーとして名を馳せたジョン・ハートフォード(1937 - 2001)。
ソングライターとしても数々の楽曲を残していますが、1967年に彼が映画「ドクトル・ジバゴ」にインスパイアされて僅か30分で書いたというこの楽曲は、同年グレン・キャンベルにより即時にカヴァーされ、そのバージョンが翌年のグラミー賞で複数の賞を受賞。それを機に一躍ジョンの名も知れ渡ることになります。以降フランク・シナトラやエルヴィス・プレスリーなど大物アーティストがこぞってカヴァーする、カントリー・ミュージックのスタンダードとして認知されています。

曲を聴く前にイメージしたいこと

一組のカップル。一緒にいることに居心地の良さを感じつつ、優しすぎる女性が単に「僕の優しい人」のままで居続けて自分の人生を疎かにすることを恐れた男性が、お互いのために別離を決意して手紙を書く。インクを涙で滲ませながら……。この曲はとても詩的で難解で、掴みどころが無く筆者も大いに悩みましたが、バンド・ペリー版MV冒頭のストーリー展開などを参考に、上記のようなプロットを設定しました。
この曲が書かれたのは1967年。’60年代のヒッピー・ムーブメント、それに連なる自由恋愛運動が、それ以前の時代と比較して詩作にも影響を与えているのでは?「Me and Bobby McGee(1969年)」もそうなんですが、単に色恋モノという次元を超えた男女の微妙な心理描写がこの時期から作品としてボチボチ出ている気がします。
曲調も、ヴァース/コーラスの区別が無く、曲全体のダイナミック・レンジも少なく淡々としており、ライミングらしいライミングはコーラスの箇所のみ。カントリー・ミュージックのスタンダードという世間の評価とは裏腹に、筆者自身はその他の楽曲と比較して少し異質な印象を受けています。
タイトルになっている「gentle on my mind」をどう訳すかもアレコレ悩みましたが結局「僕の優しい人」に落ち着きました。ただ敢えてカッコ付きにしているのは、「僕」に対して優しすぎるが故に自分自身を見失う人、という別の意味を暗に含ませるという意図によります。なお、内容全体を俯瞰して真っ先に思い浮かんだのは、かぐや姫の「神田川(1973年)」における一節「ただ貴方のやさしさが怖かった」なのでした……それではどうぞ!

歌詞と対訳

It's knowin' that your door is always open
君の心のとびらは 常にオープンになっていて
And your path is free to walk
僕は君の元へと いつでも自由に往来可能だ
That makes me tend to leave
だからこそ 僕はここを立ち去ることにするよ
My sleepin' bag rolled up and stashed behind your couch
寝袋は丸めて カウチの後ろに仕舞っておくね

And it's knowin' I'm not shackled by forgotten words and bonds
忘れ去られた言葉や約束に 囚われたくないんだ
And the ink stains that are dried upon some LINE
この手紙を数行書いたところで インクが滲んでしまうけど
That keeps you in the backroads by the rivers of my memory
僕の思い出が川だとしたら ずっとそのほとりを歩む
It keeps you ever gentle on my MIND
君がそんな「僕の優しい人」のままで いてしまうから

It's not clingin' to the rocks
崖っぷちを よじ登っているというより
And ivy planted on their columns now that binds me
根元から蔦が生えた柱に 縛られている感じかな
Or something that somebody said
あるいは僕を縛るのは 誰が言ったか忘れたけど
Because they thought we fit together walkin'
「君たちはお似合いだと思うよ」という言葉かも

It's just knowing that the world will not be cursing or forgiving
世間はきっと僕を罵らない お行儀の良いことでもないけど
When I walk along some railroad track and FIND
鉄道のレールに沿って歩いていると 気づくんだ
That you're wavin' on the backroads by the rivers of my memory
僕の思い出が川だとして そのほとりに風がなびく間
And for hours you're just gentle on my MIND
ずっと君が「僕の優しい人」であり続けることを

Though the wheat fields and the clotheslines
小麦畑と 洗濯物干しロープ
And the junkyards and the highways come between us
廃品置き場とハイウェイ いろんな光景を一緒に見てきた
And some other woman's cryin' to her mother
別の女性は 母親に泣きついていたっけ
'cause she turned, and I was gone
振り返れば僕がいないことを 嘆いてね

I still might run in silence, tears of joy might stain my face
静寂の中を走っていると 喜びの涙が頬をつたいそうだ
And the summer sun might burn me 'til I'm BLIND
夏の太陽が照らして 僕の目が見えなくなっても
But not to where I cannot see you walkin' on the backroads
川のほとりを歩く君の姿が 心の視界から外れることはない
By the rivers flowing gentle on my MIND
僕だけのために優しく流れる川 そのほとりを歩く君の姿が

I dip my cup of soup back
スープを カップで掬い取る
From a gurglin' cracklin' caldron in some train yard
とある駅構内の ゴボゴボと音を立てる大釜からね
My beard a rough'nin', coal pile
山盛りの石炭のように 無精髭だから
And a dirty hat pulled low across my face
汚れた帽子を目深に被り 顔を覆い隠すんだ

Through cupped hands 'round the tin can
ブリキ缶に 両腕をまわして
I pretend to hold you to my breast and FIND
君を胸に抱きしめたつもりになっていると 気づいてしまう
That you're waitin' from the backroads by the rivers of my memories
僕の思い出が川だとして そのほとりで待つ君は
Ever smilin' ever gentle on my MIND
ずっと笑顔の「僕の優しい人」だということに

  • clingin' to the rocks で画像検索すると、崖っぷちでいまにも落ちそうになりながら片手一本で岩にしがみつくロック・クライマーのような画像がたくさん出てきます。自らの道を切り拓くようなこのイメージに対し、実際のこの男女の関係は優しさと心地よさ故に、蔦によって柱に縛られたような心境になっている、と解釈しています。

  • I walk along some railroad track……線路に沿って歩く。映画「スタンド・バイ・ミー」などで見慣れた光景ですが、普通の人はしないのでお行儀が悪いかと。わざわざ歩道ではなく線路のレールに沿って歩くのは、男性が女性とは別の道を歩もうとしている、というメタファーだと思います。

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