People Get Ready 歌詞と対訳

楽曲について

People Get Ready / written by Curtis Mayfield
カーティス・メイフィールド率いるアメリカの黒人R&Bグループ、インプレッションズが1965年に発表した楽曲。発表当時に活動のピークを迎えつつあったアメリカの黒人差別撤廃運動・公民権運動の影響下で作られました。
人種差別撲滅に向けてのメッセージをゴスペル調の歌詞とサウンドに託したこの曲は、ビルボードのHot100で14位、R&Bチャートでは3位を記録。作者のカーティスは、ソロ転向後も自身のライブのレパートリーとして歌い続けました。
一方で、ロックファン/エレキギター愛好者にとっては、ロッド・スチュワートの歌唱をフィーチュアしたジェフ・ベックのバージョン(1985年、アルバム「フラッシュ」収録)でおなじみですね。

曲を聴く前にイメージしたいこと

前述の通り公民権運動が背景にありますが、内容を理解するには楽曲が作られた時代の「空気」を感じる必要があります。
時系列を整理しましょう。1955年のローザ・パークス事件に端を発し、キング牧師の主導の元、非暴力・非服従の根気強い抗議活動、そして「I have a dream」の有名な演説で知られる1963年ワシントンD.C.デモを経て、晴れて公民権法が成立したのが1964年。そんな最中に録音されたインプレッションズのバージョンは、その時点で何か目的を達成したかのような高揚感を感じます。
しかし公民権法の成立が、それまで長年蓄積された根強い黒人差別をすぐに払拭するには至らず、アメリカ国家のベトナム戦争介入に伴う混沌も相まって、その後の黒人による運動は頓挫した挙句、1968年にキング牧師は暗殺されてしまいます。
それをきっかけに、エンパワーの源だったソウルミュージックは内省へと向かいます。カーティスはソロでもこの曲を歌いましたが、1971年のライブアルバム(Curtis/Live!)では、まるで自分自身に問いかけるかのように最後の節に「we gonna make it one day, brother, I believe……(いつか成功する、そう信じている……)」と付け加えているのがわかります。
カーティスは1992年の事故で半身不随になり、2000年に他界しましたが、もしもまだ健在だったら、アメリカが/世界が再び分断へと向かいつつあるこの2020年代に、この曲をどう歌い奏でることでしょう……それではどうぞ!

歌詞と対訳

People get ready, there's a train A-COMIN'
準備はいいかい 列車が来るよ
You don't need no baggage, you just get on BOARD
荷物はいらない ただ乗ればいい
All you need is faith to hear the diesels HUMMIN'
信じる心さえあれば ディーゼル音が聞こえるはず
Don't need no ticket, you just thank the LORD
乗車券もいらない 感謝の念さえあれば

So, people get ready for the train to JORDAN
さあ、準備はいいかい 終着駅は約束の地
Picking up passengers coast to COAST
行く先々で 新たな乗客を拾っては
Faith is the key, open the doors and BOARD 'EM
絆という名の鍵で 扉をあけて受け入れる
There's hope for all among those loved the MOST
愛こそ至上と信じるすべての人に 希望がある

There ain't no room for the hopeless SINNER
救い難き罪人には 当てがう客室など無い
Who would hurt all mankind just to save his OWN, believe me now
私欲のために 全人類を傷つけるような者のことだ
Have pity on those whose chances grow THINNER
機会が失われていく人々にこそ 憐れみを向けよう
For there's no hiding place against the kingdom's THRONE
神の王座を前に 身を隠す場所などないのだから

People get ready, there's a train A-COMIN'
準備はいいかい 列車が来るよ
You don't need no baggage, you just get on BOARD
荷物はいらない ただ乗ればいい
All you need is faith to hear the diesels HUMMIN'
信じる心さえあれば ディーゼル音が聞こえるはず
Don't need no ticket, you just thank the LORD
乗車券もいらない 感謝の念さえあれば

  • この曲は筆者がバイブルとするピーター・バラカン著「ロックの英詞を読む」でも取り上げられていて、その和訳を大いに参考にさせて頂きました。多少自分の言葉にリプレイスしていますが、大筋は一緒です。

  • faith……ゴスペルっぽく言うと「信仰心」ですが、筆者としてはあまり宗教色を出すのが好きではないので「信じる心」「絆」としました。

  • Jordan……旧約聖書で、エジプト人の迫害を受けたイスラエル人が目指した「約束の地」ヨルダンのこと。長年白人の迫害を受けてきたアメリカの黒人は、自分たちを古代イスラエル人になぞらえることが多いそうです。

  • There's hope for all among those loved the most……キング牧師の活動の原点はキリスト教的な非暴力・非服従。対抗するのではなく「汝の敵を愛せよ」とばかりに、差別する側をも愛で包み込むことで問題解決を試みる。このラインはその考えを表現しているように思えます。

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