Don't Think Twice, It's All Right 歌詞と対訳

楽曲について

Don't Think Twice, It's All Right / written by Bob Dylan
ボブ・ディランが1963年に発表した楽曲。彼の2ndアルバム「フリーホイーリン・ボブ・ディラン」に収録され、同アルバムからシングルカットされた「Blowin’ in the Wind(風に吹かれて)」のB面にも採用されています。
「Blowin’~」同様、この曲も発表後まもなくピーター・ポール&マリーによりカヴァーされ、同年10月のビルボード・Hot 100で9位を記録。その他、ジョニー・キャッシュやウェイロン・ジェニングス、ジョーン・バエズ、エルヴィス・プレスリー、エリック・クラプトン等々……およそ大物と呼ばれるアーティストがこぞってカヴァーしています。
ディランの原曲は彼のスリー・フィンガー奏法をフィーチュアし訥々と呟くように歌うアレンジですが、無数にあるカヴァーバージョンはそれぞれ大胆に独自解釈されていて、聴き比べるのも面白いです。

曲を聴く前にイメージしたいこと

恋人同士のすれ違い。その挙げ句、彼女が寝ている間に静かに別れを告げ、明け方に黙って立ち去る男。でも俺が旅立ったことで自責の念にかられるなよ、これでいいんだ……。と、男は吹っ切れて前だけを見据える。
社会派な「Blowin’~」とは対象的に、すれ違う男女のさまを描いてますが、何を書かせても、何を歌わせてもディラン節になる彼の偉大さを、筆者は翻訳しながら感じずにはいられません。説明が大変難しいですが、一般的なsongの多くが曲(composition)と詞(lyrics)を対と捉えて構築していくのに対し、ディランのそれは「言葉そのもので音楽を綴る」感じ。あの読経のようなディランの歌唱が、意味がわからなくても日本人の琴線に触れるのは、彼が選ぶ言葉が非常に“音楽的”だからなんだと思います。
聴き手に自由に解釈させるような曖昧な言葉を選びつつ、一方で自分の主張はしっかり伝える。ときには正しい文章・文法にこだわらず、音楽的なうねりをもたらすフレーズ(この曲では babe、If'n、a-〇〇ing、knowedなど)を絶妙なさじ加減で用いる。もちろんライミングもお見事!
避けては通れぬボブ・ディラン。筆者は彼の曲を翻訳するのはまだ2曲目なんですが、やはりノーベル文学賞の受賞者はとんでもないな。吟遊詩人ホメロスの時代から、文学とは音楽だったのだと僅か2曲で早くも思い知らされています。そして何故だろう、彼のsongは翻訳するのがとても楽しい……それではどうぞ!

歌詞と対訳

Well, it ain't no use to sit and wonder why, babe
座りこみ 思い悩んだって 無駄なことさ
If'n you don't know by NOW
お前自身に 心当たりが無いんだろう?
And it ain't no use to sit and wonder why, babe
座りこみ 思い悩んだって 無駄なことさ
It'll never do SOMEHOW
もはや どうにもならないぜ
When your rooster crows at the break of DAWN
夜の帳が明けて ニワトリが刻を告げる頃に
Look out your window and I'll be GONE
窓の外を見なよ 俺はもう去った後だから
You're the reason I'm a-traveling ON
俺が旅立つ理由は 自分の胸に聞くんだな
But don't think twice, it's all right
でも もう振り返るなよ これでいいのさ

And it ain't no use in a-turning on your light, babe
明かりで照らしたところで 無駄なことさ
The light I never KNOWED
たとえ 今まで見たこともない明るさでもな
And it ain't no use in turning on your light, babe
明かりで照らしたところで 無駄なことさ
I'm on the dark side of the ROAD
俺はきっと 道の暗がりを歩いているから
But I wish there was something you would do or SAY
お前なりに 何か言ったり 振る舞っていたら
To try and make me change my mind and STAY
俺は心変わりして 思い止まったかもしれないが
But we never did too much talking ANYWAY
結局俺たち 話し合いが足りなかったってことだ
But don't think twice, it's all right
まあ 後悔するなよ 仕方ないんだ

So it ain't no use in calling out my name, gal
いくら俺の名前を叫んでも 無駄なことさ
Like you never done BEFORE
たとえ 今まで聞いたこともない大声でもな
And it ain't no use in calling out my name, gal
いくら俺の名前を叫んでも 無駄なことさ
I can't hear you ANYMORE
もうお前の声は 耳に入ってきやしない
I'm a-thinking and a-wondering, walking down the ROAD
考えたよ 迷ったよ それでも俺は行くと決めた
I once loved a woman, a child, I'm TOLD
愛した女に ……まあ、コドモだったんだけど
I give her my heart but she wanted my SOUL
俺は真心で接したのに 魂まで奪われそうになったから
But don't think twice, it's all right
でもお前は くよくよするなよ よくあることさ

So long, honey babe
お別れだ 愛しき人よ
Where I'm bound, I can't TELL
どこに行くかなんて 自分でもわからない
Goodbye's too good a word, babe
「じゃあね」なんて言葉じゃ 虫が良過ぎるから
So I'll just say, "Fare thee WELL"
これだけ言わせてもらうよ 「さようなら」
I ain't a-saying you treated me UNKIND
今まで受けた冷たい仕打ちは 蒸し返さないし
You could've done better, but I don't MIND
お前は埋め合わせもできたはずだが もう結構
You just kinda wasted my precious time
俺の貴重な時間が ちょっと無駄になっただけ
But don't think twice, it's all right
俺はもう振り返らない そう決めたんだ

  • think twice で「熟考する」「もう一度よく考える」。それが Don't なので、Don’t think twice about 〇〇=〇〇することをためらわないで、となる。転じて Don’t think twice だけで用いると「くよくよするなよ」「考えすぎないで」と日常会話で用いられるようです。NIKKEIリスキリングのこちらの記事がとても参考になりました。

  • そんなわけで、この曲の邦題「くよくよするなよ」はとても的を射ています。が、この曲における Don’t think twice 及び It's all right は、その前のラインに応じてアメーバのように捉え方が変化する不思議な言葉だと筆者は感じました。なので4つのセクションの最後に来る「Don't Think Twice, It's All Right」は、あえてそれぞれ異なる訳を当てはめました。

  • この曲はスーズ・ロトロ(「フリーホイーリン・ボブ・ディラン」のジャケ写で腕を組んでいるディランの当時の恋人)がイタリア留学のため不在になった出来事を元に書いた、と様々な資料が伝えています。さらにディラン自身が「これはラブソングではない」「たぶん自分の気持ちを良くするために口にする言葉、独り言みたいなものだ」と発言している(こちらの記事を参照しました)のを受けて、4回目の「Don't Think Twice, It's All Right」は、男が自分自身に向けて放った言葉、ということにしました。

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