楽曲について

Oh! Susannah / written by Stephen Foster
「アメリカ音楽の父」と称される作曲家スティーブン・フォスター。キャリア初期の1848年に発表した歌曲(作詞・作曲とも彼による)で、日本では津川主一による訳詞の「おおスザンナ」としてよく知られています。
ミンストレルショー(白人が顔を黒塗りにして黒人の役を演じるエンターテインメント全般のこと)向けに作られた楽曲ですが、発表当時は著作権などの考え方が適当で、ショーの一座がそれぞれ勝手に著作権登録するので、フォスター自身はこの曲で100ドルしか稼げませんでした。とはいえ、この曲でフォスターは一応アメリカで最初のプロのsongwriterになった、ということになるのだそうです。
それから122年後、ジェームス・テイラーが1970年発表の2ndアルバム「Sweet Baby James」にカヴァーを収録しています。本稿はそのJTバージョンについて言及し、記載する英語詞もそれに基づきます。

曲を聴く前にイメージしたいこと

アラバマからルイジアナを目指して、大切な恋人スザンナに会いに行くという内容のこの曲は、元々ミンストレルショーで楽しむためのナンセンスなコミックソング。一般的にも、バンジョーが鳴り響く軽快で牧歌的なサウンドがお馴染みですよね。そんな曲をなぜJTがこのアルバムに採用し、しかも自らのギターでルバート気味にしっとり聴かせる大胆なアレンジ変更をしたのか、少々疑問ではありました。
でもよくよく聴いてみるとJT先生、コーラス以外は本来スザンナ(Susannah)である箇所をスザンヌ(Suzanne)に置き換えて歌っているようです。スザンヌとは、アルバム曲順でこの曲(A面ラスト)の次(B面の最初)の楽曲「Fire and Rain」に登場し、JTがファースト・アルバムを録音中に自ら命を断った彼の幼馴染スザンヌ・シュナーのこと。
彼女の死に対する思い、それに伴う自身の苦悩をモチーフにした「Fire and Rain」への導入として120年前のこの曲を隠れ蓑とした、と考えると色々合点が行きます。先人達の遺産を受け継ぎ、新しい表現へと昇華させるJT。後に「現代のフォスター」と称されるだけあって、フォスターに匹敵する最高の歌人=songwriterですね……それではどうぞ!

歌詞と対訳

Well I come from Alabama
アラバマから はるばるやってきたんだ
With my banjo on my KNEE
バンジョーを 膝に乗っけてね
And I'm bound for Louisiana
これから ルイジアナを目指してる
My own true love for to SEE
僕の大事な人に 会うために

It did rain all night the day I left
出発した日に 夜通し雨が降ったから
The weather was bone DRY
天気はすっかり カラカラの乾燥状態
The sun was so hot I froze myself
日差しが強すぎて 凍え死にそうだったよ
Suzanne, don't you go on and CRY
スザンヌ どうか泣かないで待ってておくれ

I said, oh! Susannah
おお、スザンナ
Now don't you cry for ME
どうか 泣かないで
As I come from Alabama
アラバマから はるばるやってきたんだぜ
With this banjo on my KNEE
バンジョーを 膝に乗っけてね

Well I had myself a dream the other night
別の日 僕は夢を見たんだ
When everything was STILL
全てが静まり返った 夜更けにね
I dreamed that I saw my girl Suzanne
愛しのスザンヌが 夢に出てきた
She was coming around the HILL
丘を降りて こっちに向かってきたんだ

Now the buckwheat cake was in her mouth
パンケーキを 口に頬張りながら
The tear was in her EYE
彼女の目には 涙があふれた
I said that I come from Dixieland
言ったろ 俺は南部から来たって
Suzanne, don't you break down and CRY
スザンヌ どうかがっかりしないで

I said, oh! Susannah
おお、スザンナ
Now don't you cry for ME
どうか 泣かないで
As I come from Alabama
アラバマから はるばるやってきたんだぜ
With this banjo on my KNEE
バンジョーを 膝に乗っけてね

  • 1848年発表当時の元々の歌詞は、露骨な黒人差別の表現があったり、訛りを強調したりしていますが、時代にそぐわない部分は削除されて現代に歌い継がれています。当然といえば当然なのですが、現在のポップ・ミュージックが100年後にどう受け継がれているか考察するのに、良い先行事例なのかもしれません。

  • この曲はそもそもコミックソングで、「日差しが強すぎて凍え死にそう」といった部分は要するにボケをかましているのですが、この曲が「Fire and Rain」への導入と考えると、同曲の「炎の日々も雨の日々もこの目で見てきた」というテーマとシンクロしているようにも思えます。

Fire and Rain 歌詞と対訳もよろしければご覧ください。

いいなと思ったら応援しよう!