早大生ボランティア×オリパラVol.4 BTP編
Vol.4では、オリンピック・パラリンピックにおいて放送の現場に携わる
BTP(Broadcasting Training Programme)に参加した、早稲田大学人間科学部4年大原ひなたさんへのインタビューを掲載します。ボランティア業務の詳細や現場での交流の様子など幅広くお伺いしました。
※インタビュー日:2022年6月3日 @zoomにて実施
BTPとは?
国際オリンピック委員会(IOC)の公式放送機関であるオリンピック放送機構(OBS)によるプログラム。オリンピック開催国の大学生に対し、インターンシップを通じて報道に関するハイレベルな知識や現場での体験を提供する。学生らはそこで得たスキルを活かし、有償のボランティアとしてオリンピック・パラリンピックで活躍している。30年以上続いているプログラムであり、現在までに世界で11,000人以上の学生が参加している。BTPでは、以下の3つのチームを募集している。
・ベニューオペレーション(Venue Operations):制作業務や技術業務、後方支援業務のアシスタントとして多様な業務に携わる。 例)カメラマン、音声のアシスタントなど
・アーカイブス(Archives):会場から送られてくる競技映像や選手へのインタビュー映像をライブラリー化し、世界各国の放送局が必要とする映像を探しやすいようにする。
・コメンタリー(Commentary):国際放送センター(IBC)や各競技場で行われる実況や放送におけるサポートを中心に行う。
スポーツの良さを広めたい
――昨年のオリンピックでBTPのプロジェクトに参加されていますが、そもそもボランティアをやってみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
大原さん:きっかけは、オリンピックに関わりたいなという思いからです。なので、早稲田のVIVASEDAというオリパラを盛り上げる団体に入っていたんですけど、そこでBTPというものを知り、より近いところでオリンピックに関われるというお話を頂いて、参加しました。
──もともとオリンピックに興味があったのですか。
大原さん:スポーツの魅力を広めたいと思っていました。なので、団体(VIVASEDA)に入りました。私自身、スポーツを好きになって生活習慣が良くなったり趣味が増えたり、人生が豊かになったなと感じていました。オリンピックやパラリンピックは、他のスポーツ大会と比べて大々的に行われるので、自分が大学を通じて発信することでスポーツの良さを感じてくれる人が増えてくれると嬉しいなと思い、入りました。
英語を使って活動したいという思いからBTPへ
――VIVASEDAを通じてBTPを知ったと仰っていましたが、BTP以外の選択肢もあったのでしょうか。
大原さん:職員の方から、BTPとか選手村の食堂での活動(エームサービス)、会場でのボランティアなど色々な選択肢を提示してもらいました。
――その中で、なぜBTPに参加してみたいと思ったのですか。
大原さん:一番は、英語を使う所が面白いなと思っていたからです。トレーニングも英語だったり、実際に働く時も英語を多く使ったりなど、得意なわけではないんですけど面白そうだなと思っていました。後は、有償という部分も惹かれた点ではありました(笑)。
――確かに(笑)。英語で関わってみたいなという思いでBTPに参加されたのですね。BTPの募集はいつ頃から始まったのでしょうか。
大原さん:私が1年生の時(2019年)の秋頃に募集やトレーニングがあったと思います。
――BTPの中でも3つの役割(ベニューオペレーション、アーカイブス、コメンタリー)があったと思うのですが、大原さんはどの役割をなさっていたのですか?
大原さん:ベニューオペレーションでした。私は英語が得意なわけではないので、ベニューオペレーションは3つの中でも自分のレベルに合っているなと感じて、選びました。
――トレーニングはどこで行っていたのでしょうか。
大原さん:早稲田大学の東伏見キャンパスでした。カメラの人の後ろでコードを巻く練習や、実際にカメラを持つ練習をしてみました。
――トレーニングしてくださる方は外国の人ですか。
大原さん:ほとんどが外国の方でした。日本の方もいましたが、私たちには日本語で外国人講師の人とは英語で話していました。
――英語で指示とかを聞き取るのって結構大変ですよね。
大原さん:大変でした。聞き取りもそうですけど話す方が難しくて、「分からないところを聞いてね」とは言われたんですけど、全然できなかったなという記憶があります。
――そうだったのですね。トレーニング自体はどのくらい行ったのですか?
大原さん:東伏見でのトレーニングは1日で、トレーニングする前に東京外国語大学のキャンパスに行って色々な説明を受けました。
――トレーニングを受けた方は全員ボランティアに参加できたのでしょうか。
大原さん:そういうわけではなく選考がありました。私は面接などはありませんでしたが、コメンタリーを志望していた友達は面接があったという風に聞きました。私は最初の選考では落ちてしまっていて、オリンピックが一年延期したことで辞退する人が出て、繰り上げで参加できることになったんです。
──延期していなかったらボランティアに参加できなかったかもしれなかったのですね。辞退が出たというのはVIVASEDAを通じて知ったのでしょうか。
大原さん:いえ、OBSの方からメールが来たのでそれで参加することになりました。
オリンピック当日の活動
――実際に参加すると決まってから、オリンピック当日までどんな活動があったのでしょうか。
大原さん:流れとしては、自分が着るユニフォームのサイズの連絡や、マイページへの個人情報入力などの手続きをしました。また英語のレッスンを受けられる機会があったので、何回か参加しました。私の場合は業務に関する研修がなくて、オリンピック当日に会場に行った時に「これからこんな業務をやります」と教えてもらいました。
――当日にやることを知ったのですか。
大原さん:そうですね。当日といっても一日目は業務をしたわけではなく、準備日として学生や職員の人と顔合わせをしたり、業務を教えてもらったりしてその日は帰りました。
――オリンピックの開催前日に顔合わせなどを行ったのですね。大原さんは、オリンピック・パラリンピック開催期間は全日参加されたのでしょうか。
大原さん:全期間ではなかったです。パラリンピックに関しては、本当は参加したかったんですけど予定が入ってしまっていて…。なので、オリンピックだけ参加しました。オリンピック開催期間中は、同じチームに私を含めて学生が4人いたので、2人が早番、もう2人が遅番というように時間を分けていました。休みは何日かに1回とかでした。
――大原さん1人でやることはなかったのでしょうか。
大原さん:2人や3人での活動が多かったです。同じ仕事をする学生のうち、1人は早稲田の友達で、後の2人は一橋大学や青山学院大学から来ていました。
──色々な大学の人との関わりがあったのですね。
BTPの活動での苦労、得たこと
――カメラ周りのボランティア活動に携わっていたと思うのですが、活動の中で一番大変だったのはどんなことでしょうか。
大原さん:実は、トレーニングでやっていたカメラのコードとかの担当ではなかったんです。東京ビックサイトの東展示棟にIBCという記者の方が集まるフロアがあって、報道系の中枢みたいな場所になっていました。そこにあったNHKのブースでスーパーハイビジョンシアターというのをやっていて、私はその受付をしていました。スーパーハイビジョンシアターは8Kだったので、世界中のテレビ局の方達がオリンピックの様子を見に来たり、技術職の方が8Kの技術を見に来たりしていました。トレーニングとは全然関係ないことをしていました(笑)。
一番大変だったことは、英語を多く使わなければならないことでした。ほとんどの方が英語を使うので、受付も英語で行わなければいけなかったですし、1回英語の電話がかかってきたこともありました。英語の電話なんてやったことがなかったので、結構大変でした。
――全く新しいことをやっていたのですね。ちなみに、どんな電話がかかってきたのですか。
大原さん:用件自体は簡単で、スーパーハイビジョンシアターの予約はできないかという内容でした。普通は予約しないで見るものなのですが、どうしても開会式を見たいから予約できませんかという。「予約はできないんです」という風に返しました。
――そうだったのですね。大原さんがいたフロアには色々な国の報道関係の方がいらっしゃったのですか。
大原さん:そうです。アジアやヨーロッパなど本当に様々で…。
――私だったら緊張しそうです(笑)。
大原さん:すごく緊張しました。ただ、私と一緒に働いていた三人の学生がみな帰国子女だったので、分からなかったら助けてもらったり言い回しとかその子達の真似をしたりして、どうにかなりました。
――お互いに助け合って活動していたのですね。チームの人と結構仲良くなれたり…。
大原さん:そうですね。長い時間一緒にいたというのもあって、色々お喋りとかしていました。チームのLINEグループがあって、まだ実現できていないんですけどご飯とか行きたいなと思っています。
――活動中は、学生同士で結構和気あいあいとした雰囲気だったのですか。
大原さん:学生同士もそうですし、通訳の資格を持っている女性のアルバイトの方も5,6人いて、その方達とも一緒に楽しく活動できたので、雰囲気は良かったです。
――周りと協力しながらの活動だったのですね。大原さんがBTPに携わっていて一番良かったなと思ったのはどんなことでしたか。
大原さん:携わって良かったことは、オリンピックを支えている人たちがこんなにいるんだということを知れた点です。普段は、テレビをつけていたらスポーツがやっていてそれが当たり前だと思っていたんですけど、その裏には世界中から色々な人達が頑張ってお仕事をして、世界中にスポーツの動画が報じられるんだなというのを改めて知れたのが良かったなと思います。
学生のうちに色々な人と関わる経験が大事
――大原さんが関わっていたBTPなど、英語力が必要で大人に任せてもいいような仕事もあるのかなと思います。その中で、学生ボランティアがいる意義ってどんなものがあると思いますか。
大原さん:意義としては、学生のうちから色々な人と接することができることかなと思います。実際に通訳の方とお話した際に、どういう経緯で通訳になったのか、どんな人生を歩まれていたのかなど様々な価値観を知ることができました。NHKの職員の方とも関わって、大人とどう接するかみたいなことも学べたかなと思います。
後は、ちょっと真面目な話ではなくなってしまうんですけど、世界各国のテレビ局の方がいらっしゃって、それぞれのバッジを交換するみたいな文化(ピントレーディング)があったんです。そのために色々な国の人の所に行って「バッジ交換しましょう」みたいなことをしました。
――バッジとはどういう…。
大原さん:こんな感じでした。
――凄い!
大原さん:(写真右下から)これが韓国でこの上がスイスで…。他にも色々な所と交換しました。
――リボンみたいなものにくっつけているのですね。(写真右下から4つ目のバッジを指して)この雲みたいなキャラクターは何ですか。
大原さん:中国の会社、アリババのキャラクターです。ビックサイト内にもアリババのマスコットキャラクターがいて、ピンバッジを集めたらマスコットキャラクターのフィギュアをもらえるというキャンペーンをやっていたので、友達と協力してフィギュアをもらったりもしました。
こうやって色々な国の人と喋ることができたのはすごく良い機会でした。まとめると、意義としては色々な人と接することができることだと思います。今後迷うことがあった時に、そこで話した価値観とかが影響することもあるかなと思うので、貴重な経験だったと感じています。
――凄く良い体験だったのだと話を聞いて思いました。大原さんは、今後どんなボランティア活動に参加してみたいですか。
大原さん:大学在学中に参加したいのは、予定通りなら来年3月頃に行われる東京マラソンでの活動です。今年の3月にも東京マラソンがあったんですけど、私も参加させていただいてすごく楽しかったので、大学在学中にチャンスがあればやりたいなと思っています。後はできるか分からないんですけど、パリオリンピックのボランティアもできたら楽しそうだなと思っています。ボランティアはフランスの人が中心かもしれないですけど、パリオリンピックにも関われたらなという感じです。他にもボランティアはあるので、機会があれば探してやってみようかなと思います。
――いいですね。私も卒業するまでにボランティアに参加してみたいなと思いました。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
インタビューを終えて
今回のインタビューでは、BTPに参加した大原さんから実際のボランティア業務の詳細な様子やボランティアを通じた人びとの関わりを中心にお伺いしました。お話を聞く中で、同じボランティア活動をしていた学生同士、世界各国のメディア関係者との交流をすごく楽しんでいた様子をうかがい知ることができました。インタビューを通じて彼女が語ってくれたことは、様々な立場・国の人と接する大事さでした。他大学の学生や通訳として仕事をしている人々など、ボランティアに参加しなければ関わることができない人々との交流は、多様な価値観を知ることができる点でその後の人生に大いにプラスになるものだと感じました。今回のインタビュー記事が、ボランティアに参加してみたいと思っている学生を後押しするものになっていることを願います。
文責:土屋ゼミ9期生 住吉栞奈