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The Greatest Showman という生命の讃歌

映画「The Greatest Showman」を観てきた。

この映画は、P・T・バーナム(1810年7月5日 - 1891年4月7日)という、
実在した人物の成功までを描くミュージカル映画だ。

ぼくが観た最近のミュージカル映画といえば、「ラ・ラ・ランド」や、クリント・イーストウッド監督の「ジャージー・ボーイズ」。

そして「レ・ミゼラブル」などの作品があり、過去に観たミュージカル作品全てで感動を強いられていて、
ミュージカル映画というものに全幅の信頼を置いていた。

歌と音楽と踊りが、言葉をより鋭利で鮮やかにする。

あらすじ
主人公のP.T.バーナムは<ショービジネス>の概念を生み出した男。誰もが“オンリーワンになれる場所”をエンターテインメントの世界に作り出し、人々の人生を勇気と希望で照らした実在の人物だ。そんなバーナムを支えたのは、どんな時も彼の味方であり続けた幼なじみの妻チャリティ。彼女の愛を心の糧に、仲間たちの友情を原動力に、バ ーナムはショーの成功に向かって、ひたむきに歩む。
※Filmarks あらすじより引用

貧しい家庭に産まれたバーナムの成功までの道筋を描く映画だ。とにかく、この映画には本当に泣かされた。

個人的には「みんなと違うから面白い」というヒュー・ジャックマン演じるバーナムのメッセージに、彼が生まれてから200年が経ってようやく現実味を帯びてきたダイバーシティ化へのメッセージを重ねているように感じた。

Greatest Showmanは、よくあるお涙頂戴のような「失敗してから成功に至るまでの不屈の精神」を描いているものではない。

かといって、分かりやすく感情を揺さぶるような「死」に主軸を置いた作品でもない。

それでもこの映画で、感情を大いに揺さぶられて、落涙させられたのには、
ミュージカル特有の表現によるものだと思う。

例えば、

「生きることは素晴らしい」

言葉そのものは、美しいものではあるけれど、ぼくらの心はこんな上っ面だけの言葉が届くほど、
単純ではない。しかし、ミュージカルの最大の特徴は、同じ言葉であろうと
歌と踊り、そして音楽に乗せて、精神の深い所まで言葉の真意を送り届けるという、その表現にあるのだと思う。

言葉と音と踊り、この3つが共鳴と共感を生み出し、誰もが子どもの頃に思い憧れていた非日常と輝きを思い出させてくれる。
そんな作品だ。

あとこの動画が本当に良い。

***

この映画は、バーナムが、幼い頃から「成功」という輝かしい光を目指して走り続け、その考え方や、彼の成功を目指して走り続ける姿に、妻チャリティをはじめ、多くの仲間が彼に共感し、応援し、共に走り続ける話だ。

しかし、誰よりも走り続けたバーナムは、その栄光に目がくらんで、栄光を目指し続けた代償に、彼の瞳孔は完全に閉じてしまい、本当に大切なものを見失う。

ぼくら自身も、ある目標や栄光を目指して、それに向かって走り続ける人には誰もが共感や尊敬をおぼえる。

しかし、当の本人は、あまりにもその一点を見続けてしまい、次第に本質を忘れ、栄光によく似た陽炎を追いかけてしまうことがある。

ギリシャ神話のイカロスの翼のように、バーナムも成功を重ねる度に、蝋で塗り固められた大きな翼を身につけ、その度にもっと高く、もっともっと高くと、栄光の陽炎へと突き進む。

蝋で塗り方められた翼で栄光に近づきすぎた彼は、ついに翼が溶けて、地の底の暗闇へと突き落とされてしまう。

人生には、孤独や悲しみを知らなければどうしてもたどり着けない境地があるのだと思う。

孤独や悲しみによって追いやられた精神は、それまでの「私」が、これからの「私」に進むために大切な感情なのだ。

ぼくが、このGreatest Showmanに出てくる歌の中で、最も好きなのは「From now on(これからは)」という歌だ。バーナムが、全てを失い、悲しみに沈んだときに流れる曲である。

バーナムが地の底に落ちた時に、彼に手を差し伸べたのは、それまで社会から迫害されていたサーカスのメンバー達だった。

それまで、彼らは人生において、見た目や障害、生まれた場所や肌の色で、ずっと暗闇の中を歩くことを強いられていた。しかし、バーナムのアイデアと挑戦により、光を浴びることができた人達だった。

暗闇をじっと見つめ続けた彼らが見つけた光、それがバーナムだったのである。そして、バーナムもまた、暗闇に落ちたときにじっと暗闇を見つめ、そこにあった本当に大切な光が、彼らだったのだ。

それまで迷いながら進んでいたバーナムが、地の底で見つけた光がそれまでの「私」から"これから"の「私」に進む歌、それが「From now on」だ。

一度作品から離れて、自分の生活に置き換えてみると、人の死や別れ、失敗など色んなシーンで悲しみの底に突き落とされることがあるけれど、真っ暗な暗闇の中だからこそ見つけられる自分がいて、そこで見つけられた新しい自分は、それまでとは全く違う生き物になっているような気もする。そんな意味も含めて、「From now on」という歌がある気がした。

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好きなシーンがある。

作中では、空中ブランコ乗りのアン(ゼンデイヤ)が、
上流階級のフィリップ(ザック・エフロン)の両親に侮蔑的な言葉をかけられた後、なぐさめるフィリップに対して

「あたなにはあの視線はわからないでしょう?」

というシーンがある。

アンにとっては、突き刺さるような視線。人は、視線だけで人を傷つけることが出来るということをあらわしていた。
しかし、バーナムをはじめ、復活した後の彼らは、盛大な拍手、そして観客の温かい視線に救われていたのだろう。

視線によって人は人を傷つけることも、救うこともできる。後にそんなことを思い起こさせるシーンだった。

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最後に、作品を通して、主人公のバーナムの変化を考えてみると、
バーナムは、心を入れ替えるまでは「何を成し遂げるか」ということばかり考えていたのだと思う。

しかし、どん底から這い上がる彼は、一緒に歩いてくれる仲間たちと「何を成し遂げるか」でなく「一緒に道をどう歩くか」に意識を向けていたような気がする。

ぼくらの周りには、美しくて綺麗な言葉の蝋で塗り固められた「何を成し遂げるか」ということにフォーカスしたテレビ番組や、自己啓発本が日々垂れ流されている。

この映画には、そんな栄光を手にすることよりももっと大切な、

「人生という道をどう歩くか」

そして

「人生という道は、誰と歩く道なのか」ということを考えさせられる映画だった。

とてもとても良い映画でした。

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