【易競馬#12】ラジオNIKKEI賞2022
東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。
「さぁ! お次は福島のラジオNIKKEI賞です! 先生お願いします!」
こくりとうなずく占い師。
チンチロリン!占い師の手から放たれた賽は小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。
「内卦・艮、外卦・兌、変爻の賽は三。沢山咸の三爻、沢地萃へ之く。が出ました。」
山を表す八卦「艮」の上に、沢を表す八卦の「兌」が乗っているこの卦は「沢山咸」と呼ばれる
咸は感じる、直感、共感、感応
兌が若い女性、艮が若い男性の象でもあり、恋愛の卦とも
卦辞は「咸は亨る。貞しきに利ろし。女を取(めと)るは吉なり」
三爻の爻辞は「其の股に咸ず。執りて其れ随う。往けば吝なり」
恋愛、という言葉を聞いてポロシャツはピクンと聞き耳を立てた。
「競馬のレースで占ってますから恋愛とは程遠い感じですかね。三爻は、あまり浮かれてはいけないよ、という戒めが含まれています」
「若い女と若い男。。まさに3歳の混合戦にピッタリじゃないですか!」
恋愛という言葉に少し入れ込み気味のポロシャツ。
「ただ。。このレース牝馬が絡んでる印象がほとんどないぞ。。。昔、シンコウラヴリイが勝った気もするが。。あの頃はラジオたんぱ賞っていってたっけな」
20年も前のレースを健はよく覚えている。
「ボクはビビビ!と来てしまったので『牝馬-牡馬』の組み合わせで馬連を買います。恋愛の卦なら、血統的相性がよさそうなカップルで」
「お前さん血統わかるのかい」
「こう見えても子供のころから嗜んでますよ! ダビスタですけど」
「。。。」
ダビスタも馬鹿にしたものではないのだが、健はゲームなどには疎いのであった。
「俺は福島はパスだ。3歳のハンデ戦なんて当たる気がしねぇ。これも『直感』てやつさ」
そういうと、健は占い師のグラスに二杯目の七田・純米酒を注いだ。
「牝馬は3頭。05は父ディープ系母系は米国+日本て感じかぁ。。。」
「11ソはエピファネイアxキンカメだけど、SSの3x4持ちだから非サンデー系がいいなぁ。。」
「08もエピファでSS3x4持ち。。。!!」
しばらくぶつぶつと独り言ちていたポロシャツだったが、ようやく結論を出したようだ。
「うん。結局はビビビの直観で決めました! これぞ、沢山咸・フィーリングカップル馬券! 05には06、11には03、そして08には12でカップル成立です!!」
「なるほど、それは面白いかもしれませんねえ」
健が仕込んだイカの塩辛をしっかり受け止める、どっしりとした旨味の七田に酔いしれながら、占い師は適当に相槌を打った。
(ここでゆきえちゃんの誕生日馬券が来たりしたら。。むふふ)
其の股に咸ず。執りて其れ随う。往けば吝なり
三爻の爻辞の戒めをまったくスルーしている感のポロシャツだが。。果たしてその運命やいかに?
「当たるも八卦当たらぬも八卦」
こうして今日も下町の夜は更けていく。