【易競馬#20】小倉記念 2022
東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。
「ボクらが外れたその裏のエルムSでくるみ馬券さく裂してましたよ!さゆりママ、ウハウハだろうなぁ。あ、赤星もう一本もらいますよ」
先週のレパードSをハズしたポロシャツが、買わなかった札幌のエルムSの結果(09→06→03で決着)についてぼやいていた。
「あいつはGIレースくらいしか買わないだろ。しかもポロ、いつもお前さんが代理購入してるじゃねぇか」
「まぁそうなんですけどね。実は何気に毎週買ってるんですよ2点だし。でも先週は買ってなくて。。」
「あいつの店、夏休み中だからちょうどよかったじゃねぇか」
「ですね! いやーついてるなー」
「ところで台風が近づいてるようですが。。競馬は台風でも行われるんですか?」
カウンターの隅で冷酒をやりながら占い師がたずねた。
「台風で中止ってのは。。。そういや記憶にないかな。。大雪で中止ってのは割とありますがね。ただ、中止になってもすぐ月曜に代替開催になったりするんで印象に残ってないだけかもしれねぇです」
「なんか2~3年前の台風の当たり年に中止があったような。。ラグビーW杯やった年に。。までもたしかにすぐ代替開催するんでレース自体が流れることはない感じですね」
「なるほど、そうなんですね。馬も関係者も大変だ」
「までも今週は日曜に小倉で小倉記念、新潟で関屋記念なんで特に影響はないと思いますよ!」
台風8号が近づいており、土曜に関東上陸との進路予報が出ているが、ポロシャツの言う通り、日曜の重賞が予定されている小倉と新潟にはあまり影響はなさそうだった。
「では、話の流れついでに。。先生!まずは小倉記念からお願いします! こちらは芝2000mで行われるGIII重賞です!」
こくりと頷いた占い師は懐から三つのサイコロを取り出した。
静かに目を瞑り、ふぅ。。と大きく息を吐く。
チンチロリン!占い師の手から放たれた賽の内、二つが小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。
普通のサイコロは勢い余って皿からこぼれてしまった。
「内卦・巽、外卦・艮、変爻の賽はこぼれてしまったので。。山風蠱、変爻なし。が出ました」
「さんぷうこ?? にしてもあまり見ない字ですね。。蠱惑とか蟲毒とか悪いイメージの言葉しか思い浮かばないです」
「その印象で間違ってないですよ。この山風蠱という卦はですね。。。」
風を表す八卦「巽」の上に、山を表す八卦の「艮」が乗っているこの卦は「山風蠱」と呼ばれる
「蠱」は腐る、乱れる。上層部が山=留まり、下の者が動けないと国すら滅んでしまう
また、艮=若い男を巽の大人の女性が蠱惑する象にもとられる
卦辞は「蠱は元いに亨る。大川を渉るに利ろし。甲に先だつこと三日。甲に後るること三日」
「。。。という卦です。停滞している状況を表しますが、なぜそうなるに至ったのか? ここからどう改善していくべきか? を、過去~未来にわたって考えましょう、という教えでもあります」
「なるほどねぇ。競馬界も古い体質が根強く残ってそうだしなぁ。若い世代や新しい技術・ルールの導入なんかも必要なのかもしれねぇな」
「ふふふ。。ボク、蠱という文字を見てすぐにビビビとキちゃいましたよ。ここは。。。03ムジカです!」
「。。。虫だけにか」
「そうです! 虫が三つで03番! そして鞍上は横【山】ですから、若手の上に立ちはだかるの構図です。相手は11松若【風】馬で山風蠱ですよ!」
「それじゃ虫がわいたままじゃねぇか。ここはそんな状況を打破する若手に期待する。アルメリア賞から注目してた07ピースオブエイトと重賞初騎乗の松本ジョッキーに風穴を開けてもらおう」
「松本君て176㎝もあるんですね!しかもまだ19歳だからもっと伸びるかも? 減量とか大変そうだなぁ、もぐもぐ」
カロリーの高そうな揚げ物をつまみながら、他人事のようにつぶやくポロシャツを横目に、笑いを押し殺す占い師であった。