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【易競馬#14】函館2歳S 2022
東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。
「なんか梅雨が戻ってきちゃった感じですねぇ。暑さが落ち着いてくれたのは歓迎ですけど」
赤星を飲みながらポロシャツがしみじみとつぶやいた。
先月下旬に観測史上最速の梅雨明けが宣言された東京だったが、今週はジメジメとした梅雨空が続いていた。
「今年の甲子園予選は雨で延期とかなくて順調かと思ったんだがなぁ、うまくいかねぇもんだ」
店主の健はこの時期、江戸川球場や神宮球場に頻繁に足を運ぶほどの高校野球ファンで、ついこの間から始まった夏の甲子園予選が雨での日程変更を嘆いていた。
「なんか雨が続くと話もジメっとしちゃいますね。いけないいけない! ここはガラッと話題を変えて、今週の重賞のことを考えましょう!」
「今週は函館最終週か」
「ですです。土曜日に函館2歳S、日曜日に函館記念ですよ!」
函館競馬も今週で終わり。最終週に行われる函館の2重賞が今週のターゲットだ。
「というわけで大先生!今週もよろしくお願いします!まずは函館2歳Sから。。」
すっかりこの店の常連となった占い師はカウンターの隅で盃を傾け二人の会話を聞いていた。
こくりと頷いた占い師は懐から三つのサイコロを取り出した。
静かに目を瞑り、ふぅ。。と大きく息を吐く。
チンチロリン!占い師の手から放たれた賽は小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。
「内卦・巽、外卦・震、そして変爻の賽が三。雷風恒の三爻、雷水解へ之く。が出ました」
「らいふうこう。。。」
「この雷風恒という卦はですね…」
風を表す八卦「巽」の上に、雷を表す八卦「震」が乗っている
恒は「恒久・恒常」。いつまでも変わらないことの大切さを説いている
震は長男、巽は長女を表し、男が外で働き、女が家庭を守るという象でもある
卦辞は「恒は亨る。咎なし。貞に利ろし。往くところに有るに利ろし」
三爻の爻辞は「其の徳を恒にせず。或いは之がはじを承く。貞しけれども吝」
「…ということで、常なることの大切さを説いてます。特に三爻は自分の持ち前を保てないで恥をかかされることもありますよ、という戒めの意味が強いですね」
(うっ。。そうか。。ボクはゆきえちゃんにいいところを見せよう見せようと軸がぶれていたのかもしれないな。。)
図星をつかれるようなことを言われギクッとしたポロシャツは動揺が顔に出ないかと冷や汗をかいた。
「するってぇとここは過去の傾向とかそういったことを大切にしなさいってぇことかな」
「そうとも取れますね。之卦の雷水解は『解決・解ける』といった意味ですから、直面している問題を恒なる気持ちで対応すれば、解決につながると」
「なるほどねぇ。それじゃあ基本に立ち返って予想するかね。といってもこの時期の2歳重賞はデータなど通用しないのだが。。」
新馬戦が始まって1か月ゆえ、出走馬のほとんどが前走勝ち馬であり、予想が難しいのがこの時期の2歳戦だ。
「ただ、俺は昔から持論があって、函館開催の後半は開幕の時とは芝の傾向がガラッと変わる。開幕してしばらくは高速決着が続くが後半は洋芝が得意そうなイメージの父親の馬が活躍するってな」
「あとは芝1200mはなぜか外枠の活躍が目立つようになってくる。なのでキズナ産駒の大外13を軸に、ダートが得意そうな11,06,02への馬連で」
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「ではボクも初心に帰って。函館2歳Sは牝馬です。大体暮れの阪神JFで穴人気して全然こない…ってのが函館2歳S上位馬のキャラなんですよ」
「それに健さんの持論からすると、函館開催前半で勝った馬より、後半、7月に入ってから勝った馬の方が今の函館馬場に合ってる、とするとその条件に当てはまるのは…08と12の2頭です!」
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(あれ?? ゆきえちゃんの誕生日馬券になってる。。こ、これは!!)
「なにニヤニヤしてんだい。お前さんはいつも『ご機嫌さん』な『お祭り男』なんだから02-09でいいじゃねぇか」
「当たるも八卦当たらぬも八卦」