【易競馬#13】七夕賞2022
東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。
「あー!『謙へ之く』これが重賞初騎乗+初勝利で池添謙一に続くという示唆だったとは!!」
「相手わからないから。。。って、単勝でよかったんだよなぁ」
先週のCBC賞、軸馬はばっちりだったのだが、適当な相手選びで的中を逃したポロシャツがいまだに悔いていた。
それというのも。。。
「なにより、健さんが的中してボクがハズすなんて。。うう。。」
。。。ということなのである。
「まぁ17倍だったしそこまで悔しがるもんじゃねぇだろ。それに易競馬をはじめてからの回収率でいえば俺はまだマイナスだ。お前さんプラスだし」
「まぁそうなんですけどね。なんかスッキリしないんですよ」
今週は小倉でダート重賞プロキオンS、福島では夏の風物詩・GIII七夕賞が行われる。
「プロキオンSといえば阪神1400mだろう。小倉の1700mってのはしっくりこねぇな」
「確かに。ボクは中京1400mのイメージが強いです。去年も大荒れ決着だったし正直当たる気もしません。今週は七夕賞に集中ですかね」
当たる気がしないのはこのレースに限った話ではないだろ。。と、のどまで出かかった言葉を健が飲みこんだところでガララと店の扉が開いた。
占い師の登場である。
「いらっしゃい先生、おかげさまで先週のレース、取らせていただきましたよ」
「それはよかったです。健さんビールいただきますよ」
と、横から既に察していたポロシャツが赤星をコップに注いだ。
「先生!ボクは惜しいところで外れてしまったんですけど、之卦の方の『謙』に的中のカギが隠されてたってのに気づいたのです!」
と、先ほどぶつぶつ言っていた持論を占い師に話した。
「ほうほう。それは面白いお話ですね。やはりポロシャツさんは不思議な才能をお持ちだなぁ」
「えーそ、そうですかー照れるなぁ。で、先生、今週もひとつお願いします。福島で行われる七夕賞というレースです」
こくり頷いた占い師は懐から三つのサイコロを取り出した。
静かに目を瞑り、ふぅ。。と大きく息を吐く。
チンチロリン!占い師の手から放たれた賽は小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。
「内卦・乾、外卦・坎、そして変爻の賽が三。水天需の三爻、水沢節へ之く。が出ました」
「あっ!水天需タロウ!ユニコーンSの時にも出たやつだ!」
「そうですね、以前も出ました。おさらいになりますが水天需という卦はですね…」
天を表す八卦「乾」の上に、水を表す八卦「坎」が乗っている
需は「待つ」である。雲(坎)が天(乾)に上り雨を待つ。焦ることなく時を待つ。
卦辞は「需は孚あり。光いに亨る。貞吉。大川を渉るに利ろし」
三爻の爻辞は「泥に需つ。寇の至るを致す」
「今回は変爻まで出したので三爻の辞がポイントですかね。危険が目の前に迫っているので、おとなしく時を待ちましょう。という内容です」
「なんだかあまりいい感じじゃねぇな。。」
「之卦の節は節約の意味がありますから、今週はお休みでもいいんじゃないですかね」
「ちげぇねぇ。俺は今週は買わず、レースを見るだけにしときますわ」
「えーそれは面白くないなぁ。。でもなぁ。。先週のことを踏まえると之卦の節が節約ってのは説得力あるんだよなぁ。。」
「節約した分でさゆりの店に行けばいいじゃねぇか」
「えー、そ、それもそうですねぇ」
どうしても馬券を買いたいポロシャツだったが、健の提案に目じりを下げて同意した様子だった。
「すこしは成長したんじゃねぇのかポロ。これも易の教えのおかげか」
(でもこっそり、ゆきえちゃんの誕生日馬券だけは買っておこうかな)
こうして今日も下町の夜は更けていく。