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世界終末会議

皆さんは、世界を滅ぼしたいと感じたことはありますか。

職場をクビになった時。理由のない誹謗中傷を受け、虐げられた時。大切な人が、亡くなった時。
不条理な出来事が人生に陰を落とし、世界を憎む瞬間は、おそらくどんな人にも訪れるのでしょう。この世の中はおよそ平等に残酷であり、無情です。

この世界終末会議の企画が動き出したのは、ちょうど僕自身にそんな、理不尽の雨が降り注いでいたころでした。何を呪えばいいのかわからず、うずくまるしかなかった僕にとって、今回の公演は世界に復讐する、大きなチャンスだったのです。

ナゾガク、きゅーと・あくとが終了し、本格的に製作が始まってからは、忙しい日々が続きました。
夕立にとって初のホール型の制作であり、ずっと手探りで進むしかない状況だったのですが、主に手綱を握ったまっさんの手腕により、少しずつ少しずつ形になっていきます。それぞれの思想がぶつかる瞬間もありましたが、普段温厚で陽気なみんなが、むき出しのエゴで主張する思想は心地のいいものでした。そんな各々のエッセンスが、結果として公演を何倍も、味わい深いものにしてくれたように思います。

とはいえ、大枠の部分を決定するのが想像したよりも難しかったため、制作は当初の予定よりも難航していました。核となる部分を残しながら、それを邪魔しなくてかつ面白いギミックを考えねばならず、メンバー数人で一日考えて何も生み出せない、といった日もありました。

ですが時間をかけただけあり、最終的にはいいものが作れたと思います。それぞれが出し合ったアイデアの面白い所をつまみとり、注意深く味付けをして、豪華な一皿に仕上げることができました。
この”味付け”の部分について、デバッグに参加してくださったENIG-ROIDのみなさん、本当にありがとうございます。僕はこの日参加できなかったのですが、みなさんがいかに的確で有用な意見をくださったかは、メンバーから感動と共に伝え聞いています。

大筋が決まってようやく、細部の制作が動き出したのですが、こちらも当然想定通りには運びませんでした。
思いつかない謎、入稿した印刷物から見つかるバグ…。公演までの一週間はてんやわんや、阿鼻叫喚の地獄絵図でした。謎の完成が遅れたとはいえ、5人で行う物品の制作は想像よりもずっと大変で、この作業が追い付かなかったため前日に予定されていたランスルーはほぼデバッグのような形になってしまいました。参加してくださった方々、申し訳ありません。そしてそんな中でも温かい感想をくださり、本当に本当にありがとうございます。

そして、当日。
前日に引き続きバタバタしており、結果公演の開始が10分ほど遅れてしまったこと、心より謝罪いたします。チケットを売った以上、絶対に間に合わせなければならなかったのに、それができなかった点は制作者として失格です。本当に、大変、申し訳ありません。言い訳の余地もなく、我々の失態です。

そんな状況ながらも、時間が押してしまったとはいえ何とか開催できたのは、手伝ってくれた二人の英雄のおかげです。みぎめさん、LEONさん、お二人には感謝してもしきれません。施設の開場と同時に来てくれて、会場の設営や物品の制作、修正を手伝ってくれたお二人がいなければ、僕達だけではおそらく、開催することができませんでした。本当に本当に、ありがとうございます。

公演の最中も、お二人にはスタッフとして参加していただきました。とても難解で情報量の多い公演であるにもかかわらず、完璧な理解と練度でもって振舞ってくれたお二人のおかげで、公演の質はぐんと上がったと思います。たくさんの方々から温かいお言葉、嬉しい感想をいただきましたが、これもやはりお二人無しでは為し得なかったことです。相応しい言葉が一つしか見つからないので繰り返しますが、ありがとうございます。

ふらふらになりながらなんとか一日目を走り抜け、反省点や注意点をチェックした後は、泥のように眠りました。
どうして「泥」のように、っていうんだろうねぇ、というアオイ君との会話が、その日の最後の記憶です。気づいたら、朝がきていました。

二日目になると、キャストとしてもほんの少し余裕が出てきました。スタッフをしながらお客さんの様子をみている時間はとても幸せで、特に自分が作った部分を楽しんでいただけていた時は心の中で拍手喝采、躍り出したい気分でした。この瞬間、製作者冥利に尽きますね。

そしてこの頃ようやく、改めて周りを見てみて気づいたのですが、みんなのスタッフ力が少しずつ向上していました。
ゲーム内のキャストはもちろん、ヒントの出し方もみんな上達しており、感心させられることもしばしばでした。まゆりさんの議長姿も、回を追うごとに板についてきた気がします。

そして何より舌をまいたのが、まっさんの解説です。
前述した通り今回の公演は難解で、情報量が多いため解説が不足していると納得感の得られない構造でした。必要なことは確実に語らなければならず、その上で、冗長になってはいけない。この点において、まっさんの手腕は見事でした。
彼はできることなら、細部まで子細に語りたかったことでしょう。ずっとメインでディレクションを担ってきて、その集大成ともいえる公演なのですから。しかしそんな中で、お客さんの満足度、解説のテンポを考えて彼が取った「語らない」という選択が、彼の解説の肝だったように思います。省くべき個所を省き、要点のみを伝えつつ、最も盛り上がるポイントに向けて徐々にボルテージを上げていく。その計算されつくした緩急と聴かせ方は、まるで一編の歌のようで、思わず聴き惚れてしまいました。スタッフ全員素晴らしい働きをしていましたが、誰か一人を選ぶとしたら、まっさんに最大の賛辞を送りたいです。

しかし慣れとは恐ろしく、とある回で配布された物品に、不備がみつかりました。
丁寧にチェックしていたつもりが、どこかで気が抜けていたのでしょうか。それとも誰かの「これくらいのタイミングが、いっちゃんミスするんよな~(笑)」という発言のせいでしょうか。なんにせよ、こちらも大変申し訳ございませんでした。お客さんの温かい空気に助けられましたが、今後絶対起こらないようチェックを徹底いたします。

そしてとうとう、全ての公演が終了しました。

怒涛の二日間を走り抜けた僕たちは、余韻に浸りつつもお互いを称え、肩を抱き合う…

暇なんて全くありません。会場が閉まる時間が目前まで迫っていたため、終わるや否や撤収作業に取り掛かります。
特に大変だったのがパーテーション。今回の公演のために購入した大量のパーテーションを、分解し畳んで段ボールに詰め、タクシーで運びだしました。それらのパーテーションは暫定的にアオイ君宅に積み上げられているので、パーテーションのレンタルを考えている方はぜひ彼に、ご一報ください。アオイレンタル、開業です。

アオイ君の部屋にパーテーションを詰め込み、物品サンタと化した三人と駅で合流し、近くのファミレスに入ってようやく、終わりの実感が追い付いてきました。

大きすぎる疲労の中に、わずかに寂寥が混ざった空気が、テーブルに横たわっていました。誰かがそっと置くように冗談を言って、誰かがそこに笑みを添えます。まっさんはいつも通り食べるのが遅くて、横からのむさんがまっさんのポテトを狙います。普段通りの夕立の会話と、普段通りの笑い声。しかしそこには確実に、「終末」の空気がにじんでいました。

僕の終電が早かったため、会は早めに解散となり、みんなで僕を見送りに来てくれました。荷物も多く余裕がなくて、まゆりさんが呼び止めてくれるまで、ホームを間違えていたことにも気づきませんでした。まゆりさんが笑ってくれてて、それでちょっとだけ僕は、安心しました。

春から新生活が始まり、夕立のメンバーは散り散りになってしまいます。今まで通りの制作をするのは、おそらく難しくなるでしょう。

ですが、それだけです。僕たちはいつかどうせまた何かを作りたくなるし、僕達5人なら最高の作品が作れることを、今回知ってしまいました。この味を知って、立ち止まれるわけがありません。

いつになるかはわかりませんが、いつかまた必ず、夕立は世界に降り注ぐでしょう。その時までどうか、応援よろしくお願いします。

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