個人と社会の理想的な関係を追求─「新しいアジア委員会報告書」
個人と社会の理想的な関係を追求
1992年12月19日、マハティール首相(当時)のブレーンとして活躍していたノルディン・ソピーを座長として、「新しいアジア委員会」(Commission for A New Asia)が発足した。ソピーとともに、インドネシア、タイ、フィリピン、シンガポール、ベトナム、日本、中国、香港、インド、バングラデシュ、ロシア、オーストラリアの学者、専門家16名がメンバーに名を連ねていた。日本からは、元外相の大来佐武郎、国際開発センター会長の河合三良、笹川平和財団プログラム・ディレクター(当時)の高橋一生氏の3名が参加していた。
4度の会議を経て同委員会が1994年1月にまとめたのが、『新しいアジア委員会報告書─新しいアジアに向けて』である。報告書は広範な問題を扱っているが、個人と社会の関係について、次のように述べている点が注目される。
「人間を中心に置くという考え方は、個人主義を振り回すことでも、野放図な自由を叫ぶことでもないし、いわんや個人的優位性の利己的追求に狂奔し、個人の諸権利を絶対視し、神聖不可侵のものとすることでは決してないのである。われわれは、視野の狭い利己的な個人主義、他を全く顧みない熱狂的な自己中心主義は、結局自分を滅ぼすものであると見、それゆえにこれを唾棄すべきものと考える。
第9点目として、これから一世代の間アジアが追い求めていくことになる包括的諸問題、戦略的諸問題の多くは、個人の権利と義務、そして人々の安寧と公共の福祉、両者の間のバランスに十分な目配りをしながら、実現を図っていかなければならない。
人間を中心に据えて目標の達成を図るという当初述べた手法は、個人の自由と権利、そして他者に善をなす義務、より大きなコミュニティに貢献する責任、この両者のバランスを考えながら進んでいくというやり方と、矛盾してはならないのである。
極端な個人主義及び極端なコミュニティ第一主義はいずれも否定され、排除される必要がある」(11~12頁)