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種類株式(優先株式)の登記すべき事項について

こんにちは、東京の八丁堀でスタートアップに関する法務・登記関係のサポートをしている坪井司法書士事務所の坪井です。

表題のとおり、種類株式(優先株式)の内容のうち、どれを登記して、どれを登記すべきでないか、具体例を交えて解説をしていきたいと思います。

種類株式についての登記事項について、よくご質問をいただきますので、記事にまとめてみた次第です。
長文ですが、お付き合いいただければ幸いです!

トヨタ自動車のAA種優先株式を例題としています

スタートアップで利用される種類株式(優先株式)は、通常、投資契約書の発行要項にまとめられています。
残余財産の分配請求権であったり、議決権に関する規定だったり、株式の併合・分割等に関する規定だったりと、様々な内容が発行要項に記載されており、そのうち、どれを登記すべきなのか、または、登記できない事項はどれなのか、迷うこともあります。
トヨタ自動車は、とっくのとうにスタートアップではありませんが、AA型種類株式が例題として良い内容だと考えましたので、こちらを例を挙げていきたいと思います。

トヨタ自動車の定款は東証上場会社情報サービスより検索し、ダウンロードできます。 

トヨタ自動車の 定款 第3章 AA型種類株式 には以下が定められています。

定款 第3章 AA型種類株式
・AA型配当金(定款第12条)
・AA型中間配当金(定款第13条)
・残余財産の分配(定款第14条)
・議決権(定款第15条)
・株式の併合、分割または無償割当て等(定款第16条)
・株主による普通株式転換請求権(定款第17条)
・株主による金銭対価の取得請求権(定款第18条)
・会社による金銭対価の取得条項(定款第19条)
・優先順位(定款第20条)
・譲渡制限(定款第21条)
・除斥期間(定款第22条)

どれが登記事項なのか、一つずつ確認していきます。

ちなみに、種類株式の内容は会社法第108条に定められていますが、会社法第108条についての解説は、手前みそで恐縮ですが、私が運営している別サイトに記載していますので、併せてそちらも確認いただければ幸いです。

AA型配当金(定款第12条)
この規定は会社法第108条1項1号の【剰余金の配当】にあたるため、登記事項となります。
普通株主に先立って、AA型種類株主が優先して配当を受けられるというものになります。

AA型中間配当金(定款第13条)
この規定も会社法第108条1項1号の【剰余金の配当】にあたるため、同じく登記事項となります。
定款第12条との違いは中間配当に関する規定となっているところです。

残余財産の分配(定款第14条)
この規定は会社法第108条1項2号の【残余財産の分配】にあたるため、登記事項となります。
解散やM&Aが発生した際に、普通株主に先だってAA型種類株主が残余財産の分配を受けられる規定になっています。

議決権(定款第15条)
この規定は会社法第108条1項3号の【株主総会において議決権を行使することができる事項】に該当しますが、ほとんどの場合、「株主総会で議決権を有する」という内容は登記されません。
というのも、株式はデフォルトで、株主総会で議決権を有しているため、この規定があろうが、無かろうが、議決権を有していることには変わりません。
つまり、確認的な意味で記載している内容になり、登記申請書に記載していたとしても、登記されません。(※ただし、実際に登記されている事例も普通にあります※)

株式の併合、分割または無償割当て等(定款第16条)
株式併合や分割があった際に、ある種類の株式の持株数が、相対的に上がったり、下がったりしないように定めています。
これは会社法第108条1項のどれにも当たらず、登記事項ではありませんが、登記されている会社は多数あります。
登記すべき事項がこの規定を引用している場合は登記されています。

株主による普通株式転換請求権(定款第17条)
取得請求権付株式と言われるもので、会社法第108条1項第5号に規定されている【当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。】に該当するため、登記事項になります。

株主による金銭対価の取得請求権(定款第18条)
これも上記同様、登記事項になります。
謄本上には「3、取得請求権」として、(1)に定款第17条が、(2)に定款第18条がまとめて記載されています。

会社による金銭対価の取得条項(定款第19条)
取得条項付株式と言われるもので、これは会社法第108条1項6号の【当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。】に該当しますので、登記事項です。
スタートアップの場合は、上場時に会社が強制的に回収できるように設計していることがほとんどです。
というのも、種類株式を発行したままの上場は通常認められていないため、
いざ上場するという時に、取得請求権を行使してくれない株主がいたとしても、取得条項付株式の内容でもって、強制的に回収できるようにしています。

優先順位(定款第20条)
これは会社法第108条1項のどれにも当たらず、登記事項ではありませんが、トヨタの謄本には登記されています。
AA種優先株式は第1回から第5回まで発行できるとしていますが、第1回から第5回までの優先順位をこちらで決めています。
剰余金の配当と残余財産の分配について関係のあることなので、登記できたものと思われます。

譲渡制限(定款第21条)
これは会社法第108条1項4号の【譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。】に該当するため、登記事項になります。
譲渡制限に関する規定のみ特殊な取り扱いとなっており、種類株式の内容ながら「発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容」には記載されず、「株式の譲渡制限に関する規定」の区に、わざわざ別区分として記載されます。
登記申請書に記載する際にも、「株式の譲渡制限に関する規定」として記載しないと、法務局より補正の連絡が来ます。

除斥期間(定款第22条)
これは会社法第108条1項のどれにも当たらず、登記事項ではありません。

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以上が、定款第3章のAA型種類株主の内容になりますが、実はこの他にも登記しなければならない事項が定款に記載されています。
それは、定款第28条第4項です。こちらは会社法第322条第4項に関する内容です。

会社法第322条について

会社法第322条第4項は種類株式の内容にあたるため、登記すべき事項になります。
トヨタの場合、定款第28条には1項から5項まで定められていますが、登記されるのは、定款第28条第4項の会社法第322条に関する部分だけになります。

余談ですが・・・
定款第28条第5項の内容にあたる「会社法第199条第4項および第238条第4項の規定による種類株主総会の決議を要しない」が登記されている会社を時々みます。
しかし、こちらは種類株式の内容ではないので、本来は登記すべき事項ではありません。

まとめ

上記をまとめると以下のようになります。

定款 第3章 AA型種類株式
・AA型配当金(定款第12条)⇒登記必須
・AA型中間配当金(定款第13条)⇒登記必須
・残余財産の分配(定款第14条)⇒登記必須
・議決権(定款第15条)⇒登記不可(例外あり)
・株式の併合、分割または無償割当て等(定款第16条)⇒登記不可(例外あり)
・株主による普通株式転換請求権(定款第17条)⇒登記必須
・株主による金銭対価の取得請求権(定款第18条)⇒登記必須
・会社による金銭対価の取得条項(定款第19条)⇒登記必須
・優先順位(定款第20条)⇒登記不可(例外あり)
・譲渡制限(定款第21条)⇒登記必須
・除斥期間(定款第22条)⇒登記不可
・会社法第322条第4項(定款第28条第4項)⇒登記必須
会社法第199条第4項および第238条第4項の規定(定款第28条第5項)⇒登記不可

長文、お疲れ様でした!

繰り返しになりますが、登記不可項目だからといって絶対登記できない、というわけではありません。
ケースバイケースになり、登記すべき事項が参照している項目は原則登記できます。
そのため、この項目はあの会社では登記されているが、この会社では登記されていない、というケースもあり得ます。
実際、発行要項にも微妙な記載もあるので、あらかじめ法務局に相談してみるのも手です。

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