エコロジカルアプローチ練習見学@ガレオ玉島
こんにちは。
先週、岡山県倉敷市にあるガレオ玉島と言うクラブの練習見学に行ってきました。
ガレオ玉島は、エコロジカルアプローチとトレーニングメソッドを採用しているクラブです。
https://www.instagram.com/galeo_tamashima/
この『エコロジカルアプローチ』という名称は、皆さん見たことある・聞いたことがある方も多いと思います。
このチームでコーチを務める、古賀泰彦さんは私のバルセロナ時代(2008年から)からの友人であり、もうかれこれ約20年近くの仲であり頻繁に連絡を取らせてもらうサッカー仲間です。
以前からエコロジカルアプローチのメソッドには興味があったのですが、実際に練習見学するタイミングはなかったので、この機会に倉敷に足を運んで実際に見させていただいたわけです。
今回はレアッシ福岡の吉廣カズさん(ジュニアサッカー大学の運営者)も福岡から駆けつけて一緒に練習見学をさせてもらったのですが、カズさんも非常にインパクトと衝撃を受けていました。
今回の記事は、その練習見学をして感じたことをまとめています。
あくまで私の考え方であるので、エコロジカルアプローチ理論のそのものとずれることがあることも念頭に入れて読んでいただきたいと思います。
エコロジカルアプローチは運動学習理論です。
いろいろなスポーツやビジネスにも採用されている考え方であり、サッカーは集団スポーツと言う社会的活動と言うことから、自分にこの理論を採用する価値はあると私は注目しています。
エコロジカルアプローチの詳細に関しては既に発売されている書籍やメディア媒体があるので、そちらを読んでいけばある程度は理解できるとは思います。
面白いのはこれまで流行ってきた戦術的ピリオダイゼーション、構造化トレーニング(entrenamiento estructrado)etc, の考え方の根本にあたるものです
ここでは全てを語るのは難しいのですが、環境と選手は相互作用が働いていると言う考え方の下から、その環境を少しいじって上げると選手が新しいスキルを獲得することができると言うのが、雑な言い方ですが基本的なスキル獲得の考え方。
実際に見たトレーニングの流れ
実際のトレーニングは、マルチボールロンド→トレーニング1→トレーニング2→ゲームをすると言う流れでした。
私も最初のマルチボールロンドに参加してみましたが、非常に難しいというか、今まで体感したことのないロンドでした。
ボールの種類が普通のサッカーボールではなく、少し大きめのゴムボール(6号球くらい)、小さめのゴムボール、セパタクローのボールなどサッカーボールではないため、バウンドの種類が変わったり、使用可能なテクニック、アクションが違ったりするので、プレイするのに非常に気を使うと言う感覚。
特にコントロールをするときに、最後まで集中してなければいけないので、気が抜けない感覚がありました。
この気が抜けない感覚も、私にとっては新感覚であったので、私の運動感覚には多様性が発生したと考えられます。
またボールの種類が異なるため利用するテクニックアクションも若干ことなりますので発揮するコーディネーション能力もその時々でことなります。
さらに、グリッドのサイズも3つそれぞれ異なるサイズなのでローテーションをするたびにバリエーションのある経験をする設定となっていました。
この多様性がゲームの時に、とある発見をもたらしてくれました。(これは後ほど綴ります。)
エコロジカルアプローチ実様のための3つのポイント?
では、実際にEcological Approachを採用して指導するとなったら何をすれば良いのか?は結構難しい問題です。
なので、ここではポイントを絞って3つ整理してみようと思います。
これは勝手に私がまとめた考え方ですので、エコロジカルアプローチの理論とは異なることを前提に捉えて欲しいのですが、3つポイントあげるとすれば以下になると思っています。
1、待つことができるか
先週見学をしていて、非常に感じたのはコーチングの仕方です。
コーチングと言うと、従来のやり方であれば答えを示したり、このシチュエーションではこういうプレイが有効だと伝える方法、または質問する方法、これをガイデッドディスカバリーと呼びますが、それを採用していることがほとんどです。
しかし今回の練習参加においては、ガイデッドディスカバリーのようなアプローチではなく選手が探索するスタイルを取ります。
なので、コーチは待つことが求められます。
2、選手にミーティングをさせる
練習をしていて、セット間の間の上、休憩で選手にミーティングをさせていました。
プレイがうまくいっているかどうか、何が改善されればうまくいきそうなのか、等々選手の自由な発想で話をさせていました。
これは私も非常に有効なアプローチだと考えていて、選手が適正なプレイを自分たちで作り出していくプロセスを体験するので、コーチ主導で、こういう時はこれが正しい有効と言うような提示されたプレーに従って行動を起こすのではなく、主体的に上手くなっていることを体感できると感じます。
結果は同じ場所に行き着くにしても、自分たちでたどり着いたのか、または他人(スポーツの場合はコーチ)の操作で導かれたのかによって選手の満足度は全く変わってくると思いますので、モチベーションのことを考えたら非常に良いアプローチだと思います。
実際にガレオの選手たちは、生き生きとプレイしているような様子に見えました。
3、制約をその場で変える
制約主導の練習では、自然発生的に選手が何らかの反応を見せることが運動学習理論の考え方になっていますので、指導者も選手がどんな新しいプレイを見せるのかは、練習のプランを組むときにはわからないというのがエコロジカルアプローチの特徴です。
ですので、練習を見ていて、慣れを感じたときには、コーチがその場に合わせて新しい制約をコントロールしていく必要があります。
ですので、コーチも非常に引き出しが多くなくては成立しづらい、非常に上級なトレーニングメソッドです。
そういった観点で見ると採用するには簡単ではないなというのがこの理論の難しいところです。
何を抑えているべきかですが、選手と環境の相互作用を理解しているかといったところでしょうか。
加えて、どのような制約を加えたら、どんな現象が起きやすくなるかも熟知している必要があるので経験値が必要とされます。
新たな発見
最後にゲームをしていたのですが、私の視点からここで面白い発見が2つありました。
1、サッカー的にプレイをしている(多様な状況下、多様な解決策)
1つ目は、選手が状況を把握しようとして顔を上げてプレイし、その場に最適なプレイを探しながら行動をしていたのです。機械的な選手、従来の伝統的アプローチを受けていた選手ですと、とある状況Aにおいては解決策aが自動化されているので、別の状況Bにおいてはプレイがまごつく、と言うことが起こりますが、驚くことにほとんどの選手が多様な状況下で多様の解決策を持ち合わせているように見えました。
これがなぜ可能になっているかと言うと、トレーニング中に解決策を与えずに、選手が主体的に解決策を見つけ出すまでコーチが忍耐強く待つスタイルを粘り強く続けているからだと思います。
聞くところによると、中学生からサッカーを始めて、プレイ経験が1年しかない選手が周りを見て的確な行動選択をしてプレイをしているのを見て非常に驚きました。
2、即興プレイがナチュラル
1の戦術的な多様性にも驚いたのですが、もう一つ驚いたのは、意思決定の先にある実行の部分で見えた多様なコーディネーション能力でした。
特に即興性のあるプレイが非常にナチュラルだったのです。
これがなぜ起こったのかを後に考えてみたら、マルチボールロンドにおいて多様な環境下(例えば、いろんなサイズのボール、いろんな跳ね方のボール、いろんなキックの感触のボールでプレイしたり、いろんなサイズでのロンド)を経験しているのでそれが可能になっているのだと感じました。
加えて、ロンドでもいろんな制約を経験してきているので、様々なコーディネーション能力が身に付いてきているのだろうなと推測します。
採用する難しさ
実際に自分の目で見てエコロジカルアプローチの良さは十分に感じられるものですが、採用するに当たっては難しさも伴います。
成果が出るまでに時間がとてもかかる
私が見に行ったのはガレオ玉島がエコロジカルアプローチによる指導メソッドを導入し始めて1年が過ぎたくらいのタイミングでした。
これもタイミングが良かったのですが、あまりにも早いタイミングで見学に行っていたらその成果は目の当たりにすることができなかったと思います。
「ここまでの成果が出るまでにどのくらいの期間が必要だったか?」古賀さんに率直に聞いてみたら「半年位です」と答えが返ってきたので、このメソッドは成果が一朝一夕では出ないことは実績が示しています。
なぜなら、エコロジカルアプローチではコーチが選手にして欲しい動き(ターゲットムーブメント)を提示する事は無く、選手が時間をかけて最適化に到達する必要があるため、いつそのタイミングが訪れるかは誰もわからないのです。
ですので、とても時間がかかると言うことがわかると思います。
必然的にこの指導メソッドを採用することができる年代は育成年代であり、目の前の試合に勝たなければならないプロフェッショナルのカテゴリーではリスクも伴うと私は感じます(もちろんできれば素晴らしい!)。
コーチが介入の程度をわきまえている必要あり
伝統的なアプローチとは異なり選手への提示をほとんど行わないためコーチには忍耐が求められます。
頭ではわかっていても実際にそれを実行するのは非常に難しいでしょう。
コーチの焦り、責任感からくる「選手のためを思う解決法の提示」は逆効果となります。
私の視点では、完璧主義や真面目すぎる人には難易度が高いかもしれません。
選手に全幅の信頼を寄せて任せる!ことができるかどうかが肝となるでしょう。
これは今の社会情勢の背景、教育の背景からはとても難易度が高い方法と言えます。
加えて、この理論の背景や成果を熟知していない人からしたら「あのコーチは何もしていない」と間違った解釈をされてしまう可能性も十分にあります。
泳がせる感覚があるかどうかですね。
まとめ
といった感じで、ガレオ玉島のトレーニング見学の所感を綴らせていただきました。
以下、まとめです。
エコロジカルアプローチはこれからの時代の社会が要求する背景にマッチした指導メソッドである
多様性、即興性が獲得可能
成果が出るまでに時間を要するため難しさも伴う
以上です。
読んでいただき、ありがとうございました!