イグ・ノーベル賞

 先日、日本の被団協がノーベル平和賞を受賞した。長年にわたる核兵器廃絶に向けた取り組みが世界的に認められた結果で、同じ日本人として喜ばしい限りだ。
 
 しかし、それ以外のノーベル賞は、2021年に真鍋淑郎博士が物理学賞を受賞してから3年間受賞を逃している。
 
 それまでは毎年のように、日本人(および日本生まれ)の受賞があったように感じていたが、最近は受賞者が減ってきているのではないだろうか?
 
 実は、今世紀に入ってからの日本人(および日本生まれ)の受賞者は米英に次ぐ人数で、アジアではダントツの成績になっている。
 
 しかし、ノーベル賞の受賞対象になる論文は、直近の研究に関するものではなく、25年程度以前のものと言われている(岩本宣明著「科学者が消える」より)。
 
 最近の日本における論文数は世界の主要国のそれが大幅に増加している中で、唯一減少しており、しかも被引用論文の割合も減少し続けているそうだ(同上)。
 
 つまり、今後は、日本のノーベル賞受賞者はどんどん先細りになり、毎年のように輩出されることはなくなると予想される。
 
 最近、日本に関する明るい話題はオータニ君くらいで、このノーベル賞に関する話にもガッカリさせられる。
 
 しかし、皆さんは、「イグ・ノーベル賞」をご存じだろうか?
 
 これは1991年にノーベル賞のパロディとしてサイエンス・ユーモア雑誌「風変わりな研究の年報」が創設した。ハーバード・コンピュータ協会、ハーバード・ラドクリフSF協会など数多くが協賛している(ウィキペディアより)。
 
 この賞は、人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究や風変わりな研究、社会的事件などを起こした10の個人やグループに授与される(同上)。
 
 なんと驚くべきことに、日本は今年2024年で18年連続してイグ・ノーベル賞を受賞している。
 
 今年は東京医科歯科大学と大阪大学で教授を務める武部貴則さんらの研究チームが生理学賞を受賞した。その受賞理由は「ブタなどの動物にお尻から呼吸する能力があることを発見した」というものである。
 
 これまでに日本が受賞したイグ・ノーベル賞のうち特にユニークなものを紹介すると、次のとおりである(大変恐縮だが、受賞者が多いケースがほとんどのため受賞者名は省略する)。
 
➀ 心臓移植をしたマウスにオペラの「椿姫」を聴かせたところ、モーツァルトなどの音楽を聴かせたマウスよりも、拒絶反応が抑えられ、生存期間が伸びたという研究(2013年医学賞)
➁ 床に置かれたバナナを人間が踏んだときの摩擦の大きさを計測した研究(2014年物理学賞)
➂ キスでアレルギー患者のアレルギー反応が減弱することを示した研究(2015年医学賞)
➃ 前かがみになって股の間から後ろ方向にものを見ると実際より小さく見える「股のぞき効果」を実験で示した研究(2016年知覚賞)
➄ 雄と雌で生殖器の形状が逆転している昆虫(トリカヘチャタテ)の存在を明らかにしたこと(2017年生物学賞)
➅ ヘリウムガスを使うとワニのうなり声も高くなる(ドナルドダック効果)ことを発見したこと(2020年音響学賞)
 
 これらを見ると、科学者たちがふざけているだけと思う人もいるかもしれないが、これらの研究は大まじめで行われたものであり、しかも、イグ・ノーベル賞の受賞者の中には、本物のノーベル賞の受賞者も複数含まれている。
 
 私は、これらを見て、大げさなようだが日本人に対するステレオタイプ的な評判を疑うようになった。
 
 「横並び意識が強く、突飛な目立つ行動を好まない」
 「ヒトの真似は上手だが、自ら開発・発明することは苦手」
 「奇人・変人を好まない」
 などというところが、一般的な日本人に対する評判ではないだろうか?
 
 しかし、イグ・ノーベル賞の受賞者は明らかに「奇人・変人」だし、今まで誰もやらなかったことに果敢にチャレンジしている。
 
 受賞者の大半は大学の研究者であり、象牙の塔のヒエラルキーの中にいるはずなのに、「出る杭は打たれる」ことをまったく恐れていない。
 
 何か、楽しくなってくる。このような人たちが日本に存在し、しかも、世界的に高い評価を受ける研究をやっているのだ。
 
 日本もけっして捨てたものじゃないと思う。

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