健康の社会的決定要因へのスクリーニング:わかっていることとわかっていないこと(米国医師会雑誌2019)
Screening for Social Determinants of Health The Known and Unknown
Karina W. Davidson, PhD, MASc1,2; Thomas McGinn, MD, MPH1,2
Author Affiliations Article Information
1Northwell Health, Long Island, New York
2Donald and Barbara Zucker School of Medicine at Hofstra University, Long Island, New York
JAMA. Published online August 29, 2019. doi:10.1001/jama.2019.10915
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2749417
健康の社会的決定要因へのスクリーニング:わかっていることとわかっていないこと(米国医師会雑誌2019)
ゲノム医療・個別医療の現代において、社会的決定要因(SDH)についてのスクリーニングは相対的にシンプルであるが、患者の健康を改善したりリスクそ層化するには、ゲノムスクリーニングよりも、SDHのスクリーニングの方が効果的かもしれない。臨床医による普遍的なSDHスクリーニングは、多くの専門職団体(アメリカ小児科学会、アメリカ家庭医療医会、アメリカ産婦人科学会)が推奨している、または、積極的に考慮されている。これまでの研究成果が、患者のSDHや社会サービスに取り組み臨床的なケアに導入するべきであると示している。ということで、さまざまあるそのスクリーニングや紹介をレビューするにはいいタイミングである。SDHにとりくみことがうまくいくには、現在よくない健康状態に結びついている要因に対する、広範な構造的・地域的・社会的変化がないと難しい。
関連するエビデンスの蓄積
多くのSDHのスクリーニングがあるが多くが、単一のSDH、例えば、食環境が安定していないこと、親密な人からの暴力、十分ではない住環境、などについてである。子どもに対する、より包括的なスクリーニングが、これまで適応され、実践されてきている。3166人の患者を対象にしたプライマリケアにおいて行われたとある研究では、416人が十分なニーズが満たされておらず、46%が十分な医療アクセスが無く、 40%が食の不安定を訴えており、36%が水道や暖房などのインフラの支払うことに困難を感じていた。1 加えて、それらの患者は、抑うつ症状や、糖尿病や高血圧が多かった。これらにより、経済的な不安定さや医療アクセスが十分ではないことが、慢性疾患の悪化・医療費の高騰につながるという仮説が形成される。しかしながら、国レベルで十分な医療保険が整備されているカナダであっても、SDHスクリーニングでひっかかった患者は、十分な健診を受けていなかったり、慢性疾患の管理が不十分であったり、医療利用が少なかった2 これらのデータは、医療アクセスへの経済的な障害がなくなろうとも、社会的な弱者にとっては、プライマリケアや社会サービスの質が低下していることを示している。
SDHにとりくんだ介入の進歩
国の組織、民間組織、地域の大学、州組織、連邦政府に資金援助を受けている研究組織、専門職大学は、新たな方法で、患者と適切な地域資源を結び付けようとしている。これらの取り組みを進めるために、これらの組織は、臨床家の関与を必要としている。例えば、臨床家と州の組織と技術企業とNPOと患者が連携し、クラウドペースの介入を(?)行い、その結果、喘息患者の吸入を減らすことに成功した。このプログラムでは、497 人の患者 (98 子ども・ 399大人) が、自発的に、彼らの短時間作動型のβ刺激薬吸入薬の使用について、60日間遠隔モニタリングを行った。場所と吸入回数(昼・夜)と発作がない日数をモニターした。フォローアップの平均273日/患者で、34 870回の吸入が記録された。吸入がたくさん行われる地理的hot spotが記録された。トラックのルートを変えたり、木を植えたり、気候状態が危険な時にはアラートを出すことで、12か月の間で、吸入が日中は78% (from 0.76 to 0.18)減少し、夜間は 84% (from 0.29 to 0.05) 減少し、発作が無い日が48% (from 62% to 90%) 増えた3
スクリーニングをすることについての議論
このように劇的な成果を上げているプロジェクトがあるにもかかわらず、臨床の現場において包括的で普遍的なSDHスクリーニングを行うことには、賛否両論がある.4 主に2つの議論がある。1つは 誤帰属、錯誤帰属misattribution(*注:おそらく、スクリーニングをすることで浮かび上がってくる、いわゆる医療以外の問題を、医療の責任にすることを指す。このパラグラフわかりにくいので意訳しました)である。この臨床現場でのスクリーニングでうかびあがってくることの問題は、適切な住まい・食事・経済支援などであり程度もさまざまである。実施には時間も労力もかかる。主に州や政府が責任とすべき問題である。これに臨床家がとりくみことで、本来医療が行うべきことへの時間や労力が阻害されてしまっては本末転倒であろう。
もう1つの側面は、臨床家の認識である。多くの専門職は、臨床現場におけるSDHのスクリーニングに好意的であるが、一方で多くが、その実施に障害を感じている。2019年の調査によれば、154人の医師の66%が、SDHに取り組みことに自信がないと回答している.5 医師たちはまた、時間がない (70%), SDHに取り組むための資源がない(55%), 患者が回答することを嫌がるのではないか (16%). などのSDHスクリーニングの障害を挙げている。多くの医師(94%)は、スクリーニングは ソーシャルワーカーの方がうまくできるのではないかと思っている。5 この調査は、SDHスクリーニングに一端を担っている電子カルテ入力が臨床医をイライラさせていることを報告しており、カルテにSDHスクリーニングをくわえることは、このイライラを増幅させるだけにならないかということも懸念している。.
SDHスクリーニングのベストプラックティス
紹介先のリスト作成、SDHスクリーニングの必要性を明らかにする
地域サービスのリストを持つことで、スクリーニングで必要性をみいだした患者の紹介がスムーズになり。郡の公衆衛生部門は、これらの同定に貢献できる。また多くの地域において、地域の精神専門職についての情報も利用可能であり、 Psychology Today などでWEBで公開されている。また良質な医療の質改善を求めている「Medical residents from local teaching health centers」(これなんでしょう?Teaching Health Centerは地域の生涯教育をやっているような組織?そこにいる研修医?)も、地域の患者と資源を結び付けることに役に立つだろう。加えて、WEBで使えるSDHを含めた臨床決断のツールである「CLEAR toolkit」もSDHを同定し適切な地域資源と結びつけるためにも有用である6 SDHを包括的にスクリーニングするためのリストも作られ、「 the Centers for Medicare & Medicaid Services」が使っている「the multideterminant Health-Related Social Needs Screening Tool」でも使用されている
Implement Co-location Care Models 共同治療モデルの実践?
これまでにも多くの臨床医・地域の活動家・地域資源が臨床場面に統合されてきている。「 A co-location treatment model」共同治療モデル(?坪谷が作語)は、ケアの継続性をサポートし、社会サービスを使うことにスティグマ化をなくし、紹介を容易にする。
9つの州のhealth centerでおこなわれ、238 087の現場の人と、 57 490人の患者が含まれた研究では、machine learningにより、患者のSDHスクリーニングからリスク層化が行われた。リスク層化から、診療所を受診する前のSW・栄養士・心理士など他の保健専門職によるカウンセンリングの必要性が推定された。.7 これにより、診療所受診が減った(介入群62 254 vs コントロール群175 833). また適切なSWへの紹介が増えた。この研究の限界は、SDHスクリーニングの重要なゴールであるところの健康アウトカム(*死亡や疾病発生のこと)が記述されていないことである。
技術をうまくつかう
SDHの自動的なスクリーニングが、現在Medicaid safety netで大規模におこなわれている.8 2420 患者の70%がスクリーニングされた。376患者の86%で、カルテに入れ込まれているSDHスクリーニングで多職種チーム対応が必要とされ、 行われた。今後の研究では、電子カルテなどを使ってどのようにこれを実行可能な形にしていくかである。もう1つの障害である患者側の受け入れについては、なぜこのようなスクリーニングや紹介が必要なのかの啓発が必要である。9
結論
人々が生まれ、育ち、働く社会環境が健康を規定し、その格差が健康格差につながる。SDHによりどのような人が健康を害するのかは明らかになっているが、個人レベルや州レベルで、誰がスクリーニングされるべきなのか、どのようなケアがなされるべきなのか、はあまりわかっていない。現場で、誰をSDHスクリーニングして誰をしないか、それによる潜在的な負の面などもある。既に、医師が電子カルテ入力で多くの時間を浪費していることはわかっており、ゆえに、SDHスクリーニングを電子カルテに含めることにも議論はある。SDHスクリーニングをカルテに追加することで社会的に大規模な浪費をしたが、肝心の健康アウトカムが改善しないということもあり得る。これに関するプロジェクトでは、健康アウトカムが改善したのかを明らかにするべきである。今後もSDHについての議論研究が必要である。
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Article Information
Corresponding Author: Karina W. Davidson, PhD, MASc, Feinstein Institute for Medical Research, Northwell Health, 130 E 59th St, Ste 14C New York, NY 10022 (kdavidson2@northwell.edu).
Published Online: August 29, 2019. doi:10.1001/jama.2019.10915
Conflict of Interest Disclosures: Dr Davidson is a member of the United States Preventive Services Task Force (USPSTF). No other disclosures were reported.
Funding/Support: This work was supported by grant R01LM012836 from the National Library of Medicine of the National Institutes of Health.
Disclaimer: The views expressed in this Viewpoint are those of the authors and do not represent the views of the USPSTF, National Institutes of Health, the United States Department of Health and Human Services, or any other government entity.
Additional Contributions: We gratefully acknowledge helpful comments on a previous draft by Nakela Cook, MD, MPH (National Heart, Lung, & Blood Institute). Dr Cook received no compensation for her contribution.
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