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政府効率化省における政府支出削減の試みは、なぜ失敗するか

トランプ勝利に貢献したイーロンマスクは政府効率化省のメンバーとして精力的に活動をするだろう。イーロンマスクを含めたドナルドトランプの取り巻きは連邦政府の財政赤字がアメリカを破壊していると考えており、そのドグマはドナルドトランプの大統領就任に伴い、今後広まることになるだろう。

だが、政府効率化省が連邦政府の支出を切り詰めることはほぼうまくいかないだろう。これは歴史が証明している。

レーガン政権の頃、新自由主義的ムーブメントが政府効率化の機運をもたらした。だが軍事支出増大と失業率増大が政府予算の肥大化を招き、大規模な所得税と法人税の税率引き下げも財政赤字の拡大を招いた。

だが、90年代に民主党がホワイトハウスを取り戻すと大きな転換を迎える。冷戦の終結とリアリズム的外交が軍事支出を削減させ、所得税率の引き上げが税収を増やした。好調な経済が失業率を押し下げ、実質賃金の上昇と法人税の税収を増加させた。

だが、ブッシュによって連邦政府の大幅な黒字はつぶされてしまう。ブッシュ政権の対テロ戦争はカネを浪費させ、ブッシュ減税も財政赤字を拡大させた。それ以降の大統領も軍事費を大幅に削減することはできておらず、財政赤字が拡大する要因になっている。

しかしながら、連邦政府の支出構造自体が政府支出の削減が困難であることを示している。連邦政府の予算は連邦議会によって決定されるのだが、その主要な内訳は、メディケア(高齢者向けの公的医療保険制度)やメディケイド(貧困層向け)、高齢者や退役軍人向けの年金、国債の利払い、軍事費でありこれらの支出を削減することは困難である。

社会保障支出削減が議会で実現することはおそらくないだろうし、国債の利払いが部分的であれ停止すれば基軸通貨であるアメリカドルの信頼は失墜する。軍事費を削減することはロシアや中国の軍事的挑発に対抗するため(アメリカにおいて超党派で見られる意見だ)には必要だし、アメリカより弱い同盟国の経済を考慮すれば、同盟国にとって軍事支出を増やすことは困難である。

つまり、連邦政府が支出を減らすことが必要だとして、それには議会の同意が必要であり、この内訳的に、中間選挙で改選される3分の1上院議員と全ての下院議員の支持を取り付けることは困難を極める。社会保障費用を削減した「大企業の味方」だと思われたい議員などいないし、上院のベテラン議員たちは軍事費や国債の利払い費を減らすことが困難であることを理解している。だからこそ、連邦政府の支出を削減する試みはレーガン政権のトリプルレッド時代にも、2012年頃の超党派での連携の時代にも失敗しているのだ。

トランプ自身が法人税や所得税の大規模な減税の恒久化を示唆していることも無視はできない。アメリカの連邦政府は他国と異なり、売上税(付加価値税や消費税)や固定資産税を徴収していない。つまり法人税や所得税は連邦政府の所要な財源であり、それを恒久的に減税する場合連邦政府はより財政的困難に直面する可能性が高く、より彼らのゴールを遠くに追いやるだろう。

連邦政府の支出に無駄があるのは事実かもしれない。しかしながらそれは完全な組織が存在せず、全ての組織において無駄な支出があることと同じであり、それは人間によってそれらが運営されているからである。おそらくイーロンマスクやドナルドトランプ、ジェレミーダイモンのようなビリオネアやミリオネアにとって連邦政府支出削減は大した問題ではないのかもしれないが、多くのアメリカ国民やそれらを代表する議員にとっては大きな政治的問題であり、それが政府効率化省を大きな困難に直面させるだろう。


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