見出し画像

シリーズ最終巻!【先行ためし読み】『理花のおかしな実験室(13)』

ついにシリーズ完結!!
『理花のおかしな実験室(13) 究極のこたえ』は11月13日(水)発売予定!

一度不合格だった中学の再受験にいどむ、理花。
お菓子作りと両立しながら野球の大事な試合にのぞむ、そら。
ふたりのチャレンジのゆくえは....?
そして、二人が見つけた『究極の実験<おかしづくり>』のこたえって!?

気になるシリーズ最終巻を、ひと足先に読んでみよう!
ためし読みはこの下からはじまるよ↓↓↓

『理花のおかしな実験室(13)究極のこたえ』
やまもとふみ・作 nanao・絵

さらに!!!
シリーズ完結を記念して、【第1巻・第2巻・第3巻がまるごと読めちゃう】スペシャルれんさいを公開中♪

ここまで応えんしてくれている子も、まだシリーズを読んだことがない子も、この機会にぜひチェックしてみてね!

『理花のおかしな実験室(13) 究極のこたえ』


(12巻までのあらすじ)
千河学院の「推せん入試」で不合格になってしまった、理花。みんなから元気づけられて、残り2回の受験のチャンスにいどむことに。
いっぽうのそらは、プロ野球のジュニアチームの大会へ。
けれど大会当日、応えんにかけつけた理花は、試合に確実に出場できる「先発ピッチャー」から、そらが外されたと聞いて……?

1. 途中交代

「で、でも、途中から試合に出られるかも、しれないんだよね?」
 ユウちゃんの言葉で固まっていたわたし――佐々木理花(ささきりか)は、でも、すぐに気持ちを切り替えてそう言った。
『ソラが、先発ピッチャーから外れた』
 さっきユウちゃんにそう告げられた。
 そらくん――広瀬蒼空(ひろせそら)くんは、プロ野球のジュニアチームに選ばれて、今日はそのトーナメント初日なんだ。
『おれも先発ピッチャーになれるようにがんばるから』
 そらくんは先発ピッチャーになりたいって、ずっとがんばっていた。それを知ってるからショックだった。
 でも……そうだ。
『先発ピッチャーってのは、最初に投げるピッチャーのことなんだ。交代であとから出てくるピッチャーもいるけど、先発だったら確実に試合に出られる』
 そらくん言ってた。交代であとから出てくるピッチャーもいるって。
 だから、先発じゃなくても後から出てくることだってある、はず……だよね?
 野球に詳しくなくってよくわかんないけど!
「うん、途中出場はあり得る。でも……ソラ、先発で出たいって言ってたから、たぶん落ち込んでる。実力不足だって強がってたけどさ」
 実力不足? って、そんなわけないよ!
 そう思ったわたしの頭の中に、ふと、クリスマスイブに見たそらくんの顔が浮かぶ。
 そらくん、インフルエンザにかかってしまって、練習がしばらくできなかったんだ。
 もしかしたら……それが原因だったりする?
「ま、きっとすぐに気持ち切り替えると思うけどさ。ほら、あいつ、切り替え早いし」
 そうだよね、きっと!
 お菓子作りで失敗しても、すぐに立ち直ってたもん。
 きっと、今度だって大丈夫。
 わたしは顔を上げてうなずいた。

 わたしはユウちゃんの家族と、ゆりちゃんななちゃんみぃちゃんと桔平くんと一緒に電車に乗り込んだ。
 そらくんの家族は先に行って準備をしてるらしい。
 年末だからか、人があんまりいなくて、電車は結構空いていた。
 たどり着いた神宮球場(じんぐうきゅうじょう)の入り口では、応援の人が列を作っていた。
 みんなの手にはチームの横断幕とか、のぼりとか、ペナントとかがあって、応援ムードがすごくてびっくりする。
 わああ、大きな試合だとこんなグッズ使ったりするんだ!? わたし、何も応援グッズ持ってきてないよ~!
 とにかく寒さ対策だけはしっかりって言われたから、たくさん着込んで、カイロも貼って、もこもこの格好でやってきたんだ。
「割と人多いね。プロ野球に比べたら少ないけど」
 ユウちゃんは、ここにプロ野球の試合を見にきたことがあるらしい。
 そらくんもだろうな。
 そんなことを思いながら、ソワソワと辺りを見回す。
 みんなどこか緊張した顔をしていた。
 それはそうだよね、出場する選手が自分のこどもだったり、ともだちだったりするんだもん。
 自分のことのように緊張してしまうの、わかった。
 そらくんが試合に出られますように。
 わたしは祈るように両手を握りしめると、人の流れに乗って球場に入る。

 冷たい風が、球場の土を舞い上げている。
 そらくんのパパ、ママ、おじいちゃん、それから叶さんと合流してわたしたちは観客席に座っていた。
 そんな中、選手が集まって整列する。
 選手はみんな、ユニフォームとアンダーシャツっていう薄着だ。
 なのに気合いがすごくて、寒さをみじんも感じさせない。
「プレイボール!」
 試合が始まると、応援が客席から湧き上がった。
 そんな熱い雰囲気の中、そらくんの出番はなかなか来ない。
 そらくんのチームは、背番号1をつけた大きな子がピッチャーをしていて、豪速球でどんどん三振を取っていた。
 その子、本当に大きくて、球が速くて、ホームランも打っていて。
 髪が長いけど……もしかしたら女子なのかな?
 スコアボードを見ると、どうやら菅野(すがの)さんというらしい。
「すごい~! あの子かっこよすぎ~!!」
 スポーツをしてるから共感するのか、ななちゃんがキラキラした目で応援している。
 どうやらファンになってしまったみたい。
 気持ちはわかるけど、そらくんのことを考えると、心があまり穏やかじゃなかった。
 だってそらくん、絶対悔しがってる。
 試合はそらくんチームが一点リードのまま、四回に入る。
「最終回まであと二回しかない」
 そらくんのパパがムズカシイ顔で言う。そうなんだ?
「少年野球だから六イニング制で短いんだよ」
 ユウちゃんの説明を聞いたところで、わたしはあれって思う。
 守備に入ったのに、菅野さんがベンチから出てこなかったから。
 すると放送が流れた。
『選手の交代をお知らせします。ピッチャーの菅野さんに代わりまして、広瀬蒼空くん。ピッチャー、広瀬くん、背番号11』
 わあああ!!
 わたしは思わず立ち上がってしまう。
「ソラ、やったじゃん!」
 ユウちゃんが言って、みんなでハイタッチをする。
 ドキドキしながら見ていると、そらくんがマウンドに出てきた。
 その顔はキリッとしていて、気合十分って感じ。
 わあああ! ようやくそらくんの活躍、見られるよ!!
 と思ってたんだけど──。

 そらくんのボールは荒れて、高かったり、低かったり。
 投げ始めてから一球もストライクが入らない。
 どうしたんだろう……。
「うーん……いつものソラじゃない。いつもだったらもっとストライク入るのに」
 ユウちゃんが唸(うな)る。
 その隣に座っていたそらくんのパパも、厳しい顔。
「球がまったく走ってないな。やっぱりここ数日の練習不足が仕上がりに響いてるな。先発外れたのも、これじゃあしょうがない……な」
 練習不足という言葉に、わたしはドキリとする。
 やっぱりインフルエンザのせい? それが原因でうまく投げられない……?
 お見舞いに行ったとき、大丈夫って、言ってたけど。
 やっぱり大丈夫じゃなかったんじゃ……。

 そうして、二人のランナーがフォアボールで塁に出る。
「うわあ、ランナーが得点圏に進んじゃった……次ランナー出たら満塁だよ、やばい」
 ユウちゃんが唸って、わたしは焦る。
 あああ、どうしよう……。
「がんばって……」
 祈るように見つめていると、ようやく真ん中付近にボールがいった。
 あ。やっとストライクだ!
 これならきっと大丈夫――とホッとした次の投球。
 カキーン!
 鋭い音をたて、ボールは勢いよく外野に飛んでいく。
「……!」
 お願い、捕って!
 願いも虚(むな)しく、それは外野手の間を抜け、大きなヒットになる。
 先に出ていたランナーがホームにかえってきて、二点取られて逆転されてしまう。
「うわああ……」
 周りのみんなが悲鳴をあげる中、わたしは息を止めていた。
 そらくんが空を仰ぎ、コーチがマウンドに上がってきた。
 そらくんは首を横に振る。
 遠くて表情は見えないけど、イヤな予感がして胸が苦しい。
 わたしが息を呑んで見守っていると、やがて放送が響いた。
『選手の交代をお知らせします。ピッチャーの広瀬くんに代わりまして──』

 結果、そらくんが取られた点が決勝点となり、そらくんのチームは負けてしまった。
 そらくんはチームでのミーティングのあとに解散だからって、わたしたちは先に帰ることになったんだけど。
「…………」
 電車の中ではみんな無言だった。
 きっとわたしとおんなじで、落ち込んじゃったんだろうな。
 だって、あんなそらくん見たことなかったから……。
 そうだ。
 元気出してほしいし、そらくんに会いに行こう。
 わたしはそう決める。
 今日の分まで勉強しないといけないけど……少しなら、会いに行ってもいいよね……?
 でも……。
 一体なんて声をかければいいんだろう……?

2. 誰にも会いたくない

 二日後の朝。
 わたしは時間を見つけてそらくんの家に向かった。
 でも家のチャイムを鳴らしても誰も出てこない。
 パパやママも出てこないってことは、留守とかおでかけなのかな? と不思議に思いながら道路に出たとき、営業中のフルールが目に入った。
 あ、もしかしておじいちゃんのお手伝いしてるのかな?
 そう思いながら、フルールの扉を開いたわたしはハッとする。
 お手伝いをしていたのはそらくんではなく、ユウちゃんだったんだ。
 え、どうして? 珍(めずら)しい。
「あ、理花ちゃん……」
 ユウちゃんは、わたしを見るとすぐに外に出てきた。
「ソラんちに行ったんだ?」
 わたしはうなずく。
「でも誰もいないみたいで」
「だろうね。ソラのパパとママ、今日も仕事なんだよ。年末なのにね」
 ユウちゃんはそう言う。
 納得しつつ、でもソラくんは? と気になった。
 ユウちゃんはちょっとためらったあと口を開く。
「ユウもさ、気になって会いにきたんだけど……ソラ、誰にも会いたくないって、部屋に引きこもってる
 え。
 そらくんが、引きこもって……?
 聞き間違いかと思った。
 びっくりしすぎてわたしは固まってしまう。
 ど、どういう、こと?
「あいつ、この間の試合、さすがにこたえたみたいでさ」
 まあ、気持ちはわからないでもないけど、とユウちゃんはつぶやく。
「自分のせいで負けたようなもんだし。しかも、いいとこ全然見せられなかったもんな」
 あれはユウでもさすがに落ち込む、とユウちゃんは珍しく顔をかげらせている。
「で、でも、しょうがないよね。だって、インフルエンザにかかって……」
 ユウちゃんは首を横に振った。
「だとしても、それは言い訳だって考えちゃうんだよ。あいつ、そういうとこ、自分に厳しいから」
「……」
 でも。
 でも、インフルエンザとか、かかりたくてかかるわけじゃないし。かからないように、うがいや手洗いして予防もがんばってたのに。
 そらくんのせいじゃないじゃん。
 そらくんにはどうしようもなかったことじゃん。

 泣きたくなってしまう。
「ま、ちょっとしたらきっと回復するだろうからさあ、今はそっとしておいてあげてよ。そもそも、理花ちゃん、それどころじゃないでしょ。こんなところ来てないで勉強しろってソラに怒られるよ?」
 ユウちゃんはそう言って、カラッと笑う。
 だけど、その笑顔がちょっと曇っていて、どこかユウちゃんらしくない。
 ユウちゃんも不安に思ってるような気がしてしょうがなかった。

3. 年が明けても

 そうしているうちに年が明けた。
 
 千河学院(ちかわがくいん)を受験できるチャンスはあと二回。だからわたしは、お正月なんて関係なしに塾の正月特訓に行って、はちまきを巻いて必死で勉強をした。
 そらくんのことは心配だったけど、ユウちゃんも言ってたし。
 勉強しないとそらくんに怒られるって。
 だから、そらくんならきっと大丈夫だろうって信じて、わたしはわたしのことをがんばることにしたんだ。
 正月三ヶ日の三日間の特訓が終わると、翌日はようやくお休みだった。
 ちょっと余裕ができたとたん、わたしの頭にはそらくんの顔が思い浮かぶ。
 そろそろそらくん元気になったかなぁ……?
 とぼんやり考えていると、
「理花~、おせちに飽きたからフルールのケーキ、食べたいんだけどなあ」
 パパがお使いを頼んできた。
 うわあ、パパ、グッドタイミング!
 って、大丈夫なの……?
 お正月に食べ過ぎたせいでちょっと膨(ふく)らんだお腹を見ると、パパは「か、カロリー少なそうなやつ、お願い……」とシュンとする。
 苦笑いをしながらも、わたしはパパのお願いに乗っかることにした。
 だって、そらくんのこと心配だもん。
 会いにいく口実ができて嬉しい。パパ、ありがとう!

 お金をもらって、足早にフルールに向かう。
 でも、なんと、フルールはお休みだった!
『本日休業』
 そんな張り紙を見てがっかりする。
 去年は四日から営業してたんだけどなあ。
 でもそっか。お正月はお客さんあんまりいなかったもんね……。暇だから、初詣に行こうって話になった覚えがある。
 去年のことを思い出しながら、わたしは方向転換して、隣のそらくんの家に向かう。
 でも、玄関の前には先客がいた。
 この辺で見かけない、すごく大きな女の子。
 そしてその子よりは小さいけど、そらくんと同じくらいの背の男の子。
 どっちも体格が良くて中学生に見える。
 でもここに来たってことはそらくんの知り合いで……。
 ひょっとしたらわたしとおなじ、六年生?
「あれ?」
 二人とも、どこかで見たような……と思ってハッとする。
 確かこの子たち……そうだ。
 男の子は、そらくんのチームのキャッチャーの子! 合宿のときに会った!
 もう一人の女子は……あ、もしかして菅野さん?
 プロ野球のジュニアトーナメントでピッチャーやってた子だ!
 びっくりしているわたしの前で、二人はチャイムを鳴らした。
「河野藤也(こうのとうや)です。そらくんいますか?」
「ジュニアチームで一緒だった菅野メイです。そらくんに会いにきました」
 そう告げたあと、菅野さんはわたしを振り返る。
 わっ、ここにいること気づかれてた!
 菅野さんは、ものいいたげにわたしをじっと見つめると、ドアフォンのスピーカーを指さした。
 どうやら、名乗れって言ってるみたい。
「え、えっと、佐々木理花です。そらくん……いますか?」
 だけど。
 玄関に出てきたのはそらくんではなく、そらくんママ。
 そらくんママは、ちょっと沈んだ顔で言ったんだ。
「ごめんねえ……そら、誰にも会いたくないって」
 え。
 会いたくない?
 わたしは目を見開いた。

 *

 会いたくないって、いったい、どういうことなんだろ。
 だって、もう年が明けたんだよ? あれからだいぶん経ったのに……。
 そらくん、大丈夫なのかな。
 不安が胸の中で膨らんでいく。そのとき、
「――理花ちゃん、待って!」
 と声がした。
 振り返ると、息を切らしたユウちゃんが追いかけてきていた。
 って、どうして?
「ユウ、ちゃん?」
 びっくりする。
「ユウ、今、ソラんとこいたんだ」
 え、そうなんだ?
 それなら、そらくんの様子が聞きたいって思った。
「そらくん、は? 大丈夫?」
 ユウちゃんはため息を吐いた。
「カビが生えそうな感じ」
 カビ!? あのそらくんに!?
 想像できなくて困惑した。
「正直、あんなソラ、見せたくない。けど……理花ちゃんは今大事なときだし、そらのこと気になってたら勉強に集中できないよね」
 わたしはうなずいた。
「会いたいよ」
 むしろそんなふうなら、余計に会いたいって思った。
 すると、
「おれらも会いてえけどな。そらが凹(へこ)むのなんてしょっちゅうだし」
 と、そらくんのチームメイトの河野くんが会話に入ってきた。
 二人も駅の方に向かうから、途中までと一緒に歩いてたんだ。
 え、そうなんだ?
「前、県大会でも自分のせいで負けたとかで、しばらく責任感じてたし。またかって思ったけど……もしや別の原因か?」
 河野くんはわたしをチラリと見る。
「よっぽどカッコ悪いところ見せたくねえんだろうな……」
「まあ、気持ちはわからなくないんだけど、今の方がよっぽどカッコ悪いのわかってないんだよ」
 河野くんとユウちゃんは何か通じるものがあったのか、うなずきあった。
「広瀬はあれで結構繊細(せんさい)だから」
 菅野さんがポツリと言う。
「自分に求められてる役割を、完璧にこなそうとしてるでしょ」
「自分に求められてる役割……?」
 わたしたちはキョトンとした。
「みんな『明るくて、優しくて、カッコよくて、強い男子』をあいつに求めてる」
 ドキリとした。
 そのイメージは、わたしがそらくんに抱いてるイメージそのものだったから。
「無意識なんだろうけどさ、あいつは、自分はそういう『男らしい』ヒーローでないといけないって思ってる」
「ははは、言えてる」
 河野くんは軽く笑ったけど、菅野さんはぎろり、と睨(にら)んで制した。
「わたし、真面目に話してるんだけど」
 河野くんは「すまん、無神経だった」と肩をすくめる。
 菅野さんはため息を吐いた。
「わたしも、この間、そんなあいつに甘えた。わたしが女子であることはどうしようもないことなのに。あいつに不満をぶつけた。あいつさ、自分のことのように痛そうな顔をして……」
 女子であること、という言葉にドキリとする。
 もしかして。
 もしかしたら、この菅野さんも、わたしと同じように、進路のことで悩んでるんじゃないかって、そう思えて。
「そらは、優しいんだよな。人のこと放っておけない。そして、自分の抱えているものを分けてくれない。一人で抱え込む」
 河野くんがうなずくと、菅野さんは悲しそうな顔をした。
「あいつ、全部一人で背負おうってしてしまうから」
 そしてわたしとユウちゃんをじっと見つめた。
「広瀬に言っておいて。わたしが野球やめること、広瀬が気に病むことじゃないって」
 え。やめる? あんなに上手だったのに!?
 だけど、すぐにわかった。
 さっき菅野さん――女子であることはどうしようもないって言った。
 それだったら――きっと、わたしと、おんなじだ。
「あ、あのっ……」
 わたしは思わず口を開く。
 あきらめないでって伝えたくて。
 でも、口にしようとした瞬間、迷った。
 こんなこと、ほぼ初対面のわたしが言っていいのかなって。
 だって、プロ野球選手に女子はいない。
 菅野さんの前に広がる道は、わたしより厳しい道だ。
 簡単にやめないでとか言えない。
 でも……。
 せめて、これだけは伝えたいって思った。
 わたしはうつむきかけた顔を上げる。
「年末のトーナメントで、菅野さんのプレー見ました。すごかった。すごく、カッコよかったです。わたしは、また菅野さんが野球をするところ、見たいです」
 菅野さんは目を見開く。
「あり、がとう」
 少しだけ口元がほころぶ。
「――行くか。ここは『彼女』に任せた方がよさそ」
 河野くんが菅野さんの背中をポンと叩き、菅野さんはうなずいた。
「広瀬を、頼んだ」
 菅野さんは、背を向けて去っていった。
 それを見ながら、わたしはさっきの菅野さんの言葉を繰り返す。
「全部背負おうってしてしまう……か」
 もし。
 もしそらくんが、自分だけが人のことを守らないといけないって思ってるんだったら。
 わたしのこと守らないといけないって思ってるとしたら。
 そらくん。
 それは、違うよ?
 わたしは顔をあげると、ユウちゃんに向き合った。
「ユウちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど――」
「え、何? 顔、怖いよ?」
 ユウちゃんはびっくりした顔。
 それでもわたしは続けた。
 こんなこと頼めるの、ユウちゃんしか、いないから。

4. そんなの関係ない

 おれは、クリスマスイブに理花にもらったマフラーを巻いて外に出る。
 久々の外の空気は冷たかった。
 首元はあったかいのに、心には虚しさが広がっていて冷え切ってる。
「どこ行くんだよ」
 そう尋ねると、ユウは肩をすくめた。
「神社。初詣くらいしないとね」
 しばらく部屋から出るつもり、なかった。
 けど、ユウが外からかけてきた言葉で、とうとうおれは折れた。
『今出てこないんなら、フルールを破門にするってじいちゃん言ってるけど、どうする?』
 そんなふうに脅されたら、さすがに出て行くしかなかったんだよな。
 だって、野球がダメなら、おれに残されたのは菓子作りだけだし。
 ユウと一緒についてきたのは、フルールが休みで暇をしているというじいちゃんと叶さんという妙な組み合わせ。
 誰かに……学校のやつに会う前にさっさと帰ろう。
 特に、理花には、まだ会えないし。
 だって、おれ、情けなさすぎて。
 あんだけ理花ががんばってるのに、おれ、試合で情けないところしか見せられなかった。
 菓子作りと野球、両立できるって、証明したかったのに。
 おれのがんばりで理花を励ましたかったのに。
 なんの力にもなれねえし……何より、おれ、今、理花の前で笑えない。
 最悪、泣いちまうかも。
 そんな姿絶対見せられない。
 そんな情けないおれじゃ、理花を励ませない。
 逆に心配させちまう。
 心配かけるくらいなら、重荷になるくらいなら、会わない方がマシだって思う。
 そう思いながら鳥居をくぐったとたん、おれは目を見開いた。
「理花……」
 だって。その理花が目の前にいたから。

 *

 わたしがユウちゃんに頼んだのは、そらくんをなんとか家から連れ出して欲しいということ。
 ユウちゃんは任せて、と頼もしい返事のあと、連絡してくれたんだ。
 今日の午後三時に神社に来てって。
 使えるものは何でも使って、なんとしてでも連れ出すからって。
「そらくん」
 わたしはそらくんに駆け寄る。
 そらくんはギョッとした顔をして、すぐさま回れ右をしようとした。
 でも右腕をユウちゃん、左腕を叶さんに掴(つか)まれて阻(こば)まれる。
 二人は、参道から少し外れた大きな木のところへと引きずるようにして、そらくんを連れて行った。
「はな、せ!」
 そらくんは暴れるけど、ユウちゃんと叶さんは意地でも離さないといった様子だった。
 隣にいたおじいちゃんがそれを見て、呆れたように言った。
「逃げてもなんにもならんぞ」
「逃げてなんか――」
「逃げてるよ、理花ちゃんから」
 叶さんが言う。
 わたしから、逃げてる?
 避けられてたのはわたし!?
 愕然としていると、そらくんがあわてたように否定した。
「そうじゃない! ――理花が悪いんじゃなくって!」
「ちゃんと向き合いなよ」
 ユウちゃんがそらくんに言う。
 叶さんも言った。
「そらくんは、実はちょっと抱え込みすぎるからねえ。言うこと言わないと、またこじれるよ?」
 そう言うと二人はそらくんの腕を離した。
 でもそらくんは暴れるのをやめて、その場で固まっている。
「じゃあ、わしらはお参りに行くか」
 おじいちゃんが言うと、ユウちゃんと叶さんがさっさと本殿の方へと向かった。
「…………」
 残されたのはわたしとそらくん。
 そらくんはうつむいていて、表情は見えない。
「そら、くん」
「…………」
 そらくんはだんまりだ。
「そらくん?」
「理花、わるい。おれ――笑えねえから、顔、見れない」
 そらくんは言った。
「トーナメントで活躍してさ、野球も菓子作りもどっちもがんばれるって証明して。理花のこと励ましてやろうと思ってたのに。おれ、できなかった」
「そらくん……」
 胸が痛くなる。
 そらくんはうつむいたままわたしの目を見ない。
 前髪の向こうでどんな顔、してる?
「情けない、おれ、男なのに」
「男、なのに?」
 ふと、菅野さんの言葉を思い出す。
 『あいつは、自分はそういう「男らしい」ヒーローでないといけないって思ってる』
どういう、こと?
「おれが理花を守ってやりたいのに。おまえのこと傷つけるやつがいたら、おれが守ってやるって――約束したのに。おれは、弱い。そんな資格、ない」
 わたしは思い出す。
 わたしがそらくんを好きになった瞬間のこと。
 実験室に閉じこもったわたしに、上を向かせてくれたそらくんのこと。
『おまえのこと傷つけるやつがいたら、ゼッタイ、守ってやるからさ!』
 そらくんはそう言った。
 そっか。
 そらくんは、あれから、ずっとそんなふうに思ってたんだ。
 強くならないとって。
 わたしのこと、守ってあげないとって。
 それで辛いときも、大変なときも、笑顔を無理に浮かべてたんだ。
 泣きたくても、泣けなかった。
 試合に負けて悔しくても、悲しくても、男の子だからって、がまんしてた。わたしに心配かけないように。
 でも。
「そらくん、それは、違うと思う」
 わたしはキッパリと言った。
 するとそらくんが顔を上げる。
「え?」
「男とか関係ないよ。女の子を守らないといけないなんてこと、ないよ!」
 そらくんの目には、真剣な顔のわたしが映っていた。
「理花?」
 別の国の言葉を聞いているような顔をするそらくんに、わたしは言い聞かせた。
 だって。
 それ、変だよ。
「女の子だから」って言われて苦しんでいる人がいること、わたし、散々見てきた。
 そしてわたし自身も苦しんだよ。
 悩まなくていい男の子がうらやましいって、思うことだってあったよ。
 だけど……男の子には男の子のキツさがあるはず。
 わたしはそらくん、桔平くん、ユウちゃんが言われてた言葉を思い出す。
 お菓子作りが似合わないとか、虫がニガテなのは情けないとか、料理が好きだったら女子みたいとか。
 そんな「男の子だから変」を認める方が変だよ!
 どっちも認めたらダメなんだよ!
「そらくん、辛いときは、泣いていいんだよ。男の子だからって、強くなる必要ない! 情けないとか、わたし、絶対思わない!」
 そらくんは目を見開く。
 そしてわたしを見た。
「理花」
 虚ろな目の輪郭(りんかく)が膨らんだかと思ったら、そらくんの目からどんどん涙が溢れてくる。
 そらくんはあわてたように顔を背ける。
「そらくん、大丈夫。また次があるよ。そらくんの野球は終わってないよ」
 そらくんは顔をあげない。
「失敗したら終わりじゃないって、そらくん、知ってるよね? お菓子作りでいっぱい経験したよね? 失敗から、成功が生まれるって」
 わたしは大きく息を吸って、力強く語りかけた。
「次こそは、力、発揮できるから」
「ごめ――おれ、みっともなくって」
 うつむいたそらくんの足元には、どんどん涙が落ちて、黒いあとができていく。
「みっともなくなんかないよ。わたし、そらくんのそんなところまで大好きだから」
 だから。
 ヒーローなんかにならなくっていい。
「そらくんの痛みも、わたしに、分けて欲しい」
「……理、花」
 そらくんが声を殺して泣く。
 微かな泣き声に、参道の人がこちらを振り返る。
 わたしはそらくんの顔を隠すようにして、背中に手を回す。
 そしてそらくんと一緒に涙を流したんだ。

 *

 冬の日は短い。
 そして日暮れになると急激に気温が下がってくる。
 わたしがクシュン、とくしゃみをしたとたん、そらくんは顔をあげた。
「理花、ごめん。寒くない?」
 目は少し赤い。でも、もう涙は浮かんでいなかった。
「大丈夫」
 わたしはハッとする。
 って、わたし、今、そらくんのこと抱きしめて、なかった???
 し、しかも!
 さっきどさくさに紛れて、大好きって言っちゃった!???
 あわあわとするけれど、そらくんの反応はいつも通り。
 ああ、きっと「相棒として」って思われてるんだよね。
 ――っていうか、危なかった!!
 さすがに試験直前。そんなこと言ってる場合じゃないもん!
 やる気が疑われてしまう!!
 そらくんはふと尋ねた。
「理花、試験っていつだっけ」
「十九日……と二月の三日」
 三日がラストチャンスだ。
「そっか。いよいよだな」
「うん。今度こそ、がんばるよ。絶対に千河に行きたいから」
 わたしは笑う。
 でもどうしても顔が引きつってしまう。
 絶対に千河に行きたい。
 でも、チャンスは一般試験の二回のみ。
 考えると、なぜだかすごく息苦しくなる。
 そらくんはわたしの手を握って、踵を返す。
 そして本殿に向かって駆け出した。
「お参りするぞ!」
「……うん!」
 わたしはそらくんについていく。
 手水舎の冷たい水で手を洗うと、本殿(ほんでん)の前に立つ。
 パンパン!
 二回手を打つと、
「理花が、試験で力を発揮できますように!!」
 そらくんが大きな声で言う。
 周りにいた人がくすくす笑う。
 ちょっと恥ずかしかったけど、わたしはお腹に力を入れて言った。
「そらくんが野球で活躍できますように!」
「――次こそはな! あ、それからパティシエになれますように!」
 そらくんが付け加える。
 欲張りなお願いをするそらくんに、ああ、いつものそらくんが戻ってきた! とわたしはすごく嬉しくなる。
 ますます周りの人が笑う。
「かわいいわねえ」
 そんな楽しげな声に顔を赤らめながらも、心がホカホカしてくるのがわかった。
 うん、そらくん、お参り、効果抜群だよ――!

5. チャンスはあと一回

 それから試験まではあっという間。
 ――さらに、合格発表の日もあっという間だった。

 合格発表は、パソコンで結果のボタンをクリックするだけだ。
 試験は……この間の推薦のときよりは手応えはあったけど……でも。
 塾で自己採点をしたあと、解けたつもりだったのに解けていなかった問題が何問かあって、それが気がかりだったんだ……。
 ケアレスミスって言われるやつ。
 どうだろう。
 心臓が皮膚を突き破って出てきそうなくらいドキドキしながらも、わたしはボタンを押す。
「…………あ」
 試験結果の画面で固まるママとパパ。
 画面には『残念ですが不合格です』の文字があった。
 言葉を失う二人に、わたしはあえて笑った。
「……次があるから」
 最後の一回が残ってる。
 大丈夫。
 次こそは合格してみせる。
 だって、わたし、そらくんに、そしてみんなにがんばるって言ったから。
 最後まであきらめたりしない。絶対に。
 そう思って拳を握りしめる。
 だけど。
 ツキン。
 なんだか急に頭痛を感じてわたしはとまどう。
 あれ?
 なんか……頭が、痛い、気がする……。

「うーん、熱はないんだけどね……一応お医者さんに行ってみようか」
 ママに促されて病院に行ったけど、
「ちょっとだけ喉が赤いですが……風邪でしょうねえ……」
 とお医者さんに言われた。
「とにかく睡眠が一番ですよ。ちゃんと眠れてますか?」
 尋ねられ、わたしはためらったあと首を横に振った。
 よく考えると、あんまり眠った気がしない。
 眠らなきゃって思えば思うほど、なんだか目が冴えてしまって。
 そうしてるのがもったいないから机に戻って勉強したり。
 そんな日が続いていた。
「ええと、入試が近くて」
 ママが隣で説明すると、「それは大変ですね」とお医者さんは心配そうにした。
「頭痛薬を出しておきます。消化の良いものを食べて、体を温かくしたらよく眠ってください。インフルエンザもまだ流行ってますから、免疫力を上げておかないと」
 そう言われて病院をあとにする。
 うーん……。
 と言われてもどうしよう。
 ママはさっそく、スマホで消化に良いものを検索中。
 だけど、「ううう、ムズカシそう……」と眉間に皺を寄せている。
 のぞき込んだけど、ちょっと苦手そうな食べ物がずらりと並んでいる。
 多いのはお粥や雑炊やうどんだった。
 わ、わたし、お粥とかちょっと苦手なんだよね……。
 味も薄いし、食べた気がしないっていうか。
 消化にはいいかもしれないけど、それが毎日だと辛いなあ。
 でもしょうがないか……。
 体調を整えるの、大事だよ。
 試験中に頭痛かったら、絶対いつも通りに解けないよ。
 試験まであと少し。
 勉強も大事。でも体を整えるのも大事。
 準備をするのも試験の一部なんだと思った。

 そうは思ったものの。
 次の日。
「ママ……ちょっと頭、痛い……」
 熱を測ってみるけど、平熱だった。
「うーん、念のためお休みする?」
「学校には行きたい……」
 今日休んじゃったら、きっと、みんな心配すると思う。
 この間心配かけちゃったから今度は心配させたくないよ。
 それにあと二ヶ月くらいで卒業だし、みんなと過ごす時間、ムダにしたくない。
 でもやっぱり頭が重たい。
 しっかり眠れなかったから弱ってるのかも。
 だからといって前みたいに起き出して勉強はしてないんだけど、お布団にいるのに眠れてないのがもったいないなって思ってしまう。
 頭痛薬を飲んで痛いのをごまかす。
 少しでもマシになるといいなって思って、こめかみを揉みながら学校の門をくぐると、そこにはゆりちゃんたちが待っていて、おはようと声をかけてくれる。
 ゆりちゃんたちの顔は引きつっている。結果が気になるんだろうなって思って、わたしはすぐに言った。
「ダメだった。ケアレスミスしちゃったんだ」
 するとゆりちゃんたちはなんだか泣きそうな顔になった。
 うわあ、そんな顔しないで!
 あわててつけ加える。
「でももう一回あるから大丈夫だよ!」
 そう言ったとき、
「そうだ、理花なら絶対大丈夫!」
 大きな声がして振り向くと、そこにはそらくんがいた。
「だよな?」
 力強い笑顔に励まされ、わたしはうなずく。すると、ゆりちゃんたちはハッとしたように泣きそうな顔をやめた。
「だよね! 絶対大丈夫!」
「理花ちゃん、がんばってるもん!」
「次は絶対受かるから!」
 みんなが励ましてくれるのが嬉しくて、ちょっと泣きそうになるけど、ここでしんみりしちゃったら台無しだ!
「ありがとう!」
 笑おうとすると、ずきん、と頭が痛む。
 でも、気づかれたくなくて、それをぐっとがまんする。
 みんなが歩き出したのを見て、そっとこめかみに手を当てたところで、
「理花?」
 そらくんが眉を顰(ひそ)めると、小さな声で尋ねた。
「なんか顔青くね? 大丈夫か? 無理しすぎてんじゃねえの?」
 風邪ぎみっていうのは知られたくない。
 わたしはあわてて頭から手を離すと、ごまかすように笑った。
「大丈夫。ちょっと寝不足なだけだよ」
 でもそらくんは顔をしかめた。
「体を整えることも大事だからな。おれ、身に染みたから。いくら練習がんばってもさ、本番で体調悪かったら全部ぱあになっちまう」
 そらくん、インフルエンザで本当の力を発揮できなかったもんね。
 悔しかったもんね。
「うん。わかってる。ちゃんと十時には寝るようにしてるから」
 塾から帰ったらお風呂に入ってすぐに寝てる。
 なかなか寝つけないんだけどね……。
 でも、
「うーん……でも……」
 そらくんはなんだか納得いかなそうな顔で考え込む。
 わたしは何事もなかったように笑みを作ると、「行こう!」と昇降口に向かった。

 教室ではシュウくんがクラスメイトに囲まれていた。
 その中央には、例によってリコーダーを手にした平田リポーター。
「石橋、まじですっげえな!」
 何事? と思ったけど、すぐにわかった。
 だって、シュウくんも千河学院を受けていたから。
 ってことは――。
 わたしの胸の中に、喜びとうらやましさが湧き上がって、ごっちゃになったところで、桔平くんが近づいてきた。
「シュウ合格したって。千河学院と、あともう一個なんかすげーとこ」
 わたしの表情から結果がわかったのか、桔平くんはちょっと申し訳なさそうに教えてくれる。
 とたん、わたしはうらやましさをギュッと握りつぶした。
 シュウくんなら当然の結果だ。
 素直に喜びたいって思った。
「シュウくん、すごいよね!」
 すると、周りのみんながほっとしたような顔になった。
「さすがだよな。いつも上から目線なだけある」
 桔平くんが言ってみんなが笑う。
 笑って心が軽くなったとたん、ふと気になった。
「……って、千河だけじゃなくって、もう一個?」
 わたしも、練習も兼ねて一つだけ滑り止めは受けたんだけど、そういえばシュウくんが他にどこ受けるのかは聞いてなかった。
「まじで頭良かったんだな、シュウって」
「南邦大附属(なんぽうだいふぞく)合格とかすげえ……」
 誰かの声が聞こえてわたしはギョッとする。え、そんなすごいところ受けてたんだ!? 知らなかったよ!
 南邦大付属って、すごくムズカシイ学校だよ!? すごすぎる……。
「塾の先生に勧められたんだよ。合格実績が必要なんだと思うけど」
 シュウくんはちょっとうんざりした様子で言った。
 ああ、塾のチラシに、〇〇中学に何名合格! って書いてあるの見たことある。あれのためなのかな。宣伝になるってことなのかも。
 そんなことを考えていると、シュウくんがこちらをチラリと見た。
 視線が合うと、シュウくんが目を見開く。
 ちょっと心配そうな、もの問いたげな顔を見て、わたしは小さく首を横に振る。
 わたし、ダメだったんだ。
 するとシュウくんは眉を寄せ、口をギュッとつぐんだ。

 シュウくんが悲しんでいるのを感じて、申し訳なかった。
 二人で合格しようって言ってくれたのに。
 でも。
 わたし、がんばるから。
 一緒の学校、受かってみせるからね。
 そんな気持ちを込めてシュウくんを見ると、シュウくんは力強くうなずいた。
 (つづく….)

受験の"ラストチャンス"にいどむ理花。
そんな理花をはげまそうと立ちあがった、そらの"作戦"って…?
ふたりの「実験」と「恋」の結末にも注目——!?

🍀つづきは11月13日(水)発売の本を読んでね!

理花のおかしな実験室(13) 究極のこたえ
作・やまもとふみ 絵・nanao
ISBN:9784046323378
定価: 814円 (本体740円+税)

★作品情報ページ
https://www.kadokawa.co.jp/product/322405000666/