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自由研究お役立ち回!「マス×コン!(2)」スペシャルためし読み(全6回ぜんぶ読める!)

夏休み特別企画! 
『マス×コン!(2) 好きな人の前で顔が赤くヒミツって!?(8月7日発売)』スペシャルためし読み公開中!
今回はなんと、自由研究に役立つスペシャル回をトクベツに公開💯

お話に出てくる実験は、すぐマネできちゃうから、
夏の自由研究に大活躍
すること間違いなし! ぜひチェックしてね☆

登場人物紹介
あらすじ
目次


「マス×コン!(2)」ためし読み 第1回
 新学期! ドキドキのクラス替え発表!

 6年生になった、最初の日の朝。
うたねぇえええ! いつまで寝てるの。今日から6年生、小学校の最終学年よ!」
 っていうママの声が聞こえて、
「うぐぅううう……ママ、おはよう……。もう、朝……?」
 わたしはなんとか、目を開けた。ふとんがふわふわ、気持ちいい……。
「もう朝です、春休みは終わったのぉおおお! ったく!
 なかよしの圭介(けいすけ)くんなんか、春休み中にも早起きして、模擬テストなんか受けに行ってたんだってよ? あんただって、せめて早起きくらい、毎日できるようになってよ~。そうだ、ママと約束しよっか。ハイ、指切り」
「ぅぅう、なにそれ……ふわわわわぁ」
 ママは小指をわたしの小指にからませて、ぶんぶん、ふった。
「これは約束を守るっていう、ちかいのしるしよ。指切りしたから、詩音(うたね)は明日から毎日必ず、早起きしないといけないの。いい?」
「うぅ……がんばります……」
 なんだかよくわかんないけど、朝からプレッシャーすごいよ、ママ!

「模擬テストってなに?」
 家の前で、幼なじみの颯(そう)に会ってすぐ、わたしはきいた。
「知らね」
「春休み中、圭介が受けたんだって」
 学校に向かって、いつものように歩き出す。6年生になっても、これはおなじ。
「あー、なら、受験のための、なんかあれだろ、実力テスト」
「受験のため!? さすが圭介……中学受験、準備してるんだね……」
「もう6年だからな。あ、ちなみにオレは、6年生だから、陸上部の部長」
「え!? 部長!? って、もう決まってるの?」
 圭介も颯も、6年生でがんばることが、もう決まってるんだ!?
 わたしなんか、なんにも考えてないけど……やばいかな……。
「春休みの前に、コーチから相談されたんだ、『おまえやるか』って。でもまだ、クラブ活動の日まで、みんなにはひみつな」
「すっご───い! 颯、カッコいいんだね! びっくりした!」
 って言ったら、颯の顔がいきなり、カッ! って赤くなった。
「バッ、変なこと言うな!」
「あれっ、顔赤いよ? なんで?」「知るか!」
「おはよー」
 って、わたしたちに加わったのは、親友のアーちゃん。朝陽(あさひ)っていう名前だから、略して「アーちゃん」なんだ。
「あれ、颯、顔赤い? どうしたの」
「るっせ、知らねえってば」
 そこに、だれかが走ってくる足音がして……。
「おはよう」
 軽く息を切らせて、圭介が後ろからやってきた。
「やっと追いついた! あれ、颯、顔赤くない? どうした?」
「おまえらなあ───知らねえよ! 顔なんか、勝手に赤くなるもんなんだよ!」
 しまいには、颯もわらいだしちゃって、4人でわらいながら歩いた。
(こうして4人で登校できるって、やっぱり、チョー幸せ!)

 学校に着くと、
「校長室でプリントを受け取って、教室に持ってきてくださーい」
 って餅本(もちもと)先生からたのまれて、わたしたちは校長室へ。
 校長室には、校長代理・アキト先生がいて、
「校長代理としてまた1年、がんばります。みんなもいっしょに、勉強しよっ」
 って言ったから、わたしたち、
「うん!」「はあい!」「おっしゃあ!」「良かったぁあああ!」
 うれしくて、飛び上がっちゃったんだ!

 で、そのアキト先生ってだれ? っていま、思ってる人、いるよね? 大丈夫。いまここで、3行で説明するね。

 アキト先生は、校長室のお花と魚の、世話係さんだった。だけど校長先生が病気でお休みしてたとき、勝手に校長代理になって、特別課題「ミッション」を出して、勉強っておもしろいってみんなに教えてくれて、全校の成績をレベルアップさせちゃったんだ!

 ね、ちょっと変わってる……でも、えらい先生でしょ?
 アキト先生は、プリンタから紙の束を取り出して、言った。
「そうそう、うたちゃんは、餅本先生のプリント、取りに来たんだよね? はい、どうぞ」
 わたしは、紙の束を受け取って、
「──あれ?」
 首をひねった。紙束のいちばん上の紙に、こう書いてあったから。

 ミッション:なかよしの子と同じクラスになれる確率、教えて! とんとん!

「『ミッション』!?」
 わたしも、アーちゃんも颯も圭介も、いっせいにさけんじゃった。
 だって、いつものアキト先生の、元気な手書きの文字だし。
「アキト先生、これ、わたしの6年生最初のミッションなの?」
 新年度、いきなり、盛り上がってきた!
 ミッションの紙をめくったら、下は、印刷された『6年2組通信』だった。
「それを取ってくるように、餅本先生からたのまれたっていうことは?」
 って、アキト先生にきかれて、わたしは元気に答える。
「餅本先生は6年2組の担任! で、わたしは、6年2組になるってことだあ!」
「そのとおおおおり! じゃ、あとの3人はどうかなあ?」
 と、アキト先生は、わたしたち4人全員の顔を、ぐるーっと見回した。
 ……ドキ…………。急に、不安になってきた。
 わたしたち4人、5年生のときは、たまたま、いっしょのクラスだった。
 じゃ、6年生は?


「マス×コン!(2)」ためし読み 第2回
 仲よしの子と同じクラスになる確率って!?

「4人みんな、同じクラスになれる確率って、ホント……どのくらいなのかな」
「じゃ、ここに書いて、考えてみる?」
 ガラガラッ、と、アキト先生が、ホワイトボードを引っぱってきた。
 キュポッ、とペンのふたを取ると、颯に手渡す。
 颯は、ホワイトボードに、「うた 6年2組」と書いた。
「6年のクラスは1組と2組の、2つ。だから、だれかが6年2組になる確率は、1/2だな」
 と、圭介が言うのと同時に、
「わかってるっつうの」
 と、颯が、『颯 1/2』、とホワイトボードに書く。
「オレが6年2組になるのは、1/2の確率」
「おれもそうだ」
「私もね」
 と、颯と圭介とアーちゃんが、自分の名前と確率を、ホワイトボードに書く。

 うた 6年2組
・ 颯が6年2組になる確率 1/2
・ 圭介 1/2
・ 朝陽 1/2

 ホワイトボードに、4人の名前がならんだ。
「でー、1/2の確率の3つのことが、ぜんぶ起こる確率って……」
 わたし、じーっと考える。
「1/2と1/2と1/2を足して、3/2……あっ、ちがうか!
「うん、そうじゃないな」
 圭介も、とっくに気付いてる。
「うんうん、3/2って、1より大きいもんね?」
 1より大きい確率って、それはこの場合、なんか、おかしい気がする。
「うたちゃん、そのとおり! これは、図を描いて考えてもいいかも」
 アキト先生が、近くにあった紙に、ババババッ、と図を描き出した。
 それは──
「5年生のとき、ミッションでたくさん描いた、樹形図だ!
「そう! こうして、うたちゃんが2組のときに、颯が1組と2組になる2通りの可能性があって、そのそれぞれのときに、圭介が1組と2組……アーちゃんが1組と2組……」

 どんどん、図が広がってくよ。
「倍、倍、さらに倍……!」
「そうだね。ってことは……1/2と1/2と1/2を……かけるんだ」
 って言った圭介の顔は、すこし、あおざめてるみたいに見えて──。
「分数のかけ算って、えっと」
「1/2×1/2×1/2=1/8……」
 わたしまで、おなかがひやりとするような、こわい気持ちになった。
「8分の1の確率? 8回に1回起こるくらいの確率、ってことか?」
 颯が、目をまるくする。
「じゃ、5年生のときに4人いっしょだったんだから……もう、なくない?」
 と、アーちゃんが言って、みんな、しん、となって……。
「──見に行こう」
 って、圭介が言うのと同時に、わたしは、校長室からかけ出してた。
 圭介と颯とアーちゃんも、すぐに、あとに続いた。

 6年1組と2組に、それぞれ分けた、クラスメートの名前のリスト──。
 その大きな紙は、6年1組と2組の教室の間に、はってあった。
 わたしたちは、ほかの子たちにまじって、名前をさがす。
「川原(かわはら)、詩音……これだ! やっぱ2組だ」
「竹長(たけなが)、朝陽……あったぞ」
「先崎(さきざき)……颯! ほら、ここ!」
 と、どんどん、すぐ見つかる。
「えっ、みんな、2組にいる!?」
「…………樫木(かしのき)……圭……介。見つけたあ!」
 圭介の名前は、ちょっとかがやいてるみたいに、特別に見えたよ。
「4人とも、6年2組だったね!」
 わたしたちは、手を取り合って、よろこんだ。
「おまえ、オレらといっしょに勉強したくて、転校するの、やめたんだもんな。
 別のクラスだったら、残念すぎだよな!」
 って、颯は、圭介の背中をたたいてわらってる。
「そうだね……本当によかったよ。また4人、いっしょだな」
 圭介の、安心した笑顔を見ていたら、うれしさが、さらに盛り上がってきた!
「ねっ、これって、きせきみたいじゃない!?」
「だな。確率、1/8のできごとだからな」
「しかも……」
 わたし、もっとすごいことに気がついちゃった!
「それが、5年生のクラスと、6年生と、2回続けて起こるって、すごくない?」
「1/8×1/8で、1/64の確率なのでは……」
 と、アーちゃんが計算しながら、あんぐり開いた自分の口を、手で押さえる。
「ハァッ!? す、すごくない!?」
「なんだか感動する!」
 アキト先生のミッションのおかげで、どれだけ大変なことが起こったのか、よくわかった!
「確率知ってたおかげで、シアワセ、かみしめちゃうね~!」
 と、アーちゃんと、手を打ち合ってよろこんじゃったよ。

 リン、ゴーォオオオン、って、始業のチャイムが鳴った。
「全校児童は、校庭に集合、整列してください」
 教頭先生のアナウンスが流れて、わたしたちみんな、ぞろぞろ外に出ていく。
 学年の1日目だから、いつものように、校庭で始業式をやるんだね。
 どこからか、白い小さなものが、ひらひら、風にのって降りてきて、
「あっ、桜の花びらだぁ」
 なーんて、整列しながら、ながめていたら、
「はい、みなさん、ちゃんとならんで。学年の初めに、校長代理からお話があります」
 と、教頭先生のアナウンスが流れた。
「校長代理って、アキト先生?」
「いねえじゃん」
 校庭の前にある朝礼台には、アキト先生どころか、だれもいない。
 そのとき、
〈パーパーパーパラッパ、パッパッパラッパアン!〉
 と、軽快な電子音の音楽が、流れてきた。
「なっ、なに!?」


「マス×コン!(2)」ためし読み 第3回
 新ミッションスタート!

〈みんな、前を見て〉
 と、スピーカーを通して流れてきたアナウンスは、アキト先生の声。
 見たら、校庭の前方、屋上を囲むさくの上から、スルスルスルスル……。
 って、巨大なスクリーンが降りてきた!
 その、映画館にあるような、めちゃ大きい白い布に映し出されたのは──。
 ──アキト先生の、にっこにこの笑顔!
〈──校長代理のアキト先生から、新年度の、おっ知らっせでっす!
 みんな、昨年度は、ミッションにがっつり取り組んでくれて、どうもありがとう!
 さて、今年度からは、ミッション課題は、校長室に取りにこなくても、OKです〉
 アキト先生、人差し指と親指で、OKサイン。
〈そのかわり、ミッションは、みんなのまわり、どこにでもあります!〉
「えっ……」
「どういうこと?」
 わたしとアーちゃんは、スクリーンにむかって、口をぽかんと開けた。
 今までは、ミッションって、校長室に行って、校長先生から、直接もらうものだったもんね。
〈ミッションは、いつも学校のどこかに、かくされています。
 たまたま、ミッションを見つけちゃった人は、それ、絶対にクリアすること
「どっ……どこかに、かくされてる?」
 わたしが首をひねると、
「あっ、さっきの、プリンタから出てきた紙みたいな──」
 と、アーちゃん。
「そっか! ああやって、とつぜん、ミッションが目の前に現れたりするんだ……」
 と、わたしも納得。それって、毎日がドキドキなんじゃ……?
 巨大スクリーン上のアキト先生は、話を続ける。
〈ミッションクリアできなくても、昨年度みたいに、夏休みがなくなったりとかは、しません〉
「おお─────!」
 全校児童、よろこびの声!
 昨年度までは、休みがなくなるんじゃないかって、いつも、はらはらしてたもんね。
〈ミッションクリアを報告してくれた人には、記念のバッジをあげます。
 ときどきながめて、ミッションの内容を復習できるようにね。あっ、それから……〉
 アキト先生は、かがんで、こそこそっと、耳打ちするみたいに……、
〈ミッションで、友だちと協力するのは、アリ。むしろ、オ・ス・ス・メ〉
 そこでアキト先生は、姿勢を正すと、
〈この新しいミッション・システム、名付けて、
 すます強力におもしろすぎて、
 ごいやる気が出てみるみる成績が上がっちゃって、
 小学校の勉強をばっちりコンプリートできるようになる──、
 ──マス×コン・ミッション・システムって呼んでくださいっ!〉
 マス×コン、っていう字が、ドカーンと出てきて、
〈ところで、みんながミッションをどんどんクリアしてくれない場合……、
 ぼく・アキト先生は、校長代理をクビになります!
 校長代理がいなくなったら、チクトク学園は、即・閉校です!
 みんな、速攻バラバラで転校しないといけなくなるから、そこんとこ、よろしく

(速攻、バラバラ…………!?)
〈じゃ、これで始業式、終了。教室にもどってくだっさい!〉
 シュバッチ! という音とともに、アキト先生の映像は、切れた。
 全学年のみんな、どよどよどよどよ……。
「いままでの小学校生活の中で、いちばん短い始業式だったわ」
「始業式って、いつも長くて退屈だと思ってたけど、今回はおもしろかったな」
 なーんて、アーちゃんと颯は、のんきに話してたけど、わたしは、おろおろ。
「閉校で、みんなバラバラに転校とか、ヤバくない!?」

「そんなこと、そうそう、なるわけないわよ」
「アキト先生、いつも大げさなんだよな」
「そうかなあ……」
「とにかく、ミッションしっかりやれ、ってことだと思うよ」
 って、圭介に肩をたたかれて、わたし──、
(そうだよね。ミッションをしっかりやっていれば、きっと、大丈夫なんだ。
 4人でいっしょにいられるように、6年生のミッションも、がんがんやるぞお!
 ──うん、ってうなずいた。

 そして、教室で、わたしたちを待っていたのは──。
 ──ミッションクリア記念バッジを入れる、コレクション・ボックス

 それが、全員の机の上に、置かれてたんだ。
 今年度のコレクション・ボックスは、ツルツルでカラフル!
 わたしがもらった色は、かわいいピンク! 圭介は青、アーちゃんは緑、颯は黄色だった。
 フタにはとうめいな窓があって、中に入れたバッジが、見えるようになってる。
 新しいミッションをどんどんクリアしていく一年が、また始まるってかんじ、するなあ……!
「カッコいい箱だね! やる気出ちゃうよね」
 わたしは、となりにいた圭介に、言った。
 そのとき圭介は、バッジのコレクション・ボックスを持ち上げて、中をじっと見てた。
 なにか考え込んでいるみたい。
「どうしたの? なにかあった?」
 圭介は、あっ、と気がついたみたいに、わたしを見て──。
「なんでもないよ。今年度も一年、おもしろくなりそうだね」
 って、にっこり。
 圭介、そうやって、ちょっと考え込むくせがあるのは、1年前と変わらない。
 なぞめいていて、いつも気になるんだよなあ……。


「マス×コン!(2)」ためし読み 第4回 
全教室のゴミ、ゼロにするのに何時間かかる?

 教室にもどってから、席替えのくじびきがあった。その結果は──。
(あわわわわわ……すっごい、当たり!)
「当たり、当たり。うたちゃんと私がとなりどうしなんて、大当たりだったね!」
 アーちゃんも、大よろこび。颯は、わたしのななめ前にいる。
 圭介は、わたしのななめ後ろ。
 ふりむいたら、すぐ、圭介が見えるんだ……!
 ──って、ふりむいてみたら、圭介が、またコレクション・ボックスを持って、じっと見てるのが見えた。
 ……なにを考えてるんだろ……気になる。
「はい、みなさん、新しい席につきましたねー?」
 餅本先生が、みんなに紙を配りだした。
「では、『入部届』の紙を配ります。
 このチクトク学園では、6年生になったら、全員、クラブ活動に参加しないといけません。
 2週間後の月曜の放課後までに、入部するクラブを決めて、この紙を提出してください」
 えぇええええーっ!
 6年生は、クラブに入らないといけないの!?

 わたし、今までなにもやってなかったから、困っちゃうな。
 餅本先生は、続ける。
「4年生や5年生のときと同じクラブでもいいし、新しいところに入ってもいいです。
 2つまでなら、かけもちしてもいいけど、どちらもしっかりね。
 それに、勉強がおろそかになっては、だめよ。クラブと勉強の両立、とっても大事です。
 では、今日はこれでおしまい。
 明日から、通常授業です。しっかりやりましょう!」
 きりーつ、れーい、さよーならー。
 すぐにアーちゃんと颯、圭介に、
「いっしょにかーえろっ」
 と言おうと思って、後ろを見たら、もう、圭介がいない。
「あれ? 圭介、どこ?」
 って、教室を見回したら、ずーっとおくのほうに、いた!
 圭介、そうじ用具入れから、ほうきを取り出してる。
「なに、いきなり、そうじしてんだよ。今日はそうじ当番、ないだろ?」
「そうよね。お昼の前に、学校が終わっちゃうから」
 と、颯とアーちゃんが、圭介に声をかけた。だけど圭介は、
「今から、教室そうじにかかる時間を計るんだ」
 って、折り目がたくさんついた紙を、わたしにくれた。
 そこには、アキト先生の元気な字で──。

 ミッション:全教室のゴミ、ゼロにするのに何時間かかる? 教えて! とんとん!

 わたしは、紙をつかんで、じーっと見つめる。
「これ、アキト先生のミッション……?」
「そうなんだ。おれのコレクション・ボックスに入ってた……」
 圭介は、ハア、と短いため息をついて、床をはき始める。
「今日のそうじは、おれがやるってことだよね」
「そんな! そうじを1人でやるなんて、いくらミッションでも、やりすぎだって!」
 チクトク学園では、そうじは毎日、昼休みに、班ごとに手分けしてやってる。
「そうね。そんなミッション、アキト先生らしくないかも」
 と、アーちゃんも、首をひねる。
「じゃ、とりあえず、みんなで、すっか」
 颯はもう1本、ほうきを出してきて、床をはきだした。
「じゃ、私たちは、机を動かそう」
「うん!」
 アーちゃんの言葉につられて、わたしも、働き出す。
「そんな、いいよ。みんな、自分のミッションを見つけて、それぞれでやるんだろ」
 と、圭介は、すまなそうにしてる。でも、
「ミッションは協力するのがオススメって、アキト先生、言ってたよね」
 って、わたしたちは、どんどん作業を進める。
 始めて30分で、ひと教室、やっと終わった。
「けっこう、ゴミ、落ちてたねー」
「昼休みの前に始業式が終わったから、今日はおそうじ、してないもんね」
「それにいつもは、教室そうじって、クラスの半分でやるよね」
 クラスはいつも、2つのおそうじ班に分けられる。
 1つの班は教室をそうじして、あとの班は、特別教室とか、校庭とかに行く。
「いつもは人が余ってて、サボって遊んでる人も多いよね」
「それが4人だけだと、こんなに大変なんだ……」
 って言ってるうちに、
「あっ!」
 っていう、圭介の声。
 クラスの男子の足もとに、まるめた紙が、転がってた。
「これだと永遠に、ゴミゼロにはならない……。
 もしかして、このミッションは、永遠に終わらない……?」

「えっ、ごめん。ポケットに突っ込んだつもりだったのに、落としちゃって……」
 と、あわてて言い訳を始めた男子に、
「はい、これ」
 アーちゃんは、ほうきとちりとりを手渡した。そして自分のメガネを取ると、
「だれかがきれいにしてくれると思ったら、大まちがいなのよね」
 って、ギロッと、その子を裸眼でにらむ。
 それは昨年度、5年2組でクラスメート全員におそれられた、「クラス委員にらみ」
「はい、自分ではきますっ!」
 男子はおどろいて、ほうきでゴミをはき取ると、ゴミ箱に捨てた。
「アーちゃん、さすがの迫力」
 わたしは感心しちゃったけど、このままじゃ、よくないよ。
「ゴミゼロなんてミッション、絶対無理! アキト先生に、抗議に行こうよ」


「マス×コン!(2)」ためし読み 第5回 ミッションのナゾが明らかに⁉

 トントントン、と、校長室のドアをノック。
「開いてるよ~」
 という、いつものアキト先生の返事。
 ドアを開けると、私たちが話し出すよりも早く、
「うたちゃん! 朝のミッションの感想、どうだった?」
 アキト先生が、わくわくした顔で、きいた。
 朝のミッションって、あの、
 なかよしの子と同じクラスになれる確率、教えて! とんとん!
 ってミッションのことかあ。
「この4人で同じクラスになれる確率って、かなり低いってミッションでわかってたのに、やっぱり同じクラスだったから、すごくうれしかった」
「そうね。特別なことが起こったってかんじ」
「ありがたみが、あったよな」
「まさか、あれ──」
 圭介が、ふっと、まじめな顔で言った。
「──アキト先生が、わざと、おれたちを同じクラスにしたとか……?」
「いや、そんなことない! そんなことないよ!」
 アキト先生は、両手をぶんぶんふって、否定したけど、
「ホント?」
「あやしい……」
 なにを言っても、なーんか、あやしいんだよね、アキト先生。
「でも、確率が新学期のよろこびを盛り上げてくれたね。それ、正解! ミッション、クリア!」
 アキト先生が、スマホをタップすると、パンパカパーン! と、効果音。
「協力した4人全員に、クリアの記録がつくよ」
 と、アキト先生はうれしそうに、目の前のタブレットに、パタパタ、データを打ち込んだ。
「それに、ミッションクリア記念のバッジをあげまーす」
 と、机の形のバッジをくれた。
「わっ、かわいい! ありがと!」
 こんなバッジを集めていくなら、今年度のミッションも、やりがいあるなあ。
 ならべたら、ミッションについてのアルバムみたいに、いい思い出になるよね。
「──って、それはいいけど、アキト先生! ミッションで、無理なそうじをさせるなんて、ダメだよ!」
「無理なそうじ?」
 アキト先生は、首をかしげた。
「圭介のミッション。全教室のゴミ、ゼロにするのに何時間かかる? ってやつ。
 いつも教室そうじは、班で手分けしてやるんだもん。
 1人でやるのは大変すぎ。今日は4人でやったから、30分でできたけど」
「おっ! そうか」
 アキト先生は、ホワイトボードに、4人 1教室 30分 って書いた。
「で、教室はいくつあるんだっけ?」
「1年生から6年生まで、各学年2クラスだから、えーと、12教室だよね」
「じゃ、そのぜんぶのそうじを4人でやったら──」
 アキト先生が、キュキュキュキュキュッ、と、ホワイトボードに式を書く。
30分×12教室=360分
360分=6時間

「30分が12倍で、360分。つまり6時間でできるってわかる」
 すると圭介が、話をひきついだ。
「それが1人だったら、1人で4人分の働きをしないといけなくなる。4倍の時間が必要です。
 だとすると、6時間×4=24時間──まる1日っていうこと。
 つまり、1人で全教室をゴミゼロにするには、次の日の同じ時間までかかる……
「そのあいだに、またゴミ捨てるやつもいるし、ゴミゼロなんて無理じゃねえ?」
 と、颯が口をはさんで、圭介がうなずく。
「うん。だからこのミッションは、クリア不可能じゃないかな……」
「だよね。なんでこんなミッション、出したの、アキト先生?」
 って、わたしも質問する。わたしたち4人とも、アキト先生を見つめてる。
 アキト先生は、真剣な顔で、首をかしげてきいた。
「それは、みんなの考えを、聞きたいからなんだ。こうやってそうじしてみて、思ったこととか、ある?」
「私、あるわ。昼休みのおそうじの時間って、15分なんですけど──」
 と、アーちゃんが、手を挙げて話し出した。
──いつも人が余ってて、遊んでる人が多いのよね。あれ、問題だと思う
「クラスの半分の、15人でやってるんだもんね。余るよね」
 いま、4人でそうじしてみたところだから、15人って、すごく多く感じるよ。
「なるほど。教室そうじを15分で終わらせるには、本当は何人が必要なのかな?」
 って、アキト先生にきかれて、わたしたちは考える。
「えっとー、4人でやったら30分かかったんだから……15分は、その半分で……」
「4人の2倍の、8人でやればいいんじゃね?」
「あっ、颯! 今、わたしが言おうと思ったのに」
 と、わたしが颯に、ムカついた顔を向けたところで、
「そう。教室のおそうじ班は、8人がいいと思います」
 と、アーちゃんが、考えをまとめた。
 そのとき、わたしは、ハッとひらめいちゃった!
「そしたら、15-8=7で、7人、あまるよね?
 あまった7人には、まだ手が回っていないところを、やってもらったら?」
「あまった7人──特別おそうじ隊『スペシャル7』だな」
 って、また颯が、おいしいとこを、もってったぁああ。ムカつくぅ。
「っっっ………………」
 と、アキト先生は、ゆかにうずくまったかと思うと、
「せいかぁあああああい! ミッションクリア─────ッ!」
 と、とび上がる。
「えっ」「これでいいの!?」「ゴミゼロにはできなかったのに」
 わたしたち4人、あきれちゃった。
「いいの、いいの。4人で協力したから、4人にミッションクリア、つけとくねえっ」
 アキト先生は、また、タブレットにパタパタ、なにか書きこんだ。
「それに、ごほうびのバッジもあげるー!」
 と、こんどは、ほうき形のバッジをくれた。
「えっ、うれしい! ありがとう!」
「そうじについての意見は、夕方の職員会議で、先生方に伝えるね。ありがとんとん」
 アキト先生は、パチパチ、拍手。
「そうじも大切だけど、今回わかってほしかったのは、仮説実験・結果考察についてなんだ!」
「5年生のときに、ミッションで習ったよね……たしか、仮定が大切だとか……? 仮定って、仮のなにかを、ホントのこととして考えてみる……みたいなことだったっけ?」
 アキト先生は、うれしそうに、こぶしをつくってふりあげた。
「そうなんだっ、うたちゃん、それそれ!
 きみたち、5年生のときから努力して、考えたり予想したりすることが、上手になってきたよね。だから疑問があったら、それに対する仮の答え──仮説──を出すことができると思う。
 でも、それを実際にためしてみたら、ちがってたりすることも、あるかもだよね?
「たしかに、そうじのあとにゴミを捨てる人がいたりして、想定外のことが見えてきました」
 と言う圭介に、アキト先生は、またうなずいて見せる。
「そう、それが実験結果。もしかして、圭介が1人でそうじしていたら、永遠に終わらなかったかもしれない。まさにそれは、永久そうじ地獄!」
 1人で永久そうじ地獄にはまっている圭介を、わたしは、想像してみた。気の毒すぎる!
「ミッションで困ったら……いや、そんなに困ってなくても、だれかに相談して助けてもらうのは、とっても大切。とくに実験するのは、1人だと大変だからね。
 実験結果について考察するのにも、仲間の意見はおおいに役に立つ。
 今みたいに、新しいおそうじのやりかたを、提案したりもできるしね!」
「あ──────────っ!」
 わたしは急に、大きな声を出してしまった。
「なに? どうしたの?」「おどろかせんなよ」「どうかしたの」
 アーちゃんと颯、圭介が、きいてきて、
「うたちゃん……なんか、いいこと思いついたの?」
 と、アキト先生が、にやりとして、きいた。
「うん。でもアキト先生には、まだ、ひみつ!」
 わたしも、にやり。
 そして、校長室をかけ出した。

 教室にもどって、すぐ、
「ね、学校のみんなのミッション、4人の力で助けられないかな──クラブ活動で!」

 って、わたしは、3人に言ったんだ。
「えー、クラブで?」「んなこと言ったって、そんなクラブ、ねえだろ?」
 と、アーちゃんと颯がおどろく中、
「ほらっ、ここ!」
 わたしは、机の中から『入部届』の紙を出して見せる。
 紙には、自分の名前と、今年度参加したいクラブの名前の欄。
 その下に、ち────っちゃな文字。それをわたしは、指さす。
〈新しいクラブを作る場合、部員は4名以上必要です〉
「新しいクラブ、作ってもいいってこと?」
 アーちゃんは、目をまるくする。
「うん。知らなかったでしょ? わくわくしない? この4人で、クラブ作ろうよ。
 ミッションで困った人を助けるクラブ。困ったら、だれでも相談に来られるの!
「助けるったって……オレら、だれかのミッションとか、助けられるのか?」
「そうねえ。私たちだって、わかんないことだらけだし……むずかしくない?」
 颯もアーちゃんも、心配顔。
「うーん、そっか、わたしなんかが助けるとか、無理かなぁ。圭介は……?」
 と、そうっと、圭介の顔を見た。
 そしたら、圭介は、にっこにこの最高の笑顔で言ったんだ。
「それ、すっごくいいな、詩音!」
「………………ホント?」
「詩音や颯やアーちゃんが助けてくれたから、おれはさっきのミッションを、クリアできた。
 そうだろ、詩音」
 って、圭介に言われて、わたし、目の前が明るくなったような気がしたよ。
 圭介のミッションを、わたしや颯やアーちゃんが、助けたんだ。
 あんなにしっかりしてて、勉強もできる圭介の助けに、わたしも、なることができた。
 それって……、それって……、

「……それって……、すごくない?」
 圭介は、わたしにむかって、深くうなずく。
「でもさ、助けてくれるだれかが身近にいない子だって、いるんじゃないかな? そんなとき相談できるクラブを作るって──すごくいいと思うんだ!」
 なーんて、いきなり大賛成されて、わたしは大感激。
 そんなステキなことに、もしこの4人で取り組めたら、すっごくうれしいなあ!
 だれかから頼りにされるような、そんな自分に、もしかしたら、なれるかも…………?
「──じゃっ、じゃあ、クラブいっしょにやっ──あっ、でも、圭介は、陸上部だから──」
「詩音がやるなら、おれ、両方やるよ。できるだけ協力する」
 信じられない気持ちで、わたしは、圭介の顔を見つめてた。
(ゆ、ゆ、勇気、百倍~~~!!)
「そうねえ。ミッションをどんどんクリアしないと、バラバラに転校することになるって、アキト先生も言ってたし……全校のミッションを助けるクラブ活動って、けっこう大切かもね。私も、やるわ」
「アーちゃん、ホントに!? うれしい!」
「まじかよ……まためんどくせえことに、なりそうだなあ」
 颯は、いやそ~~な顔して、そっぽを向いた。
「じゃ、颯はやらなくてもいいようーだ」
「んだよ、オレもやるに決まってんだろっ!」
 颯はいつも、こんなかんじだよね。
「やろう、詩音」
「うん!」
 圭介とわたしは、がっちり、握手。
「これで、6年生のクラブ活動は決まりね」
「陸上部が優先だけど、つきあってやるよ」
 そこに、アーちゃんと颯の手も、加わった。
「うん。6年生って、いそがしそうだけど……クラブは、4人でがんばろうね!」
「よし、やろう!」「オッケー」「なんとかなるだろ!」
 次の日の朝、わたしは、『入部届』を出したんだ。
 川原詩音 マス×コン部
 ってね!
 4人で力を合わせて、学校じゅうのミッションを、がんがん助けるぞお!


「マス×コン!(2)」ためし読み 自由研究お役立ち回 ✨8月14日更新✨

びんの中のゆで卵を取り出そう!
★実験するときは、保護者や大人の人と一緒にやってね★

学校のみんなのミッションを助けるクラブ活動を始めることになった詩音たち。
マス×コン!部の活動で、圭介の別荘で「マス×コン!部の合宿」をすることに!
合宿の内容は、ミッション解決の特訓らしくて…?
アキト先生から次々とミニミッションの出題が! 
…全部クリアできるのか!?

「では、ここでミニミッションです!」
 と、アキト先生が取り出したトレイには、3つの牛乳びんがのってる。
 その中に、1つずつ、ゆで卵が入ってる……。
ミニミッション:ゆで卵をまるごと、びんから出して食べる方法、教えてとんとん!
 しっかりね。ちなみにこれ──スイカとゆで卵が、今日のおやつだから」
「え─────────!」
 とたんにわたしたちは、真剣に考えだした。
 まずはみんな、びんをさかさにして、そうっと、ふってみた。
 ゆで卵は、びんの中でおどるだけで、出て来ない。
 ゆで卵のほうが、びんの口より、すこしだけ大きいんだ。
「出ろ出ろ出ろ出ろーっ」
 と、颯がびんを上下にぶんぶんふると、ゆで卵がくずれて、破片が出てくる。
「ブブーッ! 颯、ミッション失敗ぃ。くずれたらダメ、まるごと出してください」
 アキト先生、楽しそう。
「でも、食っていい?」
「食ってよし」
 テーブルの上の塩を振って、颯は、くずれた卵を食べた。
「考察:うまいです」
「それは考察というより結果の感想! 仮説、実験・結果、考察の区別は大事だぞ」
「私の仮説は……そうっと引っぱれば、卵、まるごと出てくるんじゃないかしら」
 と、アーちゃんは、菜箸をキッチンから持ってきた。
 それをびんにつっこんで、卵をつかんで、引き出そうとするけど、
「すべって落ちちゃうなあ……」
 って、動かしていた菜箸が、卵につきささった。そのままびんから出そうとすると、卵は菜箸からするっと抜けて、ころっとびんの底に落ちる。
「あーっ、無理、あきらめた! 颯のほうがマシね、食べられたんだから」
「うーん……びんの中から、そうっと押せれば、スポンと出そうなのにね~」
 ゆで卵、ぷるぷるしていて、やわらかそうだから。
「それは、いい考えだけど──どうやって、中から外に向かって押す?」
 って圭介にきかれて、わたしは、いいこと、思いついちゃった!
「見てて。こうやって……」
 びんの底のほうを持って、ころんっ、と、ゆで卵をころがして、びんの口にはめる。
 ちょっとだけ、卵の頭が外に出たところで、
「遠心力!」
 ぶん! と、ふった。
「わっ、なんだそれ、武器かよ。気をつけろ、オレにぶつけんな!」
 颯は、両手を顔の前に出して、よけようとしてる。
「遠心力だよ。物をぐるぐる回すと、外側への力が働くんだよね?
 わたしの仮説は──『遠心力で少しずつ、ゆで卵が出てくる!』」
 ぶん! ぶん! ぶん!
「どう、ゆで卵、出てきた?」
 びんの中身は……。
「なんっにも、変わってない!」
 ゆで卵が、びんの口の内側に、すぽっとはまってるだけ。
「やっぱり、このくらいの遠心力じゃ、無理かあ」
「待って。そのまま、動かさないで」
 圭介が、さかさのびんに、両手をそえた。
「これは今、ゆで卵が内側から、びんのふたになっている状態だよね」
「あ。なんていうんだっけ……これ……きちんと閉まってて、ええと……」
 わたしはそれを、見つめて、つぶやいた。
「……密封?」
「そうだ。密封状態……だからこのまま、中の空気がふくらめば──」
「──卵、押し出される!?」

 わたしたちは、同じ牛乳びんをささえたまま、見つめ合う。わくわくしてきた!
「じゃ、それが仮説だね」
 アキト先生が、身をのりだしてきた。
「仮説:びんの中の空気がふくらむと、ゆで卵は、押し出される、ってこと。
 ──では、実験してみよう」
 アキト先生は、大きなボウルをキッチンから持ってきた。
 中から、湯気がもうもうと立ってる。お湯が入ってるんだ!
「えっ、それ、お湯が入ってるの? お湯を何に使うの?」
 わたしは、興味しんしん。
 アキト先生は、金属のへらが2つあわさったような、道具を取り出した。
「お湯を使うから、トングも用意しました! 熱湯で火傷しないようにね」
 さかさのままのびんを、トングでつかんで、流しに持っていき──。
「アーちゃん、そこのカップでお湯をかけてくれるかな? やけどしないように気をつけてね」
「大丈夫。こういうのは、お料理でなれてるから」
 アーちゃんは、耐熱ガラスの計量カップに、お湯を少し取る。
 それを、さかさになったびんの上から、そろそろ、そろそろ、かける。
 すると──。
「うそー!」「動いてる!」
 じわじわ、じわじわ……。ゆで卵は、びんの口にきつく食い込んだ。
「もう、びんを立てても、卵は落ちないんじゃない?」
 こんどは、びんを、口を上にして、立てる。
 ゆで卵は、コルクせんみたいに、びんの口にキュッとはまったまま。
 そのびんの底のほうを、お湯に沈めてみる。
 ゆで卵は、だんだんと、びんの外へと動いていって、

 キュキュキュキュ……ポンッ!
「出たあ!」
 びんの外に転がったゆで卵を、颯が、はっしとつかまえた。
「すごーい!」
「はいっ、仮説が実証されたね。みんな、考察どうする?」
 と、アキト先生は、トングをインタビューのマイクみたいに構えて、質問する。
「考察:びんの中の空気は、お湯の熱によって、すごくふくらんだんだ」
「考察:びんの中の空気がふくらんで、強い力で、ゆで卵を押し出したと思う」
「考察:ゆで卵が、空気に押し出されるためには、びんの口にしっかりはまって、中の空気を密封していることが大事ね」
 颯と圭介とアーちゃんが、しっかり、いい考察を答えた。
 わたしには、もう、言うことがないよ~……あっ、そうだ。
「考察:押し出されて、ちょっと細長くなってるけど、味はふつうのゆで卵だと思います!」
「はい、4人とも、よく協力して、えらかったね───。ミニミッション、クリア!」
「──食べていい?」
「食ってよし!」
 こうして、わたしたちは、あとの2つのゆで卵も、びんから出した。
 それに塩を振りかけて、スイカといっしょに、おいしく食べ終わった、そのとき──。

 びかびかっ!
 窓の外で、光がひらめいた。とたんに、
 ドカーン! バリバリゴロゴロゴロゴロ!
「ひゃあっ!」「うわっ」
 すごい音!
 アーちゃんと颯は、テーブルの下にころがりこむ。
 わたしと圭介は、動けなくって、窓の外を見つめてた。
「……かみなりだあ……」
 バンッ。あたりが暗くなった。
「な、なにぃいい!?」
 と声を上げたら、
「停電だ」
 ゴオォ……。
 ダイニングの大きな窓の外は、暗やみだった。
「天気のせいだよ。ときどきあるんだ。すぐ回復すると思うけどな」
 と、圭介が立ち上がると、戸棚からろうそくと、ろうそく立てを出してきてくれた。
 あ、よくあることなのか……って、わたしはまたすこし、安心する。
「山の天気は変わりやすいっていうけど、こんなにひどくなるとはね」
 アーちゃんもびっくりしてる。
 風にゆれる木のえだが、大粒の雨といっしょに、窓ガラスをたたいてる。
「もう夜なんだね」
 アキト先生が、ろうそくをつけてくれた。
 その光の中で、わたしたちの黒々した影が、ゆれている。
「電気、ぜんぜんつかないのかな」
 アーちゃんは、かべにかけよって、電気のスイッチをパチパチ動かした。
 変化、なし。
「ヘンだよな。見ろよ」
 と、颯が指さしたのは、窓の外。
 庭の向こう、谷を越えた先の山に、2、3個の小さな明かりが見える。
 あっちのほうには、電気、来てるんだ……。
「停電してるの、この家だけだったりして」
「うん、詩音の言うとおりかもしれない」
 と、立ち上がったのは、圭介。
「ブレーカーを動かしたら、電気がつくかも」
「ブレーカーって?」
 とわたしがきくと、
「電気が流れすぎたときに、パチンッ、って動いて、電気を止めるのがブレーカーよね」
 と、アーちゃんがこたえた。
「そう。この家だと、地下室にある」
 圭介は、玄関のそばの棚から、懐中電灯を取り出した。
「おれが行ってくるよ」
「地下室に? 真っ暗じゃないの?」
 ってアーちゃんが言った瞬間、わたしは、
「わたしも行くよ!」
 って、言ってた。
 ……真っ暗な中に下りていく圭介を、1人になんて、しておけない。
 だって、そんなの心細すぎる。わたしだったら、絶対だれかについてきてほしい……。
「ううん、おれ1人で行く」
(え───────────────────っ!?)
 ガ───────────────────ン!
「すぐもどる。別荘とは言え、おれの家だからね。責任を持って修理したいんだ」
 圭介は、玄関のそばの小さなドアを開ける。
 下の階への細い階段が、懐中電灯の明かりの中に見える。
 ギイイ……ギシ、ギシ。
 圭介の姿は、すぐに見えなくなった。

圭介の様子がなんだかヘン…?
今回はミッションがあるわけでもなさそうだし…なにがあったの…?

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