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【期間限定🍋ためし読み】『アオハル100%』2さつめは、さらに楽しいよ!

楽しさも青春もマシマシ😉『アオハル100%』2巻出たよ

主人公のほむらちゃんがはじめた # アオハルチャレンジ は、「思いっきり青春っぽいことをやって、それをSNSで投稿しよう!」っていうあそび。
そのおかげで、クルミくんと、ヒミツのチャレンジ仲間になれたんだ!

でも、ほむらがクルミくんといっしょにいたところに、やけにキラキラした男子がやってきて、
「クルミの『一番の友だち』はオレだ!!!」と、競ってきたっ!?
むむ、負けないぞーっ!!
新キャラ登場&行動力マシマシ、楽しいこともりだくさんの2巻、ぜひ読んでね!



『アオハル100%🍋バチバチ!はじける最強ライバル⁉』ためし読み 


🍋1 にじりたくて!

「あ、これ美味おいしそ〜」
 わたしのスマホの画面に映っているのは。
 こ〜んがり焼けた、おだんご。
 真っ白なおモチに、きつね色のげめがついていて。
 カリッとした歯ざわりが想像できる。
 しかも大量のあずきまで、かかってる♥
 見てるだけで口の中に甘さが、あずきのやわらかな感じが広がってくるよ。
 ああ、食べた————い! さっきお昼ごはん食べたばかりなのに〜!!
 そのとき、グイッと肩をひっぱられた。
「わわっ!?」
「ほむら、ちゃんと前見て歩かないとぶつかるよ」
 言われて顔を上げると、目の前にせまる壁!
 ここは、わたしたちの通う中学校。
 友だちの千鶴ちづるといっしょに廊下を歩いてたけど、歩きスマホしてたもんだからあぶなかった。

 わたしの名前は、火花ほむら。
 最近SNSにハマり中の、中学1年生だよ!
「ありがと千鶴〜」
「まったく、ほむらは目が離せないなあ。まあ、そこがかわいいんだけど」
 クスクス笑う千鶴は、そのしぐさがカッコよくて、ついドキッとしちゃう。
 さすが「学校のNo.1イケメン女子」って言われてるだけあるよ。
「それで? そんなに熱心になにを見てたの? よだれたらしそーな顔してたけど」
「ふふ、これだよこれ!」
 スマホに映っていたのはSNSで見つけた、「古民家カフェにいってきました」ってポスト。
 注目なのは、おだんごだけじゃない!
 料理のうしろに映ってる店内の様子も、ドラマに出てくるようなレトロな造り。
 まるで100年前に、タイムスリップしたみたい!
「へー、おもしろそうな店。今度いっしょにいってみる?」
「うん!!! ……って言いたいけど、ここちょっと遠いみたい」
「どれどれ? あ、本当だ」
 お店があるのはとなりの県で、気がるに足を延ばせる距離じゃない。
 でも千鶴は……。
「近くではないけど、夏休み中なら、いけないことないじゃん?」
 ってサラッと言った。
「おお——! そうか! ちょっとした旅行気分でいくのもいいよね、もうすぐ夏休みだし!」
 言いながら、わたしはワクワクしはじめる。
 思いつきだから、本当にいけるかはわからないけど。
 けど、いきたいお店を、マップにピン留めするだけでワクワクする!

「このお店をポストしたのは高校生らしいんだよね。だからわたしたちも、いつかいけるかも?」
「かもね。たとえば、あたしいつかバイクの免許を取るつもりだし。そのときは、ほむらをうしろに乗せてつれてってあげるよ」
「え——っ、本当!? 千鶴大好き!」
 バイクに乗る千鶴のすがたを頭の中で思いうかべて、おもわず抱きつく。
 ぜったい、カッコいいじゃん!!
 うわあ——未来が楽しみだなあ!
 春に、はじめて中学の制服に袖を通したときは、おとなになったって気がしたけど。
 わたしたちは、まだまだ成長途中。
 いける場所も、これからどんどん増えていくんだ。
 せっかくだからいろんな所にいってみたいなあ。
 そんなことを考えながらスマホをしまい、今度こそちゃんと前を見て歩いていく。
 そして、わたり廊下にきたとき……。
「あれっ」
「ん、どうしたの?」
 立ち止まったわたしに、千鶴がきいてくる。
 わたしが、なにげなく目をむけたのは、校舎の上。
 さっき屋上にちらっと、見知った人が見えたの。
「ごめん、千鶴、わたしちょっと用事思いだした!」
「え? ちょっとほむら!」

 わたしは校舎の中に入って、屋上へつづく階段を駆けのぼっていく。
 うちの学校は、屋上に校庭があるから、立ち入りが自由。
 とはいえ、さっきまで雨が降っていたから、きっと床がびしょ濡れのはず。
 そんな日にわざわざ、出たがる人がいるとは思えない。
 けど、やってきた屋上には——やっぱりいた!
「クルミくん!」
「あ、火花さん」
 こっちを見て名前を呼んできたのは、ちょっと小柄でクセのある髪をした男子。
 同じクラスの、久留見くるみユウくん。
 わたしは、屋上にできた水たまりをひょいひょいっと跳んでよけながら、クルミくんに近づいていく。
「こんなところで、なにしてるの?」
「ちょっと撮影をね。————どうしてもアレを撮りたくて」
「アレ? あ、虹だっ!」
 クルミくんが指さした空の先には、キレイな虹ができてるじゃない。
 雨上がりの空に、しっかりとしたアーチを描いてる。
 こんなにハッキリとした虹がかかるなんて、めずらしい!
「窓から外を見たら、たまたま見かけて。窓からだと虹全体が見えなかったけど、ここならいけるかなって思ってさ。ちょうどカメラを持っててよかったよ」
「あはは、さすが写真部だね!」
 クルミくんが肩からげてるオレンジ色のデジカメは、写真部のカメラ。
 クルミくんは写真部ただ1人の部員。
 素敵な写真をたくさん撮ってる人なんだ。
 そしてわたしは、ひょんなことから、クルミくんの撮る写真を見せてもらって、それからずっと、クルミくんの大ファンなの。
 さっき、わたり廊下から見かけたとき、クルミくんがカメラをかまえているように見えたから、気になってきちゃったんだ。
 デジカメを見せてもらうと、画面には、虹の写真が、バッチリ写っていた。
「これ、# アオハルチャレンジ の # 雨上がりの町の写真を撮る で上げようかと思って」
「すごい、ピッタリだよ!」

 ——# アオハルチャレンジ っていうのは、ね。
 SNSで流行ってる、青春を楽しむための遊びのこと。
 出題者が # 学校でなかよしツーショット や # ときめき壁ドン といったお題を出して、見た人はお題にそった写真や動画を  #アオハルチャレンジ のハッシュタグをつけてポストするの。
 # 雨上がりの町の写真を撮る は少し前に出されたお題だけど、アオハルチャレンジのお題に締め切りはないから、もちろんいつチャレンジしてもOK!
 クルミくんはさっそく、虹の写真をポストする。
「……上げたよ」
 両手でスマホを操作するクルミくんの顔は、とってもうれしそうだった。
 クルミくんが、アオハルチャレンジをやってること、クラスの中では、わたししか知らない。
 クルミくんは、教室ではあまりしゃべらずに1人でいることが多い、いわゆる「ぼっち」キャラ。
 話してみると、楽しい人なんだけどね。
 クルミくんが「おおぜいの人とワイワイさわぐのは苦手」って言うから、アオハルチャレンジをしてることも、クラスではヒミツ。
 けど、わたしはそんなクルミくんのヒミツを知ってるし——
 そして、クルミくんも、わたしのヒミツを知ってる。
「そういえば、火花さん?」
「ん、なーに?」
「アオハルチャレンジ、そろそろ新しいお題、なにか出さないの?」
「あ……あはは、ソウダネー」
 思わず、かわいた返事をする、わたし。
「お題を出す」って、なにを言われてるのかっていうと……。
 じつはこのアオハルチャレンジって遊び……その仕掛け人は、わたしなんだよね。
 わたしは『灯』って名前でアカウントを作ってるんだけど、それとはべつに『青春仕掛け人』って名前のアカウントも持ってて。
 この『青春仕掛け人』、つまりわたしが、アオハルチャレンジのお題を出す発案者。
 このことを知ってるのは、クルミくんだけなんだ。
 ただ最近、このアオハルチャレンジでこまったことが……。
 それは、お題のネタが、なかなか思いつかないこと!
「クルミくん、なにかいいアイディアない〜?」
「うーん……そうだ。火花さん、最近SNSで気になったり、興味を持ったポストはある?」
「え? それなら……」
 わたしはスマホを取り出すと、さっき見ていたポストを表示させる。
「ほらこれ。キヨマサさんがポストしてたの」
 この『キヨマサ』さんって、じつは、近くに住んでいる女子高校生なの。
 キヨマサさんも、アオハルチャレンジをやってる『アオハルチャレンジャー』で。
 前にわたしたちは、チャレンジを通じて、直接、会ったことがあるんだ!
 それ以降は、SNS越しに、ときどきやりとりするくらいだけどね。
 クルミくんが、キヨマサさんの「古民家カフェにいってきました」のポストを見ながら言う。
「うん……これ、いいかも。新しいアオハルチャレンジのお題 #おすすめのお店を紹介する ってどうかな?」
「おすすめのお店?」
「うん。キヨマサさんみたいに、お店や商品を写してるポストって、けっこう見るよね」
 言いながら、クルミくんも自分のスマホを取りだして操作する。
 そこに映ってるのは、ホイップクリームののった、ふわふわなパンケーキ。
 うわぁ〜、美味しそ〜♥
 つづいて画面に出てきたのは、たくさんの、真っ白いモコモコの犬たち。
 サモエドっていうわんこで、映っているのは、そんなサモエドたちと触れあうことのできる、サモエドカフェなんだって!!
 ぎゃ——かわいい——!!!
 なでなでしたり、いっしょにお散歩したりもできるみたい。
 いってみたいー!!!
 次に出てきたのは、本屋さんの画像。
 店内を写した写真で、雰囲気からすると、チェーン店じゃなく、個人経営の本屋さんみたい。
 店長おすすめの本がポップつきでならべられていて、ポップには、『妖が見えるクラスメイトとの不思議な関係に、ドキドキがとまらない』なんて書いてある。
 へえー、ちょっと読んでみたいなあ!
「……こうしてみると、お店に関するポストってたくさんあるね。ずっと見ていられそう」
「身バレしたくない人は、くわしいお店の場所は入れなくてもいいし。でも、こういう場所があるんだって思うと、見てるだけでも楽しいと思うんだ」
「いいね! よーし、じゃあさっそく、新しいお題として上げちゃおう!」
 わたしは、青春仕掛け人のアカウントから、# アオハルチャレンジ # おすすめのお店を紹介する のタグをつけてポストする。

   みんなのおすすめしたいお店を、おしえてね
   おいしい食べ物屋さんでも、よく買い物するお店でもカラオケ店でもOK!

 よっし、ポスト完了!
 このお題で、どんなお店が見られるか、ワクワクするな〜。
 あ、でもわたしも仕掛け人であると同時に、お題にいどむアオハルチャレンジャーなんだった。
「火花さんは、どんなお店を紹介するの?」
「うーん。わたしなら雑貨屋とか、スケボーショップとかかなあ……クルミくんは?」
「そうだね、オレは……よくいく喫茶店かな」
「えっ、喫茶店!?」
 カフェとかじゃなくて、喫茶店、なんだ?
「古いお店なんだけど、中に写真がたくさん飾られてて……」
「写真かあ——さすが、クルミくんのいきつけだね。いいなあ」
 わたしはなんの気なしに言ったけど、クルミくんがこれに反応した。
「今度、火花さんもいっしょにいく?」
「え、いいの!?」
「うん。アオハルチャレンジなら、写真を撮らなきゃだし。興味があるなら、近々どうかな?」
「いく! いきたい!」
 そんなの、いくに決まってる!
 アオハルチャレンジのお題から、さっそくステキイベントが発生しちゃった!

🍋2 クルミくんのおすすめのお店って?

 次の土曜日。
 約束どおりわたしは、クルミくんに、おすすめのお店に連れていってもらったの。
「へえー、こんなところあったんだー」
 案内してもらったのは、町のはずれの小さな路地に入った先。
 そこにあったのはレンガ造りの外観の、かなり年季の入った感じのお店だった。
 少し塗装のはげてる看板には、お店の名前が書かれている。
 お店の名前、『Colorfulカラフル』っていうんだ。
 クルミくんの話だと常連さんみたいだったけど、ここに、小学生のころからきてるってこと?
 わたしだって、ハンバーガーショップやドーナツ屋さんならいくけど、こういうお店に入ったことはない。
 というか、子どもだけでここに入るの?
 けど、クルミくんはすっと、お店のドアを開ける。
「暑いから中に入ろう。——どうぞ」
「う、うん……」
 クルミくんが開けてくれたドアをくぐって、お店に入ったとたん、ふわっとしたコーヒーの香りがただよってくる。
 わぁ、いいにおい!
 それに、中は、なんだかタイムスリップしたみたい!
 磨きあげられた樹のテーブル席には、ポツポツとお客さんがいて、それとはべつにカウンター席もある。
 まるで古いドラマなんかに出てくるみたいな、味わいぶかい雰囲気。
 クルミくんが、カフェじゃなくて「喫茶店」って言ってたけど、たしかにそうかも。
 店内に流れる音楽も、外国映画のBGMみたいで、すごくオシャレ〜。
 目にうつるもの全部がめずらしくて、キョロキョロとながめていると……。
「火花さん、こっちだよ」
 クルミくんは、なれた感じでテーブル席に……ううん、ちがった!
 テーブル席を素通りして、クルミくんはカウンター席にむかう。
 えっ、そこなんだ。
 家族で外食するときに座るのは、いつもテーブル席だったから、ハイチェアなんてはじめて!
 クルミくんは、カウンターの奥に向かって声をかける。
「こんにちは、おじいちゃん」
「おおユウ。待っていたよ」
 返事をして、出てきたのは、お店の店長さんかな。
 白いピシッとしたシャツに、黒のギャルソンエプロンを腰でしめた、カッコいいおじいさん!
 日に焼けた黒い肌をしていて、高齢だけど肩が広くて、たくましい印象を受ける。
 けど、表情はやわらかだ。
 あれ、ちょっと待って。
 いまクルミくん、この人のこと「おじいちゃん」って言った?
「ねえ。もしかしてあの店長さんって、クルミくんの……っ!?」
「うん。オレのおじいちゃんだけど……あれ、ひょっとして言ってなかったっけ?」
「うん、初耳」
「——わ! ごめん、伝えたつもりになってた」
 大あわてで、あやまってくるクルミくん。
 けど、いいよいいよ。
 むしろ、サプライズっぽくて、おもしろかったし!
 そっか、おじいちゃんのお店だから、よくきてたってことかあー、納得。
 ただ、この人がクルミくんのおじいちゃんなんだって思うと、ちょっぴり緊張してきた。
「あ、あの。はじめまして。わたし、クルミくんと同じクラスの火花ほむらって言います。く、クルミくんには、いつもお世話になって……」
「はは、そうかしこまらなくてもいいよ。若い子が楽しいものはあまりないかもしれないけど、ゆっくりしていってね」
「いえ、ぜんぜん。すごく、素敵なお店です!」
「ありがとう」
 ニコリとしたおじいちゃんは、やっぱりカッコよくて。
 どことなくクルミくんにも面影があるかも……。
 ペコリと頭を下げて、クルミくんとならんで、高いカウンター席によじのぼって、腰をおちつける。
 注文をきかれたけど、よくわからないから、おまかせすることにした。
「火花さん、びっくりさせてごめんね」
「いいよ。それより、クルミくんのおじいちゃんってプロのカメラマンじゃなかった?」
 前にそんな話をしてくれたよね。
 クルミくんがカメラに興味をもったのも、おじいちゃんの影響だったと思うけど……。
「うん。いまは引退して、おばあちゃんと2人で喫茶店をやってるんだ。ほら、あの写真見て」
 クルミくんが指したのは、カウンターの奥の壁。
 わ、すごい!
 そこには高くそびえたつ真っ白な雪山や、透明度の高い透き通った湖といった、大きく引き伸ばされた景色の写真のパネルが、いくつも飾られてたの。
「これってもしかして、クルミくんのおじいちゃんの?」
「うん。世界中いろんなところにいって、たくさんの写真を撮っていたんだ。ここ『Colorful』でも、月替わりで、いろんな写真を飾っているんだよ」
 へー。それじゃあ写真見たさに、お客さんもたくさんきちゃうかも。
 風景写真ってネットでいっぱい見かけるけど、目の前のパネルには、ぜんぜんちがう迫力がある。
 これが、プロのカメラマンさんの写真……ってことなんだなあ。
「すっごい写真だねえ……!」
 って、うう、またわたしの語彙力ごいりょく————!
「ね、ねえ、クルミくんは、撮影に連れていってもらったことはあるの?」
「オレ? まさか。おじいちゃんの撮影場所はどこも遠いし、それに険しい山を登ったり、森をかき分けていかなきゃいけないところもあったりするから……」
「はは、ユウの体力だと、ちょっと厳しいかな。もっときたえないとね」
 奥にいたクルミくんのおじいちゃんが、わたしたちの話をきいて、入ってくる。
 クルミくんは恥ずかしそうに「ちょっとおじいちゃん!」って言ってるけど、あわててる様子が新鮮。
 クルミくんにはわるいけど、落ちついてるふだんとはちがうすがたを見られて、うれしいな。
「でも、オレも少しは、鍛えなきゃなあ。おじいちゃんみたいな写真を撮りたくても、そもそもその場所にいけないんじゃどうしようもないもの」
「でもこういう大自然の写真もいいけど、わたしはクルミくんが撮る日常の景色も好きだよ」
 店内に飾られてる写真は、雄大な自然を写したものばかり。
 対してクルミくんがいつも撮っているのは、身のまわりにあるもの。
 どっちもすごく素敵だよ。
 あ、もちろん、クルミくんがおじいちゃんみたいな写真を撮りたいって言うなら応援するけど……。
 すると、クルミくんのおじいちゃんはうれしそうに言う。
「ほむらちゃんは、ユウの写真を気に入ってくれているのかい?」
「もちろんです! いろんなかたちをした雲の写真とか、町なかのネコの写真とか。すぐ近くに、こんな素敵な景色があるんだって、教えてくれて。クルミくんの写真のおかげで、いままで見落としてたキラキラに、気づくようになったと言うか……」
「ひ、火花さん。もうそのへんで」
 語りはじめたわたしを、クルミくんが顔を赤くしながら止める。
 いけない、つい熱が入っちゃった。
 けどクルミくんのおじいちゃんは、すごくうれしそうな顔をしたの!
「うんうん、僕もそう思うよ。ユウの写真は、どれも僕では撮れないものばかりだ。ほむらちゃんは見る目あるねえ」
 わあい、おじいちゃんから、ファンとして認められちゃった!
 と、クルミくんのおじいちゃんが、透明なグラスを2つ、わたしたちの前においた。
 てっきり、コーヒーが出てくるのかなーって思っていたけど、グラスの中は淡い金色に光っていて、ふちにはレモンが飾られていた。
「はい、特製のレモネードだよ。うちの店の名物なんだ」
「わあ、ありがとうございます。いただきます!」
 レモンがまるで、宝石みたいに輝いてる。
 そうだ、飲む前に、アオハルチャレンジに使う写真を、撮っておかなきゃ。
 スマホのカメラでパシャリと撮影してから、レモネードを口に運ぶ。
 キュッとすっぱくて、だけどすっきり甘い!
「すごく美味しいです! ハチミツレモンに似てるけど、ちょっとちがう……?」
「それはハチミツじゃなくて、上白糖じょうはくとうで味つけしてあるんだよ。気に入ってくれたかな?」
「はい、とっても!」
 ごくごく飲んじゃいそうだけど、もったいなくて。
 ちょっとずつ、口のなかでしゅわしゅわさせて楽しむ。
 なんて気持ちいいお店なんだろう。
 おじいちゃんがほかのお客さんの注文を取りにいくのを見送りながら、わたしはとなりのクルミくんにきいてみる。
「すごくレトロで、いい雰囲気だね」
「昔からずっと、この雰囲気を変えないようにしているみたいだよ。『Colorful』はオレや火花さんが生まれるずっと前からあるけど、メニューや店の内装には、一切手を加えていないんだって。……古くさいって言う人もいるけどね」
「えー、そんなことないのに!」
 たしかにいまどきこういうお店はめずらしいかもしれないけど、わたしなら、またきたくなっちゃうなあ。
 もしかしたらここは知る人ぞ知る、隠れ家的なお店なのかも。
 あっ。でもそうだとしたら……。
「——ねえ、クルミくん。もしかして、さっき撮った写真をポストするとき、お店がここだってこと、わからないようにしたほうがいいかなあ?」
「え、どうして?」
「だって、もしもポストした写真見て、興味本位の人がきたら、このお店の雰囲気がくずれちゃうかもしれないでしょ」
 心配しなくても、わたしがポストしたくらいじゃそんなに影響はないとは思うけど……念のためね。
「うーん、そういえば……おじいちゃん、前にテレビの取材の話がきたけど断ったって言ってたっけ。宣伝にはなるかもしれないけど、テレビなんて関係なしに通ってくれる常連客がいれば、うちはそれでいいって」
 へえ、そんなことがあったんだ。
 まるで、教室でのクルミくんみたい。
 クルミくんはふだん学校で1人でいることが多いけど、決して人間ギライというわけじゃなく、自分の世界を大事にしてるから。
 クルミくんのおじいちゃんも同じように、『Colorful』の雰囲気を守っているのかも……
 まあ、全部わたしの想像なんだけどね。
「そういうことならやっぱり、ポストするときは『Colorful』だって、わからないようにするね」
「うん。気をつかってくれてありがとう、火花さん」
 ニコッと笑いながら、お礼を言うクルミくん。
 わたしだって、このお店の雰囲気、壊したくないものね……。
 ——カラン
 不意に、お店のドアが開く音がきこえた。
 新しいお客さんかな?
 すると足音が、ツカツカツカとまっすぐにここ、カウンター席のほうに近づいてきて。
 すぐうしろで気配が立ちどまる。
「よう、ユウ」
 振りかえったクルミくんが、おどろいた声を出す。
「え、らい?」
 わたしもうしろをむいてみる。
 と、そこに立っていたのは、
 なんだか不思議にキラキラしたオーラを放った男子だったんだ。

🍋3 「どっちがトモダチ」合戦!?

とつぜん現れた、見知らぬ男子。
 だれだろう、クルミくんの知りあいかな?
 しかも……なんだろうこの人。
 年齢は、あまりわたしたちと変わらなそうなんだけど、やけにキラキラしてる。
 それに……うーん、どこかで見たような気がするんだけど。
 もしかして、うちの学校のべつの学年とか? こんなキラキラした人、いたかなあ?
「雷、どうしてここに? 今日はほかに用事があるって言ったのに……」
「オレが今日、お前に会いたかったんだから、しかたないだろ」
 なんて言いながら、雷って呼ばれた男子は、わたしとクルミくんの間のカウンターに、片手をつく。
 えっ、ちょっとちょっとー?
 ふつう、そこにわりこんでくる?
 しかも……。
「ん、ちょっとせまいな。アンタ、もう少しそっちよってくれるか」
 なんて言って、さらにわたしとクルミくんの距離を開けさせようとしてくる。
 な、なんなのこの人ー!?
 するとクルミくんが、こまったような顔をする。
「ちょっと雷やめてよ。——火花さんごめんね、こちらは、オレの小学校の同級生で……」
「ん? ひょっとして昨日お前が言ってたのがコレか? オレはユウの親友の東條とうじょう雷だ」
 自己紹介をしてくる、東條くん。
 ハイチェアにすわる私と視線が近い……っていうことは、けっこう背が高いっぽい。
 ラフなTシャツと、ルーズなパンツスタイルが、オシャレに決まってる。
 え、ていうかいま、クルミくんの親友って言った!?
 わたしのこと「コレ」って言う人が、おだやかで、こまやかに気をつかうタイプのクルミくんと「親友」っ!?
 けどクルミくんも名前で呼んでるし……たしかに、なんとなく心をゆるしてる雰囲気がある。
 東條くんは、遠慮のない目で、マジマジとわたしを見てくる。
「友だちと約束があるって言ってたの、マジだったんだな」
「オレが友だちをさそうの、そんなに意外?」
「意外っつーか、なんつーか。お前あんまり人とからまねーだろ。中学べつになってからは知らんけど。そのへんどうなったか、気になってたんだよ」
 ふーん、どうやら東條くんはクルミくんを遊びにさそったけど、クルミくんに、わたしとの先約があるからって、ことわられたみたい。
 べつの中学なら、なかなか会えないだろうし、わるいことしたかな?
 って、一瞬思ったけど。
「ユウが『友だち』とか言うから、どんなやつだよって気になってきてみたけど……まさかオンナとか。マジかよ」
 オ、オンナっ!?
 失礼な言い方に、おもわず顔が引きつる。
 さっきからこの人、態度わるすぎるんだけど!
「雷、やめなって。……ごめんね、火花さん」
 うう、クルミくんが申し訳なさそうな顔するとこじゃないよーっ。
 一方、フォローされてる東條くんは、なんか挑戦的な顔してるし……ぐぬぬぅ!
「い、いいよ。わたし、ぜーんぜん気にしてないから!」
 わたしは、がんばって笑顔を作った。
 せっかく連れてきてくれたお店で、もめたくないもんね。
 そのとき、店の扉がカランと開いて、女の人が入ってきた。
「ただいま〜。おやユウちゃん、もうきてたのかい」
「あ、おばあちゃん」
 え、クルミくんのおばあちゃん!?
 やさしそうな感じの、背筋の伸びた品のいい人。
 買い物にでもいってたのかな、両手に大きなスーパーの袋を提げている。
「おばあちゃん、こちらはオレの同級生の火花さんだよ」
「は、はじめまして。火花ほむらって言います!」
「まあ、ユウちゃんの友だちね? かわいらしいお嬢さんだこと。待っててね。荷物をおいてくるから」
「運ぶの手伝うよ。火花さん、雷、わるいけどちょっと待ってて」
 おばあちゃんの手から重そうな袋を受けとりつつ、いっしょに店の奥へ入っていくクルミくん。
 やっぱり、素敵だなあ……なんて思って見送ったけど。
 よく考えたら東條くんと2人で、残されちゃったじゃん!
 気まずい。どうしよう。
 けどそんな沈黙を、東條くんがやぶった。
「ユウの『友だち』が、女子とはな。まあオレのほうが仲いいし、付きあいもなげーけど」
「は、はぁっ!?」
 ブチッ!
 あまりに挑発的ちょうはつてきな物言いに、さすがにガマンが限界突破!
 さっきから、なんなのコイツー! 堪忍袋かんにんぶくろが、完全に爆発したよ!
 だけど、決して声はあら立てないんだから。
「ふ、ふ〜ん、そうなんだ〜。でも仲がよかったのって小学校のころの話でしょ。わたしは現在進行形でクルミくんと同校で、同クラですけど〜〜〜〜!?」
 顔をひくつかせつつ、かえしたけど、東條くんは「あ〜ん!?」とまゆをつりあげた。
「中学に入ってから、まだ数ヶ月しかってねーじゃねーか。そんな昨日今日知りあったようなやつに、このオレが負けるかよ!」
 な、ナニヲ——!!!
 とはいえ、わたしがクルミくんと話すようになったのは、じつは最近なんだよね。
 くやしいけど東條くんの言う通り、いっしょにすごした時間の長さじゃ完敗だ。
 で、でも、クルミくんへの気持ちの強さなら!
 絶対に負けてないんだから!
「わ、わたしだって、ちょいちょい写真部に顔出してるし。いっしょにアオハルチャレンジもやってるし〜!」
 クラスでは、わたしが写真部の部室に出入りしてることも、クルミくんとアオハルチャレンジをやってることも、ヒミツにしてるけど。
 こうまでマウントとられたんだもの。言いかえさずにはいられないよー!
 そしたらとたんに、東條くんの目つきが変わった。
「おい待て、アオハルチャレンジって。たしかSNSではやってる遊びじゃないか?」
「え、知ってるの?」
「オレはやったことねーけど、クラスのやつらがよく話してるからな。SNSに、写真や動画をあげるやつだろ。……あれを、ユウが?」
 と、東條くんは、けげんな顔。
「うん。アオハルチャレンジのお題タグで、写真をポストしてるよ」
「マジかよ……。つーかユウのやつ、SNSやってるの、なんでオレに教えねーんだ」
 うーん、それは……。
 クルミくんの性格上、こんなのはじめたよって自分からアピールするタイプじゃないもんね。
 話すようになったばかりのころ、クルミくんはすでにSNSのアカウントは持っていたけど、 フォローしてる人もフォロワーもゼロで。
 わたしもびっくりしたくらいだし。
 けど、きいてなかったことをくやしがる東條くんを見て、わたしのイジワル心が、むくむくふくらむ。
「ふぅ〜ん、SNSやってたことも知らなかったんだ〜。親友なのにね〜」
「う、うるせーなあ」
「わたしはクルミくんと相互フォローだし。ツーショットもいっしょに撮ってるんだけどな〜。これって『親友以上』?」
「そんなわけあるかァ! おいお前、ユウのアカウント教えろよ」
 スマホを取りだして、問いつめてくる東條くんだけど……。
「クルミくんが教えてないのに勝手に教えられないよ。っていうか、そっちもSNSやってるの」
「あぁ? このオレにそれ言うか? 見ろこれを!」
 ふん、なになに?
 つきつけてきたスマホの画面には、東條くんのアカウントページが。
 どうしてすぐにわかったのかって?
 東條くんの素顔が、バッチリ映っていたからだよ!
「え、ネットで顔出してるの? あぶなくない!?」
「いいんだよ。オレは、顔を売ってなんぼなんだから。——フォロワー数、見ろ」
「……んん?」
 そこに書かれていたのは、『Dancer THUNDER—ダンサー・ライ—』の文字。
 ……げ。げげげげ。
「え、待って、ダンサー・ライって! ダンス動画をたくさんポストしてる、あの!?」
「おう。オレのこと知ってるのか?」
「うん。友だちがよく見てるから。え、本物のライ!?」
 最初、東條くんを見たとき、どこかで見たような気がしたのは、これだったのかー!
 ダンス動画は千鶴が好きで、わたしもときどき見せてもらってたんだけど、たびたび目にしてたのが、ライ。
 同世代なのに、とびっきりダンスがうまくてヤバいって千鶴が言ってた。
 フォロワー数も多いインフルエンサーなんだけど、え——っ、東條くんが、あのライ!?
 わたしが目を丸くしていると、東條くんは勝ちほこった顔をする。
「どうだ、おそれいったか。じゃあ、ユウのアカウントを教えろ」
「うん……って、いやいやいや! 東條くんがライってことと、クルミくんとは関係ないじゃん」
「ちっ、気づきやがった」
 なんだろ、この人、ちょっとクルミくんのこと好きすぎない?
 まあ、はりあってるわたしも、人のこと言えないけど。
 インフルエンサーだからっていばられる筋合いはないし!
 わたしたちが、おたがい威嚇するみたいに、にらみあっていると……。
「ごめん、お待たせ。……あれ、2人とも仲よくなったの?」
「どこが! それよりユウ、お前SNSはじめたんだってな。コイツがアカウント教えてくんねーんだ、意地がわるいだろー?」
「ちがっ! いくら友だちでも、勝手に教えるのはどうかとっ」
 コイツ、なに言ってくれてるの!
「2人とも落ちついて。SNSは中学に入ったあたりでなんとなくはじめたんだ。言ったほうがよかった?」
「言えよ! そんな前からかよ! まあいいや、アカウント教えろよ。なんて名前だ?」
「アカウント名は『夜明け』だよ……」
 なんて、クルミくんは、あっさり東條くんのスマホをのぞきこんで教えてしまう。
 あああ、なんか2人の間に、なかよしオーラが出てる……。
 も、もちろんわたしが口出しすることじゃないけどさ。
 2人がアカウントを相互フォローして、ニッと、ほほえみあうのを見てたら……ううう。
 そのとき、東條くんが、わたしを見てフッと笑った。
 まるでわたしを挑発するみたいに。
 むむぅ——!
 クルミくんの親友と、ケンカなんかしたくないけど!
 この人、わたしと相性サイアクだあ——!

🍋4 トモダチだから、さみしくて

 昼休みの体育館。
 クラスの男子たちが、バスケをやっていて。
 わたしと千鶴、それにクラスメイトの香鈴は、それを見ながらしゃべってたんだけど……。
「香鈴の昨日のポスト見たよー。香鈴のおすすめの駄菓子屋だがしやさん、楽しそうだった!」
「うん。昨日、保育園の帰りにリュウをつれていってあげたの」
 楽しそうに話す香鈴。
 リュウっていうのは、3歳になる香鈴の弟くん。
 おうちの都合で、年のはなれたお姉ちゃんの香鈴がよくめんどうをみてる。
 とってもなかがいい姉弟なの。(くわしくは『おもしろい話、集めました。クローバー』を読んでね)
 そんな香鈴がSNSにポストしたのが、駄菓子屋さんの様子。
 お菓子がたくさんならんでるのって、どれにしようかワクワクするよね。
 リュウくんのちっちゃいお手々に、アメやスナックがいっぱい握られてるのがかわいかった!
「小学校のころによくいってた駄菓子屋さんなんだ。アオハルチャレンジのお題を見て、いってみようと思ったの。リュウってばどれにするか迷っちゃって、選ぶのに時間かかったなあ」
「あはは、でもリュウくんの気持ちわかるよ。これはわたしでも絶対なやむ」
「なら、今度みんなでいっしょにいく?」
「賛成!」
 香鈴のポストは、#おすすめのお店を紹介する のタグがついてて、けっこう♥をもらってる。
 #おすすめのお店を紹介する のポストは、この土日の間に爆発的に増えていて、わたしたちはバスケそっちのけで、アオハルチャレンジの話に花をさかせていた。
 すると、コートを走っていた男子の1人、星野が足を止める。
「おーい、ちゃんと撮影してくれてるかー?」
「だいじょうぶー。しっかりムービー撮影してるよー!」
「たのむぜ。アオハルチャレンジに使うんだからよ」
 バスケをやっている男子たちだけど、じつはこれもアオハルチャレンジなの。
 星野がはいているのは、買ったばかりの、ホワイトカラーに黒のラインが入ったバスケットシューズ。
 よくいくスポーツ用品店で買ったもので。
 せっかくだから、そのシューズをはいてプレーする動画もポストしたらウケるんじゃないかって言って、こうして撮影してるってわけ。
 床にこすれる音をキュッキュッとひびかせながら、ドリブルをする星野は、けっこうイケている。
 お題を考えたとき、お店で買ったものを使ってる様子までポストするのは考えてなかったけど、こういうポストもありかぁって、ちょっと感心した。
「そういえば、ほむらがポストしてたかく的な喫茶店きっさてん? カッコよかったね」
 千鶴が言ってきたのはもちろん、この前クルミくんといった、『Colorful』だ。
「いい雰囲気のところじゃん。昭和レトロっていうのかな? なんか昔の映画の中に、入っちゃったみたいな感じ」
 うん、とちゅうで東條くんに、割って入られたけどね。
 結局、東條くんはあのあとずっといすわって、おかげで、わたしがクルミくんと話す時間が、ぜんぜんなかった。
 それに、ちらちら見せてた、あのイジワルな顔。
 ああー、思いだしただけでもムカつくー!
「ど、どうしたのほむら? 顔がこわくなってるよ」
 ひくような香鈴の声に、ハッと我にかえる。
「な、なんでもない。千鶴がポストしてたのは、駅前のカラオケ店だったよね」
 話をそらして話題にあげたのは、千鶴がポストしたアオハルチャレンジ。
 紹介されてたのは、わたしもいったことのあるカラオケ店だから、わかった。
 ソフトクリームが食べ放題だし、あそこの季節限定パフェ、美味しいんだよね〜!
 千鶴がポストした写真にも、みんなでシェアしたのか、パフェをかこんでみんなでポーズをとる楽しそうな様子が写っていた。
「いっしょにいったのって、吹奏楽部のメンバー?」
「うん。アオハルチャレンジのことを話したら、みんなでいってみようって話になってね……」
 あれ、どうしたんだろう?
 しゃべっていた千鶴の声が、途中から急に小さくなって、表情が暗くなる。
 香鈴も気づいたみたいで、心配そうにきく。
「なにかあったの?」
「うん、ちょっとね……みんなで歌ったあと、お店の外で、ぐうぜん小学校のころの友だちに会ったんだよ」
 千鶴が、こんな深刻な顔をするのって、見たことがない。
 いつもフォローしてもらってるわたしとしては、相談にのりたい!
「それでそれで?」
 と、つづきをうながしてみる。
 ——千鶴の話だと、その子は、小学校のころ仲がよかった女の子で、いまはべつの中学なんだって。
 小学校のころのなかよしに、ばったり会えるなんて、本当なら、うれしいぐうぜんだけど……。
「その子の態度が、なんだかよそよそしくてね……」

 千鶴の話によると、その子と会ったのはカラオケ店を出た直後。
 吹奏楽部の人たちと笑いながら「たくさん歌ったねー」って話しているところに、道の先から歩いてくるのが見えたんだって。
「ん、あれは……おーい!」
「えっ、千鶴?」
 その子に向かって、手を振ると、その子は、一瞬目を輝かせたんだって。
 千鶴も、友だちとの再会に、テンションが上がったんだけど……。
「久しぶりー、元気だった!?」
 と、駆けよると、その子は、
「あ、うん……。あの、いっしょにいるのって、同じ中学の人たち?」
「うん、吹部のメンバーだよ。みんなでカラオケにきてたんだ」
「そう、なんだ……」
 なぜかその子はうかない顔で、千鶴から目をそらしたんだって。
 様子がおかしいことに、千鶴はすぐ気づいたんだけど……。
「どうかした?」
「なんでもない……ごめん千鶴、またね」
「あ、ちょっと……」
 千鶴が呼び止めるのもきかずに、その子は足を速めて、いっちゃって。
 せっかく久しぶりに会えたのに、避けられたのがショックで。
 さっきまでおもいっきりカラオケして、気持ちよかったのに。
 遠ざかっていくその子のさびしそうな顔が、いまも頭から離れないんだって……。

 千鶴から話をきいて、わたしも香鈴も、なんて言えばいいかわからずに顔を見あわせる。
「久しぶりに会ったんだから、あたしはもっと話したかったんだけどね。なんか、きらわれるようなこと、したかなあー」
「ええと……最後に会ったとき、なんか気まずかったってことはない? 卒業してから、会ってなかったんだよね?」
 千鶴にかぎって、ケンカしてたのを忘れてたってことはないと思うけど、一応きいてみる。
 けど案の定、千鶴は首を横にふった。
「ない……と思うよ。卒業式で『学校が離れても、またいっしょに遊びにいこうね!』って話してたし。あ、でもそれからずっと連絡してなかったし……もしかしたらそれで怒ってたのかな」
「連絡とらなかったのは、おたがいさまでしょ。一方的に怒るなんておかしくない?」
「たしかに、そんな子じゃなかったけど……」
 ため息をつくすがたは、ふだんの凜々しい千鶴とはちがって、少したよりなげだ。
 千鶴が、こんなにしょんぼりするなんて……。
 その子はどうして、そんな態度を取ったんだろうね?
 すると、ずっとだまっていた香鈴が。
「——ねえ、千鶴ちゃん。その子と会ったとき、吹奏楽部の人たちが近くにいたんだよね。もしかしたらだけど……その子は、千鶴ちゃんが、自分の知らない人たちと仲よくしてるのを見て、どう話したらいいかわからなかったんじゃない?」
「「……!」」
 香鈴の言葉に、わたしも千鶴も目を見ひらく。
 さすが、香鈴。頭がいい。その発想は、まったくなかった。
 だけどさ……!
「けど、千鶴がほかの子と仲よくしてたって、べつによくない? 中学生になって、新しい友だちができるのはふつうのことでしょ?」
「そうなんだけどね。仲がよかった大事な友だちが、知らない人となかよくなってるのってさ。……遠くにいっちゃったみたいに感じることもあるよ」
 そういえば。
 香鈴は少し前まで、弟のリュウくんのめんどうをみるのに時間をとられて、あまり遊べなかった時期があったっけ。
 だれも香鈴を仲間はずれにしてたわけじゃないけど、あのときの香鈴はさみしそうだった。
 千鶴の友だちも、それと同じなのかも。
 わたしは、もし小学校のころの友だちが知らない人となかよくしてても、たぶん平気。
 でも、同じように感じない子もいるよね。
 話を聞いて、千鶴が片手で前髪をかきあげる。
「だとしたら……あたし、わるいことしたなあ」
「まってよ。もしその子がそう感じてたとしても、千鶴はわるくないよ!」
 うれい顔になる千鶴を、はげまさずにいられない。
 だって、見てられないもん。
「その子だってきっと、千鶴を怒ったりキライになったりしたわけじゃないんじゃないかな?」
「わたしもそう思う。きっと、タイミングがわるかっただけだよ」
 そう。だれもわるくなくても、気持ちがすれちがうことだってあるよね。
「どうしても気になるなら、その子にメッセージを送ったら? もしかしたら、向こうも気にしてるかも」
「そうだよ。ケンカしたわけじゃないんだから、あんがいまたすぐに、話せるかもしれないし。急にいっちゃったのだってもしかしたら、急ぎの用事を思いだしたのかもしれないじゃない」
「あ、その説もある!」「でしょ」
 わたしと香鈴は、口々にアイディアを出していき。
 すると、千鶴がクスクス笑いだした。
「そうだね……2人とも、一生懸命考えてくれて、ありがと。今夜にでも、連絡してみるよ」
 よかった、千鶴の顔に笑顔がもどった。
 ちゃんと誤解がとけて、気持ちがつうじたらいいね。
 おたがいキライになったわけでもないのにギクシャクしたままそれっきりになるんじゃ、悲しいもん。
 それにしても……。
「友だちが自分の知らないうちに、知らない人となかよくなってたら」かあ……。
 わたしの頭に、あの、東條雷くんの顔がうかぶ。
 あの人、やけにわたしにつっかかってきたけど。もしかしたらそういうことだったのかも?
 クルミくんのことを取られたと思って、気に食わなかったとか。
 カッコつけてるくせに、あんがい子どもっぽいんだね……なんて皮肉を言いたくなっちゃうけど。
 もしクルミくんをとられてさみしいって思っていたのなら、ちょっと気持ちわかるし。
 あのときは感じわるいって思ったけど、ゆるしてあげてもいいかも。
 また会うことがあるかはわからないけど、もしもまた会ったらそのときは、ちゃんと話してみようかな?
 なんて考えていたら。
 バスケコートの中から、「うお————!」って声が上がった。
「おーい、火花ー! いまのシュート、ちゃんと撮ってくれたかー!」
 見ると星野が、こっちに手を振ってる。
 あっ。
「ごめーん! 見てなかった!」
「おいっ! まさかだれも撮ってなかったとか言わねーよな!?」
 星野は叫んだけど、わたしたちは無言で顔を見あわせる。
 ごめんね、星野。
 アオハルチャレンジに使えそうな写真やムービーは、べつにあるから、それでガマンしてね。

🍋5 マジで!? おさそいの相手は…

 夜になって。
 お風呂から上がってリビングにいくと、お兄がソファーに座ってアイスを食べていた。
「あ、お兄ズルい!」
「なんだ、お前もほしいのか? 冷蔵庫にまだあったから、持ってこいよ」
 そうする。
 最近暑さがキツくなってるけど、だからこそお風呂上がりのアイスは至福なんだよね〜。
 キッチンにいって、棒つきのアイスキャンディーを取ってもどってくると、お兄はテーブルにスマホをおいて、動画を見ていた。
「なに見てるの?」
「ダンスの動画だよ。今度文化祭で、チームでダンスを踊るんだ。だからその勉強」
 へー。
 文化祭ってたしか秋だったと思うけど、もう用意してるんだ。
 お兄とそろってアイスをかじりながら、高校の文化祭ってどんなだろうって考える。
 わたしは中学の文化祭もまだ経験してないけど。
 おばけ屋敷とか食べ物屋さんをしたりと、なんか楽しそうなイメージ。
 そうだ、文化祭のシーズンになったら、#文化祭をエンジョイする ってお題を出そうかな。
 秋まで忘れないでおこう。
「それで? お兄たちはどんなダンス踊るの?」
「まだ決まってねーんだ。メンバーで意見が割れててな。それでいろんな動画を見て、意見を出しあうことになったんだよ……ん? ここに映ってるのって、となり町の公園か?」
 スマホを見ながら、驚くお兄。
 わたしものぞきこんでみると、そこに映っていたのは…………げ、東條くん!?
 この前会った東條くんが、そこにいたの!
 ビックリして思わず、口の中で大事にころがしてたアイスのかたまりを飲みこんじゃった。
 冷たっ!
 東條くんは音楽にあわせて、キレッキレのダンスをしている。
 すごっ!
 わたしはダンスにはあまりくわしくないけど、激しく足を振りあげたり回転したりしてるのに、リズムを絶対にはずさない。
 これって、めちゃくちゃ体幹が強い人の動きだ……!
 東條くんのダンスはこれまでも見たことあるけど、改めて見ると感動しちゃうな。
 すると、お兄も感心したように言う。
「こんなに踊れるやつ、高校にもいねーよ。近くにこんなやついるんだなあ。しかもコイツ、まだ小学生かよ」
 ん? 小学生?
「なら、この動画、ちょっと古いやつだよ。東條くん、わたしと同い年だもの」
「ん? なんだほむら、コイツのこと知ってるのか?」
「ま、まあね」
 この前、この人と会って話したって言ったら、お兄はどう思うかなあ?
 なんて思っていると、テーブルにおいてあったわたしのスマホが、ピコンと鳴った。
 確認してみると……あっ。クルミくんからメッセージだ!

とつぜんごめん。明日の放課後、なにか予定ある?

「え、どうしたんだろ」
「ん、なんだ?」
「えーと……な、なんでもない。わたし、もう部屋いくから、ダンスの勉強がんばってね〜」

 残りのアイスを、がぶがぶって食べ終えると、わたしは自分の部屋にいって、もう一度メッセージを見てみる。
 明日の放課後の予定って……。
 文面を見ると、遊びにさそわれてるみたいだけど、クルミくんがわたしをさそうなんて!?
 と、とにかくなにか返事をしないと。

大丈夫だけど、どうしたの?

この前Colorfulで会った、雷って覚えてる?
雷が、火花さんもさそってカラオケいこうって言ってるんだけど

「はあぁ? 東條くんが!? わたしもさそおうって!?」
 なにそれ。こわい。
 この前会ったときは、あんなにわたしを敵視してたのに……?
 東條くんがクルミくんをカラオケにさそうのはわかるけど、なんでわたしまで?

それって、3人で? それとも、ほかにだれかくる?

3人だけ。けど火花さん、無理しなくていいよ

 う、うーん、どうしよう。
 東條くんと2人きりっていうなら、気まずい。
 だけど、3人って言うなら……これはまたべつの戦いになりそう。
 東條くんが何を思って、わたしまでさそったかは知らないけど……。

いいよ。いこう、カラオケ

ありがとう。雷には、オレから伝えておくよ。それじゃあ、また明日

うん。おやすみなさ〜い

 メッセージを送信して、ふうっと息をつく。
 だって、これは断われないじゃない!?
 小学校時代の「親友」VS.中学の友だちNo.1(今のところ)のあたし。
 かんたんには、引き下がれないでしょ!
 明日のことを考えるとドキドキして、この夜は、なかなか眠れなかった。

🍋6 遠慮無用えんりょむよう真剣しんけんバトル☆

「も〜ちもちもちもちウサギ〜! も〜ちもちもちもちウサギ〜!」
 カラオケ店の一室。
 声を張りあげて歌っているのは、わたしがSNSのアイコンにも使っているキャラクター「もちウサギ」のアニメテーマソング。
 放課後。わたしとクルミくんは、いったん家に帰って着替えたあと、同じく学校が終わった東條くんと待ちあわせして、駅前にあるカラオケにきていた。
 あ、千鶴がアオハルチャレンジで紹介していた、あのソフトクリーム食べ放題のカラオケ店ね。
 すぐそばでは、クルミくんと東條くんが、まじめな顔でわたしの歌をきいてる……けど……。
 もちウサギの歌を、こんなに全力で歌ったのなんて、いつぶりかなあ?
 そもそも小さい子むけのアニメだったから、わたしもカラオケで歌ったのは、今日がはじめて。
 なら、なぜそんな歌を選んだのか?
 それは……っ。
 わたしが歌える中で、クルミくんが知ってる歌がほとんどなかったからだよ——っ!(涙)
 カラオケにきてわかったんだけど、クルミくんはわたしがいつも歌う、J-POP系の歌を、ほとんど知らなかったの!
 東條くんが踊るときに使ってる曲は一応知ってたけど、それはとうぜん、東條くんのもち歌。
 わたしが歌うのは、なんだかくやしい。
 けど、せっかく歌うなら、クルミくんも知ってる歌のほうがいいと思って、選んだのがこのもちウサギの歌だったってわけ。
 子どもっぽいかなーって思ったけど、いいんだもん!
 もちウサギ好きだし!
 よけいなことは極力きょくりょく考えないで、全力で歌うことにした!
「も〜ちもちもちもちウサギ〜! も〜ちもちもちもちウサギィ〜〜〜〜〜〜〜センキュー!」
 最後の絶唱ぜっしょう部分と決めゼリフが終わって。
 さあっどうよっ! 歌いきってやったぜっ!!!
 パチパチパチパチ!
 クルミくんが熱心に拍手してくれてる。
「上手……火花さん、歌うまいね!」
「そ、そう? ありがと……」
「それにすごく楽しそうだった。じつはもちウサギの歌って、オレたちも小学校のころに学校の合唱コンクールで歌ったんだ。そのときのこと思いだしたよ」
 ええっ、合唱コンクールで、もちウサギの歌を?
 これってそもそも、合唱向きの歌じゃないのに!?
 でもめずらしいけど、うらやましい。
 クルミくんは喜んでくれたけど、——問題は、東條くんの反応だ。
 子供っぽいって笑われないかが心配だけど、東條くんに目をむけてみると……。
 むむ、顔をふせて肩を震わせているじゃないの。
 この反応……もしかして、失笑しっしょうしてるっ!?
 けど、顔を上げた東條くんは……。
「まさかもちウサギの歌でくるとは……………………お前、やるじゃねーか」
 ええっ、やるんだ!?
 東條くんの基準はよくわからないけど、ほめてくれるなんて意外。
「マイク貸せ。次はオレが歌う! もちウサギなんて、けちらしてやる!」
 いや、べつにアナタ、もちウサギと戦ってるわけじゃないから!
 けど東條くん、言うだけのことはあって、ダンスをするときに使ってるリズム激しめの歌を、見事に歌いきった。
 歌ってるうちに、自然に身体も踊っちゃうらしくて……
 くやしいけど、まるで、アイドルグループのメンバーみたいに決まってた。
 もちろん、絶対に口には出さないけどね!
 そして次。
 クルミくんが歌ったのは——な、なんと、『Colorful』でBGMに流れていた、英語の歌!
 わたしは洋楽にはくわしくないけど、きいていると自然とメロディがうかぶような、有名な曲。
 それにクルミくんのやわらかめの高い声が、すごく耳当たりがいいの。
 ききほれていると、東條くんがこっちに顔をよせて、ささやいてくる。
「どーだ、うまいだろ。ユウは小学校のころ、合唱コンクールでソロパートをまかされたこともあるんだぜっ」
 なんかすごい、自慢顔。
「へえー、そうなんだ……って、どうしてそれで東條くんがいばってるの?」
「決まってるだろ。オレがユウの親友だからだ!」
 東條くんの理屈はさっぱりわからなかったけど、とにかくいい声。
 歌い終わると、わたしも、めいっぱい拍手をした。
「クルミくん、いい声だね〜!」
「そうでもないよ。それに、意識してないと、すぐに声が小さくなるんだ」
 なるほど。
 それで音楽の授業で歌っても、だれもクルミくんの声のよさに気づかなかったんだね。
「クルミくんって、洋楽とか好きなの?」
「好きって言うか、あの手の歌は、よくきいてたから」
「じいちゃんばあちゃんの影響だよな。ユウだけじゃなくて、ねーちゃんも持ち歌だろ」
 なるほど、納得。
 ……けど待って? いま、東條くんが気になること言ってなかった?
「東條くん、『ねーちゃん』って!?」
「決まってるだろ。ユウのねーちゃんだよ」
「ええっ!? クルミくんって、お姉さんがいるの!?」
「なんだ、知らなかったのか? さすがニワカだな」
 ニワカって!
 だってクルミくん、あんまり自分のこと話してくれないんだもん。
 洋楽が好きなことも、お姉さんがいることも知らなかったけど、東條くんは知ってるのか〜。
 うう、クルミくんのいまの一番の友達はわたしだーって、張りあおうとしたけど。
 わたしって、クルミくんのこと、ぜんぜん知らないのかも?
 ううん、いいや。
 これから知っていけばいいんだから!
「それにしても。歌うと暑くなるね」
「ジュースでも注文する?」
「それよりここ、ソフトクリーム食べ放題なんだろ。せっかくだから、持ってきたらどうだ?」
 東條くんの言うとおり、部屋を出て少しいったところにソフトクリームの機械がおいてあって、自由にとってきていいんだ。
「じゃあ、ちょっといってくる。3人ぶん持ってこようか?」
「あ、だったらわたしも……」
「いいよオレ1人でだいじょうぶだから、火花さんはゆっくりしてて」
 クルミくんが出ていって、部屋の中に、東條くんと2人。
「「………………」」
 微妙びみょうな空気が流れる。
 けどいい機会だし、わたしは気になってたことをきいてみた。
「ねえ、今日はどうして、どうしてわたしをさそったの? わたしがいたらジャマじゃない?」
 この間は、あんなにかみついてきたくせに。
 すると、東條くんは、バツがわるそうな顔になった。
「……いや。この前、ユウといたところに割りこんで、ジャマしちまったからな」
「『Colorful』で会ったとき? え、それが理由なの!?」
「ああ。あのときは、さすがに態度わるすぎた。ユウからも、お前にあやまれってしっかりクギをさされちまったし……オレも頭を冷やしたら、あれはなかったなと思ったから。お前に借り作ったままなのもイヤだしな……でも、これで貸し借りなしだ!」
 と東條くんが、いろいろ言った最後にきっぱり宣言する。
「それとさ、『東條くん』って呼ぶの、やめてくれねーか。くすぐったくてしかたねー」
「えっ? じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「フツーに『ライ』でいいよ。みんなそう呼んでるし」
 名前呼び!?
 まあ東條くんがそうしてほしいなら、べつにいいけど。
「わかったよ。そういえばライのダンス動画見たよ。といっても、お兄が見てたのを横からだけど」
「お、そうか? どうよオレのダンスは」
「ううっ、くやしいけど、すごいね。それに、小学生のころからやってるんだね」
「なに言ってんだ、あたりまえだろ。小学生どころか、幼稚園のときからやってるっつーの」
「えーっ、幼稚園!?」
 もちろん、当時はいまほどキレキレじゃなかったとは思うけど、わたしがおゆうぎ会で踊っていた「もちウサギのダンス」とは、次元がちがってたんだろうなあ。
「そんな早くからダンスやってるんだね」
「オレらの間じゃ、フツーだよフツー。幼稚園のころからピアノ習ってたり、英会話習ってたりするやつだっているだろ。それと同じだ」
 あ、なるほど。
 ライよりは遅いけど、わたしも小学校に入ってすぐ、お兄のマネしてスケボーやりはじめたし、そんなもんなのかも。
 けど、そんなに早くからダンスづけだったのなら……。
「ねえ、クルミくんとは、なにきっかけで仲よくなったの?」
 なんとなくだけど、ダンスをやってる子って、はなやかなイメージがある。
 現にライは、ダンス動画が何万回も再生されている、インフルエンサーだものね。
 対してクルミくんは、そういったクラスのノリに関わろうとするタイプじゃない。
 目立たずに、自分の世界を大事にしてるタイプ。
 決してどっちがいいってわけじゃないけど、まるっきりタイプのちがう2人。
 どこに接点があったのか、まるで想像つかないよ。
「ユウとのきっかけ? あー、まあ…………いろいろあってな」
「いろいろってなによー!」
 そんなもったいつけた言い方されると、ますます気になるよ!
 だけど、ちょうどそのとき、部屋のドアがコツコツって叩かれた。
「ここ開けてー。手がふさがってるんだ」
「あ、ちょっと待って」
 ドアを開くと、クルミくんが両手でソフトクリームのカップを3つ持っていた。
「はい、火花さんのぶん。こっちは雷のね」
「ありがとう」「サンキュー」
 ソフトクリームには、チョコシロップと、カラフルなチョコスプレーまでかけてある!
 クルミくんってば、仕事がていねい!
 ソフトクリームを受け取って口に運ぶと、甘さと冷たさが広がっていく。
 おいし〜〜〜〜!
 ——クルミくんとライがなかよくなった理由は、ききそびれちゃったけど。
 まあいいや、わたしとクルミくんがはじめてしゃべったときの話も、おしえてあげないんだから。
「ユウ、これ食い終わったら、今度はデュエットしようぜ」
「いいよ。歌はなんにする?」
 男子2人はソフトクリームを食べながら、次の歌を選びはじめてる。
 クルミくんとデュエットかあ。
 わたしもやりたいけど、もち歌のレパートリーがぜんぜんちがいすぎだね。
「ふっ、わるいな。デュエットはオレの特権だ」
「なっ!?」
 まるで心を見透かしたみたいに、ライがイジワルそうに笑う。
 このー! さっき借りを返すって言ってなかったっけー?
 ひょっとして、カラオケにさそった時点で、わりこんだことについては、チャラ。
 あとは遠慮なくマウント取るってことー!?
「だったらそのあとはわたしと、どっちが点数出せるか、勝負だよ!」
「いいぜ。望むところだ!」
 ちょっとは仲よくできるかと思ったけど、結局バチバチ。
 クルミくんはそんなわたしたちを見ながら「仲いいねえ」って言ったけど……。
「よくないから!」「よくねーよ!」
 歌ってもいないのに、わたしたちの声はみごとにハモった。

🍋7 その質問は、地雷じらいです!

 ライとのカラオケ対決は、大激戦だいげきせんのすえ、わたしが勝利をおさめた。
 点差は、0.3点という接戦だったけど、ふふん。
 勝ちは勝ちだもん!
 ライはくやしそうに「次だ! 次は絶対に負けねーからな!」なんて言ってたけど。
 ふぁーっふぁっふぁっ、そのときも返りちにしてやるわー!
 そんなわけで、これでもかーってくらい歌った次の日。
 のどはまだガラガラだったけど、まだ楽しい気分が残ってる。
 今度は千鶴や香鈴をさそってもいいかもー。
 なんて考えながら、わたしは学校にやってきたんだけど……。
「おはよ、千鶴。香鈴」
「あ、ほむら……」
 教室に入って、先にきていた千鶴たちにあいさつをしたけど……
 2人がなにやら複雑な顔で、こっちを見る。
 え、わたしの顔になにかついてる?
 見ると千鶴だけじゃなく、そのまわりにいたクラスメイトみんなが、わたしに目をむけてるんだけど……。
 すると、その中から星野が声をあげた。
「おい火花、昨日なにがあったんだよ!?」
「え? き、昨日って……」
「ほら、これだよこれっ!」
 星野がつき出してきたスマホの画面に映っていたのは……。
「え——っ! なにこれ——!?」
 わたしとライが、並んだツーショット!?
 うしろにぼんやりうつってるのは、昨日のカラオケ店。
 え、お店から出たところを、だれかに撮られてたってこと!?
「なあ、火花のとなりにいるコイツってインフルエンサーのライだよな? 知りあいだったのか?」
「え、ええと……それよりこれ、だれが撮ったの?」
「となりのクラスのバスケ部のやつだよ。火花がライと2人でいるのを見かけて、撮ったって」
 2人!?
 いやいやいや、このときクルミくんも、いっしょにいたから!
 この写真では見きれてるけど、画面のもうちょい右側に、いたんだよ——!
 なのに、ライと2人だと思われたなんて。
 なに? クルミくんはあのとき、透明人間にでもなってたの!?
「なあなあなあ火花、マジでライと付きあってんの?」
 えっ!
「なんでそんな話になるの!?」
「だって、みんな書きこんでるし。いっしょにいるのはライの彼女だろって」
「はぁっ!?」
 思わず声がひっくりかえりそうになって、あわてておさえる。
「付きあってる」って言葉に、いちいち逆上するクセ、よくないよね。
 いっしょに写ってるだけの写真から、話が広がりすぎ!
 それに、書きこんでるってどこによ!?
 わたしがきこうとしたそのとき、まわりにいただれかが言いだした。
「千鶴は知ってたの? 千鶴、ライのダンス動画もよく見ててたよね?」
 ドキッと、心臓が飛びあがる。
 そうだった、千鶴はライのファンだったんだ——!
 わたしとライが付きあってるっていうのは、完全にデマだけど。
 ライと知りあったことは、伝えてなかった。
 千鶴、気をわるくしてないかなあ……?
 青ざめながら様子をうかがうと、千鶴はあきれたように、はぁ——っと、大きくため息をついた。
「ほむらとライのことは、今はじめて知ったよ」
「え、ほむら、千鶴にも言ってなかったの? 友だちなのに?」
「いや、それは……」
「————ストップ。友だちだからって、だれと会ったかいちいち報告しなきゃいけないわけじゃないでしょ。というか、あたしはライのダンスが好きなだけで、交遊関係にまで首をつっこんだりはしないし」
「千鶴……」
 言いはなつ千鶴は、すごくクール。
 でも、怒るどころかフォローしてくれたことに、すごくホッとする。
「そんなことより! だれかが勝手にほむらたちの写真を撮ってネットにあげたことのほうが大問題でしょ!? ほむらは写真撮られてたこと、知らなかったんだよね?」
 と、ビシッとまわりににらみをきかせて、こおりつかせる。
「うん。いま知って、ビックリしたんだから」
「星野っ! あんた、そんな写真なにダウンロードしてるの? まさか拡散してないよね?」
「し、してねーよ! 気になったから、ちょっと保存しただけだって。話きいたら、消すつもりだったさ……」
「ほんとにぃ?」
 千鶴はうたがわしそうな顔だけど、いやもう、あまり責めないであげよう!
 けど、千鶴の言うことは、もっとも。
 勝手に写真を撮るのも、ネットにあげるのも、絶対マナー違反いはんだよね!
「ねえ星野、この写真、バスケ部の人が撮ったって言ってたよね。画像を削除するよう、お願いしてくれる?」
 とわたしがたのむと、星野はすぐに、
「だな。よし、オレにまかせとけ」
「マジでたのむよ、星野? もしもそいつが駄々だだこねるようなら、弁護士べんごしやってるあたしのおじさんに相談するぞって言って」
 と、千鶴がさらに、ビシッ!
「おう……って、千鶴、おまえ弁護士のおじさんがいるのか?」
「それくらい言ったほうが、盗撮とうさつなんてしなくなるでしょ!」
 さ、さすが千鶴、たよりになるよ。
 …………けど。
 いっしょにいただけで、写真を撮られてさわがれちゃうなんて。
 ライって本当に、知ってる人にとっては、超有名なインフルエンサーなんだなあ。
 もしわたしといっしょにいたのが、べつのだれかだったら、盗撮なんてされなかったはず。
 ただの中学生がいっしょにいるだけの写真なんて、話題にもならないもんね。
「それはそうと、結局なんで、火花はライといっしょにいたんだ?」
 ドキッ
「こら星野、あんたまたそういう詮索せんさくを……」
「だってよう。やっぱ気になるじゃん! ライってそこそこ有名人だし、知りあいだったらスゲーだろ」
 あーそうなるよね、えーとえーと。
「……えっと。たまたまライが財布を落としたのを、わたしが見かけて、声をかけただけ! そこを撮られたんじゃないかなあ」
 うー、ついウソついちゃったけど。
 まさかここで「じつはライといっしょにカラオケしてました☆」なんて言ったら、また大騒ぎになっちゃう。
 さいわい、星野もほかのみんなも「なんだ火花、親切かよ」ってすぐに納得してくれて、ホッと胸をなで下ろす。
 それにしても……こんな騒ぎになってるってことは、もしかしたらライは、もっといろいろ言われちゃってるんじゃ?
 さっき星野が、わたしのことをライの彼女みたいに言ってる書きこみが——って言ってたっけ。
 どうしよう、こっちの騒動は収まったけど、ライのほうが心配になってきたよ!

🍋ためし読みはここまで♪
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