【先行ためし読み 第6回💍】新シリーズ!『放課後チェンジ 世界を救う? 最強チーム結成!』
大型新シリーズ! ドキッとしたら動物に変身!? 4人が力を合わせて事件を解決する『放課後チェンジ』が読める!
まなみ、尊(たける)、若葉(わかば)、行成(ゆきなり)は仲良しの4人組。中1のゴールデンウイーク、フシギな指輪を見つけたことで、なんと、動物に変身しちゃった!!!
猫や犬の運動能力、タカの飛ぶ力が使える!
でも……指輪が指から外れない!!!
「放課後チェンジ 第1巻」を、ためし読みしてね!
『放課後チェンジ』ためし読み 第1回
1章 キセキの始まり
1 無敵のキズナの幼なじみ
「おい、まなみ。だいじょうぶか? まなみ……」
「……う~ん……だめ、行かないで――シロップうううううう!」
「あでっ!!!」
パッと周りが明るくなると同時に、ゴチーン! と頭にショーゲキ。
「いった~い! いきなり何⁉」
わたしが頭をおさえながら上を見ると、
「こっちのセリフだ!」
ととのった顔立ちの男子が、あごを押さえながら、にらみつけてきた。
お日さまをあびて金色に光る、やわらかそうな髪。
意志の強そうなまゆに、くりっとした大きなひとみ。
長い手足は引きしまって、いかにも活発そうなフンイキ。
よ~く知ってる彼の姿を見ても、すぐには何が起こっているのか、ピンとこない。
「えーと……ここはダレ? わたしはドコ?」
「ねぼけすぎだろ! だが親切なオレが教えてやる。
名前は斉賀(さいが)まなみ。グータラでミーハーで食欲だけは十人前の中学一年生。
幼稚園のころからずっと三つ編み。
今はゴールデンウィークで、オレと若葉(わかば)と行成(ゆきなり)といっしょに、まなみの田舎のばーちゃんとこに遊びにきてる。
絶賛かくれんぼ中にして、オレが鬼で、林の中の岩のかげで寝てるまなみを見つけたところ!」
「なるほど、理解」
説明とあわせて自然いっぱいの風景を見まわして、現実を思いだした。
幼なじみたちと、ひさしぶりに田舎に遊びにきて。
外でかくれんぼしてる間に、うっかり寝ちゃったんだね、わたし。
「でもグータラでミーハーで食欲だけは十人前ってなに⁉」
「カンペキな説明だろ」
しゃべるたびにとがった犬歯がのぞく、えらそうな彼は、神崎尊(かんざきたける)。
わたしの幼なじみ、その一。
赤ちゃんクラブからの付きあいで、昔は素直でかわいかったのに、どんどんひねくれて、口が悪くなってきた。
中学に入って以来、いっしょに遊ぶのは久しぶりだけど、アマノジャクはますますひどくなってきたかも。
「ったく……いきなり頭つきをかましやがって」
あごをおさえながら、ぼやく尊。
あ、わたしが起きた時に、尊のあごにぶつかっちゃったから、フキゲンなのかな?
「ごめんね」
謝ると、尊は「いいけど」とうなずき、やっとまゆの間のしわをゆるめた。
「うなされてたけど……あいつの夢、みてたのか」
「…………」
尊の言うとおり、さっきまでみていたのは、あの子の夢。
賢そうな金と青の瞳の、白い猫……シロップ。
思いだすと、胸が苦しくなってきた。
けど、わたしはなんでもないふりをして、言う。
「そう? 忘れちゃった」
「……ふーん」
尊は心配そうな目で見てたけど、気をとりなおすように、にやっと笑った。
「でもよかったな、まなみ。万が一この国宝級の顔にキズでもつけてたら、賠償金5兆円だぞ」
「その宇宙レベルの果てしない自信、どこからくるの? てゆうか、なんでわたしにそんな近づいてたの? ハッ、まさか寝こみを襲おうと……⁉」
「アホか! 声かけても起きないから、肩をゆすろうとしたんだよ。そしたらまなみが急に体を起こして――」
尊がそこまで言いかけたところで、ガサッと音がした。
「「⁉」」
見れば岩の向こうにある茂みから、大縄くらいの太さのヘビが、顔をのぞかせている!!
ゾーッと鳥肌が立って、頭が真っ白になった。
「シゲキしないように、 静かに離れるぞ」
かすかに青ざめた尊に小声で言われて、わたしもコクコクとうなずいた、けど…………
あ、あれ?
「……どうしよう、尊」
「?」
「腰がぬけた……」
「…………」
キョトンと首をかしげてた尊が、みるみる「マジかよ」というように顔をしかめる。
わたし、ヘビは大の苦手なんだよ~!
ビックリしすぎて、立ちあがろうとしても、足腰に力が入らない。
「さらば、まなみ。ホネは拾ってやる」
「イヤ~! 大事な幼なじみを見すてるの⁉ このひきょう者!」
「そっちこそ大事な幼なじみを思うなら『わたしはいいから一人で逃げて!』だろ」
はくじょうにも置いていこうとする尊を引きとめて、こそこそと言いあってる間にも。
ヘビは口からチロチロと舌をのぞかせて、すうっとこちらにはい出てくる。
ひい~、キモイ! こわい! ほんっとムリ!
どうしようどうしようどうしたらいい……⁉
「――まなみ。声だすなよ」
パニックになりかけていたら、不意に耳もとで尊がささやいた。
なに? と思った瞬間、わたしの背中とひざのうらにグッと手がそえられて。
ひょいっと尊に抱えあげられた。
「!」
息をのむわたしを横抱きにしたまま、尊はそっと歩きだす。
えっ……力、すごくない……⁉
てかこれ、いわゆる『お姫さま抱っこ』ってやつじゃ……!
ヘビの恐怖も忘れて、なんだかドキドキしてきた。
中学に入ってからバタバタしてて、一カ月ぶりくらいにみんなで集まったけど。
尊、ちょっと大人っぽくなった……?
「この辺でいいか」
林の出口あたりにある大きな木の下で、尊はわたしを下ろして、はーっとため息をついた。
「ありが――」
「あーっ、腕がもげるかと思った!」
大げさに腕をさすりながら言われて、ピシッと固まるわたし。
「バスケ部のハードトレーニングがなかったら、絶対持ちあげられなかったな」
「なっ……そこは『羽根みたいに軽かった』って言うところじゃないの⁉」
「全然。まー、行きの電車でもおかし食べまくって、スキあらば寝てるグータラのまなみが重量級なのは当然か」
「重量級じゃないし! 平均体重だから!」
あー、もう、ひそかなトキメキが宇宙のかなたに消しとんだよ!
尊ってどうしてこう口が悪いんだろう⁉ 腹立つなあ!
むきーっと怒りをこらえていたら――
「あ、まなみ、見つかったんだ」
澄んだ声がひびいて、つややかな黒髪のショートボブの美少女がやってきた。
水沢若葉(みずさわわかば)ちゃん。
わたしの幼なじみ、その二。
「若葉ちゃん! あのね、向こうに大きなヘビがいたんだよ!」
「ヘビ⁉ こわ……どんなヘビ?」
「緑色だった」
「じゃあアオダイショウかな……日本の本州ではマムシとヤマカガシ以外は無毒だっていうから、キケンはなさそう。でも、こわいよね」
「くわしいね⁉ さすが若葉ちゃん」
「『いきものの森』で見たの。全図かんコンプしたしね」
ふふっと少し得意げにほほ笑む若葉ちゃん。
『いきものの森』はプレイヤーがいろんな生き物の暮らす村に住んで遊ぶゲーム。
若葉ちゃんはゲーマーなんだよね。
勉強もスポーツもできる優等生でもあるから、もともと物知りなんだけど。
「あとは行成だな~。どこかくれてるんだ、あいつ」
頭をガシガシとかきながら、尊が言った瞬間。
「ここでした」
「「「うわっ」」」
ガサッと上から色白の男子が逆さまに現れて、わたしたち三人はとびあがった。
木の枝にひざでぶらさがって、ビックリするこっちを見て無表情でVサインしている彼は。
今鷹行成(いまたかゆきなり)。
幼なじみ、その三。
基本無口でクールであまり感情を顔に出さないけど、けっこう自由でマイペース。
でもって親は茶道の家元というおぼっちゃま。
まさか真上にかくれてたなんて……。
「おまえはニンジャか!」
尊のツッコミに「どろん」と答えながら、地面に下りてくる行成。
そして、すらりとした長身でわたしたちを見まわしながら、淡々と言った。
「そろそろ、あきてきたな」
「そうだね。かくれんぼはもういいかも」
「次は何する?」
うーん、と考えていたら、不意に。
『こっちだよ』
呼ばれた気がして、振りかえる。
……だれもいない。気のせいかな?
「どうした、まなみ?」
「なんでもない。そうだ、あそこの中に入ってみるのはどう?」
振りかえった先に見えた、かわら屋根の蔵を指さした。
「あー、あの物置? いいじゃん。変わったものがいっぱいあったよな」
「前は時間がなくて、さっとしか見られなかったしね」
「賛成」
尊がパチンと指を鳴らし、若葉ちゃんと行成もうなずきあう。
みんな、五年前にも遊びにきたことがあるんだよね。
その時にいっしょにあちこち探検して、あの蔵もちょっとだけ見に行ったっけ。
「カギはかかってなかったはずだよ」
「よっしゃ」
「いざ行かん、がらくたの楽園へ」
目を輝かせて、蔵へと向かって歩きだす、幼なじみたち。
三人の後を追いながら、わたしの足どりもはずんでいた。
みんな同い年で、幼稚園から小・中学校もずっと同じ。
気づけば四人でいることがあたりまえ……だったんだけど、中学校に入ってからはわたしと若葉ちゃん、尊と行成でクラスが分かれちゃって。
尊はバスケ部の練習、行成は家の用事でいそがしかったり、若葉ちゃんは体調不良だったり。
わたしも新しい環境でバタバタして、今回おばあちゃんが、久しぶりにみんなで泊まりにおいでって呼んでくれるまで、ずっと集まれてなかったんだ。
特に尊と行成とは、こんなに長いことゆっくり会えてないのは初めてだった。
いっしょにいると、ケンカはしても、テンション上がるし。
しっくりくるっていうか、ホッとする。
クラスの友だちも好きだけど、やっぱりこの三人はトクベツなんだ。
みんなで集まると、なんでもできちゃいそうな、無敵のパワーがわいてくる。
でも……ゴールデンウィークは明日で終わりだし、今日の夕方にはもう、家に帰るんだよね。
そう気づいた瞬間、ずーん、と気分が沈んできた。
やだな、帰りたくないよー。
また、あのヘーボンな毎日にもどるのかぁ……。
『放課後チェンジ』ためし読み 第2回
2 小猫になっちゃった⁉
「これ、蓄音機ってやつだよな。まだ使えるのかな?」
「骨格標本もあるのか!」
「私、ちょっと二階も見てくるね」
蔵につくと、それぞれが好奇心のおもむくまま、目につくものを調べはじめた。
古い家具や雑貨、ダンボールなどがまとまりなく置いてある。
ちょっとした宝探しタイムだね。
そんな中、わたしはまた、だれかに呼ばれた気がして、振りかえった。
『こっち……』
やっぱり呼ばれてる……?
静かな森のみずうみで、ポツンと落ちた雨だれが、水面に波紋(はもん)を広げるように。
『こっちだよ……』
急に他の音が消えた世界で、かすかにひびく不思議な声にみちびかれるように――
なんだか夢うつつの気分で、わたしは足を動かしていく。
視線は、たなのはじっこにひっそりと置かれた、小さな箱に吸いよせられた。
すごく古そうな木製で、宝石箱みたいな形。
全体になにか複雑なもようが彫られていて、風変わりだけど、やけに存在感がある。
『開けてみて』
手にとって、ふたを開けてみる。
中に入ってたのは、いくつかの、指輪?
そう思った瞬間、ゾーッとすさまじい悪寒が背筋を走った。
「!」
直後、箱から目を開けていられないほどの強い光があふれだし、あたりが真っ白に染まった!
同時に、ボン、と全身がはじけるような感覚に襲われて。
わたしは意識を失った――。
「――どうなってるんだ……⁉」
尊のあせったような声。
「尊……?」
床にうつぶせになっていたわたしは、ゆっくり体を起こす。
パッと目に入ったのは、かがみのそばにいた、一匹の黒い柴犬だ。
「うわ~、かっっわいい!」
完全な子犬じゃなくて、子どもと大人の中間サイズ。
キラキラお目々に、ツヤのあるやわらかな毛なみ。
柴犬はみんなかわいいけど、その中でも最上級、おどろきの愛らしさ!
「かわいい! かわいいね~。どこからきたの?」
一気にテンションがはねあがり、今の状況も忘れてかけよったら――
「え……その声、まなみ⁉」
黒柴ちゃんから、尊の声がしたからビックリした。
「ええっ、尊……なの?」
信じられないながらもそう聞いたら、黒柴はわたしを見つめながら、うなずいて。
「マジでまなみなのか? でも、その姿……」
わたしの姿???
尊(?)の後ろにあったかがみに目を向けると、プリティーな黒柴のとなりで。
サーモンピンクの毛にしまもようが入った、ふわふわの体。
短い手足に、アーモンド形の金色の瞳……。
これまたとっても愛らしいにゃんこが、こっちをまっすぐに見つめていた。
え、なんでわたしがいるはずの場所に、子猫が映ってるの???
おそるおそる手をあげると、かがみの中の子猫も前足をあげて。
ふるふると頭をふると、かがみの中の子猫も頭をふった。
………………どええええええええ⁉
「わわわわわた、わたし、ねねねっ猫になっちゃったー⁉」
「オレが犬になったと思ったら、まなみは猫か……」
ボーゼンと尊が言ったところで、バサバサッと何かが飛んでくる。
「……そして、俺はタカみたいだな」
鏡に映るたなの上に止まって、そう言ったのは、白と茶色の羽をもつ小型のタカ。
「もしかして行成⁉」
「みんな動物になってるのか?」
「そのようだ。若葉は、二階か?」
そうだ、若葉ちゃんはだいじょうぶ⁉
「行こう!」
あわててみんなで階段を上っていくと――
ドレッサーの台の上に、手のひらサイズのハムスターがちょこんと立っていた。
「何が起こってるの……?」
かがみを見て、そうつぶやく声はまちがいなく。
「若葉ちゃん!」
わたしがまっしぐらにかけよると、ハムスターは「ギャー、猫ー!」と悲鳴を上げた。
「いやっ、食べないでー!!!」
「ちがうちがう、若葉ちゃん! わたし、まなみ!」
わたしの言葉に、ガタガタとふるえていたハムスターは、つぶらなひとみをまたたいた。
「え……まなみ……?」
「うん! 昼寝とおいしいものとアイドルの漣くんが大好きな、斉賀まなみです!」
「オレは尊で、こっちのタカは行成だぜ。オレたちもおどろいたけど、若葉は寿命が縮んだな」
「ドンマイ」
「え……みんな、動物になってるってこと……?」
キョトンと首をかしげるハムちゃん。か、かわいい……とかキュンとしてる場合じゃない!
わたしが猫で、尊が犬で、行成がタカで、若葉ちゃんがハムスター。
いったいどうして、こんな姿になっちゃったのー⁉
『放課後チェンジ』ためし読み 第3回
3 おそろいの不思議な指輪
「まずゾゾッとすっげー嫌な感じがして、いきなり周りがまぶしくなったと思ったら、ボンッ、て体がはじけるみたいになって、意識がとんで。気がついたら、この姿になってた」
尊の言葉に、「私も」「俺も」とみんなが同意をする中。
わたしは「ごめん」と、情けない気持ちで声をあげた。
「わたしのせいかも。なんか、だれかに呼ばれた気がして、箱を見つけてね。それを開けたら、指輪が何個か入ってたんだけど、そこからすごい光が出てきて……」
「指輪……もしかして俺の足や若葉の手に付いてる、これか?」
そう言う行成のタカの足をよく見ると、吸いこまれるような青い石が付いた銀色のリングがはまっていた。
若葉ちゃんのハムスターの手には、同じデザインの緑の石の付いた指輪。
「そうかも!」
「まなみと尊のしっぽの付け根にも、付いてるね。まなみはピンクで、尊は赤い石だけど」
「マジで⁉ 色ちがいの石の指輪ってことか」
おたがいの指輪をまじまじと見くらべるわたしたち。
箱も調べてみよう、ということでみんなで一階に下りる。
「これだよ!」
「うわ……これはなんか見るからに……」
「あやしげだな」
「独特のオーラがあるね……」
床に落ちていたからっぽの箱を囲んで、うなる三人に。
「だよね……なんで開けちゃったんだろう~」
半泣きで下を向いたら、わたしの頭にポン、と犬の手がのせられた。
「ま、どうせ夢だろ。さっきは一瞬あせったけど、こんなこと、あるわけないし」
からっと言いきる尊。夢……?
「のわりには、感覚がリアルなような……でも、そうだよね……夢、かな……?」
自分を納得させるようにつぶやく若葉ちゃん。
そ、そうか。これ、夢か~。
夢の中の尊たちが「これは夢」とか言ってるのは、ちょっと不思議な感じだけど。
「……だよね。いきなり動物になるなんてね!」
「そうそう。夢の中でもやらかすのが、まなみらしいけど」
「尊、それどういう意味⁉」
「そのまんま。ドジでケーソツでそそっかしいソコツでマヌケなまなみらしいって意味」
「そこまで言う⁉ 尊こそ夢の中でも口が悪いな!」
言い合うわたしたちの横で、「――とりあえず」と行成がつばさを広げる。
「貴重な動物体験だ。楽しませてもらおう」
そう言うと、行成は開けっぱなしだったドアから、バサバサッと大空へと飛びたっていった。
――行成も夢でもブレないな⁉ あいかわらず自由人……。
でも、そうだね。
わたしが猫なんてちょっと複雑だけど……夢なら、楽しんじゃおう!
「よし、オレも――」
「待って、尊!」
「うわっ」
わたしは外に飛びだしかけた黒柴(くろしば)の体に、ぴょんと抱きついた。
ふわふわの毛なみに、思いっきり顔をすりすりする。
「はあ~、黒柴かわいい~。もふもふ最高~♡」
「こ、子猫が小犬に全力であまえている……!」
何このいやしの光景、とつぶやく若葉ちゃん。
「しっぽもたまらん♡」
「~~やめろ、くすぐったい! あとオレはかわいいじゃなくてカッコいいんだよ!」
くるんと丸まったしっぽにじゃれようとしたところで、パシッとはらわれた。
つれないなぁ、もふもふ……。
尊はドアから飛びだすと、畑の方へと勢いよく走りだした。
ワンワン! と犬そのものの声で鳴いて、すごいスピードでかけまわる。
あ~、やっぱりかわいいよ黒柴!
コロコロとはねる元気な体。極上の黒い毛なみ。
「国宝級の顔」なんて自称してたけど、実際、元の尊の外見はすこぶる良いんだよね。
でも、犬になるとこれほどとは! もう、ジタバタしちゃうかわいさだよ~。
遠吠(とおぼ)えまでして気持ちよさそう……よし、わたしも行くぞ!
「尊~、もう一回もふらせて~!」
「ふふん、オレの速さについてこれたらな!」
――すごい、体が軽い!
さすが猫。とんだりはねたり、自由自在。
目線が低いのもいつもとちがって、楽し~い。
晴れた大空を見あげると、行成がゆうゆうとつばさを広げて飛びまわっていた。
おそるおそる外に出てきた若葉ちゃんも、トトトッと身軽に走りだす。
よーし、次は木登りしてみようかな……うん、楽勝、楽勝♪
だけどほどなくして、体の奥がむずむずするような感覚がわいてくる。
何これ?
わたしが木の枝からぴょんと着地したら、他の三人も異常を感じたのか、そばに集まってきた。
直後、またボン! とあの感覚がして、みんな、人間の姿に元どおり!
小川をのぞきこむと、髪を左右で三つ編みした、見なれた自分の顔が水面に映った。
よかった、わたしももどれたみたい。夢の中とはいえ、やっぱりホッとするな~。
「……あれ、なんか、力が入らない……」
立ちあがるのがおっくうで、そう言うと、「わかる」と若葉ちゃんもしゃがみこんだ。
「体が重いな……」
「ああ、やたら疲れた。バスケの試合の後みたいだ」
行成や尊も同じみたい。
「あ、やっぱり指輪してる……」
そう言った若葉ちゃんの右手の中指には、たしかに、緑の石がキラリと輝いていた。
わたし、尊、行成の右手の中指にも、おそろいのピンク、赤、青の指輪が光っている。
古めかしいけど、どこか特別な感じがする、凝ったデザイン。
「こういうの、アンティークって言うんだっけ。なんかロマンがあるっていうか、カッコいいよね」
「まあな……ん? ……っ……なんだこれ、全然ぬけねー」
うそ⁉
「んんんっ、んー! この! キーッ! ……ハアハア、ほんとだ……ビクともしない」
「……私も無理みたい」
「右に同じ」
とほうにくれて、顔を見あわせるわたしたち。
「――とりあえず、帰るか。昼メシのすげーいいニオイがする」
尊の言うとおり、さっきから、お出汁(だし)や天ぷらのいい香りがただよっていた。
くんくん、とかごうとすると、すうっと鼻がとおる感じがして。
まるですぐそばに料理がおかれているみたいに、キョーレツなニオイになった。
「尊とまなみの指輪、光ってるな」
行成に言われて見てみると、ほんとだ、赤とピンクにぽうっと淡く発光している。
ニオイをかぐのをやめたら、光は消えた。
……よくわからないけど、動物に変身とか、光る指輪とか、ファンタジーな夢だなあ。
でも、夢にしては感覚がはっきりしすぎてるような……鼻だけじゃなくて、目も耳も、全身の感覚に言えることなんだけど。
なんともいえない違和感を覚えながら、わたしたちはおばあちゃんが待つ家にもどった。
『放課後チェンジ』ためし読み 第4回
4 最高? →最悪だ~~
お昼のメニューは、そうめんと天ぷら。
どれもめっちゃおいしい……んだけど、おいしすぎて。
夢の中でここまではっきり味がするのって、おかしくない??
「まなみ、エビいらないならもらうぞ」
「へっ……バカバカ、いるにきまってるでしょ、このたわけ者!」
ひょいっと尊がわたしのお皿のエビ天をつまみあげたから、あわてておはしでくい止める。
「もし次こんなことしたら一生口きかないし全身全霊(ぜんれい)でたたって子々孫々(ししそんそん)までエビ天食べるたびに、おなかがぴーぴーになる呪いをかけるから! 絶対絶対ゆるさないから!」
「わ、悪かったよ……」
わたしたちのやりとりを見て、おばあちゃんがクスクスと笑った。
「もう今日でみんなが帰っちゃうと思うと、さびしいねえ」
「わたしもだよ、おばあちゃん。あと100日はここにいたい!」
「ご招待ありがとうございました。とっても楽しかったです」
若葉ちゃんが礼儀正しくそう言うと、おばあちゃんは「よかった」と目を細めた。
「今年のゴールデンウィークはどうしようかしらと考えていたら、ちょうど写真が落ちてきてね。ほら、この写真」
おばあちゃんが指をさしたのは、壁(かべ)にはってある、今より小さい時のわたしたち四人の写真。
「前にみんなで遊びにきた時、撮ったやつだね」
「そうそう。これを見て、久しぶりにまなみちゃんたちを呼ぼうって思ったのよ」
「へえ、すごいタイミング……」
ごちそうさまをして、お皿を台所に運ぶ。
後片付けは子どもだけでやって、おばあちゃんには居間でゆっくりしてもらうことにした。
まだ、覚めない……この夢、長すぎない?
いくらなんでも、おかしい。だけど、夢じゃないなら……。
もんもんとしていたら、手がすべって、ガチャーン! お皿を落としてしまった。
「あっ、しまった――っ」
あわててお皿の破片(はへん)に手をのばした瞬間、ピッと指先にシゲキが走る。
みるみる指先から血がにじんで、じんじんと、〈痛み〉が広がった。
「まなみ、ケガしちゃったの⁉ だいじょうぶ?」
「痛い……これ、やっぱり夢じゃない! 夢じゃないよ……!」
夢の中でケガしても、こんな痛みは感じない。
――現実だ。
はっきり思い知ると同時に、パニックになった。
「どうしようどうしようどうしよう……」
とっさに立ちあがっておろおろしていたら、急にカクンとひざの力がぬける。
破片が散った床の上に、座りこみそうになったところで。
グッと力強い腕に支えられた。
「あぶなっ……落ちつけ、まなみ!」
すぐ至近距離から、尊が真剣な眼差しで、顔をのぞきこむ。
明かりが尊の背中にかくれて、少し暗くなった視界にせまる、ととのった顔立ち。
まっすぐ見つめる表情が、きょうだいみたいに育った尊じゃない、なんだか知らない男の子みたいに見えて、ドキッ、と心臓がはねた、瞬間。
ボン!
「「「「⁉」」」」
あぜんとした様子でこちらを見つめてくる三人を、見あげながら。
「……もしかして、またわたし、猫になった?」
尊の腕にすっぽりおさまった状態でおそるおそるたずねると、三人は神妙にコクリとうなずいた。
「どどどどうしよう~⁉ 夢じゃなかった~!」
「しーっ、さわぐとばーちゃんに聞こえる! オレもいいかげん、おかしいって思ってた!」
「えーとえーと、どうしよう……と、とりあえず、まなみのケガの手当てをしようか。私、カバンにバンソーコーあるから」
「……あと、皿は片づけた方がいいな。そこにあるホウキとちりとり、使っていいか?」
行成がササッとそうじする間に、青ざめた若葉ちゃんがこっそりカバンを取りにいく。
「まなみ、あったよ。応急処置だけど……」
そう言いながら若葉ちゃんが、台所にもどってきたところで。
ポトッと天井から、若葉ちゃんの肩に小さな何かが落ちてきた。クモ⁉
「キャー!」
「うわっ⁉」
クモが大キライな若葉ちゃんが悲鳴を上げて、その声に尊がビクッとした直後。
ボン! ボン! と二人の体も立てつづけに、ハムスターと犬に変身する。
「うにゃあ⁉」
尊に抱かれていたわたしも、ぽふっと黒柴の上に着地した。もう、なにがなんだかだよ~!
「おまえら、声をおさえろって……!」
行成ははあっとため息をもらすと、テーブルの上に置かれていたチラシでクモをすくいあげて、窓から外に逃がした。
「「「ごめんなさい……」」」
「――さっき、まなみが猫に変わる瞬間、まなみの指輪が光っていた」
猫のままのわたしの手のキズにバンソーコーをはりながら、行成が言う。
「あ、オレも見た」
パタパタと尊がしっぽをふると、「尊と若葉も同じように」と行成が続ける。
「変身する時、指輪の石が光ってた。だから、動物に変身するのはこの指輪のせいなのかもしれない」
「そうなんだ~。行成、よく見てるなあ」
「行成の言うとおり、変身するのは指輪のせいだとして」
今度は若葉ちゃんが、ちょこんとハムスターの小さな手をあげて話しはじめる。
「もしかしたら、ビックリしたり、感情になにかしらの大きな変化が起こったりしたら変身するのかも?」
ビックリ……?
言葉につまるわたしだったけど、男子二人は「なるほど」とうなずいた。
「それはあるかもな……」
「感情が高ぶると、動物に変わる指輪ってことか」
……えーと、わたしはビックリというより、ドキッとしたから……だったんだけど。
でも、尊相手にときめいちゃったとか、そんなバカな。
ピーマン残しちゃダメって言われて、半泣きで食べてた尊だよ⁉
腕ずもうで勝負した時だって、わたしが勝ったし……ってどっちも小さい時のことだけど。
きっと気のせいだ。もしくは、気のまよい。
うん、気にしないようにしよう!
「まなみ、どうかした?」
若葉ちゃんにたずねられて、「なんでもない!」とあわてて答えた。
「たしかに、感情に大きな変化が起こったら、ってのはありそうだね! わたしも若葉ちゃんの案に一票!」
ドキッとするのも、感情の変化のうちだもんね。なんでドキッとしたかは、もう考えない!
「――じゃあ、元にもどるきっかけは?」
「うーん……さっきはみんなほぼ同時に、自然ともどったから、一定時間たつともどれるのかな?」
若葉ちゃんの推測に、そうかも、とみんなでうなずく。
というか、もどるよね?
もしこのまま元にもどれなかったら、ずっと子猫として生きることになったら……。
一日中ゴロゴロしてエサを食べて生きてるだけでかわいいとチヤホヤしてもらえて…………。
もしかして:最 高
「まなみ、このまま猫として生きるのもアリかもとか思っただろ」
ズバッと尊に指摘されて、「いやいやそんな!」とぶんぶんと首を横にふる。
「そんなこと、ちっとも! ち~っとも、ミジンコほども考えてないよおっ‼」
「「「…………」」」
じとーっと三人からにらまれて、あははーっとごまかし笑いをするわたし。
「念のため、もう一度、蔵を調べてみようぜ」
尊の提案で、再び蔵に行ってみることにした。
「はあ~、いつ見てもステキ。寿命がのびるわ~♡」
居間ではおばあちゃんが、録画して何十回もリピートしてる韓国ドラマを見てうっとりしていた。
推し俳優に夢中で、わたしたちのさわぎには全く気づいてなかったみたい。
さすがわたしのおばあちゃん……。
「忘れものをしたから、みんなで蔵に行ってきます」って行成が伝えてから、家を出る。
蔵の前まできたタイミングで、体の奥がむずむずしてきて……ボン!
わ、もどった! そして体はだるい。
尊と若葉ちゃんはまだ動物のままだ。
「――あやしげだけど、特に異常はない、か……」
床に落ちたままだった小箱を拾い上げ、ふたを開け閉めしたり、観察したりしてから、行成が言う。
「とりあえずこの箱は、持って帰ろう」
「そうだね……他に変わったものがないか、探してみる?」
「だな。物が多すぎて大変だけど、分担して――」
しっぽをふりながら蔵をぐるりと見まわしていた黒柴は、中途半端なところで言葉を切る。
尊の視線は、蔵のすみに置かれた――動物たちのはく製に向けられていた。
わたしが小四の時に亡くなったおじいちゃんの、コレクション。
シカ、タヌキ、イノシシ、ムササビ、タカ……たくさんの動物が、ガラスケースもなくむき出しのまま、むぞうさに置かれていて、わたしはすぐに目をそらした。
はく製は、苦手だ。もともと苦手だったけど、今はもう、見るだけでつらい。
――半年前に死んでしまった、飼い猫のシロップのことを、思いだしちゃうから。
かたい冷たい体に、うつろなひとみ。痛かっただろうな……苦しかっただろうな……。おじいちゃんは、はく製にするために殺したんじゃなくて、死体をはく製にしたんだよって言ってたけど。
死んだ後までこんなふうに固められちゃって、かわいそう……と思っちゃう。
やるせない気持ちに襲われていたら、尊がぼそりとつぶやいた。
「……こいつらの呪(のろ)いだったりして」
「え、ちょっと、やめてよ」
ゾッと背筋に冷たいものが走って、声を上げると、尊は「あ」とつぶやいた。
「もどりそう」
直後、黒柴とハムスターは、すらりとした活発そうな少年とショートボブの美少女に早変わり。
「やっぱり時間がたつともどるみたいだね。二十分くらいかな」
スマホを確認しながら、若葉ちゃんが言う。
ちゃんと時計見てたんだ。さすが、しっかりしてる!
それからしばらく蔵の中を探してみたけど、めぼしい成果はなかった。
「ねえ、おばあちゃん、これ、蔵の中で見つけたんだけど……」
わたしが箱を見せると、おばあちゃんはパチパチとまばたきしてから「あらあ」と声を上げた。
「この箱、開いたの? ずっと『開かずの箱』だったのに……」
「開かずの箱⁉」
「そうそう、おじいちゃんのご先祖様(せんぞさま)から伝わる大事な箱だって言ってたけど、どうやっても開かなかったのよ。まなみちゃんはどうやって開けたの?」
普通にふたを持ちあげたら、簡単に開いたのに……⁉
古い仕掛けがこわれたのかしらねー、と笑うおばあちゃんは、箱の中身についてはなにも知らないっぽい。
「あの、おじいちゃん、他にこの箱について何か言ってた?」
「うーん……なんだったかな、動物の霊(れい)がどうのとか、おとぎ話みたいなことを言ってた気がするけど……」
「「「「動物の霊……⁉」」」」
思わずギョッとするわたしたちに、「おじいちゃん、空想好きだったしねえ」とのほほんと話すおばあちゃん。
「おばあちゃん、そのへん、もっとくわしく!」
「あら、まなみちゃんたちもこういうの好きなの? そうね……おじいちゃんの話では……」
おばあちゃんはまゆをよせて考えこんでいたけど、やがて申しわけなさそうな笑みを浮かべた。
「……ごめん、よく覚えてないのよ。いやねえ、歳をとると物忘れがひどくて……」
「そっか……何か思いだしたら、また教えてね!」
とりあえず、このことは四人のヒミツにすることにした。
最初は大人に話したほうがいいかなと思ったんだけど……
尊「万が一こんな体質のことが世間に知られたら、変な目で見てくるやつは絶対いるし、マスコミやミーチューバー、オカルトファンとかがおしよせて、四六時中つきまとわれるぞ」
行成「最悪、研究所にカンキンされて人体実験をされたり、差別されたりする可能性もある。こちらに危害をくわえてでも指輪を手に入れようとするような、手段を問わないやつも現れるだろう。ヒミツを知る者が増えれば増えるほど、その危険性も高まる」
若葉ちゃん「えたいの知れない力だし、人に話すことでその人たちにも悪影響をおよぼすことだってありえるよね……」
いや、こわすぎるでしょ!
絶対バレないようにしなきゃ!
ネットで「指輪 外す方法」で調べて、いろんな方法を試してみたけど……
「うう、ダメだよ~!」
「やっぱり外れないね……」
「マジで、ガッツリはまってるよな」
「デロデロデロデロデロデロデロデロデーデン♪」
ナゾのメロディを口ずさむ行成に、何それ? と首をかしげる。
若葉ちゃんが、苦笑いしながら教えてくれた。
「ゲームで呪いの装備(そうび)をつけた時の効果音だよ」
呪いの装備って!
「え、わたし、呪われたの? 日に日にやせ細っていったり、悪夢にうなされたり、エビ天食べたらおなかがぴーぴーになったりするの?」
「人を呪おうとした報いだな」
「あれは尊がエビ天とったからだし、順番がちがうから!」
「落ちつけ。また変身するぞ」
むきーっと尊を小突こうとしたら、振りあげた手首をぱしっとつかまれた。
「まだ起きてもないことにビビってたってしょうがねーだろ。呪われたとしてもオレたちがいっしょだし、なんとか方法を探してやる」
いつのまにか背がのびて、わたしを見おろすようになった尊から。
「――おまえを一人にはしないから」
なだめるようにそう言われた瞬間、ドキーン! と胸が鳴って、ボン!
ぎゃあああ、しまった~!
「まなみ⁉」
「呪われたとか言わないでよ、バカ!」
またしても猫になってしまったわたしは、怒ったふりをしてごまかして。
縁側から外へ、ピョーンと飛びだした。
ひとけのない生垣の裏まで行くと、わたしは地面につっぷして、頭を抱えた。
――やばいやばい、これはやばい。
人間の姿だったらきっと今、両手でほてった顔をおおって、しゃがみこんでると思う。
尊につかまれたところが、やけに熱くて、そこから全身に、熱が広がる。
やたらと速まった鼓動(こどう)は、まだおさまってくれない。
やっぱりなんか、ムダに尊にドキドキしちゃうよ⁉
ドキッとすると変身しちゃうのに!
もう、最悪だ~~。早くなんとかしなきゃ!!!
『放課後チェンジ』ためし読み 第5回
5 透明犬と鬼ごっこ⁉
「みんな、巻きこんじゃってごめんね」
田舎から帰る電車の中で、わたしは改めて、三人に頭を下げた。
「ほんとになー。おわびにボスバーガーの新作シェイク一年分、まなみのおごりってことで」
「一年分⁉ 尊さん、そんな殺生(せっしょう)な……」
「だいたいおまえは警戒心なさすぎんだよ。そんなあやしい声にホイホイしたがってさ……」
「うう……じゃあ尊は声が聞こえてもムシする? 箱を見つけても開けない?」
わたしが聞くと、尊は胸をはってキッパリと。
「絶っっ対、開ける」
おいコラ!
「開けるんじゃん!」
「だって気になるだろ。オレは警戒するけど、その上で好奇心を優先する」
「やることは同じだから! えらそうに言える立場じゃないからね⁉」
「まあ、事故みたいなものだし、起きてしまったことを悔やんでもどうしようもないよ」
とりなすようにそう言ったのは若葉ちゃん。うう、いつもフォローありがとう。
「同感。俺たちはヒミツがバレたら人生が終わるかもしれない、運命共同体だ。仲間うちで言いあったところで、マイナス効果しかないだろう」
行成も、いつもながら冷静にコメントする。行成って、普段は口数少ないけど、必要な時は大人みたいな言葉でしっかり意見を言うんだよね。
「でも、不思議な声が聞こえたのがまなみ、ってのは意外だな。こういうのは若葉がするどいだろ」
行成の指摘に、たしかに、と一同、うなずきあった。
繊細でよく気がまわる若葉ちゃんは、どうも霊感も強いようで。
子どものころからときどき、わたしたちには感じられないものを感じることがあったんだ。
いちばん印象に残ってるのは、小五の林間学校。
ホテルに着いたとたん、青ざめた若葉ちゃんいわく。
『なにかイヤな感じがする』
で、自由行動の時に地元の人に聞いたら、むかし、ホテルの裏手の森で、オーナーと従業員の心中事件があったんだって。
他にも若葉ちゃんが変だっていう場所では、過去に事故とか、いわくつきのことがあって……なのに今回、指輪に呼ばれた(?)のは、どうしてわたしだったんだろう?
「若葉だったら開けてくれないと思ったんじゃね?」
「一理ある」
「意のままにあやつれそうだと選ばれたのが、まなみだったわけだ」
「そんな、人を単純みたいに!」
「見るからに単純でバカだろ。チョロそう」
「けちょんけちょんに言いすぎじゃない⁉」
「素直なのは、まなみのいいところだよね」
「若葉ちゃん、好きー!」
となりにすわってた若葉ちゃんに、思わず抱きついた。
「そういえば、白い光に包まれる直前、すっごいイヤな感じがしたでしょ? 若葉ちゃんの霊感が働く時って、あんな感じなの?」
わたしの質問に、若葉ちゃんは顔をくもらせた。
「そうだね……でも、あの蔵の時は、今まで感じたことないくらい、強くて不気味で冷たい感じがした。周りの空気が急に重くなって、凍りついたような錯覚があって……すぐに白い光に包まれて気を失って、起きた時にはイヤな気配は消えてたけど」
「そんなに⁉」
若葉ちゃんは、あの時の不思議な気配にも、わたしたちよりビンカンに反応してたんだ。
「じゃあ、やっぱりこの指輪は呪われた指輪……?」
「わからない。でも今、私たちの指輪から、イヤな感じは全然しないよ」
駅に着いたのは、もう日が沈みかけの時間帯だった。
お手洗いに行った若葉ちゃんと行成を駅前で待っていたら、不意に、にゃあ、と声がした。
見ると丸っこい体のミケ猫が!
道ばたにすわりこんで、ぺろぺろと自分の体をなめて毛づくろいをしてる。
うーん、かわいい。かわいいねえ。
そばで見たい、なでなでしたい……という気持ちがわきおこったけど。
白い影が頭の中をさっとよぎって、わたしはミケ猫から目線を引きはがした。
「もふらないのか?」
「いいよ。あ、見て、この自販機! めずらしいジュースがある」
尊にそっけなく答えて、話題を変えた。
――わたしは、猫に近づいちゃいけないから。
でも、こんなわたしが猫に変身する体質になっちゃうなんて、みょうな話だな……。
駅からは歩いて家に向かう。四人ともご近所だから、途中までいっしょだ。
なんとなく話すことも少なくなって歩いているうちに、あたりはすっかり暗くなった。
「……なんか、寒気がする……」
住宅街の道で、若葉ちゃんがポツリとつぶやいた。
「だいじょうぶ? なにか上に着るものとか……」
「ううん……これは、そういうのじゃなくて……」
街灯の下で、顔をこわばらせる若葉ちゃん。
生ぬるい風がふいて、ざわざわと木がゆれる。
月に雲がかかったのか、あたりの闇が急にこくなったような気がした。直後。
ウウー、と、犬のうなるような声が、耳に入る。
ハアッハアッっと息づかいまで聞こえて、近づいてくる気配はあるのに、姿は見えない。
「……何、これ……?」
思わず顔を見あわせるわたしたち。
「ワン、ワン!」
今度ははっきりと、おどすように吠えたてられたけど、やっぱり姿はどこにも……んん?
あれは何……?
目を凝らすと、すうっと意識が冴(さ)え、視界がくっきりしていく。
街灯の明かりからは遠い、完全に夜の闇にまぎれたスペース。
普段のわたしなら何も見えないだろう真っ暗な道の上に、小さな何かが浮かんでいるのが見えた。
石……? と、さらによく見ようとした瞬間、それはわたしの手元にビュンッと飛んできて。
あっ、と思ったら手にさげていた紙ぶくろをうばわれていた。
ふくろの中には、おばあちゃんが作ってくれた、おみやげのおだんごが入ってるのに!
「待ちなさい! わたしのおだんご!」
離れていこうとする紙ぶくろを、とっさに追いかける。
カッ、と体の芯(しん)が熱くなるような感覚。同時に。
ボンッ! と体が猫に変身した。
感情が高ぶったから⁉ でも、人間の時より体が軽い。
紙ぶくろはすごいスピードで飛んでいくけど、猫の速さなら追いつけるかも!
よし、と思った瞬間、標的がふわっと飛んで、塀(へい)の上に。
逃がさない!
無我夢中でジャンプすると、わたしも軽々と塀の上に着地した。
そのまま、細い塀の上を走って、逃げていく紙ぶくろを追っていく。
すごいすごい、いつもの運動オンチのわたしじゃ考えられない運動神経!
やっぱり猫の体、ハンパない……!
解きはなたれたような快感に、ぶるっとふるえた。
全身がほてって、心がおどる。――って、はしゃいでる場合じゃないか!
「おだんごを返して!」
標的はさらに屋根の上までひゅーんと逃げるものだから、わたしはえいっと近くにあった木の枝にとびうつり、そこを足場に屋根の上へジャンプ!
「絶対、逃がさないんだから!」
着地して、もう一回大きく前にとぶ。
すぐそばまでせまった紙ぶくろに手をのばしたけど、ひょいっと逃げられた。おしい!
月明かりしかないけど、あいかわらず視界はくっきり見えた。
屋根から屋根へとびうつって、くるっと回転しながらとびおりて、フェンスをとびこえて――アクロバティックな動きで、標的を追って、夜の住宅街を走りまわる。
全身がバネになったような自由自在の追跡。
ビュンビュンと風のように流れていく景色。
鬼ごっこは大っきらいだったのに、すごくワクワクしていた。
アドレナリンがドクドク出てる感じ。
でも、敵もすばやくて、なかなか追いつけない!
「まなみ!」
屋根の上をダッシュしてたら、名前を呼ばれた。
声のした方を見ると、となりの屋根を、黒柴になった尊が走ってる。
尊はもともと足が速いけど、犬の今はその何倍も速い!
「いつのまに⁉」
「まなみのニオイを目標に、平地を追ってきた。考えなしに一人でとびだすなよ」
「ごめん、つい……」
「速いな、あいつ」
尊は獲物を追うハンターみたいに、生き生きと目を光らせている。
「そうなの、追いかけるだけで精一杯」
「四人で囲めば、捕まえられるだろう」
新たに聞こえた声に振りかえると、タカになった行成が空を飛んでいた。
「そろそろ二十分経って、変身が解ける。若葉が大森神社に先まわりしてるから、そこに追いこんで捕獲(ほかく)しよう」
「りょうかい!」
大森神社はわたしたちが小さいころから遊び場にしてた、古い神社だ。
境内に着いたところで、ボン! ボン! ボン! とわたしたちの変身が立てつづけに解けた。
標的(ひょうてき)との距離が開いてしまう前に、前方に、ショートボブの美少女が立ちふさがる。
「ゲームセットだよ」
すずやかに告げる若葉ちゃん。
人間にもどったわたしたちもすばやく回りこんで、前後左右の逃げ道を完全にふさぐ。
とまどうように、ゆらゆらと揺れている紙ぶくろ。
持ち手のところには石がくっついてる。
「もう逃がさない!」
わたしは獲物をとらえる猫のように、えいっととびかかった。
「――捕まえた!」
左手で紙ぶくろ本体を、右手で持ち手を石ごと、ギュッとにぎりしめた、瞬間。
中指にはまったピンクの指輪が、ピカッと今までで一番光った!
かと思うと、目の前に、黒い〈もや〉をまとった犬の姿が、浮かびあがった……⁉
何これ⁉
警察犬みたいながっしりした体は半透明で、向こうの茂みが透けて見える。
でもこの犬、口からあわを吹いて、身をよじってうめいていて。
『ウウ……ウッ……ッ……!』
なんだかすごく、苦しそう……なんとか、なんとかしてあげたい!
そう思ったら、胸が熱くなってきて、その熱が体中に広がって……。
わたしはとっさに犬に手をのばして、その体をなでたんだ。
「……だいじょうぶだよ。もう、苦しまないで……!」
どうしたらいいかわからなかったけど、必死の思いでそう言ったとたん――
指輪をしたわたしの手から、神々しいピンク色の光があふれだして、犬の全身を包みこんだ。
ピンクの光は、犬にからみついていた黒い〈もや〉を飲みこむと、白い光に変わっていく。
『――! ……クゥン』
苦しそうだった犬は、まるで悪いものから解放されたように、おだやかな様子になった。
清らかな白光に包まれながら、やさしい目でこっちを見て、舌を出し、パタパタとしっぽを振る。
そして、しゅうっと空に昇っていった。
白い光の中で、犬の姿がとけるように消えたと思った瞬間、光がぱあんと四つに分かれて。
四つの白光は、わたしたちの指輪に、吸いこまれていったんだ……!
『放課後チェンジ』ためし読み 第6回 💍8/5更新💍
6 結成! チーム ㋐
わたしたちみんな、ナゾの犬が消えた空間を見つめて、ボーゼンとしてたけど……
「なんだよ、今の……」
尊のそんな声で、ハッとわれに返った。
「うん、無我夢中(むがむちゅう)で、いまいちピンときてなかったけど……」
「とんでもない状況だよな……これ……」
若葉ちゃんと行成もまだ半分ぼうっとしてるけど、だんだん実感がわいてきたみたい。
同時に、どっと疲れが全身に広がった。やっぱり、変身のあとは、クタクタになる……。
――いったい何が起こっているんだろう?
ナゾの指輪を見つけた帰り道に、透明犬と鬼ごっこ。
黒い〈もや〉をまとった苦しそうな犬。
そして、指輪からあふれたピンクの光と、吸いこまれた白い光……。
「そこの木のかげにかくれてるあんたなら、なにか知ってるのか?」
少しはなれたところに立ってる木に向かって、尊がそう呼びかけた直後。
ガサガサッと黒い影が、枝の間から飛びだしてきた。何⁉
『気づいておったのか』
そう言いながら、わたしたちの近くの木の枝に降りたったのは、一羽のフクロウ――
えっ、フクロウがしゃべってる⁉
「紙ぶくろを追いかけてる途中から、オレたちの後をずっとつけてきてただろ? ニオイで気づいたぜ」
そうだったんだ……⁉
『封印(ふういん)が解かれたようだから、様子を見にきたんじゃよ。おぬしらが着けているのは、伝説の指輪じゃろう』
封印? 伝説の指輪??
「封印って、なんの封印ですか?」
行成が質問すると、フクロウはあきれたように言った。
『なんじゃ……おぬしら、自分たちの着けてる指輪のことを、何も知らんのか』
「知りません。だから、教えてください」
『――おぬしらの指輪は、動物の霊を宿した指輪。それを身につけたものは、動物に変身したり、動物と話したりできるようになる』
動物の霊を、宿した指輪⁉
「話したり……って、駅前の猫や、透明犬の吠える声の意味はわからなかったぜ」
尊が口をはさむと、フクロウは『おそらく』と言いながらわたしの方を見た。
『長い時を経て、伝説の指輪が持つ力の多くは失われた。じゃが、そこの嬢(じょう)ちゃんが悪霊(あくりょう)を昇天(しょうてん)させたことで、霊が持っていた霊力が指輪に吸いこまれて、本来の力が少し復活したんじゃろう』
昇天……って、天国に行くことだよね。霊力って、あの白い光のこと?
「さっきの透明犬は悪霊で、わたしが天国に行かせてあげたの? それで、あの白い光……霊力を吸いこんだから、指輪に動物と話す能力がもどったってこと?」
『そういうことじゃ』
「……じゃあ、指輪を外す方法は知らねーか? どうやっても外せなくて困ってるんだ」
尊が聞くと、フクロウは『ほう……』ともともと丸い目をさらに丸くした。
『指輪が外れないという話は初耳だが……もしかするとそれは――』
青白い月明かりの下で、少し考えてから、フクロウが言う。
『指輪についた、動物の呪(のろ)いかもしれんのう』
ドクン、と心臓が大きく鳴った。
『指輪に閉じこめられた動物たちが、おぬしらに呪いをかけたのではないか?』
動物の……猫の、呪い……?
すうっと体が冷たくなった。
頭の中で、金と青のひとみをした白猫が、にゃーん、と鳴く。
胸がギュッとしめつけられたみたいに、苦しい……。
「おい、まなみ、だいじょうぶか?」
尊に肩をゆすられて、いつのまにか息を止めていたことに気づいた。
すうはあと大きく呼吸をしてから、うん、とうなずく。
「どうやったら呪いが解けると思いますか?」
若葉ちゃんの質問に、『そうじゃのう……』とフクロウは首をかしげる。
『先ほどの一幕をみるに、その指輪は悪霊を昇天させる力もあるようじゃ。悪霊を救い、うらみをはらった清らかな霊力を指輪にためていけば、やがて指輪についた動物たちのうらみも消えるのではないか?』
「悪霊を昇天させれば、指輪も外れる……? でも、悪霊なんて他にそうそういないんじゃ……」
『伝説の指輪には【災(わざわ)いを呼ぶ指輪】という別名もある。おぬしらの周りでは今後、呼びよせられた悪霊による事件が、つぎつぎと起こるようになるじゃろう』
「「「「……!」」」」
言葉を失うわたしたちを見まわして、フクロウは淡々と続ける。
『悪霊は古い物や想いのこもった物、強い負の心をもつ者などにとりついて、悪さをする。放っておけば、どんどん力をつけて手に負えなくなる。なるべく早いうちに昇天させてやることじゃ』
そこまで話したところで、フクロウはバサバサッとつばさを広げた。
「あっ、待ってくれ!」
「もう少しお話を聞かせてください!」
飛んでいこうとするフクロウを、とっさに追いかけようとしたけど……まだ体に力が入らない。 走りたくても、のろのろとしか動けない!
わたしだけじゃなく、尊たちも同じみたい。
『指輪の能力を使うと、体力を消耗(しょうもう)する。体力不足では、指輪の能力も使用できん。特に変身は、多くの体力を必要とするようじゃな。しばらく休めば回復するじゃろうが……』
「お願いします、まだ行かないで……!」
「あなたは何者なの⁉」
必死に声をあげるわたしたちを、フクロウは空から見おろすと。
『早く呪いが解けるといいのう』
それだけ言い残して、ゆうゆうと去っていった……。
「――とりあえず、次にやることは見えたな」
行成が気をとりなおすように、わたしたちを見まわした。
「あのフクロウの言うことがすべて正しいかはわからないが……悪霊を昇天させて霊力をためていけば、指輪は外れるかもしれない、という情報が手に入った。指輪が外れれば、変身もしなくなるはずだ」
「もしあやしい事件のウワサをきいたら、すぐ調べることにしよう。悪霊に関わるとか不安だけど……必要なミッションみたいだから、やるしかないか」
みだれた髪を手でなおしながら、ため息をつく若葉ちゃん。
「あのフクロウ、『おぬしらの周りでは今後、呼びよせられた悪霊による事件が、つぎつぎと起こるようになるじゃろう』なんて言ってやがったけどさ」
ぶっ、尊の物まね、似てる! 思わずふきだしちゃった。
尊は不敵に笑いながら、言葉を続ける。
「悪霊を昇天させるには、寄ってきてくれた方がラッキーだよな。呪いだかなんだか知らねーが、こうなったらこの力を利用して、事件をガンガン解決して、悪霊もガンガン救ってやろうぜ」
「呪いを利用⁉ すごいこと言うな……でも、いいね、それ」
尊のそういうポジティブで転んでもただでは起きないとこ、好きだな……あっ、好きって、別に恋愛みたいな意味じゃなくて!
あー、やばい、このままじゃまた変身しちゃうかも⁉ 深呼吸、深呼吸……。
「……まなみ、なに一人でわたわたしてるの?」
「なんでもございません!」
不思議そうに若葉ちゃんにツッコまれて、ぶんぶんっと首を横にふる。
あ、今は疲れてるから、指輪の力は使えない。
つまり、ドキドキしても変身しないのか。ホッ……。
――ともかく、確実に変身しなくなるためには、指輪を外すこと。
そのためには、悪霊が関わってるかもしれない事件を調べて、解決すればいいんだね!
「じゃあ、事件を調査するためのチーム名をつけよう! そうだな~、動物探偵団は?」
「そのまますぎねえ?」
「じゃあ、アニマル探偵団!」
「なんか芸人っぽい」
「いちいちうるさいな! ケチつけるなら尊も考えてよ!」
「オレは探偵団より、シンプルにチームがいい」
「えー、じゃあ、チームアニマル?」
尊と言いあってたら、「えーと」と若葉ちゃんが手をあげる。
「変身することがバレたら困るわけだし、動物をそのままチーム名にするのはさけた方がいいかも」
それはそうか……。
じゃあどうしよう、とうなってたら、ぽつりと行成が言った。
「アを〇でかこむと、アにマルだろ。そこにアニマル、動物って意味を秘めて、チーム ㋐ とか」
㋐ で『ア』に『マル』。表向きには、マルアって読ませる……。
「いいじゃん! おもしろい」
「私もそういう言葉遊び、好き」
「異議なーし」
フクロウからなんだか怖いことをいっぱい言われたけど、こうしてみんなと話してると、不安がうすれていった。
代わりに胸にわき起こってきたのは、未知の世界に飛びこんでいくワクワクだ。
尊。若葉ちゃん。行成。
この幼なじみたちがいっしょなら、きっと、だいじょうぶだよね!
無敵のパワーを感じながら、指輪をした四つの右手を重ねあわせ、わたしは高らかに宣言した。
「―― チーム ㋐ 、ここに結成!」
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