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✨好評発売中✨『星のカービィ 雪山の夜は事件でいっぱい!の巻』ためし読みれんさい
雪山のすてきな山荘に遊びに行くことになったカービィたち。
楽しく遊んだその夜に、思いがけない事件が起こる!?
2024年12月11日発売予定のつばさ文庫『星のカービィ 雪山の夜は事件でいっぱい!の巻』ためし読みが、角川つばさ文庫公式noteに登場! 今すぐチェックしよう♪
【キャラクター紹介】
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⭐プロローグ
だれもがウトウトとお昼寝をしてしまうくらい、平和であたたかなプププランド。
けれど、チリーの家だけは、いつも真冬のように寒い。ぶあつい氷をしきつめ、毎日「こちこちといき」でお手入れしているからだ。
その、冷えきった部屋の中で、チリーは机に向かって、手紙を書いていた。
「……ふかふかの……肉……まん……うーん……あんまんのほうがいいかな? でも、デデデ大王はお肉のほうが好きだから……」
ぶつぶつ言いながら書き続け、しばらくして。
チリーは大満足の表情で、さけんだ。
「よし、できた! カンペキ! これなら、デデデ大王もカービィも、大よろこびで飛びつくよ!」
書き上げた手紙は、二通。
それぞれを封筒に入れ、差出人の名を書く。一通には、大きな字で「メタナイト」。もう一通には「デデデ大王」と。
「ペンギーたちのほうは、山荘の準備、うまく行ってるかな? ふふ……ワクワクしてきたなあ!」
チリーはにっこり笑って、北向きの窓をあけ、澄みきった青い空を見上げた。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
⭐1 雪の世界への招待状
数日後――とある午後のこと。
デデデ城に、一通の手紙が届いた。差出人は、メタナイトと書いてある。
バンダナワドルディが持ってきた手紙を見て、デデデ大王は首をかしげた。
「ヤツから手紙? めずらしいこともあるもんだな。どれどれ……」
デデデ大王は、声に出して読み上げた。
「親愛なるデデデ大王。私はこのたび、プププランドの雪山にある、超ゴージャスな山荘を手に入れた。よければ、遊びに来ないか? もちろん、カービィや、他の仲間たちもさそってな。すてきなキッチンもあるから、コックカワサキをさそうといいんじゃないかな? あと、雪が大好きなチリーにも、忘れずに声をかけるといいぞ。美しい雪景色を見ながら食べる、ふかふかの肉まんや、あつあつのクリームシチューは、最高のごちそうだ。みんなで楽しくホッカホッカ料理を食べ、スキーや雪合戦をして、盛り上がろうじゃないか! 待っているぞ! メタナイトより」
デデデ大王は、目をかがやかせた。
「ぬぉぉぉ! 肉まんにシチューだと! メタナイトめ、たまには、気のきいたことを考えるじゃないか。ワドルディ、さっそく、したくをしろ! 雪山旅行だー!」
「待ってください、大王様」
バンダナワドルディは、心配そうに言った。
「なんだか、変です」
「変? 何がだ?」
「メタナイト様が、こんな手紙を書くでしょうか? 『親愛なるデデデ大王』だなんて……」
メタナイトは、デデデ大王に対して、いつもツンツンして、そっけない。『親愛なる』という呼びかけは、たしかに、メタナイトらしくなかった。
けれど、肉まんとシチューで頭がいっぱいのデデデ大王は、少しも気にしなかった。
「フフン、メタナイトのヤツ、やっと、オレ様の偉大さに気づいたんだろう。これまでの態度を反省し、オレ様と仲良くなりたいんだわい」
「うーん……それに、メタナイト様には、ゴージャスな山荘なんて似合わない気がします。どちらかというと、猛吹雪にさらされながら、きびしい修行にはげみそうなのに……」
「修行にあきたんだろう。ヤツも、ようやく、まともになったということだ」
「そうでしょうか……『みんなで楽しく』とか『盛り上がろうじゃないか』とか、ぜんぜんメタナイト様らしくないのですが……」
バンダナワドルディの疑問は消えなかったが、すっかり乗り気のデデデ大王に、逆らうわけにはいかない。
「ぐだぐだ言ってないで、早く旅のしたくをしろ!」
「は、はい。では、カービィをさそってきますね」
すると、デデデ大王は、闘志をむき出しにして言った。
「おお、いい機会だわい! あいつとは、この間の肉まん大食い競争の続きをやらねばならんからな! 今度こそ、負けんぞ!」
「は、はい! 行ってきます!」
バンダナワドルディは、急いで城を出た。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
門をくぐろうとしたとき、バンダナワドルディは、裏庭のほうからチリーがやって来るのに気づいた。
人目を気にするように、こそこそしている。手には、なぜか、工具を持っていた。何かを切るための、大きなハサミだ。
「あれ? チリー、何してるの?」
バンダナワドルディが声をかけると、チリーはギョッとして飛び上がった。
「あ、あ、バンダナくん! う、ううん! なんにもしてないよ! ただの……さんぽ、さんぽ!」
「……お城の裏庭で?」
「え、えっとね……あの……あ、実はぼく、すごくいい草刈りバサミを買ったんだ」
チリーは、手にしていたハサミを、チョキチョキ動かしてみせた。
「どんな雑草でも、パパッと刈れるんだよ。お城の裏庭の手入れがたいへんだろうと思って、草刈りをしておいたんだ」
「え? ほんと?」
バンダナワドルディは、目をかがやかせた。
「わあ、助かるよ。ありがとう!」
「う、ううん。このくらい、なんでもないよ」
「あ、そうだ。チリー、実は、メタナイト様からこんな手紙が来てね……」
バンダナワドルディは、チリーに手紙を見せた。
チリーは手紙を読み、ワクワクした顔で言った。
「うわあ、楽しそう! ぼくの名前も書いてあるよ。うれしいなあ!」
「うん……ただ、ちょっと、引っかかるんだよね」
バンダナワドルディは、顔をくもらせた。
チリーは、どぎまぎした様子でたずねた。
「引っかかるって? 何が?」
「この手紙、メタナイト様らしくないと思うんだ……」
「え!? どこが!?」
「はしゃぎすぎてる気がする。メタナイト様が、こんなウキウキした手紙を書くかなあ……」
「か、か、書くよ!」
チリーは、力をこめて叫んだ。
「だって、すてきな雪山の山荘を手に入れたんだもん! いくらメタナイトさんだって、ウキウキするに決まってるよ!」
バンダナワドルディは、チリーの迫力にびっくりして、うなずいた。
「そうか……そうかもね。とにかく、ぼく、カービィやコックカワサキをさそいに行くつもりなんだ。チリーもいっしょに行こうよ」
「うん! 楽しい旅行になりそうだね」
二人は連れ立って、まず、カービィの家に向かった。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
「こんにちは、カービィ!」
バンダナワドルディがノックすると、カービィは、眠そうに目をこすりながらドアを開けた。
「ふぁぁ……いらっしゃい、ワドルディ、チリー。ぼく……お昼寝してたとこ……」
「あ、起こしちゃってごめんね。実は、メタナイト様から手紙が来てね……」
バンダナワドルディは用件を伝えたが、カービィはウトウトしていて、聞こえているのかどうかわからない。
チリーが、大きな声で言った。
「起きて、カービィ! すごいんだよ。メタナイトさんの山荘には、すてきなキッチンがあるんだって。肉まんとか、シチューとか、おいしいメニューがたくさん……」
「……え!?」
カービィは、目をパチッと開いた。
「肉まん!? シチュー!? どこどこ――!?」
カービィはチリーに飛びつき、今にもかじりつきそうないきおい。
バンダナワドルディが、あわてて言った。
「ここにはないよ! あのね、メタナイト様がね……」
バンダナワドルディは手紙を見せて、もう一度きちんと説明した。
カービィは、顔をかがやかせた。
「雪山でホッカホッカごちそうパーティ? わあ、楽しそう!」
チリーが、にっこりして、うなずいた。
「ぜったい、楽しいよ! 雪山では、ワカサギ釣りができるんだ。とれたてのワカサギを、天ぷらにして食べられるよ。それに、あったかいおしるこや、あつあつフレンチトーストを、コックカワサキに作ってもらおう」
「天ぷら……おしるこ……フレンチトースト! うわああああ!」
カービィはうれしくなって、転げ回った。
「行く行く! ぼく、今すぐ雪山に行くー!」
チリーが、張り切って言った。
「それじゃ、コックカワサキをさそわなくちゃ。それに、バーニンレオも」
バンダナワドルディは、きょとんとして言った。
「バーニンレオは、来ないんじゃないかなあ? 寒いところがきらいだし……」
けれど、チリーは言い張った。
「でも、おいしい肉まんやシチューを食べたり、楽しく遊んだりすれば、バーニンレオだってきっと雪山が大好きになるよ!」
カービィが言った。
「そうだね、みんながそろったほうが、楽しいもんね。行こう!」
三人はそろって、バーニンレオの家に向かった。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
バーニンレオの家は、こんなポカポカ陽気の日でも、ストーブがメラメラ燃えている。
チリーは恐れをなして、ドアの外から呼びかけた。
「おーい、バーニンレオ! 雪山旅行に行かない?」
「ああ? 雪山だって?」
バーニンレオは、ポッポッと火を吹いて、顔をしかめた。
「冗談じゃねえ。オレが、そんなとこ、行くはずねえだろ」
カービィが言った。
「でも、みんなで遊びに行ったら、楽しいよ。メタナイトが、招待してくれたんだ!」
「遊びに行くなら、火山地方のほうがいいぜ。みんなでマグマ温泉につかって、激アツのサウナに入って、コゲコゲの焼きイモを食おうぜー!」
チリーは、まゆげを吊り上げてどなった。
「やだよ! そんな暑いとこに行ったら、ぼく、とけちゃうよ!」
「大丈夫だ、オレがきたえてやるから」
「いやだってば。それより、バーニンレオこそ、雪山できたえたほうがいいよ。ぜったい、雪や氷が好きになるから!」
「なるわけ、ねえだろ! オレは行かねえぞ、雪山なんて」
バーニンレオは、ツンとした。
カービィが言った。
「でも、雪山で食べるあつあつ料理は、最高においしいんだって! ホッカホッカの肉まんに、シチューもあるよ」
チリーも、いきごんで、付け足した。
「あっつあつのおしるこや、フレンチトーストも! 寒いところで、あつい物を食べると、あつさがマシマシになるんだよ」
「……あつさマシマシ……肉まん、シチュー、おしるこ……」
バーニンレオは心を動かされ、もったいぶって言った。
「ふんっ、しょうがねえなあ。雪山なんて大っきらいだけど……おまえらがどうしてもって言うなら、行ってやるぜ!」
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
こんな調子で、カービィたちは、つぎつぎにみんなに声をかけた。
結局、雪山旅行に行くことになったのは、チリー、バーニンレオ、コックカワサキ、ボンカース、バウンシー。それに、カービィとデデデ大王、バンダナワドルディを加えて、ぜんぶで八人だ。
一行は、毛糸のぼうしやマフラーや、たくさんの食料を用意して、大きなカゴに乗りこんだ。カゴを引っぱるのは、ワープスターだ。
ワープスターはぐんぐん上昇し、北をめざした。
スリリングな空の旅に、一行は大はしゃぎ。
「うぉー、雪山といえば、雪合戦だぜ! オレの豪速球を、受けてみやがれぇぇ!」
張り切って腕をぶんぶん振り回したのは、ボンカース。
チリーが、笑って言った。
「雪合戦なら、負けないよ! 勝負しよう、ボンカース!」
「むむ? いやに自信ありげじゃねえか、まゆげ雪だるま」
ボンカースは、チリーをにらんだ。
いつもなら、変なあだ名で呼ばれたら怒るチリーだが、今日は笑顔をくずさなかった。雪山のことで頭がいっぱいで、怒る気になんてなれないらしい。
「あはは! 雪山なら、ぼくは無敵だもんね! ボンカースに、雪合戦のコツを教えてあげるよ」
「なんだとぉ? ナマイキ言いやがって! じゃ、着いたらさっそく、勝負しようぜ!」
「よぉし! ぜったい、勝つよ!」
チリーは、みんなに向き直って言った。
「そうそう、言い忘れてたけど、雪山にはぼくの友だちが住んでるんだ」
「チリーの友だち?」
「うん。ペンギーっていってね、すごく楽しいヤツなんだよ。みんなに紹介したいな」
バンダナワドルディが言った。
「チリーの友だちなら、ぼくらもすぐに仲良くなれそうだね。いっしょに遊ぼう!」
「うん! ペンギーは、雪山のことなら、なんでも知ってるんだよ。雪合戦やスキーで遊ぼうね」
「おおー!」
みんな、楽しくなって、うなずいた。
そのとき、バウンシーが、ぴょんと飛びはねて叫んだ。
「あ、見て見て! 雪山が見えてきたわ!」
はるか前方に、雪におおわれた山があらわれた。カービィたちは、ますます大興奮。
「わあ、まっしろ!」
「アイスクリームみたいだわい!」
ワープスターはさらにスピードを上げて、まもなく、雪山の頂上に着地した。
⭐2 すてきな山荘
山の上は、一面の銀世界。
カゴを下りた一行は、景色の美しさと、澄んだ空気のつめたさの両方に感激して、大きな声を上げた。
「うわあ、きれい! あたり一面、まっしろだ!」
「雪がキラキラ光ってる! すてきね!」
チリーが、みんなを見回して言った。
「でしょ! 雪景色って、ほんとに、きれいでしょ! ふだんは、なかなか見られないけど、すばらしいよね!」
チリーは、興奮をおさえきれないように、ぴょんぴょん飛び回った。
バンダナワドルディが、にっこりして言った。
「チリーってば、さっきからずっと、大はしゃぎだね」
コックカワサキも、笑顔でうなずいた。
「そりゃ、チリーは雪が大好きだもん。チリーがイキイキしてると、こっちまで、うれしくなっちゃうね」
デデデ大王が、大きく腕を広げ、深呼吸をして言った。
「ふぅ……キンキンに冷えた空気というのも、なかなか気持ちいいわい! いつも、デデデ城のまわりはポカポカ陽気だからな。たまには、こんな空気も良いものだ」
ボンカースは、きれいな景色や空気には興味を示さず、まっさきに雪玉を作り始めた。
「ふはは、食らえ、チリー!」
ボンカースが投げた雪玉は、チリーを直撃!
けれど、チリーは少しもひるまなかった。それどころか、うれしそうに笑って叫んだ。
「ナイス・ボール! なかなかいい球だったよ、ボンカース!」
ボンカースは、たじろいだ。
「ええええ!? てめぇ、オレの豪速球を食らって、そんな平気な顔で……」
「今度は、こっちから行くね! えーい!」
チリーは、あっというまに特大の雪玉を作って、ボンカースに投げつけた。
「どわあああ!?」
間一髪! ボンカースがよけたので、雪玉は深呼吸をしているデデデ大王の顔面へ!
「ぐぁー!? 何をする、チリー!」
「わわ、ごめんなさい! でも、冷たくて、気持ちよかったでしょ?」
「どこがだー! ええい、負けてはいられんわい! でりゃー!」
デデデ大王が投げた雪玉は、あらぬ方向へ飛んで行き、カービィに命中!
「ひゃああああ!」
カービィはひっくり返ったが、雪がふわふわなので、少しも痛くない。
「やったなー! 行くぞー!」
すぐに起き上がって、こてこてと雪玉を作り、投げる。
あっちでも、こっちでも、雪玉が飛びかい、歓声が上がった。
「行くよー、ワドルディ!」
「待って、待って! ひゃあああ、つめたぁぁい!」
「はは! バウンシー、かくごしろ!」
「ふふーん! 負けないわよ!」
みんなが、雪合戦に夢中になっていると――。
「おーい、チリー! 久しぶりー!」
とつぜん、そんな声がひびいた。
チリーは雪玉を投げるのをやめ、振り返って叫んだ。
「あ、ペンギー!」
針葉樹の木立の中から、小さないきものがあらわれた。
まっしろな長いまゆげを生やし、鳥のような姿をしている。
チリーは、みんなに紹介した。
「さっき話した、ぼくの友だちのペンギーだよ。ペンギー、こっちはね……」
するとペンギーは、カービィたちを見回して、すらすらと言った。
「知ってるよ。君は、カービィだよね。それに、デデデ大王、バンダナワドルディ、コックカワサキ、バーニンレオ、ボンカース、バウンシーだね」
カービィたちは、びっくり。
「えー!? どうして!?」
「はじめて会ったのに……超能力!?」
ペンギーは、豪快に笑った。
「あはは、ちがう、ちがう! ぼくは、チリーと、しょっちゅう手紙のやりとりをしてるんだ。チリーは、よく、君たちのことを書いてくるからね。一目見て、だれがだれだか、わかったんだよ」
「そっかぁ!」
カービィたちは、たちまち打ちとけて、笑顔になった。
デデデ大王が言った。
「オレ様たちは、メタナイトってヤツの山荘に招かれて来たのだ。この山のどこかにあるはずなんだが……知ってるか?」
ペンギーは答えた。
「メタナイトってひとは知らないけど、最近あたらしくできた山荘なら、知ってるよ。ついて来て!」
ペンギーは、針葉樹林の中に入って行く。一行は、彼に続いた。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
林を抜けると、二階建ての建物があらわれた。
丸太を組み合わせた、しゃれた造りだ。
建物のそばには、何組かのスキー板がそろえて、立てかけられていた。
ペンギーは言った。
「なかなか、すてきな山荘だろ? 持ち主は、どんなひとだろうって思ってたんだよ。メタ……ナイト、だっけ? きっと、趣味のいい、おしゃれなひとなんだろうね」
デデデ大王が、笑い飛ばした。
「フハハ、まさか! おしゃれさでは、オレ様の足元にも及ばん、ダサ騎士だわい。建物だけは立派だが、中はからっぽにちがいないぞ。あいつが、おしゃれなインテリアなんて、用意できるはずがないからな!」
カービィが、元気に飛びはねながら言った。
「早く行こうよ! きっと、メタナイトが待ってるよ!」
カービィはまっさきに走って行き、ドアをどんどんたたいた。
「やっほー、メタナイト! あそびに来たよ!」
しかし、返事はない。
「むむ? どうした、メタナイト。オレ様が来てやったんだぞ。さっさと開けろ!」
デデデ大王は、乱暴にドアをけとばした。
――と、ドアは、すんなりと開いた。カギが、かかっていなかったのだ。
「いるのか……? おーい、メタナイト!」
一行は、山荘の中に入ってみた。
そこは、広い居間だった。奥には、大きな暖炉がそなえつけられている。
床には、美しい銀色のカーペットが敷かれ、テーブルの上には、冷たいジュースやアイスクリームが、たっぷり用意されている。
雪の結晶の形をしたクッションや、大きなソファもあり、客をもてなす準備がすっかりととのっていた。
バウンシーが、うっとりして言った。
「わあ……なんて、すてきなの……! まるで、物語に出てくる、雪のお城みたい!」
バーニンレオも、目をぱちくりさせて言った。
「メタナイトって、意外と、もてなし上手なんだな。知らなかったぜ!」
みんなが目をみはっている中、ひとりだけ、真剣な表情になったのは、バンダナワドルディだった。
「……おかしい……どう考えても、メタナイト様らしくない……」
彼のつぶやきは、小さすぎて、だれにも届かなかった。
カービィは、大よろこびで、テーブルに飛びついた。
「わあ、アイス、アイス! いっただきまーす!」
「待って、カービィ!」
バンダナワドルディは、あわてて止めた。
「これって、本当に、メタナイト様が用意してくださったものなのかな?」
「え?」
バンダナワドルディは、部屋の様子を見回して、小さな声で言った。
「信じられないんだ。あのメタナイト様が、ぼくらのために、こんなすてきな山荘と、アイスやジュースまで用意してくださるなんて……」
デデデ大王が、アイスに手を伸ばしながら言った。
「ヤツは、こころを入れ替えたのだ。オレ様への尊敬の気持ちを、こうやって、あらわしているのだ!」
「だけど、かんじんのメタナイト様がいないのは、やっぱり変です。メタナイト様は、どこに……?」
「知らんわい。そのへんで、修行でもしとるんだろう。そのうち、戻ってくるわい」
すると、ペンギーが言った。
「修行? メタナイトってひとは、修行が好きなのかい?」
「うむ。三度のメシより修行が好きという、変わり者なのだ」
「だったら、近くのガケや、凍った滝で、体をきたえてるかもしれないね。ぼくが、見て来てあげるよ」
カービィが言った。
「じゃ、ぼくも、いっしょに行く……」
ペンギーは、頭を振った。
「ううん、このあたりは、すごく雪が深いからね。なれてないと、危ないんだ。ぼくが見てくるから、君たちはこの山荘で待ってて」
「でも……」
「大丈夫。メタナイトさんを見つけたら、みんなが来たことを伝えるから」
ペンギーは、山荘を出て行った。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
――さて、ペンギーが向かったのは、ガケでも滝でもなく、山荘のすぐ裏にある林だった。
ペンギーは、木のかげにかくしてあった、複雑な装置を取り出した。
通信のための電波を、妨害する装置だ。
ペンギーは、装置を起動させ、つぶやいた。
「よし、任務完了。これで、この山荘からは、どこにも連絡できなくなった」
ペンギーは、にんまりして、山荘を見上げた。
「みんな、ようこそ、雪山へ! しばらくの間、下界のことなんて忘れて、楽しくすごそう!」
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
アイスクリームを食べ散らかしたデデデ大王が、言った。
「ふぅ、食った、食った! このあとは、山荘を探検してみるとするか」
「探検?」
「この山荘、なかなか広そうだからな。二階にも部屋があるようだし、今晩、どこで寝るのか見ておくことにしよう」
デデデ大王は、みんなの返事を待たずに、暖炉の横のドアを開けた。
ろうかの右側に、広いキッチン。左側には、モザイクをちりばめた豪華なおふろがある。奥の階段は、二階に続いている。
コックカワサキは、キッチンをのぞきこんで、はずんだ声を上げた。
「大きな調理台に、最新型のオーブンまである! 使いやすそうなキッチンだなあ。ここなら、どんな料理でも作れそうだよ」
キッチンのとなりは、広い食料庫だった。外に通じるドアがあり、直接、食料を運びこめるようになっている。
コックカワサキは、感心して言った。
「なるほど。外の寒さを利用した、天然の冷蔵庫になってるんだ。これは便利だね。持ってきた食料を、ここに運んでおこう」
カービィが、ワクワクした顔でたずねた。
「どんなお料理を作るの? 肉まん? シチュー? やきいも?」
デデデ大王が、身を乗り出した。
「肉まんは、山ほど用意しておくんだぞ! オレ様とカービィの、肉まん王決定戦をやるんだからな!」
コックカワサキは、胸を張った。
「期待しててよ。肉まんだけじゃなく、ピザまんやあんまんやカレーまんや角煮まんや……みんなが、あっとおどろくようなスペシャルメニューを、考えてあるからね!」
「うわあああい!」
「楽しみすぎるわい!」
みんなでウキウキと、食料を運びこんだ。
それがすむと、一行は階段を上がってみた。
二階には、ろうかに面して、たくさんの部屋があった。どの部屋にも、大きなベッドやテーブルが、そなえつけられている。
バウンシーが、感心して言った。
「どのお部屋も、とっても、すてきだわ。大きな窓に、フリルのカーテン。テーブルには、お花までかざってある! ベッドはふかふかで、かわいいぬいぐるみが、たくさん置いてあるわ。さすがはメタナイトさん、百点満点ね!」
バンダナワドルディが、じっと考えこんで言った。
「フリルのカーテン……お花……ぬいぐるみ……やっぱり、こんなの、おかしい……」
「え? 何が?」
「メタナイト様らしくないんです」
バンダナワドルディは、みんなの顔を見回して言った。
「あのメタナイト様が、ぼくらのためにベッドにぬいぐるみを置いたり、お花をかざったりするとは思えません。ぜったい、変です!」
デデデ大王が言った。
「ヤツじゃなくて、部下のワドルディがやったんだろう。あいつは、気がきくからな」
「だけど、山荘の中にだれもいないのは、やっぱり変です。こんなに、おもてなしの準備をととのえておきながら、出かけてしまうなんて……」
デデデ大王は、ふしぎそうにバンダナワドルディを見下ろして、たずねた。
「おまえは、さっきから、何をそんなに気にしておるんだ? この山荘が、そんなに気にかかるのか?」
「大王様……あの招待状は、本当に、メタナイト様からだったのでしょうか?」
バンダナワドルディは、思いつめた目で大王を見上げた。
大王は、きょとんとした。
「何を言ってる。おまえも、見ただろう。たしかに、差出人はメタナイトと書いてあったではないか」
「だれかが、メタナイト様の名をかたって、にせの手紙を送ってきたのかもしれません」
「ああ? だれが? なんのために?」
「わかりませんけど……」
うつむいてしまったバンダナワドルディに、チリーが大声で言った。
「心配しすぎだよ、バンダナくん! にせの手紙なんて、あるわけないって!」
「そ……そうかな……?」
「それに、この山荘、すごくすてきだもん。ぼくは、とっても気に入っちゃったな。楽しく過ごせそうだよ!」
チリーが、力をこめて言い張ったとき。
バタン――と、階下でドアが開く音がした。
⭐3 メタナイトの到着
ドアの音に続いて、聞き覚えのある声がひびいた。
「カービィ! デデデ大王! いるのか!?」
「あ、メタナイトの声!」
カービィが、飛び上がって叫んだ。
デデデ大王は、ニヤリとして、バンダナワドルディを見た。
「やはり、おまえの心配は、まと外れだったな。メタナイトが、帰って来たではないか」
バンダナワドルディは、赤くなって言った。
「……あ……えっと……はい、すみません。ぼくの、考えすぎだったみたいです……」
カービィが、まっさきに階段を駆け下りた。
「わーい、メタナイト! 招待、ありがとう!」
「カービィ!」
メタナイトは、吹雪の中を歩いてきたかのように、雪まみれだった。
彼は、今にも剣を抜きそうな剣幕で、叫んだ。
「魔獣はどこだ!? 住民たちは、無事に避難したのか!?」
「……え?」
「ケガ人は!? すぐに、手当てを! 私は、ただちに魔獣討伐に向かう!」
「まじゅー……とーばつ……?」
カービィは、ぽかんとして、口をあけた。
カービィの後ろから、デデデ大王が言った。
「おそかったではないか、メタナイト。客を待たせておいて、きさま……」
しかし、メタナイトは荒々しい声で、デデデ大王をさえぎった。
「デデデ大王、君の部下たちは無事なのか!?」
「…………ほえ?」
「すぐに出発しよう。案内をたのむ!」
「出発って……どこに行く気だ?」
「決まっているだろう! 魔獣があばれている……現場に……」
そのとき、メタナイトはようやく、山荘に集まっている面々に気づいた。
彼は、おどろいて、つぶやいた。
「コックカワサキ……バウンシー……? まさか、君たちまで、魔獣討伐に加わる気なのか? その勇気はすばらしいが、戦うこころえのない者には、危険すぎる。ここは私たちにまかせて、ただちに避難したまえ!」
「寝ぼけとるのか、きさま。やっと帰ってきたと思ったら、わけのわからんことをベラベラと」
デデデ大王が、あきれて言った。
カービィが言った。
「メタナイト、どこで修行してたの? ペンギーに会わなかった?」
「ペンギーだと? それは、何者だ……?」
チリーが言った。
「ペンギーは、ぼくの友だちだよ。メタナイトさんを探しに行ってくれたんだけど……すれちがいになっちゃったのかな?」
「……どういうことだ……?」
メタナイトは、みんなを見回した。
「君たちは、魔獣討伐のために、ここにいるのではないのか?」
「まじゅーとーばつって、なんのこと?」
「私は、デデデ大王からの手紙を受け取って、駆けつけたのだが……」
「手紙? 何を言っとる。オレ様は、手紙なんて出しとらんぞ」
デデデ大王は、首をかしげた。
「……では、これは?」
メタナイトは、一通の手紙を取り出して、デデデ大王に渡した。
デデデ大王は、手紙を読み上げた。
「メタナイトへ! 緊急事態だ! プププランドに凶悪な魔獣があらわれ、暴れまわっている! ヤツはデデデ城をめちゃくちゃにし、通信装置をこわして、雪山地方に逃げこんだ! オレ様とカービィとで追いかけているのだが、ヤツはとてつもなく強く、かなわない! オレ様の部下たちも、おおぜいが大ケガを負ってしまった! どうか、雪山に来てくれ! たのむ! どうしても、きさまの助けが必要なのだ! デデデ大王より……はあああああ!?」
デデデ大王は、大声を上げて飛び上がった。
「なんだ、これは!? オレ様は、こんな手紙なんて、書いてないぞ!」
「……そのようだな」
メタナイトは、すべてを理解したように、うなずいた。
バンダナワドルディが言った。
「大王様のもとには、メタナイト様からのお手紙が届いたんです」
「手紙? 私から?」
「はい。すてきな山荘を手に入れたから、遊びに来てくれという内容でした。それで、みんなをさそって来たんです」
「私は、手紙など出していない」
メタナイトは緊張した声でつぶやき、あたりをうかがった。
「……どうやら、私たちは、ワナにかけられたようだな」
「ワナ?」
「何者かが、にせの手紙で、私たちをこの場所へおびき寄せたのだ」
バンダナワドルディは、息をのんでつぶやいた。
「やっぱり……でも、いったい、だれが……!?」
全員、だまりこんで、顔を見合わせた。
メタナイトは、いらだちのこもった声で言った。
「だれのしわざか知らんが、こんな単純な手段で私をあざむくとは、ふざけたマネをしたものだ。ともかく、情報を整理してみよう」
メタナイトの指示で、みんな、ソファや床に座りこんだ。
「まず、私のもとに届いた手紙について話そう。とつぜん、デデデ大王からの手紙が届いたので、私はおどろいた。なぜ、いつものように通信装置を使わないのかと思ったが、手紙を読むと、魔獣が通信装置をこわしたと書いてある」
デデデ大王が、腹立たしげに言った。
「でたらめだ! 魔獣なんぞ、どこにもおらんわい!」
「むろん、私も、すぐに手紙の内容を信じたわけではない。確認のため、デデデ城に通信を試みたのだが、通じなかった」
「……え? 話し中だったのか……?」
「そうではない。デデデ城の通信設備に、なんらかの不具合が生じていたのだ」
デデデ大王は、びっくりして言った。
「そんなはずはないわい! 魔獣なんて、ウソなんだからな!」
バンダナワドルディが、不安そうに言った。
「不具合って、どういうことでしょう? だれかが、お城の裏庭に忍びこんで、通信コードを切ったとか……?」
チリーが、ごくっと息をのんで、大声で言った。
「つーしんこーどを、きった!? わあ、だれが、そんなことを!」
メタナイトは、頭を振った。
「わからん。だが、通信装置がこわれているということは、手紙の内容は正しいのだと、私は信じこんでしまった。一刻も早く、雪山の魔獣を討伐せねばならんと、決意したのだ」
メタナイトは、だまされた悔しさを押しかくすように、片手をぎゅっとにぎった。
「部下たちも連れてくるつもりだったが、あいにく、みな、寝こんでいてな」
「え!? メタナイツが、みんな!? どうして!?」
「ただの食べ過ぎだ。船員ワドルディが加わって以来、戦艦ハルバードのティータイムが充実しすぎていてな。よろこんだ部下たちは、特製アイスクリームを食べまくって……いや、そんな話はどうでもいい」
メタナイトは、せきばらいをして、言った。
「ともかく、体調不良の部下たちを戦艦ハルバードに残し、船員ワドルディに看病をまかせて、私ひとりが駆けつけたというわけだ。雪が思いのほか深く、山を登るのに手間取ってしまったが……」
カービィが、おどろいて言った。
「えー!? この雪山を、ふもとから登ってきたの!? たった、ひとりで!? すごいなあ、メタナイト!」
「……君たちは? とてつもなくけわしく、深い雪にとざされた山を、どうやって……」
「ぼくら、ワープスターに乗ってきたんだよ」
カービィは、にこにこした。
「どんなに高い山だって、ワープスターなら、ひとっ飛びだもんね! あっという間だったよ!」
「…………なるほど」
メタナイトは、大きなため息をついた。
カービィは言った。
「帰りは、メタナイトも乗せてあげるね。らくちんだよ」
「感謝する。では、すぐに出発しよう」
メタナイトは立ち上がった。
カービィは、びっくりした。
「出発って? どこに行くの?」
「決まっている。帰るのだ」
「えっ!? 帰る!?」
大声を上げたのは、チリーだった。
チリーは、あせった様子で叫んだ。
「どうして!? いま来たばっかりじゃない! 雪山には、楽しいことがたくさんあるのに、帰るなんてもったいないよ!」
カービィも、メタナイトの手を引っ張った。
「そうだよー! いっしょに遊ぼうよ! 雪合戦しようよー!」
メタナイトは、そっけない声で言った。
「手紙がにせものとわかった今、ここにとどまる理由などない。私は、戦艦ハルバードに帰る。部下たちの容態も心配だ」
「でも、でも、この山荘、アイスもジュースもたっぷりあるし、ベッドもふかふかなんだよ。メタナイツやバル艦長のことは、船員くんにまかせておけば、だいじょーぶだよ。ぼく、みんなといっしょに、ここにお泊まりしたいよー!」
チリーが、うなずいた。
「手紙はにせものだったけど、悪いたくらみとは思えないなあ。だって、悪者のしわざなら、こんなすてきな山荘を用意したりしないでしょ」
デデデ大王も、手をたたいて賛成した。
「そうだ、プププランドの住民のだれかが、オレ様への日ごろの感謝をこめて、手のこんだ招待をしてくれただけかもしれんな!」
カービィが、よろこんで叫んだ。
「だれかからの、びっくりプレゼントってことだね! わあい、ぼくとメタナイトのファンかも!」
「……私には、ファンより敵のほうが、はるかに多いのだが」
メタナイトは、冷たく言って、カービィの手を振り払った。
「君らが残りたいなら、好きにしたまえ。私は山を下りる」
「えー……でも……ワープスターは……」
「いらん。歩いて下りる。では、さらば」
メタナイトは、山荘を出て行こうとした。
――が。
ドアを開けたとたん、はげしい風が吹きつけてきた。
ごぉぉぉぉぉ! という音とともに、冷たい雪が舞いこむ。
カービィたちは、びっくりぎょうてん。
「わあああああ!?」
「さ、寒い!」
「ドアを閉めろ! 早く!」
みんなでドアに飛びつき、大急ぎで閉めた。
ボンカースが、ぼうぜんとして言った。
「どうなってんだ? たった今まで、いい天気だったのに……」
チリーが言った。
「山の天気は、変わりやすいんだ。めずらしいことじゃないんだけど……この猛吹雪じゃ、今夜はここに泊まるしかないね」
メタナイトは、けわしい声で言った。
「いや、私は帰りたい。部下たちに、連絡してみよう。最新鋭の飛行艇なら、この吹雪でも、着陸できるはずだ」
メタナイトは、超小型の通信機を取り出した。
――が。
「……む? 通じない」
「みんな、まだ寝こんでるのかな?」
「そういう意味ではない。電波が、通じないのだ」
チリーが言った。
「お天気が悪いからだね。山では、よくあることなんだよ」
「はたして、そうだろうか」
メタナイトは、きびしい声で言った。
「この通信機は、超高性能だ。どのような環境であろうとも、通じないなどということは、これまでになかった。なのに、これは……何者かが、電波を妨害しているとしか思えん」
「ええ……?」
みんな、顔を見合わせた。
バーニンレオが、びくびくして言った。
「な、なんだよ。電波を妨害って……やっぱり、悪者が、オレたちをワナにかけたってことかよ?」
バウンシーが、じわっと涙ぐんだ。
「そんな……こわい……わたしたち、どうなっちゃうの?」
カービィは、バウンシーに寄り添って言った。
「だいじょーぶだよ、バウンシー。まじゅーがおそってきても、ぼくが、パパッとやっつけちゃうからね!」
けれど、バウンシーのふるえは止まらない。
そのとき――チリーが言った。
「あのさ、こういうときは、おいしいものを食べるといいんじゃないかな?」
「……え? おいしいもの?」
「うん! コックカワサキ、おいしいお料理の用意はできてるよね?」
問いかけられて、コックカワサキはうなずいた。
「もちろんだよ。とびっきりのメニューを考えてある。あっつあつの、雪山スペシャルをね」
チリーは、にっこりして言った。
「雪山では、雪のせいで外に出られなくなることなんて、よくあるんだ。電波が通じなくなることもね。ちっとも、心配いらないよ。おなかいっぱい食べて、元気出そうよ!」
「うんうん! 大さんせーい!」
飛び上がって手をたたいたのは、カービィ。
バウンシーも、泣くのをやめて、顔をかがやかせた。
デデデ大王は、舌なめずりをして言った。
「よぉし、肉まん大食い王決定戦だな!? 今度こそ、オレ様の勝ちだ! どんどん持ってこーい!」
コックカワサキは、笑って言った。
「ちがうよ! 肉まん大会は、明日のお楽しみ。今夜は、みんながホカホカになれるレシピを考えてあるんだ」
「みんながホカホカ? 何?」
「ちょっと待ってて。すぐに準備するから。ワドルディ、手伝ってもらえるかな?」
バンダナワドルディは、ぴょこんと立ち上がって、うなずいた。
「はい、もちろん!」
バーニンレオが言った。
「オレも、手伝うぜ! オレのメラメラの炎が、役に立つぜ!」
「ありがとう、バーニンレオ。それじゃ、取りかかろう」
コックカワサキたちは、キッチンに向かった。
⭐4 あつあつ&ヒエヒエごはん!
しばらくして――。
「おまたせー! できたよ!」
コックカワサキが、大きななべをかかえて来た。
カービィとデデデ大王は、なべをのぞきこんで、歓声を上げた。
「うわああああ! おでんだー!」
「だいこん、ちくわ、たまご! なんて、うまそうなんだー!」
コックカワサキは、にっこりして言った。
「雪山には、おでんがぴったりだと思ってね。準備してきたんだ。それに、熱いものが苦手なチリーのために、特別なアイスおでんも作ったよ」
「アイスおでんって?」
「だいこんやトマトを、だしで煮こんで、冷やしたんだ。さっぱりして、おいしいよ」
「わあ……ありがとう、コックカワサキ!」
チリーは、感激した様子でお礼を言った。
カービィも、大はしゃぎ。
「おいしそう! ぼく、あつあつのおでんと、アイスおでん、両方食べるー!」
デデデ大王も、舌なめずりをして叫んだ。
「もちろん、オレ様もだ! あつあつおでんとアイスおでん、十杯ずつ食うぞー!」
と、そのとき。
山荘のドアが開き、ペンギーが入って来た。
全身が、雪まみれだ。長いまゆげまで、コチコチに凍っている。
ペンギーは、ぶるぶるっとふるえて雪を払い落とし、言った。
「ふぅ、まいった、まいった! いくら雪山だって、こんな猛吹雪は、めったにないよ」
「あ、おかえりなさい」
カービィが声をかけた。
メタナイトは、ふしぎそうな視線をペンギーに向けた。
「君は……?」
気づいたチリーが言った。
「メタナイトさん、彼が、さっき話したぼくの友だちのペンギーだよ。ペンギー、メタナイトさんとは、入れ違いになっちゃったんだね」
ペンギーは、メタナイトを見て、にこっとした。
「はじめまして! メタナイトさんは修行してるにちがいないって聞いたから、ガケや滝のあたりを探し回ったんだ。でも、だれもいなかったから、心配してたんだよ。無事でよかった!」
「……世話をかけて、すまなかった」
メタナイトは、礼儀正しく、頭を下げた。
コックカワサキが言った。
「ちょうどいいところに帰ってきたね。みんなで、おでんを食べるところなんだ。ペンギーは、あつあつおでんとアイスおでん、どっちがいい?」
ペンギーは、目をかがやかせた。
「アイスおでん!? そんなの、初めて聞いたよ。おいしそうだね!」
「うん! たくさんあるから、どんどん食べてね」
みんなで、おでんをお皿に取り分けて、楽しい食事が始まった。
さっきまでの緊張した空気が、おでんのおかげで、一気に明るくなった。こわがっていたバウンシーも、すっかり笑顔だ。
デデデ大王が、おでんをパクパク食べながら言った。
「メタナイト、きさまの思い過ごしだったようだな。やはり、にせの手紙は、オレ様への感謝をこめたサプライズ招待状だったのだ!」
「……まだ、わからん」
メタナイトは、ただひとり、けわしい態度をくずさなかった。
チリーが、にっこりして言った。
「明日になれば、吹雪もやむだろうし、みんなで遊ぼうね」
ペンギーも、うなずいた。
「雪山には、楽しい遊びがたっくさんあるんだよ! 雪合戦、スキー、雪だるま。かまくらを作って、中でおでんパーティをするのもいいね。明日が楽しみだなあ!」
「うん、ぼくも!」
「早く明日にならないかな!」
みんな、声を上げて賛成した。
けれど、バーニンレオだけは、しかめっ面で言った。
「フンッ! 雪遊びなんて、冷たいだけで、ちっともおもしろくねえよ。あーあ、マグマ温泉が恋しいぜ!」
すると、ペンギーが言った。
「冷たいのなんて、最初だけだよ。雪の中で遊んでるうちに、すぐ、なれるよ」
「なれねえよ! オレは、雪なんて、大っきらいだからな!」
「がんこなんだね、君は」
ペンギーは笑い、力をこめて、続けた。
「だけど、いつか、君にもわかってほしいな。雪や氷のすばらしさを。きらきら光るつららの美しさや、キンキンに冷たい雪どけ水のおいしさを……」
ペンギーは、うっとりと、ため息をついた。
バンダナワドルディが、にっこりして言った。
「ロマンティストなんだね、ペンギーって」
ペンギーはハッとして、照れくさそうに言った。
「ごめん、ごめん。ぼく、雪や氷のことになると、つい夢中になっちゃって。とにかく、みんなに、もっともっと雪を好きになってほしいんだ。プププランドじゅうが、雪におおわれればいいなあって思えるくらいにね!」
ペンギーは、立ち上がった。
「それじゃ、ぼくはもう帰るね。アイスおでん、すごくおいしかったよ。ごちそうさま」
カービィが言った。
「え、帰るの? 吹雪なのに……ここに、泊まっていけば? お部屋なら、たくさんあるよ」
ペンギーは、頭を振った。
「ぼくの家は、すぐ近くだから、大丈夫。じゃあね、みんな。明日、また来るね」
ペンギーは手を振って、出て行った。
その姿を見送って、バウンシーが言った。
「……ねえ、わたし、ひらめいちゃった! ひょっとしたら、あの手紙を書いたのって、ペンギーじゃないかな?」
「え!?」
みんな、おどろいてバウンシーを見た。
バウンシーは、得意そうに言った。
「ペンギーは、みんなを雪山に招待して、雪や氷のすばらしさを知ってほしかったのよ。それで、こんなすてきな山荘を用意して、にせの手紙でわたしたちを招いてくれたの。われながら、名推理!」
バーニンレオが言った。
「それなら、別に、にせものの手紙なんか書かなくていいだろ。ふつうに、『雪山に、遊びに来てください』って書けばいいだけじゃねえか」
「それは……ふつうの手紙じゃ、おもしろくないでしょ。みんなをドキドキさせるために、わざと、にせものの手紙を書いたんじゃ……ないかな……?」
バウンシーは、少し自信を失って、声が小さくなった。
そのとき、バンダナワドルディが手を上げて、おずおずと言った。
「ぼくも、ひとつ、考えたことがあるんですが……」
デデデ大王が顔を向けた。
「なんだ? 言ってみろ」
「もしも、届いた手紙に、ただ『雪山に、遊びに来てください』とだけ書いてあったら、大王様もメタナイト様も、乗り気にならなかったんじゃないでしょうか。雪山なんて寒いし、遠いし、めんどくさいと思ったかもしれないです」
「むむ……? 何が言いたいのだ?」
バンダナワドルディは、深刻な表情で言った。
「大王様あての手紙には、肉まんとかシチューとか、おいしそうな食べ物のことが書いてありました。メタナイト様あての手紙には、強い魔獣があばれているという情報が書いてありました」
「うむ。それが、どうした」
「手紙の送り主は、大王様やメタナイト様の性格を、よく知っているのではないかと思うんです。何を書けば、お二人が雪山に行きたくなるのか、わかっているとしか思えません」
「むむむ? どういう意味だ?」
デデデ大王は、不満そうに言った。
「肉まんやシチューと書けば、オレ様がかんたんに引っかかるという意味か? それでは、まるで、オレ様が食いしんぼうのようではないか!」
「え、え、えっと……ごめんなさい……」
バンダナワドルディは、あわてて、あやまった。
メタナイトが言った。
「いや、するどい指摘だ。たしかに、手紙の送り主は、私たちのことをよく知っているようだ」
バーニンレオが、笑って言った。
「わかった! じゃ、手紙を書いたのは、チリーだ!」
「えええええ――!?」
チリーは、飛び上がった。
「チリーなら、みんなの性格をよく知ってるもんな。怒らないから、正直に言っちゃえよ。ペンギーと協力して、計画を立てたんだろ? みんなを雪山に招待して、雪山を好きになってもらうためにさ。ペンギーが山荘を用意して、チリーが手紙を書いたんだな?」
「ふぅん。そうだったの?」
カービィが、きょとんとしてチリーを見た。
チリーは、両手をぐるぐる振って、あわてて言った。
「ち、ち、ちがうよ! ぼく、ぜんっぜん、知らないよ!」
デデデ大王が、にんまりと目を細めて、チリーを見た。
「なるほど、そういうことか。おまえは、尊敬するオレ様をもてなしたくて、こんな計画を立てたんだな? 正直に言うのが照れくさいから、にせの手紙を書いたというわけか。ハハハッ、かわいいヤツだ」
「ち、ち……ちがうってば……!」
チリーは、まっかになって、むりやり話題を変えた。
「あ、そ、そうだ! もしも明日も吹雪だったら、この山荘の中で、食べほうだいパーティをやろうよ。きっと、楽しいよ!」
たちまち、カービィとデデデ大王が、目の色を変えた。
「食べほーだい!?」
「肉まんか! いよいよ、肉まん王決定戦か!?」
コックカワサキが、笑顔でうなずいた。
「そうだね。肉まんも、あんまんも、ピザまんも、山ほど作るからね。みんなで、食べよう。楽しみにしてて!」
「わぁい! さいこー!」
みんな、大よろこびで、はしゃぎ回った。
「わたしは、あんまんが食べたいな! 思いっきり、甘くて、あったかいの!」
「オレは、がっつりパワーが出るピザまんだぜ! チーズをたっぷり入れろよ!」
「オレはやっぱり、激辛カレーまんがいい! 炎を吹くぐらい激激激辛~!」
デデデ大王は、窓の外をちらっと見て、上機嫌で言った。
「食い物さえあれば、吹雪なんか、なんでもないわい。雪よ降れ降れ、もっと降れ~!」
まるで、その言葉にこたえるかのように、吹雪はますます激しさを増していった。
⭐6 『まず、ひとり。』 【12月12日更新】
やがて、みんなは二階の部屋に引き上げ、眠りについた。
そして、真夜中を過ぎたころ――。
バウンシーは、ベッドの中で、ふと目をさました。
「のど、かわいちゃった……お水……」
おでんを食べすぎたせいかもしれない。バウンシーは、あくびをしながら起き上がった。
みんなを起こさないよう、静かに部屋を出て、階段を下りる。
ろうかの明かりをつけ、キッチンに向かったときだった。
「……ん? なにか、変な音がしてる……?」
ゴトゴトと、大きな物を動かすような音だ。
「……なんだろ? まさか、魔獣……!?」
バウンシーはゾッとして、立ちすくんだ。
音は、キッチンのとなりの食料庫から聞こえてくる。
獣のうなり声などは、聞こえない。ただ、ゴトゴトという音だけがひびいている。
「まさか、どろぼう? それとも、ただの風の音かな?」
カービィやメタナイトを起こしに行こうかと思ったが、かんちがいだったら、もうしわけない。
バウンシーは、音の正体をたしかめようと、食料庫のドアをそっと開けてみた。
次の瞬間――!
「きゃああああああああああ!」
とつぜん、甲高い悲鳴がひびきわたった。
ぐっすり眠りこんでいたバンダナワドルディが、びっくりして飛び起きるほどの声だった。
「な、なに!? 今の声は!?」
バンダナワドルディは、あわててベッドから転がり出て、部屋を飛び出した。
ろうかに面したドアが、次々に開いて、みんなが顔をのぞかせた。
「ふぁぁ……だれだ? 真夜中にさわいでるヤツは?」
デデデ大王が、寝ぼけまなこをこすりながら言った。
バンダナワドルディは叫んだ。
「今のは、バウンシーの声です。バウンシー、どうしたの!? バウンシー!」
バンダナワドルディは、バウンシーの部屋のドアをたたいてみたが、返事はない。
ドアを開け、みんなでのぞきこんでみたけれど、バウンシーはいなかった。
チリーが、ぼうぜんとして言った。
「ベッドには、寝たあとがあるよ。こんな夜ふけに、どこに行っちゃったんだろう……?」
デデデ大王が、あくびをしながら言った。
「寝ぼけて、窓から落ちたんじゃないか?」
バンダナワドルディは、急いで窓を調べ、言った。
「窓には、カギがかかってます!」
「では、いったい、どこへ……?」
カーテンのかげや、ベッドの下まで探し回ったが、見つからない。
そのとき、ようやく、カービィが寝ぼけた顔でやって来た。
「あれぇ……もう朝……? おはよう、みんな……」
「しっかりして、カービィ! たいへんなんだ、バウンシーがいないんだ!」
「ふぁぁ……?」
カービィは、目をこすった。
そのとき、部屋の外を調べていたコックカワサキが、叫んだ。
「あっ、一階のろうかに、明かりがついてるよ! ぼくが、寝る前に消したのに!」
一行は、大急ぎで階段を下りた。カービィも、バンダナワドルディに引っぱられて、よたよたしながらついて来た。
「バウンシー! どこだー!?」
みんなで呼びかけても、返事はなかった。
居間の明かりをつけてみたが、だれもいない。ソファやテーブルのかげにも、火の消えた暖炉の中にも。
カービィも、ようやく目をさまして、言った。
「どこにもいないよ! まさか、まじゅーに、さらわれちゃった……!?」
バーニンレオが口をとがらせて言った。
「魔獣ってのは、メタナイトを呼ぶための口実だっただろ。ほんとにいるわけ、ねえよ」
コックカワサキが言った。
「念のため、ドアを調べてみようよ。だれかが忍びこんだ形跡がないかどうか」
メタナイトが、玄関のドアを調べてつぶやいた。
「ドアには、内側からカギがかかっている。私が昨夜、戸締まりをしたときのままだ。つまり、このドアからは、だれも出入りしていない……」
バンダナワドルディが、窓を調べて言った。
「居間の窓にも、カギがかかっています。もちろん、窓ガラスも割れてません」
「ならば、だれも侵入できるはずがないわい。やはり、バウンシーは、この山荘の中にいるはず……」
そのとき、バンダナワドルディが、デデデ大王を見上げて言った。
「待ってください、大王様。ぼく、たいせつなことを思い出しました」
「む? なんだ?」
「食料庫です。ここの食料庫には、二か所の出入り口がありますよね。外から入れるドアと、キッチンに通じるドア」
コックカワサキが、きょとんとして、うなずいた。
「うん、そうだよ。みんなで食料を運びこんだじゃないか」
「たしか、どちらのドアにも、カギがなかったはずです」
メタナイトが、ピンッとひらめいて言った。
「なるほど。つまり、食料庫を通りぬければ、外部から山荘に侵入することが可能なのだな」
「それは、無理だよ」
コックカワサキは、すばやく言い返した。
「だって、食料庫は、ぼくらが運びこんだ食料でパンパンだもん。お肉や野菜の入った木箱が、天井まで積み上がってるんだ。通り抜けられるすきまなんて、ないよ」
「昨夜の夕食で、材料をかなり使ったのでは?」
「でも、まだまだ、たっぷり残ってる。食料庫は、ぜったいに通れないよ」
「念のためだ。調べておこう」
メタナイトが言い、キッチンに向かって歩き出した。
カービィが、思いついて言った。
「ひょっとすると、バウンシーは食料庫の中にいるのかも!」
「……なんだと?」
「夜中におなかがすいちゃって、何か食べたくなったんだよ。うん、きっと、そうだ!」
カービィの目が、かがやいた。
「ぼくも! ぼくも食べる! おでんの残り!」
それを聞いて、デデデ大王も舌なめずりをした。
「オレ様も、なんだか腹がへってきたわい。コックカワサキ、夜食を作ってくれ。あったかいスープと、肉だんごと、ステーキと、ハンバーグだ!」
カービィとデデデ大王は、メタナイトを追い抜いて、競い合うようにキッチンに走って行った。
カービィが、にこにこして叫んだ。
「バウンシー、ひとりでお夜食なんて、ずるいよー! ぼくも食べ……!」
食料庫に通じているドアを開けたカービィは、立ちすくんでしまった。
カービィのうしろからのぞきこんだデデデ大王も、息をのんだ。
二人に追いついたメタナイトが、声をかけた。
「どうした? バウンシーが見つかったのか……?」
しかし。食料庫の中をのぞきこんだメタナイトは、たじろいだ。
「な……なんだと!? どういうことだ!?」
食料庫は――からっぽだった。
天井まで積み上げられていた木箱が、一つ残らずなくなっている。
カービィが、ぼうぜんとして、つぶやいた。
「どうして? どこに行っちゃったの? ぼくの……ぼくのおでん……」
デデデ大王は、クラクラして壁に寄りかかり、うめいた。
「夢か? これは、悪夢なのか? ぬぅぅぅぅ……!」
コックカワサキが、食料庫に踏みこんで、うろたえた声を上げた。
「なんだい、これ!? 持ってきた食料が、ぜーんぶ消えてる……たっぷりあったおでんの残りも、おなべごと、なくなってるよ!」
カービィは、コックカワサキにすがりついた。
「それじゃ、お夜食は!? お夜食は、どうやって作ればいいの!?」
「作れないよ、カービィ……」
コックカワサキは、ふるえる声で答えた。
「え……ええ……?」
「夜食どころか、明日の朝食も昼食も……なんにも。この山荘には……もう、食料が何もない……!」
「なに……も……!?」
カービィは、フラフラとたおれてしまった。
デデデ大王が、うわごとのように、つぶやいた。
「肉まんは? 肉まん大王決定戦は、どうなる……?」
コックカワサキは、無言で首を振った。
「ぬ……ぬぉ……!」
カービィに続いて、デデデ大王まで、ちからを失ってたおれてしまった。
「大王様! カービィ!」
バンダナワドルディが、あわてて二人に駆け寄った。
ふと、コックカワサキが、壁に目をやって言った。
「あれ? 壁に、紙が貼りつけてあるよ。なんだろう?」
コックカワサキは、紙に書かれた短い文章を読み上げた。
「『まず、ひとり。つぎは、だれ……?』……え? 何、これ?」
メタナイトが、低い声でつぶやいた。
「バウンシーをさらった犯人からのメッセージ、だな」
「メッセージ……!?」
「うむ。われわれに対する、挑戦状だ」
メタナイトは、食料庫の中をぐるぐる歩き回りながら言った。
「犯人は、一人ではあるまい。大量の食料を、手ぎわよく盗み出したのだからな。バウンシーは、おそらく、その犯行現場を目撃してしまったのだろう。口封じのために、さらわれたのだ」
みんな、ぼうぜんとして、顔を見合わせた。
メタナイトは続けた。
「そして、犯人は、これで終わりにする気はないようだ。『つぎは、だれ……?』とは、犯行の予告だ。二人目をねらう、と宣言しているのだ」
「二人目って……そ……そんな……!」
コックカワサキが、ふるえ上がって叫んだ。
「犯人の目的は、何なんだろう!? ぼくらに、何かうらみでも……!?」
「わからん。だが、このような不届きな挑戦を、見過ごすわけにはいかん。受けて立つしかあるまい」
メタナイトの目が、ギラリと光った。
バンダナワドルディが、倒れたデデデ大王の手をにぎり、目になみだを浮かべて言った。
「メタナイト様、ぼく、今夜は一人になりたくないです! 自分の部屋には、戻れません!」
コックカワサキも、こくこくと、うなずいた。
「ぼくだって! ねえ、朝まで、みんなで一緒に過ごそうよ。こわいよ!」
バーニンレオが、小さな火を吹いて言った。
「オレは、ち、ちっとも、こわくねえけど! でも、おまえらのことが心配だから、いっしょにいてやるぜ!」
メタナイトは、うなずいた。
「うむ、それがいいだろう。単独行動は、危険だ。気絶しているカービィとデデデ大王を、放っておくわけにもいかん。みなで、居間に集まって、夜を明かすことにしよう」
みんな、少しだけホッとした顔でうなずいたが――。
一人だけ、イヤそうな声を上げたのは、ボンカースだった。
これまでずっと、眠い目をこすりながら、みんなに付き合っていたボンカースだが、ついにガマンがならなくなったらしい。荒々しく、言った。
「あぁぁ? 朝まで、おまえらとぉ? 冗談じゃねえ。オレはイヤだぜ……ふぁぁ!」
ボンカースは、あくびをしながら続けた。
「居間なんて、ゆっくり寝られるかよ。おくびょう者どもは、勝手にしろ。オレは、ぬくぬくのベッドで眠るぜ……ふぁぁぁぁ……! じゃあな!」
ボンカースは特大のあくびをすると、ノシノシと出ていってしまった。
バーニンレオが、あきれて言った。
「ボンカースは、眠いと、ものすごーく、ふきげんになるんだ。何を言っても、聞きゃしないぜ。ほっとこう」
コックカワサキが、不安そうに言った。
「大丈夫かなあ……一人きりなんて……」
「あいつは強いから、平気だぜ。バウンシーみたいに、かんたんにさらわれたりしねえよ」
ボンカースの腕っぷしの強さは、だれでも知っている。コックカワサキも、納得してうなずいた。
メタナイトが、みんなを見回して言った。
「とにかく――ここまでのできごとで、一つ、わかったことがある。われわれをこの山荘におびき寄せた者は、悪意のかたまりだということだ。あの、にせの手紙は、チリーやペンギーがしかけた楽しいイタズラなどではなかったのだ」
ずっとだまりこんでいたチリーが、びくっとして顔を上げた。
バーニンレオが、もうしわけなさそうに言った。
「ごめんな、チリー。あの手紙、おまえが書いたなんて、うたがっちゃって……」
「あ、あの……ぼく……」
チリーは、思いつめた表情で、言った。
「探しに行ってくるよ」
「え? チリー?」
全員の視線を集めて、チリーは、声をふるわせた。
「バウンシーと食べ物を、探しに行く。ぼくなら、吹雪なんて、へっちゃらだから……」
バンダナワドルディが、心配そうに言った。
「ううん、いくらチリーだって、無理だよ。雪だけじゃなくて、すさまじい風だもん。吹き飛ばされちゃうよ」
「大丈夫。とにかく、なんとかしなくちゃ。ペンギーにも、協力してくれるよう、頼んでみるよ」
チリーは、コックカワサキに言った。
「ぜったい、バウンシーを見つけるからね。もちろん、盗まれた食べ物も、取り返すよ。おいしい料理を、また作ってね」
コックカワサキは、うなずいた。
「う、うん……でも、チリー、気をつけて。無理はしちゃダメだよ」
「大丈夫! 行ってくるね」
チリーはすばやくドアを開けて、出て行った。
悲鳴を残して、なにものかに連れ去られてしまったバウンシー。
でも、探しに行きたくても、外はチリーでなければ歩けないほどの猛吹雪。食料も盗まれ、カービィとデデデ大王は倒れてしまった……。
犯人は、いったい、何が目的なのか!?
挑戦状の通り、また、次にだれかが狙われてしまうのか……?
気になる続きは、好評発売中のつばさ文庫『星のカービィ 雪山の夜は事件でいっぱい!の巻』でたしかめてね!
⭐新刊情報⭐
『星のカービィ 雪山の夜は事件でいっぱい!の巻』は12月11日発売!
![](https://assets.st-note.com/img/1731585877-zU6HoMtvcId81rgTjmL39JhR.jpg)
⭐あらすじ⭐
メタナイトから、雪山の山荘に遊びに来ないか?と
おさそいの手紙をもらったデデデ大王は、カービィやチリーたちと雪山へ! 雪合戦をして、あつあつのおでんを食べて、めいっぱい楽しんだその夜、悲鳴をのこして、バウンシーがいなくなった!?
みんなで探してようやく見つけたのは、犯人からの挑戦状。食料もぬすまれ、吹雪で外には出られない。挑戦状の予告通り、ひとり、またひとりと、友だちがすがたを消していく…。
実は、この山荘には、とんでもないワナがしかけられていた!?
悪だくみをあばいて、犯人をつきとめろ! カービィたちが大かつやく!
⭐書誌情報⭐
角川つばさ文庫
『星のカービィ 雪山の夜は事件でいっぱい!の巻』
高瀬美恵・作 苅野タウ・ぽと・絵
ISBN:9784046323064
定価:814円(定価740円+税)
ページ数:208
© Nintendo / HAL Laboratory, Inc. KB25-11431
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