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浪速ゆうさん書き下ろし!「2分の1フレンズ」スペシャル短編公開中☆
「なりたいアナタにプロデュース。」シリーズで大人気の
浪速ゆうさんの最新作!「2分の1フレンズ」のトクベツなお話を
書き下ろしてくれたよ!!
本には載っていない、碧葉くんに声をかけられる前の真魚ちゃんのことをもっとよく知れる大チャンスだよ!
さらに……9月20日(金)からは、
「2分の1フレンズ① キミと2人で学校生活(再)デビュー!?」の
1冊まるごと公開が始まるよ!!
ぜひ楽しみに待っていてね♪
それじゃあ、スペシャル短編へレッツ・ゴー!
「……ここはパラダイスでしょうか」
思わず心の声をもらしてしまい、すかさずあたりをうかがう。
わたしは桃瀬 真魚。
人見知りで挙動不審、それによって人とのコミュニケーション能力はかいめつ的な、中学に入学したての1年生。
今日は、週末に家族でにぎわうショッピングモールの、すぐ外にある広場へやって来ました。
なんでこんなところにいるのかというと、わたしが好きな『魔導戦士ジュエル』というアニメのイベントが、ここで行われるからなんです。
『魔導戦士ジュエル』っていうのは、幼稚園生〜小学1年生くらいの年れいの子たちに大・人・気!なアニメ。
子どもや保護者の方がワラワラといる中、わたしはぼっち参戦!
なぜなら、周りでこのアニメを好きな人がいないから。
……なんて、本当はわたし、普通の友だちだっていないんですけどね。
コミュ力ゼロな上に、一番のシュミは小さな子たちが見るアニメ鑑賞。
アニメ以外の話はうまくできないし、人と目も合わせられない……だから周りの子とは話が合わなくて、現在友だちゼロ。
ううん、それだけが理由じゃないんだけど……。
思わずスカートのスソをキュッとにぎって、うつむいたらーー。
『みなさまお待たせしましたー! 今から魔導戦士ジュエルのイベントを開催しまーす!』
そんなアナウンスが流れ、思わずハッと顔を上げた。
わっ、わたしとしたことが……今日という日を心待ちにしていたにも関わらず、なぜ下をむいてしまったのでしょうか!
昨日なんて、こうふんしすぎて眠れませんでした‼︎
寝不足の重たいまぶたを押し上げて、ワクワクドキドキとした気持ちに胸をおどらせながら、ステージだけを見つめます!
アナウンスが流れたことによって、人がドドドッとステージ近くに集まってきた。
ショッピングモールの開店よりも早くから、この場にやって来ていたわたしは、すでにセットされていたステージの前列に全力待機!
場所取りはカンペキです!
気合いだって、じゅうぶん!
全てのシーンをこの目におさめます!
……そんな風に思っていたら。
「ママー、見えないよー」
その声は、わたしのすぐ後ろから聞こえた。
ふりむいてみると、そこには小さな女の子が、ママさんと手をつないでる。
思わず背中を丸めて、体を縮める。
必死になって体を小さくしていると、急にグンッと、スカートを引っ張られた。
おどろいて、引っ張られた右側を見てみると。
「お母さ……!」
笑顔でお母さんって言おうとしてた男の子が、わたしの顔を見たシュンカン、大きく目を見開いて、あわててスカートをはなした。
「す、すみません! なにやってるの、母さんはこっちよ」
男の子のお母さんはすぐにやって来て、頭を下げながらその子の手を引いた。
わたしもあわてて頭を下げる。
「だから手をつないでないと、ダメだって言ったでしょ」
「だってあのお姉さん、大きいのにひとりでいたし……お母さんと似てたんだもん……」
大きいのに、ひとり……。
なんだかグサーと、スルドイものが胸の奥につき刺さりました‼︎
胸をおさえながら、わたしはいてもたってもいられなくなって、その親子に声をかけた。
「あああ、あのっ!」
立ち去ろうとしていた親子が、再びくるりと顔を向けた。
わたしは、すみっこ族の桃瀬 真魚。
すみっこ族とは、人と会話をするのがニガテで、むしろ恐怖さえ感じるので、いつだって部屋のすみっこやはしっこ、目立たない場所で空気になりきるのが特徴だ。
そんなわたしが今だけは、今年の全勇気を総動員して言葉をしぼり出す。
「わっ、わたし、いいい、妹を探しに行かないといけないのでっ!」
――なんて、わたしはひとりっ子なのですが‼︎
だけど中学生にもなったわたしが、こんなところにひとりでいるなんて知られるのは、とてもはずかしい!
たとえ相手が、わたしの知らない人だとしても!
「こ、ここなら、ステージがよく見えますので……でっ、ではっ!」
「えっ! あのっ⁉︎」
引き止めるような声が聞こえるけれど、わたしはビューンと風のように、その場をあとにした。
せっかく朝からならんで待ってたのに。
このイベントを知ってからこの1週間、この日がやってくるのをすごく待ち望んでいたけれど……しかたないですよね。
小さな子たちが楽しめないのなら、お姉さんであるわたしがゆずってあげなくては。
好きな気持ちは同じでも、わたしはあのアニメの対象年れいをとっくにすぎてるのだから。
ステージからはなれた場所、広場のすみっこに立って、イベントを見守る。
イベントがはじまって、ステージ近くに座ってる子どもたちが宝石のようにキラキラとしたまなざしを向けている。
あそこにいるのは、アニメの視聴者であり、対象年れいの子たちだ。
そんな子たちを見てると、胸の奥にグルグルとした感情が生まれる。
……いいなぁ。あの子たちは、同世代のお友だちや、家族と一緒にこのイベントを純粋に楽しめて。
わたしも同じくらいの年れいだった頃は、友だちがいたんですよ……?
なにも考えなくたって友だちができた時代。
それは多分、大人が気をつかって子ども同士を遊ばせてくれたり、親同士が仲良かったり、もしくはわたしのシュミが周りの子たちと同じだったから。
だけどみんな成長していくと、会話がかみ合わなくなっていったんだ。
今はちゃんと考えてから話をしようとしてるのに、うまくいかない。
考えれば考えるほど、からまわってしまう。
思わずしょんぼりして、ふたたび顔が下をいてしまう。
そのことに気づいて、わたしはあわてて顔を上げた。
だっ、だめだよ、真魚!
なんのためにはじをしのんでまで、ここにぼっち参戦したのですかっ!
ここにはたくさんの小さな子たちがいて、自分にはふつり合いな場所だと知っていたはずでしょ‼︎
そう思って、なんとか自分の気持ちを持ち直した。
瞳をキラキラとさせている子どもたちの姿を横目に、わたしもステージに目を向けたんだ。
*
――あっという間に、ショーは幕を閉じた。
ショーを見終えて、ステージの前から人が散り散りにさっていく。
だけどわたしは……こうふん冷めやらぬ、です!
ひかえめに言って、最高のショーでした!
めちゃくちゃおもしろかった‼︎
どんな困難な状況でも、ジュエルはあきらめない。
わたしはそんなジュエルの戦士が大好きなのです!
これからもひっそりこっそりと、応援させていただきます‼︎
……そしていつか、わたしもジュエルの戦士みたいになれたらいいな。
なんて、友だちゼロのわたしには無理だと思いますが……せっ、せめて、来世とか……?
大きな目標を心の中でそっとかかげてしまったことで、ひとりソワソワとしてしまう。
するとそんなわたしをよそに、ステージは撤収作業に入ろうとしているのか、たくさんの裏方スタッフさんが現れた。
それを見て、思わず「ぎゃひぃ!」とひめいを上げてしまう。
あああっ! 待って、待っていただきたい‼︎
このこうふんした気持ちを、せめて写真におさめたいのですっ!
あわててスマホをポケットから取り出し、撤収前のステージをパシャパシャと写真におさめる。
今日のステージは、本編のアニメでは出てこないキャラが登場していた。
本編には出ないとは言っても、ジュエルのキャラ。
当たり前だけど、絵のテイストやセンスがジュエルのキャラで、いつかアニメに出てくるのでは……?
なんて、わたしはひそかにドキドキしております!
ステージもそれに合わせた仕様でめちゃくちゃかわいいのです!
あとでしっかりストーリーの余韻にひたりたいので、いろんな角度からいろんな小物をパシャリ。
……なんて、全集中して写真をとっていると――ドンッ!
って背後で、誰かとぶつかった。
「ゆっ、ゆずはちゃん!」
ぶつかったいきおいで、持っていたスマホの画面におでこを――バチン!なんてぶつけてしまった。
いっ、痛い!
だけどそれよりぶつかった子のことが心配で、ふりかえる。
するとそこには、小学生くらいのふたりが。
「ゆずはちゃん、大丈夫⁉︎」
「うっ、うん」
黄色い髪をした男の子が女の子を支えながら、心配そうに言葉をかけてる。
もう少しで転んでしまうところを、男の子が助けてあげたみたい。
ホッとする気持ちと、もしも女の子が転んでいたらと思うと、サーッと血の気が引いた。
わっ、わたしが、写真をとることに集中しすぎて、周りを見ずに動きまわってたせいだ……。
「大丈……」
男の子に向けて、大丈夫って言おうとした女の子の言葉と、わたしの言葉が重なった。
「すすすすすすっ、すみませんっ‼︎」
ちゃっ、ちゃんと誠意が伝わるように謝らねば!
そう思ったせいなのか、勢いのせいなのか、今度はおでこをひざでぶつけそうになるほど、頭を下げた。
するとね、わたしの脳がぐわんぐわんと揺れたんだ。
人見知りでコミュニケーション能力の低いわたしが、この状況にプチパニック。
そんなわたしの気持ちを、さらに加速させるきっかけになったんだ。
「あっ、あの、その……ジュエルの会場の写真を、撮りまくってたせいで、ぜぜ、前方不注意でしたっ!」
わたしはもう一度、深く頭を下げた。
ちなみにわたしが友だちゼロなのには、同年代の子たちと話が合わない。
ジュエルの超オタクっていうこと以外に、もう一つ大きな理由がある。
それは……テンパると、マシンガンのように言葉を放ちまくるクセのせい。
「あっ、いえ、あたしの方も――」
「あっ! ちっ、ちちち、違う! 違いましたねっ‼︎」
ぎゃひっ! また話すタイミングがかぶってしまいました!
だけど一度話し出したら、止まらない。
いいえ、止めるのが怖い……!
なぜなら、すみっこ族のわたしにとって、無言は地獄だから――‼︎
特に男の子はポカーンとした顔で、わたしを見ている。
しかもよくよく見てみると、この男の子、さっきジュエルのステージに上がってた子だ!
子役なのかな! 確かにカッコいいし、あり得るよね⁉︎
女の子もかわいいし、キラキラしてて……ふたりとも間違いなく――キラキラ族だ‼︎
キラキラ族っていうのは、すみっこ族のわたしとは真逆に位置する種族。
目立つ存在の人気者。コミュ力だって高かったり、人見知りだってしない、まさに彼女たちのこと。
ああ、年下とはいえ、キラキラ族。
ちゃんと話をしなくちゃ……なんて考えると、よけいにわたしの脳がギュルンギュルンと加速する。
「いいい、今、完全にわたしは、かっ、会場に向けて、スマホのカメラをかまえてた状態からの、後ずさりでしたっ! とっ、ということは、前方ではなく、こっ、後方不注意にあたる事件でした!」
ほんのり赤みのある、茶色いセミロングの女の子が、ポカーンとした顔をしてる。
このお姉さんなに言ってんの? なんて、心臓がグサッとする言葉を言われるかもっ!
そう思うと、もう一度口を開こうとした女の子より先に、わたしはさらに話を始めてしまう。
「あっ、あれ? ででっ、でもそれは、どうなんでしょう? 後方不注意には変わりはないですが、そもそもわたしはスマホのカメラを見ていたわけなので……わっ、わき見運転? いいい、いやいや! うっ、運転じゃないですね! 歩いてたわけなので……ええっと、こういう時ってジュエルのダイヤさまなら、なんて言うのかな……?」
「ジュエルの、ダイヤさま……?」
息つぎのタイミングで、女の子がそう言った。
あれ? ダイヤさまのことを知らない……?
はっ、そうか! この子たちはどう見ても小学校高学年。
男の子は子役だからジュエルを知ってるかもしれないけど、女の子はそうじゃないのかも……?
バカ、真魚!
だったらきちんと説明しなくては、話が通じないではないですかっ!
「ああああっ! しっ、失礼いたしました‼︎ ダッ、ダイヤさまっていうのは、『魔導戦士ジュエル』に出てくる、ミステリアスで眉目秀麗な男キャラなんです! はっ! と、ところで、眉目秀麗って言葉を知ってますか⁉︎ 容姿がすごくととのっていて、キレイな人って意味なんです! わっ、わたしはこの言葉を、このアニメで学んだのですが、そういう言葉も知れたり――……」
息をつくひまもなく、ドドドドドッと言葉をはき出し、説明をしていると――ププーッて車のクラクションの音が、どこからともなく聞こえた。
「ヨウー、ゆずはちゃーん。お待たせー!」
その声に反応したふたりは、後方で止まった真っ赤な車に目を向けた。
窓から顔を見せたのは、オシャレな雰囲気でもれなくキラキラ族なママさんだ。
さっきまで頭に熱がのぼって、ドドドッといきおいまかせに話をしてたけど、クラクションの音にそれもどこかにいっちゃった。
わたしが口を閉じたタイミングで、オシャレな女の人にヨウって呼ばれてた男の子がこう言ったんだ。
「あの、すみません。お姉さんもゆずはちゃんもケガがないようですし、母がむかえに来たので、ここで失礼してもいいでしょうか?」
さっきまでポカーンと立ちつくしてたのに、今では満面の笑みだ。
その笑顔はまるで、さっきのショーで見せていたパーフェクトスマイル。
あまりのまぶしさに、思わず。
「……キラキラ族だ」
なんて言葉を、思わずはき出してしまった。
ボソリとつぶやいた小さな声に、すかさず――ゆずはちゃんと呼ばれてた女の子が「えっ?」なんて言って、わたしに視線をもどした。
「ああっ、いっ、いえいえ! なんでもないです! こっちの話ですので!」
ゆずはちゃんとヨウくんは顔を合わせて、小さく首をかしげてる。
ぎゃひぃぃぃ!
ふたりは知らなくて当然です! キラキラ族もすみっこ族も、わたしが作った言葉なのでっ!
さっきはテンパってまくし立てるように話をしてしまった後なので、うまく説明できる自信がありません!
……だったら、ここは逃げるのが一番なのでは⁉︎
「とっ、とにかく! すみませんでしたっ! あの、では、これでっ!」
最後にきちんと頭を下げ、今度は誰にもぶつからないよう、周りをちゃんと確認して――ダッシュです!
ううっ、年下の子とも、ちゃんと会話のできないなんて、なんて情けないのでしょうか。
こんなわたしがジュエルのヒーローのようになるには、来世でも無理かもしれない(涙)
これからもわたしはひっそりこっそり、教室のすみっこでぼっちを極めよう……。
*
――そう思っていたすみっこ族のモブキャラが、まさかの1ヶ月後に。
「でもさ、おれ知らなかったよ。桃瀬さんって話したら、めちゃくちゃ面白いじゃん」
クラスで一番、いいえ、学校一のモテ男子であるキラキラ族の皇くんと仲良くなって。
さらに――。
「おれたち、つき合っちゃわない?」
なんて、まさかの告白までされて……!
「『パチっとハジける炭酸音は〜♪ わたしの心にシンクロ〜♪』この歌、ジュエルファンの桃瀬さんなら、知ってるよね?」
わたしの弱み(黒歴史)をにぎられて、オドされるだなんて。
こんな展開、一体だれが予想できたでしょうか……(泣)
そうしてはじまった、わたしと皇くんのヒミツの関係。
わたしのコミュ力のレベルアップする手助けをしてくれるって条件つきで、ウソのカップルになった。
(……絶賛、オドされてもいますけど!)
完全な友だちでも、本当のカレカノでもない、どっちつかずの「2分の1」なわたしたち。
ドタバタ(地獄)ライフ――よかったら、のぞいてみてくださいね!
みんな、楽しんでもらえたかな?
実は、このお話を「なりたいアナタにプロデュース。」のゆずはちゃん視点で書いた物語が公開されているよ!
2つあわせて読むとさらに楽しめちゃう!
ぜひこちらも読んでみてね☆
◎書誌情報
![](https://assets.st-note.com/img/1726576376-6pdQP90rYTZIDew5VWmXxjfv.jpg?width=1200)
『2分の1フレンズ① キミと2人で学校生活(再)デビュー!?』
作・浪速ゆう
絵・さくろ
定価:836円(本体760円+税)
ISBN:9784046323095