【2分の1フレンズ】スペシャル短編第2弾!~ニセカップル♡レクチャー編~
浪速ゆうさん最新作『2分の1フレンズ』②巻が発売中!
みんな、もうチェックしてくれたかな?
②巻の発売を記念して、
浪速さんが『2分の1フレンズ』のここでしか読めないお話を
書き下ろしてくれたよ!
(※第1弾はここから読めるよ!)
それでは、お待ちかねのスペシャル短編、スタート!
普段はあまり使われることのない、校舎の、ほこりっぽい空き教室。
この密室空間で、わたしはクラス一、いいえ、学年一のモテ男子とふたりきり。
さらにつややかな黒い髪を揺らしながら、ほほえみのバクダンを投下した。
そんな笑顔を見てしまったわたし――桃瀬 真魚は、バクハツしました!
「んぎゃひぃぃぃーーー‼︎」
さけびながら頭をブンブンふって、ホコリっぽいつくえにつっぷしてしまう。
さらに。
「桃瀬は、今日もかわいいね♡」
お砂糖たっぷりの声で、多くの女の子をとりこにする言葉をはき出したのは皇 碧葉くん。
「ぴぃぎゃあっ‼︎」
無理ですー! 言葉が甘すぎる上に笑顔がキラキラすぎて……ぼっちでコミュニケーション能力ゼロ、人見知りのわたしでは受け止めきれませんー‼︎
「こら、さっきからさけんでばっかりで、ダメじゃん。おれらはつき合ってるんだしさ、笑顔で応えてくれないとでしょ」
皇くんの笑顔に、甘い言葉に、わたしが笑顔で応じるだなんて……レベルが高すぎる‼︎
「つつつ、つき合ってるフリとはいえ、人前でそんなことを言うつもりですか……?」
わたしと皇くんは、契約を交わしたニセモノカップル。
モテすぎて困っている皇くんが、これ以上女の子からアプローチされないために、わたしと恋愛ごっこをすることに。
代わりにわたしは、皇くんのレベルの高いコミュ力とかんさつ眼を利用して、少し遅れての中学デビューを目指しています。
……なんていうのは建前で、わたしは皇くんに弱みをにぎられ、オドされてつき合うことになったのですけどっ‼︎(泣)
「いやいや、かわいいはほめ言葉じゃん。これくらいつき合ってなくても言うでしょ?」
な・ん・と!
こんな甘いささやきを、つき合ってなくても言うなんて……。
「す、皇くんがモテる理由、わかった気がします……」
それと同時に、本当にモテたくないって思ってるのかが疑問になってきました。
すみっこ族のわたしとは真逆の人間――キラキラ族。その代表とも呼べる、パーフェクト男子の皇くん。
(って、すみっこ族もキラキラ族も、わたしが作った言葉なんですけどね)
「安心してよ。おれの場合は桃瀬にしか言わないから」
「ギョヘェッ! それは地獄です‼︎」
シャラララー……なんて、ここがマンガの世界だったなら、そんな効果音が皇くんの背後には描かれていたことでしょう‼︎
少女マンガの一コマだったならときめいたであろうシーンですが、わたしにはまがまがしいドクロが転がる、奈落の底につき落とされる気分です‼︎
「もーもーせー、地獄だなんてひどいでしょ。これは桃瀬とおれの契約関係を続けるためのレッスンなんだからな」
「……すっ、すすす、すみません」
「桃瀬がおれのカップルアピールに過剰反応を見せるからさ、こうしてコミュニケーションのレクチャーの他に、カップルレクチャーもはじめてみたけど……まだまだ先は長そうだな」
ふーむ、なんて腕を組みながら考え込んだ皇くん。
なんだか本当に、すみません……。
一生懸命あの手この手を考えてくれてるだけに、申し訳ない気持ちです。
「まぁ、桃瀬の耳がなれるまで、アピールしていくしかないか」
……それは新手のイジメですか?
「み、耳がなれるまでっていうのは、どれくらい……?」
「それは桃瀬しだいじゃない? でもさ、英語の勉強でも言うじゃん。あびるように言葉を聞き続けてたら、耳がなれてくるんだって。そしたら自然と言葉が出るようになるっていうのと同じでしょ」
あびるように聞き続ける……それはなに地獄と呼ぶのですか?
皇くんはそう言ったあとに、なにかを思いついたらしく、ポンと手をたたいた。
「おれのことを桃瀬の好きなキャラ――ダイヤってやつだと思ってくれたら良いんじゃない?」
ノドに引っかかった小骨でも取れたみたいに、皇くんはスッキリした顔で笑った。
だけどわたしは全く腑に落ちない。
「えっ、正気ですか? ダイヤさまは世界にひとりです。皇くんは違うよね?」
さっきまでのオドオドしてた感情と頭が、一気に冷えわたる。
「……普段の会話はテンパったり言葉につまるのにさ、なんでそこだけはっきりと話せるんだよ」
わたしは自他ともに認めるオタク。
特に『魔導戦士ジュエル』という幼稚園〜小学校1年生くらいまでの子たちに人気のアニメが大好きなんです。
そのこともあって、同級生とは話が合わなくて孤立してますが!
でもそれくらい好きなアニメの、さらにわたしの推しキャラ『ダイヤ』さま!
公園にでも遊びに行こう、ってさそうみたいな軽いノリで、自分をそのキャラだと思えだなんて――断固拒否です!
そもそも皇くんでは、ダイヤさまとは全く似ても似つかない。
皇くんはクラスの、いいえ、学年一の人気者。
表舞台に立つような、キラキラ族で光の戦士。
だけどダイヤさまは、ミステリアスで、クールな影のヒーローなので。
コインの表と裏のように、キャラがそもそも違います。
「耳をならしていくのは時間がかかるよな……よし! だったら今日は、別のレクチャーをしよう」
ポンッと手をたたき、皇くんは再びキラキラ族のキラキラパワーを放出させた満面の笑みで、こう言った。
「今からおれが言うことを、復唱して」
「はっ、はい」
わたしはドキドキしながら、次の言葉を待つ。
「皇くんはすごく、優しい」
……ん?
「はい、復唱!」
皇くんがパンッと手をたたいた音を聞いて、わたしはあわてて言葉をくり返す。
「すすす、皇くんは、すごくややっ、優しい……?」
……って、わたしはいったい、なにを言わされているのでしょうか?
「疑問系はダメだろ。ってかおれ、桃瀬から見てそんなに優しくないの?」
「いっ、いえ、そういうわけでは……ただ、なんでこんなことを言わされてるのかが、気になって」
これではまるで、自分のことがすごく好きな人みたいでは……。
い、いえ、自分のことが好きなんてすごく良いことだと思うんですけど、なんていうか、同じ意見を求められてるから違和感を感じるというか……。
「桃瀬はこないだ、クラスの女子におれの好きなところはどこ?って聞かれてさ、なんて答えたっけ?」
「……耳たぶ」
ぎゃひっ! 桃瀬センサー発動です!
皇くんはにっこりと笑ってるのに、ズモモモモ……なんて黒々しいオーラをキャッチして、恐怖にプルプルとふるえてしまいます!
その黒い空気は、怒ってるの⁉︎
変な回答をしたことに対する、思い出し怒りですよねっ⁉︎
彼女役失格で、すみません‼︎
「やっ、やっぱり、わたしに皇くんの彼女役は荷が重すぎると思う」
「まぁ、次はそんな答え方をしないためにも、今のうちに色んなシチュエーションの質問を考えて、その答えを用意しておこう。さらに桃瀬の場合は、練習も必要だから毎日の特訓……がんばろうな♡」
「ぴぎゃっ!」
光の戦士の皇くんが、ウインクつきで投げキッスをしてきました!
すみっこ族の桃瀬真魚、飛んでくるハート(投げキッス)をあわててよけます!
だけど皇くんは、めげませんっ!
「安心して。そんなさけび声もあげなくなるほど、桃瀬をパーフェクトなおれの彼女役に仕上げるから」
……それは、中学生活の3年で足りるのでしょうか?
パーフェクトな彼女役になりきれる未来が全く見えないのは、わたしだけ?
「でも、おれの彼女役をカンペキにできるようになった時はさ、桃瀬はもうすみっこ族じゃないかもな」
「えっ?」
さっきまで黒い笑顔を向けていた皇くんから、毒気が抜けた。
さわやかな優しい笑みを浮かべて、こう言ったんだ。
「おれの彼女役をこなしてる地点で、桃瀬はコミュニケーションの達人じゃん。ぼっちでもなくなってるだろうしさ」
「たっ、達人⁉︎ さらにぼっちも卒業⁉︎⁉︎」
すみっこ族のぼっちから――レベルアップがすぎますね‼︎
本当にそんな未来が来るのかな?
わたしは一生ぼっちですみっこ族だと思ってた。
生まれ変わって来世にでもいかないと、きっと状況は変わらないんだって、そう思ってたのに……。
「でもおれ、今の桃瀬もおもしろくて良いと思うよ」
皇くんは当たり前のようにそう言って、真っ直ぐわたしを見つめる。
人見知りのわたしは、それを受け止めることができなくて、あわてて視線をそらした。
彼はいつだってまぶしい。
「だけどさ、おれだけがそう思っててもダメだろうから、一緒に同じように思ってくれる人を早く作ろうな」
わたしのいる場所は、いつだって息苦しい。
学校の中、街を歩いていてもそう。
人と関わると、いつもうまくいかない。
だけどひとりでいたいわけでも、ひとりが好きなわけでもないんだ。
そんなわたしの気持ちをくんで、皇くんは優しい言葉をかけてくれる。
スパルタな皇くんのレクチャーは、レベルの低いわたしには大変なことばかりだけど――それでもわたしは、皇くんといると呼吸がしやすくなるんだ。
これは皇くんの魔法なのかな?
光の戦士、皇くんの、光の魔法。
「桃瀬ががんばっておれの彼女役になりきってくれるんだから、おれだって本気で桃瀬ののぞむ未来を見せてあげるよ」
わたしですら想像すらできない、わたしののぞむ未来。
それを見せてくれようとする皇くんは、やっぱりすごい。
「あっ、ありがとう。わたし、がんばるね……!」
精いっぱいそう言うと、皇くんはわたがしのように、甘く、優しく、ふわりと笑った。
「ああ、一緒にがんばろう」
差し出された皇くんの手。
わたしの中学生活が始まって、まだ1ヶ月。
学校生活を再デビューするため。
わたしはおずおずとその手をにぎり返して、決意を新たにしたんだ。
――桃瀬真魚、もう一度、がんばります。
たのしんでもらえたかな?
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