【先行ためし読み!】2分の1フレンズ②
☆.。.:・゜☆.。.:・゜☆.。.:・゜☆.。.:・゜
おれは桃瀬を選んで、桃瀬もおれと一緒にいることを選んだ。
だったら、おれらは運命共同体じゃん。
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11月13日(水)発売の『2分の1フレンズ②』が
どこよりも早く、大増量でためし読みできちゃうよ!
①巻の終わりで出てきたあの人は――!?
気になる②巻にレッツ・ゴー!
◆人物紹介◆
1 現実世界に、ダイヤさま!?【11月1日更新!】
人気のない校舎裏で、ベンチに座る男の子。
目立たない、なんてことない場所。
それなのに舞台のスポットライトが当たったかのように、存在感を見せてる。
どうしてわたしは、彼の存在に今まで気づかなかったのでしょう。
彼は、わたしの大好きなキャラ『ダイヤ』さま!
「うう……わたくし、桃瀬真魚はファン失格です」
「ファン失格の前に、おれの彼女役として失格じゃない?」
背後からニュッと顔を出したのは、キラキラ族の王さま、皇碧葉くん!
「ぎゃー! びっ、びっくりした!」
キラキラ族は、急に現れないでいただきたい! 心臓に悪いから!!
ちなみにキラキラ族っていうのは、皇くんみたいに人当たりもよくて人気者。
コミュニケーション能力だって高い――すみっこ族のわたしとは真逆の種族。
すみっこ族とは、人見知りで、コミュ力が低い人のこと。
そんなキラキラ族の彼が、わたしの彼氏なのです。
――って、ぎょえええええ!
自分で自分のセリフに思わずさけびそうになっちゃった!!
それもそのはず、わたしたちは本物のカップルじゃない。
ギブ・アンド・テイクが一致しただけの関係だ。
「すすす、皇くん! なぜこんなところに!?」
にっこりと微笑むキラキラ族。
「うまく隠れてるつもりだろうけど、上からは丸見えだからな」
スッと長い指でさし示したのは、わたしのすぐ真隣にある校舎。
「っていうか、桃瀬こそ、なんでこんなところで隠れてんの?」
皇くんは笑ってるのに、なぜだか背筋が凍りそうな冷気を感じる!
これは一体、どういう魔法なの?
「あの、その、こっこれには訳が……」
「ふぅーん。あ、そっか」
皇くんは、茂みの向こうに見えるダイヤさまに目を向けた。
「桃瀬は『魔導戦士ジュエル』の大ファンだもんな」
『魔導戦士ジュエル』というのは、わたしがどハマリしているアニメ。
幼稚園~小学1年生くらいまでの子に大人気なんだ。
「あそこにいるアイツ、桃瀬の好きなキャラにそっくりなんだろ?」
「そっ、そっくりどころか、本物です!」
ジュエルに出てくる、ミステリアス男戦士『ダイヤ』さま。
その整ったお顔はもちろん。
髪型や髪色、目の下にあるほくろまで――完全一致!
「あの方がダイヤさまじゃないというのなら、誰がダイヤさまだというのですか!?」
「いや、知らねーわ」
さっきまではかろうじて、笑ってくれていた皇くん!
今ではズモモモモ……なんて、暗黒のオーラを感じます!!
さらに皇くんは、わたしのほおをつかんで、みょーんと引き伸ばした。
「ってかさ、おれという彼氏がいるのに、他の男をのぞき見? 正気なの?」
「ふっ、ふみまへん!」
「知ってる? こういうのって、世の中ではウワキって呼ぶんだぞ」
「たっ、ただ見てるだけなのに!? つき合ってるわけじゃないのに!?」
「つき合ってたら完全にアウトだろ。でもこうやって見つめてるのもダメだな」
な・ん・とっ!!
「だってさ、好きな気持ちがあって見てるわけだろ? 心のウワキはもっとタチが悪いじゃん」
心のウワキっ!? なんてパワーワード!!
「じゃ、じゃあ、わたしはもう、推し活すらしてはいけないの!?」
皇くんの手が離れたと同時に、言葉が口をついて出てきた。
「リアルじゃなければいいよ。ってことで、スクールメイトはやめてよね」
ガビーン!!
「そ、そんな……それはわたしに、切腹せよという意味なの?」
「全然、違げーわ」
目の前にダイヤさまがいるのに推せないなんて、生命の危機を感じます……。
「桃瀬にはさ、アイツに負けないほどのイケメンが、すぐそばにいるじゃん」
言いながら、親指で自分を指してる。
自分で自分をイケメンなんて言っちゃうところが、キラキラ族ですね!
「おれのことを推せばよくない? イケメンで彼氏って、最強じゃん」
なんということでしょう~!!
「皇くんはなにもわかってない! こ、これだからクラスの人気者で、学年一のモテ男子で、常にキンキラまばゆいキラキラ族のトップで、コミュ力もある非オタクはっ!」
「……おれ、ほめられてるの? それとも、けなされてるの?」
判断に困った顔で、皇くんはほおをポリポリと掻いた。
「とにかく、人から推せと言われてそうできるほど、簡単な話じゃないんです!」
オタクレベル0のキラキラ族の皇くんは、わたしの心理をなにひとつわかってない!
こうふんしたわたしは、思わずガバッと立ち上がった。
だけど頭に血がのぼったせいか、思わず体がよろめいてしまう。
背後には茂み。わたしの体は、そこに飲み込まれるように倒れて――ポフッ。
…………ん? ポフッ?
「こんなところで、なにしてるの?」
頭のすぐ上から聞こえる声に合わせて、視線を向ける。
するとそこには――ダイヤさま!?
「○×◇@△!!」
いいいい、一体、いつの間にっ!
というか、近い! お顔が、存在が、わたしのすぐそばにっ!!
しかもわたしの体を受け止めてくれている!?
「桃瀬を助けてくれて、ありがとう」
皇くんは言いながら、わたしの腕を引っ張った。
「ふたりきりになりたくてウロウロしてたら、桃瀬が足をひねってよろめいたんだ」
なっ? って問いかけてくる皇くんの笑顔が、いつにも増して、キラキラしてる。
皇くんのニセカップルスイッチが入りました。
「ふたりきり? なんで?」
ダイヤさまのクールな表情が、一瞬だけ険しくなったように見えた。
「それに、桃瀬さんは怖がってるように見えるけど?」
…………あれ?
思わずシパパパパパッと、複数回まばたきしてしまう。
気のせいでしょうか。
今、ダイヤさまの口から、『桃瀬さん』なんて言葉が聞こえた気がしますが……?
「怖がってるんじゃなくて、テレてるだけだよな? おれら、つき合ってるし」
その問いかけに、ハッと我に返る。
思わずブンブンブンと頭をふって、ニセカップルストーリーに参戦だ。
だけど、ダイヤさまの様子が、どうもおかしい。
「……つき、合ってる?」
わたしのコミュ力はマイナスだけど、顔色をうかがう能力には優れてる。
だからこそ、表情がほとんど変わらないダイヤさまの、違和感に気がついた。
「いつから?」
「いつからって……こないだの遠足より前だから、もうすぐ2ヶ月くらい?」
ダイヤさまの長いまつ毛が、ピクピクッて小刻みに揺れた。
「そっか。そうだったんだ」
マジマジと見つめてくるダイヤさまに、わたしは思わず息を止めてしまう。
「ふたりの邪魔をして、悪かったね」
表情の読めないダイヤさま。
そんなダイヤさまが、ほんのり目を伏せた様子に、思わずわたしの胸がうずく。
アニメのジュエルで、ダイヤさまがそういう顔をする時はなにかしら悲しみを抱えてた。
だからわたしは。
「あああ、あのっ!」
ちょうど彼が背中を向けたシュンカン、思わず声をかけてしまった。
ダイヤさまのさっきの表情を見たら、なんだか放っておけなくて。
だっ、だけど、なにを話はなせば……!
落ち着くんだ真魚!
こういう時こそ、前に皇くんからしてもらったレクチャーの出番じゃないか。
ふーって、大きく深呼吸をして、気持ちを整える。
そのおかげで、すこし頭が冷静になった気がする。
目を直接は見られないから、眉と眉の間に視線を向ける。
それから、さっきからずっと気になってたことを口にした。
「えええっと、その……わたしのこと、知ってるのですか?」
ドキドキドキドキ。思わず高鳴る胸の鼓動。
さっき、ダイヤさまはわたしを『桃瀬さん』って呼んだ。
99%、聞き間違いの可能性が高い。
だけど妄想じゃない1%に、わたしはかけてみたい。
そう思ってくちびるを引き結んだら。
「…… 知ってるよ。B組の桃瀬真魚さん、でしょ?」
言葉とともに、口の端をほんの少し引き上げた小さな笑顔。
――ズキューン!!
思わず両手で心臓のある左胸を押さえる。
わたしは知っている……ダイヤさまは基本、ポーカーフェイス。
笑顔はあまり見せないだけに、あれは間違いなくダイヤさま流の満面の笑み!
というか、ダイヤさまがわたしのことを知っていました!!
それがなにより、ショウゲキ的です!!
「桃瀬、胸がどうしたんだ? 痛いのか?」
押さえっぱなしだった胸から手を下ろすと、皇くんがわたしの右手を取った。
「病気かもしれないし、休み時間が終わる前に、保健室に行こう」
ええっ、違います! 大丈夫です!!
そう伝えようとしたんだけど、皇くんが心配そうに眉毛のはしっこを下げた。
けれどわたしにだけ見えるように、声を出さずに口をパクパクさせて――。
ウワキ者
ぎゃひー! うち抜かれた心に気づかれてました!!
「ってことで、悪いな。おれは桃瀬を連れて保健室に行くよ」
皇くんはわたしの手を引いて、ズンズンと歩き出した。
引っ張られながら一度だけ、ふり返かえる。
するとダイヤさまはまた、どこか悲しそうにわたしたちを見つめていたんだ――。
2 夢で見たお姫さま抱っこ【11月5日更新!】
放課後になると、今日はバスケ部の助っ人を頼まれてると言って、先に教室を出た皇くん。
足を気づかってか、最近は皇くんが一緒に下校してくれてたから、なんだか新鮮かも。
校門を出ようとしたところで、どこからともなく鳴き声が聞こえて、足を止めた。
すると少し離れた先にある木の上には、ネコが!
あのブチ柄は、ダイヤさまのそばにいたネコちゃんではっ!?
しかもミャーミャーと鳴く姿は、どうやら木から降りられなくなった様子。
桃瀬真魚、またの名をジュエルの戦士『ローズクォーツ』!
わたしは制服のリボンにつけてる、『ジュエル』のバッジを握りしめ――いざっ!
「さぁ、おいで! わたしが受け止めてあげるから!」
そう言うと、「ニャァァァァ!」なんて、さっきよりも激しく鳴いている。
さらに、ネコちゃんのしっぽが、直立するように逆立った。
……どっ、どうやらわたしは、警戒されているようです。
「あああ、安心して! わたしはキミの味方です!」
そう言って、両手を広げて見せると……。
「……フニャーン」
ネコちゃんの逆立っていたしっぽがたれ下がり、わたし目がけてジャンプ。
警戒がとけたことのよろこびで、わたしのほおがゆるんだタイミングだった。
「あぶない!」
そんな声が背後から聞こえた。
だけどわたしは、ネコちゃんを抱きとめてあげることに、全集中!
……って、あれ?
ネコちゃんの体は、わたしの胸の中――ではなく、頭上?
「あいたっ!」
ゲシッとわたしの頭を足蹴にし、再びピョーンとジャンプ。
その衝撃におどろいて、前かがみで倒れてしまう!
こっ、今度こそ、転んじゃうっ!!
そう思ったタイミングで、背後からガシッと誰かの腕が。
「…………大丈夫?」
まるでそよいだ風で葉がこすれ合うような、耳当たりの良い声。
この声は、まさかまさかまさかの――!
「ダッ、ダイヤさま!!」
ぐりんと顔だけふり返り、背後に立つ人物に目を向ける。
やっぱり、わたしを助けてくださったのは、あのダイヤさまだった……!
しかも、本日二度目!!
ここは現実ですか? 夢ですか? アニメの世界の中ですか?
おどろきすぎて、腕を離されたタイミングで、へにゃりとその場に座り込んでしまう。
「大丈夫? ケガしちゃった?」
わたしはブンブンと風を切るように、首を左右にふる。
そんな様子を見ながら、わたしの視線に合わせるように、ダイヤさまがしゃがみ込んだ。
「このネコを助けようとしてくれたんだよね?」
わたしの頭を蹴った、ネコちゃん。
そのネコちゃんが、ダイヤさまの肩の上でゴロゴロと、のどを鳴らしている。
この差は、なんなのでしょうか……悲しい……。
「遠くから見えたんだけど、来るのが一歩遅かったみたい。ごめん」
全然悪くないダイヤさまが、頭を下げてくれている。
「そっ、そのネコちゃんは、ダイヤさまの……?」
下がった頭が再び上がり、わたしと目が合いそうになったシュンカン、すかさずわたしは目をそらす。
「ううん、違うよ。この子は学校の近くに暮らしてるみたい。名前がないと呼びづらいから、ぼくはミケって呼んでるんだ」
ミケネコだからミケちゃん、かな? かわいい。
「……そっか。野良ネコちゃんでしたか」
首輪がついてないから、きっとそうだよね?
「ちゃんとご飯は食べてますか? お腹空かせてないですか?」
なんて言いながらミケちゃんに触れようとしたら、再びフギャ! と鳴かれました。
思わずブルブルと震えながら、手を引っ込めちゃう。
動物とも仲良くできない、桃瀬真魚。悲しい……。
「やっぱり桃瀬さんは、優しいよね」
ボソリとつぶやいた言葉が、よく聞こえなくて首をかしげてしまう。
そんなわたしを見て、ダイヤさまは目元もとをほんのりゆるめて、笑った。
――ぎゃひぃぃぃぃ!
思わず両手で顔を隠してしまう。
至近キョリで見る、ミステリアス男子、ダイヤさまの笑顔はプライスレス!
その笑顔、心の中に永久保存です!
「桃瀬さん、立てる?」
し、しまった! はしたなく、地面に座りっぱなしでした!
「あっ、だ、大丈夫――」
言いながら立ちあがろうとしたけど……あれ?
たっ、立てない。足、腰? に、力が入らない。
「やっぱりケガしたの? そういえば〝こないだ〟まで、松葉杖をついてたよね?」
ダイヤさまはわたしの足に、目を向けてる。
ケガはしてないし、もう足はなんともない。
だけどそのことを否定しそこねてしまった。
そもそもなんでダイヤさまが、わたしがケガしてたことを知ってるんだろう?
そんな疑問と、どうやって返事をするべきかで悩んでいる間。
ダイヤさまの両手がわたしに伸びてきて――体が宙に浮いた。
「ぴゃいぃぃー!!」
ダイヤさまにお姫さま抱っこをされています!?
待て待て、真魚。
このシチュエーションであれば、何度も出くわしたことがあるでしょ。
夜、ふかふかのベッドの中で見た――夢で!
ということは、これは夢だ。
ダイヤさまのうるわしいお顔に触ろうとしたら、きっと目が覚めるはず。
――ペタリ。
手のひらに広がる、温かな体温。
この鼻の高さといい、指に触れるサラサラな髪といい、リアルだ。
「桃瀬、さん……?」
表情があまり変わらないけれど、ダイヤさまの淡い緑色をした瞳が、ほんのり揺らいだ。
そんな表情を、この至近距離で見てしまったわたしは――脳内爆弾がパーンとハレツした。
「すっ、すすす、すみませんんんっ! わたしみたいな凡人がダイヤさまのお顔に!? 成績だって中の下、体育は下の下、教室の隅に生息するすみっこ族のくせに、なんということを!! どっ、土下座しておわびを……って、ぎゃひっ! 地面が遠くて手が届とどきませんっ!!」
「桃瀬さん、あの――」
「かっ、かくなる上は、エエエ、エアー土下座でも? いやいや、エアー土下座はなんちゃって土下座なので、もっと失礼かも!? たっ正しい土下座は確か三つ指を立てて、人差し指、中指、親指が地面につくように……って、それはていねいなあいさつの仕方でした!!」
たとえるならば、京都の芸者さんや舞妓さん。
そういう人たちが、お客さまをもてなすようなあいさつがそれだ。
前にテレビで聞いた内容を思い返してると、おどろいたようにパチパチとまばたきを繰り返してるダイヤさまが目にとまる。
そのお顔を見て再びさけびそうになったのを、必死にこらえて――って、待って。
さっきダイヤさまがなにか言おうとしたのを、途中でさえぎっちゃったような……?
ついこないだ、皇くんのレクチャーで学んだこと。
――『先に話し出した人がいたら、その人の話を最後まで聞く。自分が話すのはその後だ』
って、言われてたのに!!
どどど、どうしようっ!
ここはダイヤさまがもう一度話してくれるのを、待ってみる?
チラリと視線を向けてみるけど、ダイヤさまはわたしに向けて小首をかしげただけだった。
タッ、タイミングを逃してしまった気がします!
待つって、いつまで!?
なん分なん秒なんミリ秒――地球がどれくらい廻ったタイミングッ!?
再び脳内爆弾が爆発するカウントがはじまった、そんなタイミングで、
「……桃瀬さんって、すごくおしゃべりだったんだね」
わたしの気持ちを鎮めてくれるような、静かで優しい声が聞こえたんだ。
口元だけをほんのり三日月につりあげた、ダイヤさまの笑顔。
「物知りな桃瀬さんは、すごく知的で……素敵だ」
「そっ、それは誰に対する言葉ですか? ささっ、さっき桃瀬さんという名前が聞こえた気がするのですが、それはどこぞの桃瀬さんですか?」
恐る恐る聞いたら、ダイヤさまは――プハッと声を出して、笑った。
「ぼくの視界と、ぼくの腕の中にいる、桃瀬真魚さんに対する言葉だよ」
――あっ。
意識をしないようにしてたのに、ダイヤさまのこの一言で、わたしの中にある羞恥心という波が、ザブンザブンと押し寄せてきた。
さらにダイヤさまが声をあげて笑うシーンなんて、ジュエルでも見たことがない!
そのせいで思わず顔を上げてみたら、ダイヤさまとガッチリ目が合ってしまいました!!
しかも、こんな超近いキョリで!?
「にゃひぃぃぃぃぃ!!」
恥ずかしさから、さけびながら手足をバタバタしていた――そんな時だった。
「ねぇ、何してんの?」
この黒いキラキラは。
そして、聞き覚えがありまくりの、この声は。
「すっ、皇くん……?」
光の戦士、皇くんはバスケ部のユニフォーム姿で現れた。
彼の表情を見たシュンカンに脳裏をよぎったのは、この一言。
――光の戦士が、闇堕ちした……。
3 キラキラ族の、闇堕ち…?【11月8日更新!】
「どういう状況か、説明してくれる?」
皇くんが怒っている。
笑顔で怒りを表現するスキルが、再び発動しております!
「ああああ、あのね、話せばものすごーく長いお話なんだけど……」
「ものすごーく長いお話を聞く余裕はなさそうだから、手短に教えてよ」
……わたしの周りだけ、重力異常が発生している。
空気が重いです!
いやいやこれはきっと、皇くんの闇魔法の力に違いない!
「カン違いしないで。桃瀬さんがケガをしたから、保健室に運ぼうとしてたんだ」
その言葉を聞いて、皇くんは重力魔法を解きつつ、サッと顔色を変えた。
「……ケガ? それって、こないだのねんざのこと?」
心配そうな声色で、わたしの足首に視線せんを向けてる。
「あっ、あの、足は大丈夫です……足というか、腰がぬけただけと言いますか……」
皇くんはあせった表情を引っ込めて「はぁ~」と、深いため息をついた。
「なんだ、めちゃくちゃ心配したじゃん。おどろかせないでよ」
皇くんはいつだって、本気でわたしのことを心配してくれるんだ。
そんな様子に、わたしは胸の奥おくがくすぐったい気持ちになる。
「なんで腰がぬけたのかは保健室に向かいながら、じっくり聞かせてもらうとして……」
うひっ!
プルプルふるえそうになる体を必死に抑えるわたしに、皇くんは両手を差し出した。
「おいで、桃瀬」
そのポーズとその言葉――一体どういう意味の〝おいで〟ですか……?
皇くんもわたしをお姫さま抱っこするって意味なの? 正気なの!?
「事情も知らずにかみついて悪かったな。おれが桃瀬を保健室に連れて行くよ」
皇くんが、今度は光の魔法を最大出力で放ってる!
キラキラとしたまぶしさがハンパない!
その光の魔法は、誰に対する攻撃ですか!?
ひとりで歩けるからって言おうとしたんだけど、その前にダイヤさまがこう言った。
「いや、いいよ。ぼくが桃瀬さんを連れて行くから」
さらに皇くんから距離を取るように、一歩下がりながら。
――ピキッ。
いっ、今、皇くんの美しいお顔にヒビが入ったように見えたのは、わたしだけ……?
「でも桃瀬は、おれの彼女なんだ。だからおれが連れて行く」
皇くんが再び手を差し出したけど、ダイヤさまは身をひるがえして拒否をする。
「見たところ、部活中だったんじゃないの? この時間ならまだ終わってないでしょ」
はっ、そういえば、皇くんはバスケ部のユニフォームを着ている。
「大丈夫。おれは助っ人だし、今日は軽いウォーミングアップだけで良いから」
な、なんだかわからないけど、みなさん、わたしは荷物ではありません。
そもそも、カッコいい男の子にお姫さま抱っこされるシーン。
マンガだったらドキドキ、胸キュンするのでは?
どうしてわたしの場合は、歯がガチガチ鳴るほどおびえるシーンになるの?
これって、抱っこされる対象が、ヒロインかモブキャラかの違い?
「あっ、あのぉ、わたしはもう歩けま――ぎゃひっ!」
思わずさけんでしまった!
だってうるわしい皇くんのお顔が、突然般若に変わったのだから!!
「いや、まだ歩けないでしょ? 歩けるんだったらさ、いつまでも知らない男子に、お姫さま抱っこなんてされてるはずないもんね?」
ガチガチガチガチ!
皇くんの言葉と笑顔に、わたしの奥歯がさらなる音を立ててしまいます!!
「だからほら、おいで。おれが歌でも歌いたい気分になる前に」
「んぎゃっ!」
歌っていうのはまさか、わたしの黒歴史であるアレですか!?
オドされた桃瀬真魚は、慌てて皇くんに手を伸ばし、抱っこされるハメに。
……なにこの地獄?
恥ずかしさから火をふいて、燃えつきそうです!
皇くんが満足そうな顔をしている横で、ダイヤさまは空いた両手を見つめてる。
「ダッ、ダイヤさま……!」
以前皇くんに教わったように、ダイヤさまの眉と眉の間に視線を向けた。
これは、相手にわたしと目が合ってると錯覚させるテクニック。
「さっきは助けてくれて、ありがとうございました」
そう言った後あとにペコリと頭を下げると、ダイヤさまはまた口元をほころばせた。
「……翔真」
えっ?
「ぼくの名前、黄野翔真っていうんだ」
ええっ!?
「だから次からはダイヤじゃなくて、名前で呼んでもらえるとうれしいな」
とっ、ということは、ダイヤさまではないのですか?
こんなにそっくりなのに?
「だってさ。ダイヤさまじゃなくて、残念だったな♪」
なぜだか、皇くんはうれしそう。
反対に、わたしは地獄の底につき落とされた気分です。
「ちなみにぼく、桃瀬さんと同じ1年だから、気軽に接してくれるとうれしい」
そう言った後、わたしたちに背を向けて歩き出したダイヤさまこと黄野さん。
しょんぼりしているわたしに、黄野さんがクルリと顔だけふり返った。
「……助けたからって、カン違いするな。ぼくはキミの味方だとは限らない」
「…………はっ?」
いただきました。キラキラ族皇くんの全力の「はっ?」って言葉。
だけどわたしは皇くんの反応なんて、どーでもいいのです!
だって、それは! その決めゼリフは!!
「ダッ、ダイ――」
思わずさけびそうになったわたしに、黄野さんはほんのり口元に笑みを乗せた。
ナイショだよ、とでも言いたげに、その薄いくちびるに人差し指をそえて。
「やっぱり彼は、本物だったんだ……」
はっ、そうか! ダイヤさまはミステリアスなお方。
正体がバレてしまったら、どんな事件に巻き込まれるかわからない。
バカ真魚! どうしてそのことに気づかなかったのっ!?
「イチオシキャラであるダイヤさまを、水槽に付着するコケ、フライパンのコゲ、部屋の四隅にたまるホコリの様ようなすみっこ族のわたしが、危険にさらそうとするなんて!」
「こら、桃瀬。戻ってこい」
皇くんの言葉に、わたしはハッと顔を上げた。
するとわたしは至近距離で、キラキラ族の神がかったお顔を見てしまった。
「ぎゃひ―――!!」
そうだわたしは、皇くんにお姫さま抱っこをされたままだった!!
「今のさけびに対して、色々言たいところだけど……」
皇くんは不満をあらわにした顔で、さらにこう言ったんだ。
「それ以外にも聞かないといけないことが、たんまりとあるもんな?」
うぎゃっ! 皇くんの闇魔法、再び発動!!
そんなドスの利いた声で、笑わないでっ!!
黄野さんがダイヤさまだと知った時のこうふんと、よろこび。
それらが全て、闇魔法によって一蹴された。
にっ、逃に げなければ!
「ちなみに、逃げられるなんて思うなよ?」
こここっ、心が読まれました!!
今日も皇くんのかんさつ眼が、さえ渡っている!
そもそも皇くんに抱っこされてる時点で、わたしに逃げ道はなかった!
「保健室に向かいながら、ゆーっくりと説明してもらうからな?」
保健室の入り口は、地獄の入り口。
わたしは今、地獄に向かって歩き出した。
…………いえ、歩いてるのは皇くんなんですけどね。
4 校内新聞【11月12日更新!】
「あそこあそこ、あのピンク頭の子」
その声を聞いて、思わずわたしは、両手で頭をおおった。
そんなことをしても、わたしの頭を隠すことはできないんだけど。
どうにか人の目をさけようと走り出そうとしたのに、声をかけられてしまった。
「ねぇちょっと、話いいかな?」
「はっ、はいぃぃ!」
皇くんのコミュ力アップのレクチャーを受けているとはいえ、突然話しかけられると、やっぱり緊張してテンパってしまいます!
「この写真の子って、あなただよね?」
女の子が手にしているのは、この学校の校内新聞!
見出しの下に、堂々と載っている2枚の写真。
そしてその見出しは――。
ひぃええええっ!
いつの間に撮られてたのか、わたしを抱っこする皇くんと黄野さん。
この新聞は校内の掲示板に貼られている。
新聞には目元に黒い棒線がかけられてるけど……それでは皇くんたちのキラキラ具合も、わたしの根暗なオタク具合も、全く隠れてない!!
さらにそれを写真におさめて、人づてに拡散されてる様子!
こんな目立ち方をするなんて、すみっこ族のわたしには地獄!!
今朝からこのことで、わたしは後ろ指をさされ、コソコソ話をされる対象に!
「あの、じっ、実は……」
「っていうか、桃瀬さんが皇とつき合ってるっていうのもショックだけど、さらに黄野くんまで? どういう魔法を使ったらそうなんの?」
………… 魔法?
「わかるー! 魔法でもないと無理じゃん? 皇くんはまだしも、黄野くんって孤高っていうかさ、話しかけてもすぐ会話終わらせられちゃうし、気づいたらいつもどっか行っちゃ――」
「あああ、あの! わっ、わたし、桃瀬真魚は、魔法なんて使えるような人間ではありません! 今まで何度も魔法が使えないかと、能力確認&トレーニングを繰り返しましたが、そんな特別な力などないモブキャラですので……!」
思わずグッとにぎりこぶしを作り、さらに力説。
「たとえば、レーザービームが出せないかとこっそり湯船に浸かりながら試してみたり、空を飛ぶのを体感してみたくて、幽体離脱を試みようと、寝る前に超集中してみたり、あとは――」
「お風呂場でレーザービームを試すのは、さすがにやばくない~?」
ギュルギュルと脳が高速回転をはじめていた中、真逆をいくようにゆっくりとゆるーい声が、背後から聞こえた。
その声を聞いて、わたしはハッとする。
魔法でも~、なんて言葉を聞いたせいで、暴走していた!?
「ちょっと翠、ツッコむところはそこ?」
もうひとりの声が聞こえて、わたしはゆっくりとふり返る。
するとそこには、隣のクラスのキラキラ族、鈴川翠さんと白石梨乃さんが。
「えー? だってお風呂場でって、素っ裸でビーム出すの? なんかあぶないじゃん」
たっ、確かにそうですね!
魔法が使えなくて良かったって、初めて思った出来事でした!
「いや、普通はビームなんか出ないから。それより周り見て、みんな引いてるじゃん」
白石さんの言葉に、わたしは現実に引き戻された。
目の前に立つ女の子たちの表情が、明らかにひきつっている……。
「まぁ、これでわかったでしょ。あの新聞の真相を知りたいんだったら、碧葉か黄野に聞いたら? その方が手っ取り早く答えが得られると思うけど?」
「はぁ? 急に出てきて何その言い方? 白石さんらには関係なくない?」
……あ、やばい。
なんだか、ピリピリした空気が立ち込めてきた。
「そういうあんたたちだって、人のプライベートなことに首突っ込もうとしてるけど、全く関係なくない?」
白石さんと鈴川さんはもちろんだけど、話しかけてきた女の子たちもキラキラ族。
キラキラ族VSキラキラ族の頂上決戦。
これは、どっ、どうやって止めたらいいの……!?
「あたしは関係あるよ~!」
このピリピリとした空気を、ほわほわとしたものに変えるキラキラ族こと、鈴川さん。
鈴川さんがわたしの肩を抱き寄せて、こう言ったんだ。
「だって、あたしたちは友だちだもーん。ねっ、桃瀬っち?」
きっ……きましたぁー!!
公式での友だち宣言!!
どっ、どっ、どうしましょう!
なんて返せばいいのでしょうか!
そうやって考えあぐねている間に「もういいや、行こう」と言って、女の子たちは立ち去った。
そんな彼女たちの後ろ姿を見つめていると――。
「……っで、実際のところ、どうなってんの?」
「えっ?」
「あの校内新聞の話! 碧葉はともかく、黄野のお姫さま抱っこって何!? 碧葉とはどうなってんの!?」
白石さんの水晶玉みたいに、丸くて大きな瞳。
それをふち取る、チョウチョのように羽ばたいた、長いまつ毛。
そんなかわいらしいキラキラ族で、ヒロインキャラな彼女が見せる、とがった目じりと物腰の強い言い方に、わたしは思わず後退ってしまう!!
「ほら、梨乃ちゃんってば言い方怖いんだから。今度は桃瀬っちが梨乃ちゃんに引いてるよ~」
「怖い!? 質問してるだけじゃん!」
「その声、人をオドしてるみたいなんだもん~」
あー、怖い怖い。なんて言ってるわりに、自分のツメを見つめながらにっこり微笑んでる。
ネイル命の鈴川さんはきっと、新しくぬり替えたツメに満足していらっしゃるのでしょう!
どんな状況でも、自分を持ってるキラキラ族!
今日もキラリと光るネイル同様に、鈴川さんはかがやいてます!!
「だいたい人のプライベートなことに首突っ込むな、とかなんとか言ってたのに、梨乃ちゃんこそ、がっつり首を突っ込んでいってるしねぇ?」
「あっ、あたしたちは友だちなんでしょ! だから聞いたっていいのっ!!」
白石さんの顔が、真っ赤にそまる。
それに合わせるように、わたしのほおも一気に熱くなる。
「あー、梨乃ちゃんがテレてる~。梨乃ちゃんって女の子の友だちは、あたし以外にいなかったもんね? 周りからよくぶりっ子って言われちゃってるしぃ」
「友だち、いっ、いないかもしれないけど……それを言うなら翠だってそうじゃん!」
「あたしは~、ネイルが友だちだからいいの」
「はぁ? それ人じゃないじゃん! ってか桃瀬さんは、なんで拍手してんの?」
ひょえっ! 白石さんのジト目を受けて、思わず背筋が伸びた!
「あっ、いえ、その、ふたりがお互いを理解し合ってる感じが、すごく感動的で……!」
「どこが?」
どっ、どこがって、この流れの全部がですが?
「だだだ、だって、お互いをわかり合ってるからこそ、わっ悪く言い合えちゃうんでしょ?」
わたしからしたら、悪口なのでは? ってドギマギしちゃうようなセリフも、実際は悪口じゃないというか。
それはふたりの中での暗黙の了解? みたいな?
気心知れてるからこそ、悪く言ってるだけで、実際はそうじゃないみたいな?
「あのね、桃瀬さん」
白石さんの大きなお目々が、さらにクワッと見開いた。
「親しき仲にも礼儀ありって言うじゃん。翠のセリフは悪口には変わりないんだよ!」
「えー? それを言うなら梨乃ちゃんだって~」
鈴川さんはネイルにフッて息を吹きかけながら、白石さんに異論を唱えた。
「ぐうう……ご、ごめん。すぐキツい言い方して、悪かったと思ってる!」
白石さんがふてくされながら、そう言うと。
「えー、じゃああたしもごめん~。怒らせちゃって?」
「なにそれ! 謝り方がなってない!」
「え~? それを言うなら、梨乃ちゃんだって」
わたしは困ったように、ふたりの間でキョロキョロとしてしまう。
「あっ、あの、今はケンカをしてるの? それとも、仲直りをしてるの……?」
友だちとケンカも仲直りもしたことない、友だち作り初心者マークのわたしには、この状況が判断できません!
そう思って聞いたんだけど、ふたりは顔を見合わせた後――あははって笑ったんだ。
「今のは、仲直りだよ」
「そっ、そう、だったんだ」
言葉は謝ってるけど態度が真逆だから、なかなかの難問でした!
「あたしさ、仲良くなると特になんだけど……よくキツい言葉を言っちゃうんだよね。それで周りを傷つけてしまうから、傷つけたと思ったら謝るようにはしてる」
「梨乃ちゃんの態度じゃ謝りきれてないけど~」
「翠こそ人のこと言える!?」
「あはは、ごめーん」
キッとにらまれて、鈴川さんは相変わらずゆるゆると謝った。
「そんなことより、あの新聞の話なんだけど! 桃瀬さんって本当に碧葉から黄野に乗り換えたとかじゃないよね!?」
そうでした!
「乗り換えるなんて! そんなまさか!!」
なんてバチでも当たりそうな話なのでしょうか!
そもそもわたしと皇くんがつき合ってるのだって、ただのフリなのに!
「新聞部がおもしろおかしく書いてるけど、実際は歩けなくなってた桃瀬を助けたのが黄野で、通りかかったおれが黄野とバトンタッチして、保健室に連れてっただけだよ」
にっこりと、シャインスマイルを見せながら背後から現れたのは、わたしと絶賛恋愛ごっこ中の皇くんだった。
この続きは本で楽しんでね!
ダイヤさま――じゃなかった!?
翔真くんと碧葉くんとの三角関係(!)をスクープされた真魚ちゃん。
すると、校内新聞の内容を否定するかのように、
碧葉くんから真魚ちゃんへのラブラブアピールがパワーアップ!?
さらに、なんと新キャラが登場!?
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